或いは遠き邂逅(作者 秋月諒)
#吸血ロマノフ王朝
#漂着ヴァンパイアノーブル追討、北極海作戦
#融合世界戦アルタン・ウルク
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●或いは遠き邂逅
「——吸血ロマノフ王朝との戦い、お疲れ様でした」
そう告げたのはセド・ファジュル(人間の風塵魔術師・g03577)であった。集まったディアボロス達を見ると、男は薄く口を開く。
「攻略旅団の作戦により、吸血ロマノフ王朝から他ディヴィジョンに漂着するヴァンパイアノーブルの追討作戦が決定しました」
吸血ロマノフ王朝でディアボロスが制圧した土地は主要都市などの一部だ。
「大領主が己の領地の管理に残していた者など、最終局面においても奪還戦に参加することが無かったヴァンパイアノーブルも存在していました」
首都に集まっていなかった者達だ。彼らの殆どは融合世界戦アルタン・ウルクに漂着し、アルタン・ウルクに貪り喰われているようだ。
「出会った相手が悪かったと言えるでしょう。漂着の先が、彼の地であった以上、当然の結末とは言えるでしょうが……、その中でも一部のヴァンパイアノーブル達はアルタン・ウルクの牙を逃れ移動しているようです」
運良く、シベリアの北部に漂着できたたヴァンパイアノーブル達だ。
「アルタン・ウルクから逃げて北極海との海岸沿いを東へ移動しているようです。
ヴァンパイアノーブル達をそのままにしていれば、アルタン・ウルクとぶつかることでしょう」
恐らくは碌な戦いにはならないだろう。
「アルタン・ウルク側が勝てば、当然ですが、アルタン・ウルク側が強化されることとなります」
それは、此方としても放置は出来ない。
「皆様には急ぎ、融合世界戦アルタン・ウルクのシベリアに向かっていただきます。
追撃して来るアルタン・ウルクの足止めをしながら、北極海に向かうヴァンパイアノーブルの撃破を行ってください」
パラドクストレインで、融合世界戦アルタン・ウルクのシベリア、逃走するヴァンパイアノーブル達を捕捉できる地点に移動する事が可能だ。
「後は、ヴァンパイアノーブルに追い付く必要がありますが——、彼らを追っているのはアルタン・ウルクの一群も同じです」
アルタン・ウルクの足止めも必要となる。
「全てのアルタン・ウルクを撃破することは当然できるものではありません。
遅滞戦術となるでしょう。足止めをして時間を稼ぐことを考えて行動を」
その上で、とセドは言葉を切った。
「アヴァタール級のヴァンパイアノーブルも、ただの逃走経路として北極海に向かっているようでは無いようです」
なんらかの目的を以ての移動のようだ。
「シベリアの東方は、空想科学コーサノストラとも隣接しています。もしかしたら、コーサノストラの干渉などもあるのかもしれません」
そこまで言うと、セドはディアボロス達を見た。
「これは、現場での判断となりますが……、ヴァンパイアノーブルの撃破が目的ではありますが、敢えて、ヴァンパイアノーブルを逃がす事で、コーサノストラと接触する事もできるかもしれません」
コーサノストラの動向を掴むチャンスになるかもしれない。
「どちらが正しいということもありません。私は、皆様の判断を信じましょう」
そう言うと、セドはゆっくりと顔を上げた。
「今回の漂着ですが、冬将軍がいるタイミル半島にはヴァンパイアノーブルの漂着は殆ど無いようです」
タイミル半島に漂着しても、ディアボロスに滅ぼされるか、アルタン・ウルクに滅ぼされるかの二択の状況になる。漂着しても生き延びれないという思考が漂着を拒否しているのかもしれない。
「皆様に向かっていただくシベリアは、吸血ロマノフ王朝奪還戦により、融合世界戦アルタン・ウルクに強奪された地域となります」
容易い地では無いでしょう、とセドは言った。
