【吸血ロマノフ王朝奪還戦】黒く蠢くもの（作者 メリーさんのアモル）

3

リプレイ

　シュゴォォ……。
　シュゴォォ……。
　ウラル山脈を行進する黒い影、『アルタン・ウルク亜人形態』がひたすら前へ前へと侵攻している。
「イスカンダルとの戦いで生まれた亜人形態が、アルタン・ウルクの北の辺境にまで勢力を広げていましたか」
　その様子を見ながらそう呟くのは、『蹂躙戦記イスカンダル』で多くの戦いを経験してきた、魅力的な琥珀色の瞳を持つウェアキャットのディアボロス、エイレーネ・エピケフィシア（都市国家の守護者・g08936）だ。
「亜人だったり蟲将だったりと、アルタン・ウルクの形態も大分増えたよね。もし、わたし達が取り込まれてアルタン・ウルクがさらに進化したら……うわぁ、やだやだ！　考えただけで気分が悪くなっちゃうよ」
　そんなエイレーネの言葉を受け、『アルタン・ウルク』の進化について更なる想像をしながら、少しだけ気分を悪くするのは魅力的な青い瞳とそして何より聞こえるその声もまた魅力的なサキュバスのディアボロス、イツカ・ユメ（いつかかなうゆめ・g02834）。
「あの者らは、亜人どもの存在が遺した忌まわしき名残の一つです。此度の戦での駆逐は叶いませんが、出来る限りのことは致しましょう」
「えぇ、吸血ロマノフ王朝の思惑が何であれアルタン・ウルクを野放しには出来ませんね」
　エイレーネが戦意を示すのに緑色の瞳に金髪が良く映えて美しい妖狐のディアボロス、野本・裕樹（刀を識ろうとする者・g06226）が応じる。
「融合世界と近ければアルタン・ウルクもやっぱり来るよな。頭数だけはしっかりと減らさせてもらおう」
　灰色の髪を短髪にし、『解析能力補助ゴーグル』をかけているのが目を惹くサイボーグのディアボロス、荒田・誠司（雑草・g00115）も戦意を示す。
　シュゴォォ……。
　シュゴォォ……。
　ディアボロスの現在位置に侵攻してくる『アルタン・ウルク亜人形態』が近づいてくる。
　間も無く捕捉されるだろう。
「亜人の形態をとっているとはいえ基本はアルタン・ウルクです、戦い方もそれに倣った物が良いかと思います」
　最初に動いたのは裕樹。全長約６尺の妖刀、『妖刀『鐵喰』』を抜刀し、地面に突き刺した。
「走れ！」
　『妖刀『鐵喰』』に妖気を込めて、振り抜けば、雪も僅かなウラル山脈の大地を衝撃波が走る。
　それは、先頭を行く『アルタン・ウルク亜人形態』に命中し、爆発する。
　パラドクス『走地刃・馬酔木』だ。
　だが、変化はそれだけに留まらない。パラドクス効果【泥濘の地】が発動し、『アルタン・ウルク亜人形態』の移動速度を低下させる。
　シュゴォォ……。
　シュゴォォ……。
　ディアボロスの攻撃——攻撃者が何者かをそこまで意識したかは定かではない。単に敵対者の攻撃、としか認識していないかもしれない——と見て、『アルタン・ウルク亜人形態』が集結し槍を構える。
（「右腕が槍の形態故に攻撃方法も読みやすくはあります」）
　一斉に放たれる槍の貫き攻撃を裕樹は致命傷を避けるように回避する。
　槍には毒が塗られており、掠っただけでも毒が裕樹を侵食しダメージを与えるが、致命的な部位に当たっていなければ、まだ継戦は可能だ。
「亜人に似た姿とはいえ、挑発に乗る精神や女と見れば理性を失う弱みはないのでしょう。このまま、深入りはせず、敵の前衛を遠距離攻撃で削り落とすように戦います」
「あぁ、見た目は玩具だが侮ると後悔するぞ！」
　裕樹の攻撃に動きが鈍ったのを見るや、エイレーネと誠司もそれぞれ後退しつつパラドクスを発動する体勢を取る。
「聖なる光よ、穢れし者どもを清めたまえ！」
　ゴルゴーンの睥睨が刻まれた黄金の盾『神護の輝盾』を構えたまま、『神護の長槍』を突き出す。
　直後、信仰が生み出す加護によって内なる魔力が励起され、穂先から螺旋状の破壊光線が放たれる。
　それは鋭く『アルタン・ウルク亜人形態』達を貫いた。
　シュゴォォ……。
　シュゴォォ……。
　『アルタン・ウルク亜人形態』もその攻撃に対し、己の槍で反撃を繰り出す。
　エイレーネはそれを『神護の輝盾』を動かして攻撃を受け止める。
　敵が多勢故、全ての攻撃を防ぐことは叶わないが、致命傷さえ避けられれば、継戦に支障はない。
「避けられるのなら避けてみろ！」
　一方の誠司は箱の形をした罠を作成するツール『トラップメーカー』と『解析能力補助ゴーグル』を接続し、銃の形をしたバブルメーカーを製作していた。
　そこから出るのは当然、バブル、即ちシャボン玉。
　それは味方や地形に当たる分にはただのシャボン玉でしかないのだが、『アルタン・ウルク亜人形態』にぶつかった瞬間、激しく爆発する。
　シュゴォォ……。
　シュゴォォ……。
　『アルタン・ウルク亜人形態』はその攻撃に対し、左腕の盾を巨大化させ、誠司に向けて射出した。
　誠司はこれを『フェイク・プリドゥエン』で受け止めながら、後方に飛び下がり威力を逃して、ダメージを軽減する。
「気分が悪いこんな時は、ご機嫌な音楽でテンションアゲアゲでいくよ！」
　そして、いよいよユメの出番だ。
　後退しながらの遠距離攻撃を受け続けた『アルタン・ウルク亜人形態』は正面に突出したやや乱れた陣形となっている。
「不安も恐怖も吹き飛ばして、心に勇気と希望を灯す歌を高らかに歌えば、ここはもうわたしのステージ！」
　ユメが歌うのはいつかどこかで聞いた歌をノリノリにアレンジしたもの。
　歌えば歌うほど、テンションがどんどん上がっていく。
　琴剣『smile song』を構えれば、正面に突出した『アルタン・ウルク亜人形態』の盾のない側面へと突っ込んでいく。
　シュゴォォ……。
　シュゴォォ……。
　突如突っ込んできたユメに対し、『アルタン・ウルク亜人形態』は対処しきれず、先頭集団は一気に混戦状態となる。
　こうなると、『アルタン・ウルク亜人形態』が得意とする集団による連携攻撃も発揮出来ない。
　シュゴォォ……。
　シュゴォォ……。
　『アルタン・ウルク亜人形態』は槍でユメに応戦する。
　ユメはその攻撃と毒を受けながらも、残り３人が効果的に敵を削れるよう、先頭集団を引っ掻き回し続けた。
　やがて、無尽蔵に現れているとしか思えないほどの規模を持つ『アルタン・ウルク亜人形態』の集団を前に、ディアボロス達も限界がやってくる。
　３人のディアボロスが一斉に遠距離パラドクスを放って、ユメの離脱を支援した上で、４人のディアボロスは『アルタン・ウルク亜人形態』との戦闘エリアから脱出したのであった。

最終結果:成功
完成日	2024年11月20日