リプレイ
イルドニス・クルヴィ
移民の受け入れ準備か………村を興せと言われれば困るが、幸い廃村があるのならそれを使わせて貰おうか。
廃村があれば、そこは人が生活出来ていた証拠だ。
………であれば、手直しすれば多少なりとも人が住めるだろう。
とは言ってもだ、廃村にある全ての家を直していては手も時間も足りん。
ならば、廃村の中でも大きい家を中心に手直ししていこう。
大きい家であれば部屋数もあるだろし、寒冷地の家だ暖炉の一つや二つ設置されているだろうさ。
一先ずは、壁や屋根の補修だろうか。
寒さを家の中に入れずにしておこう。
補修材料は新宿島から持ち出せばいい………余ったら家に村に置いておけば勝手に直すだろう。
後は…農耕地の整備か………。
これは農耕地に生えた草木を引き抜き刈り込こんで農耕地に【土壌改良】をしておけばいいだろう。
生えた木は、特大剣で切り飛ばし根は掘り起こして撤去だ。
生えた草は大鎌で刈ればいいだろう。
何も生えておらん農耕地だ、何も気にせずに一気に刈り込む………。
手も時間も足りん分、優遇しすぎることもあるまい。
フルルズン・イスルーン
持ち込めるだけの保存食抱えて突撃ー!
そんな周囲が羨める程の居住改良出来ればねぇ。
手近にあるのをどーにかこーにかやりくりするしかないのさ。
北国の冬を乗り越えるのは大変だ。イート・ゴーレム!
さて、持ってきた保存食を手近な倉庫っぽい建物に叩き込んで【修復加速】発動!
これより廃村の家屋修復に入る! 隙間はないかー。見つけ次第直して埋めるぞー。
兎にも角にも暖だよね。風雨を凌げて眠れるようにせねばならぬ。
支えられた屋根があり囲まれている。これすなわちオセル(家)であるのだ。
終われば道具の修繕だ。狩りや薪集め、農業だってちゃんとした道具が無ければ効率ガタ落ちである。
家屋の修理の時の点検で見つけたやつを整えて行こう!
後は、荷車ソリ、カゴや背負子なんかの運ぶ道具も重要だ。多くの荷物を抱えて運べることは何よりも価値がある。
何にしても冬が近いのだ。時間は貴重であり、刻一刻と失われるもの。
それらを補うのが道具であり、人の叡智だ。
それはそれとしてゴーレムくんの彫像は立てる!
●さてと、それじゃあ始めるか
『廃村』。
それは、かつては人々が住んでいた『村』だった場所。
現在そこは、人の姿が無く、生き物の気配すらも無い。あるのはただ、朽ちた家、あちこちに生えた雑草、かつて農地として使われていた場所。
荒れ果てたその場所を、見た目は少年、心は大人の彼、イルドニス・クルヴィ(刃纏いの狼・g11345)は見回し、溜息をついた。
「……ここに『悪』は蔓延っていないようだが……別のやっかいなものが蔓延っているようだな」
そう、『悪い』状態の、生活環境が蔓延っている。覚悟してきたとはいえそれらは、見ていると溜息の一つも付きたくなるほど、気が重くなるほどのひどさ。
「……おおーっ、まさしくボクの、ゴーレムの力が必要っぽい状況だねぇ。腕がなるよ、大車輪っぽくぐるぐる回したくなるくらいに」
とはいえ、同行したフルルズン・イスルーン(ザ・ゴーレムクラフター・g00240)は、『それを何とかしてやるぜ!』的な興奮とともに、はりきっている。
「……なあ、張り切るのは良いが……大丈夫か?」
「大丈夫、オーケーオーライ、バッチ来い、困難カモーンってなもんなのよ。まあ、褒めてくれるほどの居住改良できればと思うけど、手近にあるものを、どーにかこーにかやりくりするしかないのさ。手元にスピアとマロンがあった場合、これがほんとの槍栗(やりくり)ってダジャレかますほどの勢いでね」
と、『ぐっ』とこぶしを握りつつ、ガッツポーズを取ってみせるフルルズン。
そのテンションに、イルドニスはどうリアクションすればいいかわからぬまま、
「……まあ、それじゃ。始めるか」
なんとなーく、気疲れを覚えつつ、作業に入るのだった。
彼らが担当する『廃村』は、家が多く残ってはいた。が、その家のほとんどは木材が腐り、使える状態ではなかった。