「アルタン・ウルクは、通常のアルタン・ウルクと蟲将型のアルタン・ウルクの混成軍といった編成となります。遅滞戦術を行う場合は、参考にしてください」
随分と話が長くなりましたね、と静かな声が落ちた。
「では、参りましょうか。貴殿らの道行きに、風と太陽の祝福を」
●仄暗き白昼夢
「アァ、アア、ァアア……」
バキ、と宝石が砕けた。ひどく当たり前に、枯れた木の枝でも折るかのように宝石兵士の腕が砕かれる。ぼとりと落ちた手を、一瞬、気にした兵士の足が泥濘に嵌まるかのように『それ』にもぎ取られた。
「ァア、ァアアアアアアアアア!?」
「……ッ」
それは、絶叫とも咆吼とも知れぬ声であった。鎧う宝石が剥ぎ取られ、牙が爪か、或いはその両方かが内側に届く。
「迎撃を。道を開け、我らは——……」
怒号と共に 翠柘榴石が輝き——その力が弾け飛ぶ前に、胴だけが落ちた。
「……ァア、ア?」
一体が振り返れば、仲間の放つはずの光はアルタン・ウルクの腹の中に収まっていた。
「——」
ひゅ、と息を飲んだのは、誰であったか。俯くことだけは許されない。それを是としてしまえば、ここで皆、貪り喰われて終わるのだから。
「お逃げ、くだ……」
「——あぁ」
行くのじゃ、と血を望む魔女バーバ・ヤガーは告げる。
「皆、立ち上がるのじゃ。東へ向かえば、活路が開ける」
足を動かせ、振り返るな。今は——……。
「この、血を望む魔女バーバ・ヤガーが皆を連れて行く。立ち上がれ、進め。向かうべきは——東じゃ」
リプレイ
レイラ・イグラーナ
運良くシベリア北部に漂着し、私たちが介入することで「次」がある可能性もある者とは別に、運悪く介入の余地もなく食われた者たちもいるのでしょうね。
通常種、そして蟲将型の混成軍というお話でした。
蟲将型とは交戦はございませんが、飛行能力、そして統率の取れた動きが特徴とされています。性質からして先頭を走るは通常種でしょうか……?
ですが【泥濘の地】は飛行で突破を許しそうですね。
ならばロマノフの守護者であった「彼」に倣いましょう。
【冷気の支配者】を使用。アルタン・ウルクの動きを鈍らせる寒波によってアルタン・ウルクらの動きを鈍らせます。
また同時に通常種を狙い【既成奉仕・冬】。突き刺さり、凍り付かせる針の投擲で足止めを行います。撃破を狙うのではなく、敵の進軍の足を鈍らせることを意識。
通常種の反撃である、虚空から現れる牙により致命傷を受けないよう、後退しながら攻撃を行い時間稼ぎを行います。
吸血ロマノフ王朝が滅び、私にも次を考える余裕ができました。
アルタン・ウルク、コーサノストラ……どちらも放置はできません。
●捕食者たち
それは、正しく異様な光景であった。薄く張った雪など『かれら』にとっては、関係の無いものなのだろう。
アルタン・ウルク。
シベリアの北部にて漂着したヴァンパイアノーブル達を追う者達の姿がそこにはあった。
『シュゴォォォ……シュゴォォォ……』
見目は正しく異形であり——そして、その姿を娘は知っていた。
(「運良くシベリア北部に漂着し、私たちが介入することで「次」がある可能性もある者とは別に、運悪く介入の余地もなく食われた者たちもいるのでしょうね」)
雪交じりの風に靡く髪をそのままに、レイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)は移動する者達を見た。
「通常種、そして蟲将型の混成軍というお話でした。蟲将型とは交戦はございませんが」
飛行すると考えておいた方が良い。その上、あのアルタン・ウルク達は追跡の動きに無駄が無い。闇雲に追うのではなく、群として最短を取るような移動は軍に似る。あれは蟲将に見た統率された動きだ。
「性質からして先頭を走るは通常種でしょうか……?」
