リプレイ

「あれ？　こんなところに」
　たまたまその町を訪れたアンゼリカ・レンブラント（光彩誓騎・g02672）は、人の波が一方を向いていることに気づいた。
　振り袖を着ている女性もいるから神社でもあるのだろうと足を向けると、やはり神社があった。鳥居をくぐって石段を登る。境内には意外にも……というと失礼ながら、多くの人で賑わっている。いくつもの屋台が並び、ザラメやソースの匂いが漂ってきた。
「あれ？」
　もう一度、アンゼリカが声を上げる。
「おう」
「やぁ、奇遇だね」
　参道には不惑・明日法（放送禁止・g02378）と古城・雪凪（繰創者・g01119）がいたのである。
　雪凪は和装であった。白地の着物に黒い羽織。黒い帯にあしらわれた金糸の刺繍がよく映える。
「ふたりは一緒に？」
「いや、ただの偶然だ。たまたま歩いていたら神社を見かけたから、入ってみたんだが……」
　と、明日法は顔をしかめる。
「？　なにかあったの？」
「特になにかというわけでも、ないのだけれどね」
　雪凪が苦笑した。
「原因はそこかしらにある……と言ってもよいかな」
　３人の横を、若い男女が通り過ぎた。
「お願いなんて、『今年もタァくんとラブラブでいられますように☆』に決まってるじゃん！」
　と、女は男の腕によりかかる。
　彼らとわずかに腕が触れそうになった明日法は大げさに跳び下がり、
「ふわっくあすほう！　私のリア充センサーにあちこちで感ありすぎてブチ切れそうだ！　リア充め、死ねッ！」
　と、男女の背中に小声で罵る。
「あ？」
　騒がしい中でもその断片が聞き取れたか、男のほうが振り返った。すると明日法は素知らぬ顔で目を逸らし、
「さぁ、参拝しよう」
　と、ふたりを促す。
「まぁ、いいけれどね」
　雪凪は柔和な笑みを浮かべ、人混みをスイスイとすり抜けて参道を進んでいく。途中、焼きそばを焼いていたシーターがこちらを見つけたらしく、コテをブンブンと振ってきた。雪凪はこれも黒地に金で文様が施された扇を少しあげて、それに応える。
　大きな賽銭箱の前に、人々が詰めかけている。行列する必要はないようで、それぞれに賽銭を投げ込んではあちこちで手を合わせていた。
「ここから手を合わせようか。
　……ふたりはなにか、願い事が？」
　雪凪が振り返る。すると、
「もちろん。私の敵は、クロノヴェーダとリア充だ！　今年こそ、その２つが滅びますようにッ！」
　大きく響き渡る拍手した明日法は、眉間にシワを刻んでぶつぶつと願い……というよりも呪いを唱えた。
「私はやっぱり……」
　呟いたアンゼリカは、静かに手を合わせる。
　戦いの中、迷うことはある。それでも、奪還への信念は少しも揺らぐことはない。ここで手を合わせているのは、神に願うためではない。その決意を新たにし、誓うためである。
「ふむ……」
　それを横目に、雪凪も金の瞳を閉じて手を合わせた。その心の内に去来するのは創造の情熱、そして破壊の衝動。
「……ずいぶん熱心だね」
　気がつけば、祈願を終えたアンゼリカがこちらを見て微笑んでいた。
　アンゼリカはもういちど本殿を振り返り、拳を握りしめる。
「紡いでいこう、今年も。私たちの戦いを、私たちの歴史を……！」

最終結果:成功
完成日	2025年01月10日