それに加え、ディアボロスであるイルドニスは、最初に決めていた。
廃村内の、すべての家を直すのでなく、大き目の家を中心に、手直ししていく、と。
幸い、元は居酒屋や宿屋、公民館や富裕層の屋敷など、それなりに大き目の屋敷もかつては存在していた様子。それらもほとんどは荒れ果て、使い物にはならなかったが……、1~2軒は、かろうじて使えそうな程度には残っている。
「思った通り、部屋数もあるな。それに……内部には暖炉も、家具も多少だが残っている。手直しすれば、充分に使えそうだ」
しかし、壁や屋根まではそうはいかない。穴が開いていたり、壁の表面が荒れていたりと、放置できない状態だった。
「さて、補修を始めるかな。寒さを屋内に入れないようにしないと」
イルドニスは、資材を運び込み……大工仕事を開始した。
●衣食住を整えるのは、簡単そうでムズかしい。が、慣れればなんとかできる
同じ頃。
「さてさて、これは倉庫っぽい建物発見しましたぞい。内部は……うわー、荒れまくりの朽ちまくりな、まさに廃墟っぽいビジュアルでありますぞい」
などと言いつつ、フルルズンは、
イルドニスが修復している屋敷、ないしはその隣に建つ、倉庫のような建物に視線を向けていた。
吹き抜けのそこは、ほぼ何もない。おそらくは倉庫、または畜舎のような用途だったのだろう。かろうじて壁も、床も、屋根も、大きく欠損はしていないものの……あちこちに隙間が生じ、朽ちて穴が開き、隙間風が吹き込んできた。
その倉庫内へ、フルルズンはありったけ持ち込んだ保存食を、叩き込むようにして詰め込むと……、
「さてと、北国の冬を乗り越えるのは大変だ。……というわけで……ゴーレム作るぞーっ!!!」
見た目十歳のアラフォー女子は、ふんすと鼻息荒く、
自身のパラドクスを、ゴーレム製造のそれを発動し始めた。
「……『"食べて 結合し 完成
"』……」
フルルズン、リターナーの錬金術師にして、リアライズペインターの彼女は、
『ゴーレム』を錬成していく。
己を『ゴーレムキチ』と称する通り、彼女の全ては、ゴーレムへと捧げられている。
心得ている北欧由来のルーン魔術も同様。そして、その魔術が形を無し、フルルズンの目前に顕現していく。
「……三度の飯より、ゴーレムを作らせろー! 『イート・ゴーレム(ナーク・アーヴ・オブラーン)』!」
やがて、彼女の目前に。
愛しくも力強い、『ゴーレム』が出現した。
「……はっ! いつもの事だけど、あまりの愛しさ故に、思わず見入ってしまった。やはりいい、ゴーレムはよい、これは良いものだ、ゴーレムは実に良いものだ。……と、うっとりするのはこの程度にしてと」
自分が作ったゴーレムに見惚れた後に、フルルズンは、
「これより、廃村の『家屋修復』に入る! 『修復加速』の効果、発動!」
ゴーレムに、命じた。
『イート・ゴーレム』
フルルズンの作り出したこのゴーレムには、ある『能力』を有していた。
様々な無生物の『素材』『パーツ』を、『捕食し、体内で修復し、組み上げる』という能力を。
そして今は、家屋の資材に対し、その能力を発揮していた。
まずは、『倉庫』を、続き、イルドニスが修復している隣の屋敷の一部を、ゴーレムは捕食。
捕食し、体内に取り込んだパーツや素材を組み上げ、修復し、出来上がった構造物を体外へと出力する。
いわば、『3Dプリンター』にも似た能力を有したゴーレム。屋敷内の一部を、それもかなりの部分を捕食した際には、
「……おい、大丈夫……なんだろうな」
イルドニスにそれを見られ、焦らせてしまった。
が、かのゴーレムは自身の体長・体高以上の、明らかに『体積以上のもの』を捕食し取り込み、体外へと出力していく。
「隙間はないかー。見つけ次第直して埋めるぞー」
フルルズンはナマハゲの『悪い子はいねがー』的に、隙間や朽ちて欠損した部分を探しては、ゴーレムに捕食させ、それを修復し埋めていく。
「……『暖』。兎にも角にも『暖』だよね」