黒き捕食者達は影よりも濃く、大地を染めていた。無数の赤い瞳が忙しなく動き、触手を束ねたかのような脚が地面を掴み、行く。
『シュゴォォォ……』
ただ進むだけの相手であれば、使える手もある。だが、泥濘の地は飛行で相手に突破を許すだろう。
「ならばロマノフの守護者であった「彼」に倣いましょう」
薄くレイラは唇を開く。ほっそりとした手を持ち上げ触れた冷気に、ふぅ、と吐息を混ぜた。
『……!?』
次の瞬間、空気が、変わる。吹き抜ける風が強烈な冷気を纏い、空気中の水分を凍らせていく。
『シュゴォォォ
……!?』
それは、アルタン・ウルクの対抗措置として強化していった力。寒波は異形の軍勢を包み込み、その冷気を以てかれらは襲撃者の存在を知る。
『シュゴォォォ……!』
「痺れる末梢、吹雪く咆哮」
無数の赤い瞳がレイラを見付けたのと、娘の手から針が放たれたのは同時であった。
「回る妖精が終わりを告げる」
ヒュン、と続けざまに放たれた針が先を走る通常種を撃ち抜いた。銀の針は蠢く触手に飲み込まれるようにして消える。その身に飲み込むようにして、新たな贄を喰らわんと進みかけたアルタン・ウルクの動きが——止まる。
『シュゴォォ
……!?』
蠢く触手が、足がバキバキと凍り付いていく。それはレイラの針に込められていた氷の魔術。展開された力は、アルタン・ウルク達の動きを奪う。
『シュゴォォォ……シュゴォォォ……!』
『シュゴォォォ……!』
寒波が、放つ針がアルタン・ウルク達の動きを鈍らせていた。ただ倒すことを狙っていれば、ここまで動きを鈍らせることはできなかっただろう。
『シュゴォォォ……!』
「——ッ」
音も無く虚空が開く。巨大な牙の群れに、レイラは身を後ろに跳ばした。着地の足を軸に、すぐに針を持つ。その機を狙うように蟲将型のアルタン・ウルクが背中の羽を震わせて飛び上がった。
「——来ますか」
『シュゴォォォ……!』
触手が変形して生まれた長柄の武器が振り下ろされる。致命を避けるようにレイラは身を跳ばした。
「——」
ザン、と肩口から振り下ろされた刃がレイラを血に染める。は、と息を吐き、だがそれだけに終えて顔を上げた。
『シュゴォォォ……シュゴォォォ……』
「……」
敵の動きは随分と鈍くなってきている。今も、追撃に動ける個体はあっただろうに、その踏み込みは鈍い。虚空より来た牙を躱し、レイラは最後の針を放つ。
「このあたりで十分でしょう」
吹き荒む寒波がアルタン・ウルク達を足止めするのを見ながら、レイラは戦場を離れる。
「吸血ロマノフ王朝が滅び、私にも次を考える余裕ができました。アルタン・ウルク、コーサノストラ……どちらも放置はできません」
冷えた風が娘の頬を撫でる。新しい戦いの始まりを告げるように。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【冷気の支配者】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
マティアス・シュトローマー
ロマノフの人々を従属によって支配していた彼らに対して、思うところはそりゃもう沢山あるけど――この最期は見るに堪えないね
アルタン・ウルクの方へは頼れる仲間が向かってくれているし、俺は先手を打って逃げ足の速そうなあの一団にちょっかいをかけてこよう
彼らを泳がせて情報を掴む場合でも指揮官さえ残しておけば事は足りるだろうからね
逃走する敵の中でも最前線を行くトループス級に狙いを定めてパラドクスを発動。具現化した雷をその一帯に向かって落とし、麻痺を伴うダメージを与える
命中アップの効果も乗せて効率良く彼らの体力を削っていこう。動きを封じる事も出来れば僥倖だね
この攻撃は過去にも見た事があるんだ
対処法は動きを封じられる前に倒す――シンプルだけど、それだけ!
攻撃の要である右手を守るようにライオットシールドを構え、被ダメージを軽減。絶えず反撃やパラドクスを放ち、敵を撃破する事で硬直を解こう
また仲間とはパラドクス通信で戦況を共有し、戦いの中で彼らをアルタン・ウルクから遠ざけるよう誘導
東には一体何があるんだろうね?
レイラ・イグラーナ
救援機動力でマティアス様に合流し、逃げるヴァンパイアノーブルを仕留めます。
【パラドクス通信】をお借りして連携を取りながら、私は敵の最後尾を狙って攻撃。挟撃を行います。
先ほど足を止めておきました。もうしばらくはこちらへやってこれないでしょう。
敗残の兵とはいえ……貴方がたが吸血ロマノフ王朝でやってきたことがなくなるわけではございません。
今後のことを考えるとアルタン・ウルクに食わせることはしませんが……見逃すことも、またございません。お覚悟を。
銀の針を手に【手製奉仕・嵐】。嵐のように乱れ撃つ銀の針で宝石兵士たちを貫きます。複数の敵をまとめて攻撃する技で一体も逃さぬようにしましょう。
足を止めていいのですか?
足を止めて私たちに反撃を行い、戦闘し……私たちの手から逃れても、彼らに追いつかれては行く末はもっと悲惨なものになるでしょう。
と、言葉で惑わしあちらが反撃をしづらいようにし、緑色のオーラが広がり切る前に仕留めきります。
さて、これで残りは1人のみですね。
●雷鳴が告げる
風が、雪を散らす。
はらはらと舞い落ちる雪よりも、慌ただしく響く足音の方がシベリアの風を染めていた。前に、前に、追われている事実を自覚する者達の動きは荒く足音を隠すだけの余裕もない。
「ロマノフの人々を従属によって支配していた彼らに対して、思うところはそりゃもう沢山あるけど――この最期は見るに堪えないね」
吐き出す息が白く染まる。マティアス・シュトローマー(Trickster・g00097)は指先で、零れた白を散らした。
「アルタン・ウルクの方へは頼れる仲間が向かってくれているし、俺は先手を打って逃げ足の速そうなあの一団にちょっかいをかけてこよう」
ふ、と小さくマティアスは息を落とした。冷えた空気に慣れた身は、もう吐息を染めることは無かった。
「さて、と」
青年は斜面を蹴る。雪を散らすようにして滑り降りれば、冷えた空気が頬を叩く。ふわり、舞った白が頬に触れ――溶ける。
「彼らを泳がせて情報を掴む場合でも指揮官さえ残しておけば事は足りるだろうからね」
滑り降りるその音も、逃げるに精一杯なヴァンパイアノーブル達にはまだ、届かない。ひゅう、と風が吹いた。先頭を走る宝石兵達が顔を上げる。舞った雪を追うように空を見上げ――その碧玉に映り込むオレンジは、来訪者の色彩。
「な
……!?」
驚愕に息を飲む宝石兵たちを前に、マティアスはパチン、と指を鳴らしてみせた。
「雷に打たれたような衝撃――って言うだろ?」
次の瞬間、雷撃が落ちる。雷を具現化したその一撃は、青白い光と共に先を行く宝石兵たちを撃ち抜いたのだ。
「ッぐ」
「くそ、これは……!」
轟音が大地に響き渡り、砕け散った宝石の破片がキラキラと舞う。ぐらり、と身を揺らしながら宝石兵士・デマントイドガーネットの吸血鬼たちがマティアスを見た。
「ディア、ボロス! 貴様か」
宝石兵の一体が告げる。饒舌であるのは先の追跡者と比べてか。
「構わぬのじゃ。相手がアルタン・ウルクでは無い以上、ここで止めれば良い」
そう言の葉を挟んできたのは、青い髪を結い上げたヴァンパイアノーブルであった。
「忌々しい限りじゃがな」
射るほどに鋭く向けられた視線に、マティアスは軽く肩を竦めて見せた。
「俺なら倒せるって? 甘く見られちゃったみたいだね」
「ふん。アルタン・ウルクに比べれば造作も無いことじゃ。皆、全力で行け」
血を望む魔女バーバ・ヤガーがそう告げると、宝石兵の咆吼めいた声が響き――だん、と荒い踏み込みが来た。
「ほウセきヨ」
「――っと」
鈍く響いた声と共に反射的に構えた盾に衝撃が来た。グルゥウ、と唸る声に、受け止めた一撃が牙だと知る。噛みつくつもりできたか。正面の一体、受け止めた先で――首の後ろに、風を感じた。
「――後ろだ」
来る、と。
「グルァアアア!」
「――!」
正面、受け止めていた一体を盾で弾き上げる。勢いよく振り返った先、ザン、と浅く牙がマティアスの左腕を掠った。
「宝石ニヘンゲせヨ」
鮮血と共に、緑色のオーラが舞った。一瞬、視界を覆うように展開したそれに、マティアスは迷うこと無くパチン、と指を鳴らす。ゴォオオン、と雷撃が眼前の宝石兵に――落ちる。
「悪いけど、宝石には向いてないんだ」
左腕に纏わり付くオーラが、少しずつ重みを増してきていた。鈍い感覚は、硬化に近い。それを、マティアスは知っている。
「この攻撃は過去にも見た事があるんだ」
ふぅ、と息を吐く。緩く拳を握る。とりあえずまだ動くし、攻撃の要である右手は無事。それなら――。
「対処法は動きを封じられる前に倒す――シンプルだけど」
ゆるり、と青年は腕を持ち上げる。荒く踏み込んでくる宝石兵たちに射線を合わせるように、指先にバチバチとパラドクスの光が集まっていく。それは空を切り裂く稲光のように。閃光の中、狙いを定めて――。
「それだけ!」
言の葉と共に解き放たれる。空に雲は無くとも――それは落雷をイメージした一撃であるのだから。
「ッグァア!?」
飛び込んできた宝石兵達が崩れおちる。破片の向こう、ゆらり動いた相手を見据えながらマティアスは踏み込んだ。
(「いくら足止めしてくれているとはいえ、アルタン・ウルクから遠ざけるようにしよう」)
その方が、と考えたところでパラドクス通信が耳に届いた。
『――シュトローマー様。先ほど足を止めておきました。もうしばらくはこちらへやってこれないでしょう』
これより、と静かな声が耳に届く。救援機動力で駆けつけた仲間の姿が、マティアスの視界に入る。
『私は敵の最後尾を狙って攻撃致します』
足音ひとつなく、雪を踏んだメイドのスカートがひらり、と揺れた。
●雪花は辿る
ヒュン、と空を切る音が最初にあった。翻されたスカートから大量に取り出された銀の針が、一斉にメイドの手から放たれたのだ。
「ナ……ッ後ろ!?」
「ッグァア、く、そ! ディアボロスだと!?」
両の手に構え、舞うようにして放たれた針は弾幕となる。カツン、と堅い地面で踵を鳴らし、くる、と身を回すようにして残る針の全てを放てば、娘の視界に翡翠の破片が舞った。
「貴様ラに此処で出会うカ」
敵意と殺意。その何方も隠す事の無い相手に、メイドはふわりと揺れたスカートを指先で正す。
「敗残の兵とはいえ……貴方がたが吸血ロマノフ王朝でやってきたことがなくなるわけではございません」
雪交じりの風が銀色の髪を揺らす。銀糸の向こう、真紅の瞳がひたり、と宝石兵を捉えた。
「今後のことを考えるとアルタン・ウルクに食わせることはしませんが……見逃すことも、またございません」
レイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)は静かに告げる。宝石兵へ、そして彼らの背後、隊列の中央に守られるようにいるヴァンパイアノーブルへと。
「お覚悟を」
「――ッ対処するのじゃ!」
「ルグァアアア!」
血を望む魔女バーバ・ヤガーの言の葉が響くと同時に咆吼が来た。だん、と荒く宝石兵が地面を蹴って――来た。
「……」
早い。そうレイラが思ったのと同時に、前方で落雷が響き渡った。
『前は任せて。こっちも、全力で行くね』
それはマティアスの紡ぐ雷撃。雷鳴は、高い精度を以て隊列の前を担う宝石兵達を撃ち抜き、彼らの動きを止める。
「こちらも、お任せを」
小さくそう言の葉を紡いで、レイラは踏み込んだ。た、と短く跳ぶように前に出る。相手にただ間合を詰められるのではなく、場を掴むように。
「グルァアア!」
「――首ですか」
獣じみた咆吼と共に、牙が来た。大口を開け、喉を噛みちぎるように来た吸血に身を逸らす。片足、引いて態勢を保てば浅く牙が腕に掠る。
「逆巻く颶風、跳ねる水煙」
鈍い痛みが一つ。鮮血と共に緑色のオーラが舞う。腕がだらりと落ちるように重くなる。だが――。
「詠う妖雲が試練を運ぶ」
それだけだ。
片足でレイラは身を支える。ひらりとスカートが揺れる。隠し持っていた暗器の全て、手の中に収めると迷うことなく――放った。
「グァアア!?」
凪ぐようにメイドは腕を振るう。無数の銀の針が嵐のように宝石兵達を撃ち抜く。倒れた一体を飛び越え、掴みかかるように伸ばされた翠緑の腕が針に撃ち抜かれ、落ちた。
「グ、ァアア、きさ、ま! 貴様ァア!」
怒号が、響く。ぶわりと緑色のオーラが広がる。その色彩に、重くなっていく腕にレイラは表情一つ返ることなく――問うた。
「足を止めていいのですか?」
ここで、足を止めていて良いのか、と。
「足を止めて私たちに反撃を行い、戦闘し……私たちの手から逃れても、彼らに追いつかれては行く末はもっと悲惨なものになるでしょう」
「――」
その言葉に、追跡者達の姿を思い出した宝石兵が、その可能性に至ったヴァンパイアノーブル達の反応が一拍――遅れた。
「――」
その一瞬を、レイラは見逃さない。腕を這う緑色のオーラが広がりきるその前に、食らいついてきた一体ごと眼前の宝石兵達に銀の針を放つ。
「ッ、くそ、ルガァアア!」
緑のオーラが腕から散る。軽くなった腕を振り上げるようにして残る針の全てを放てば、雷撃の音が一気に近づいた。
「グ、ァアアア!」
「ルァアア、ア――……」
ガシャンの、最後の宝石兵達が崩れおち、風が宝石の破片を空に散らす。舞い散る雪はもう無い。
「さて、これで残りは1人のみですね」
ゆっくりとレイラは視線を上げた。道は、開けた。後方を守る者も、先頭を行く部隊も最早誰もいない。
「東には一体何があるんだろうね?」
砕け散った宝石の破片を見送るようにして、マティアスは顔を上げる。残された最後の一人、血を望む魔女バーバ・ヤガーは射るような視線で二人を見ていた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【パラドクス通信】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
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ご参加いただきありがとうございます。
秋月諒です。
ということで分岐です。
届いた選択肢で進みます。
●プレイングについて
1〜2日置いてプレイング採用となります。先着順ではありません。
また、必要人数をぐわっと大きく越えた採用は無いので、そんな感じです。
●選択肢②について
👑は3です。採用は1つとなります。
それでは皆様、御武運を。
レイラ・イグラーナ
こちらを見るバーバ・ヤガーとしばらく目を合わせ、武器を下ろします。
これだけ戦力を減らせば十分です。どうぞ、予定通りお逃げ下さい。
あちらが理由を問うてきたら
お話しても良いのですが……よろしいのですか?
この地はのんびりとお茶会をできるような場所ではないこと、ご存じかと思いますが。
早く逃げないとアルタン・ウルクが追いついてくる、と仄めかし、バーバ・ヤガーに再度コーサノストラへと向かわせます。
その後はこちらは姿を隠し、逃げるバーバ・ヤガーを視界に入れつつ、空を注視しましょう。
他の報告書では以前キングアーサー奪還戦で見たような飛行物体が飛来した、ということでした。
非常に速く、姿を追うことも困難ということでしたが、【防空体制】も使用し、飛来してくるのを発見できるように。
飛来してきたらそのまま様子を観察。
最後に飛んできた、飛び去った方角から飛行物体がどこから飛んできたかを推測します。
東からというだけでなく、更に詳細が分かれば排斥力が緩み、霧が出ている個所も分かるかもしれません。
●暗雲より出づ
足元、薄らと積もった雪の上に残された宝石の欠片が消えていく。光に飲まれるように、或いは雪に飲み込まれるようにして宝石兵の名残も消え失せれば、戦場に残されたのは血を望む魔女バーバ・ヤガーとディアボロスだけであった。
「――やはりディアボロス。我らの道に立ち塞がるのじゃな」
それは低く、威嚇に似た声であった。滲む敵意を隠すことなく紡がれた言葉にディアボロスは――レイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)は真っ直ぐに視線を返した。
「……」
深く、濃い真紅の瞳はバーバ・ヤガーを暫く見据え、静かに零す息と共にレイラは武器を下ろした。
「――何をしているのじゃ」
銀の針が、レイラの指先が操るそれが暗器の類いであることをバーバ・ヤガーは理解しているのだろう。指先を追ってきた視線に、両の手を隠すこと無くレイラは視線を上げた。
「これだけ戦力を減らせば十分です。どうぞ、予定通りお逃げ下さい」
「逃がすじゃと? ここまで追ってきた貴様らがか。吸血ロマノフ王朝を滅ぼした貴様らの言い分を素直に信じろと言うのか?」
バーバ・ヤガーにしてみれば、それは真っ当な問いであろう。訝しむより警戒を強める相手に、レイラは息を吐くようにして告げる。
「お話しても良いのですが……よろしいのですか? この地はのんびりとお茶会をできるような場所ではないこと、ご存じかと思いますが」
「――」
ひゅ、とバーバ・ヤガーが息を飲む。あの追跡者の、アルタン・ウルクのことを思い出したのだろう。早く逃げなければ追ってくるのはアルタン・ウルクの方だ。
「……、長居には向かぬようじゃな。彼奴の相手をするわけにはいかん」
コポコポとバーバ・ヤガーの足元から血が湧き上がる。アルタン・ウルクを警戒するように、力を展開させたヴァンパイアノーブルは鮮血の霧と共に大地を蹴った。
「この問い、次こそ聞かせてもらうのじゃ」
「……」
バーバ・ヤガーが逃げていく。遠ざかっていく背を視界に、レイラは岩陰に身を隠していた。
「他の報告書では以前キングアーサー奪還戦で見たような飛行物体が飛来した、ということでした」
非情に速く、姿を追うことも困難だったという話だが――意識を空に向ければどうか。指先でレイラは空に魔術を紡ぐ。周囲に網を張るように、飛行する存在を察知しやすいように力を展開させておけば――不意に、空が変わった。逃げるバーバ・ヤガーの頭上に雲が現れ、広がっていく。
「――あれは、霧?」
雲が広がるようにして、周囲に霧が生まれた。警戒するようにバーバ・ヤガーが辺りを見渡す。何事かと、警戒する彼女より先にレイラの感覚に『それ』はかかった。
「あれが……飛行物体」
サーチライトのような光源が霧の中から放たれていた。光の中から姿を見せたのは光り輝く円盤であった。幻想竜域キングアーサー奪還戦で似たような飛行物体を見たことがあれば、それよりもずっと小型で別ものだと分かるだろう。
「円盤の放った光が、バーバ・ヤガーを飲み込んで……、連れ去っていく……、あれは、持ち上げているのでしょうか?」
原理は分からない。だが事実として、光り輝く円盤の放った光が、遙か上空からバーバ・ヤガーに放たれ――連れ去っていく。
「ここから、何処へ……」
行くというのか。連れ去った以上、様子を観察するように視線を向けていたレイラの前、飛行物体は上空に上昇した後、東側に去って行った。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【防空体制】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV2になった!