フルルズンは呟く。
「風雨を凌げて、眠れるようにせねばならぬ。そして、『支えられた屋根』があり、『囲まれて』いなければならぬ。これすなわち、『オセル(家)』であるのだ」
家無くして、人の生活も無し。生活の暖無くして、心の暖も無し。これぞ、人が作り出したる生活の知恵。
「……さて、屋敷の方はこんなものかな。後は……次の行動に移るとしよう。おいで、『イート・ゴーレム』」
イルドニスに、屋敷の窓から見られつつ、
フルルズンはゴーレムを連れ、別の場所へと赴いていった。
「……ま、なんというか。彼女が味方でよかった」
イルドニスの呟き通り、フルルズンのゴーレムのおかげで、彼の仕事は存外楽に。
巨大な建物の各所、その大きな破損個所が、ゴーレムの修復によってほぼ終わっていたのだ。
とはいえ、場所的・構造的に、ゴーレムが捕食できなかった箇所もいくつかあった。特に屋敷の中心部などは、流石に捕食できずにいたため……、
「ここは、俺の仕事だな。だがこの分なら、すぐにでも終わるだろう。あとは……」
次の仕事に移らないとな。
手直しを手早く終えたイルドニスは、次の仕事を……農耕地の整備を行うため、外へ向かっていった。
●農地開拓は、人間の生活の基本
農地の整備とは、思った以上に大変な労働である。
木々や草を抜き、或いは刈り、土を耕し、作物を植えやすいようにしなければならない。
だがそれは、放置していれば、作物ではない雑草や木々も生えてしまう事に他ならない。実際イルドニスの目前に広がるそこは、雑草が密集していた。
「……ま、草を刈るなら『鎌』の出番だな。実際、そのための道具であるわけだし」
彼は、携えていた可変合体式大剣『ルガル』を変形、
「『形態変形・大鎌』。今回刈取る敵は、この雑草だ」
そのまま、刈り始めた。
何も生えていない、荒れた農耕地。何も気にせず、一気に刈り込む!
そもそもが、『鎌』は武器ではなく『農耕具』の一種。刃の形状から、武器として用いるのはいささか非効率的だったりする。
イルドニスが振るう、二つ並んだ刃を持つ大鎌は、戦いの時よりも効率的に、雑草を刈取り、農地らしさを取り戻していく。それはまるで、有象無象の敵の軍勢へと、文字通り斬り込み切り開いていく戦の武将のごとき。
「……おおっ、なかなかやりますな。ボクのゴーレムがカッコよくアクションする時の参考にさせてもらおう」
と、フルルズンは関心を。
そんな彼女は、農地を臨む場所にて。『イート・ゴーレム』とともに、道具の修繕にあたっていた。
あれから、ゴーレムに無理をさせない程度に。小屋や小さめの家などにも補習を行っていたフルルズンとゴーレムは、
あらかたそれを終わらせた後、次の作業に入っていた。
「ふむふむ、クワに鋤に、槌に、鋸やノミ、鎌と……鎌って凶器に使われはするけど、武器としては使いにくいんだよね。浪漫はあるけど」
などと言いつつフルルズンは、ゴーレムに道具を放り込み、捕食させていた。
頬り込む道具は、倉庫や小屋などを修理した時、点検時に見つけたもの。それらを無造作に放り込んでいき、修復させ、出力させていく。
「他には……荷車に、ソリ、籠、背負子。こういう運ぶ道具も重要だからね。多くの荷物を抱えて運べることは何よりも価値がある」
荷車は車軸が折れ、車輪も外れるか壊れるかしていたが、ゴーレムはそれらも修復。
籠や背負子も、朽ちて底が抜けている。が、修復した事でそれらも使えるように。
「……道具の修理、順調のようだな」
と、イルドニスが声をかけてきた。
「イルドニス? そちらの塩梅も……結構進んでいるようですね」
フルルズンが仰ぎ見ると、農地は確かに広く刈取られ、一掃されていた。
「ああ。後は、あの生えている木々を抜いて、土を耕し直せば……一段落付く」
「なるほど、さすがです。ではボクも、もっと急いでこの道具類を修復せねば」
彼女の前には、見つけた道具が、しかし壊れかけたそれらが、山のように並んでいる。
「少し休んだらどうだ? 先刻から、ゴーレムに修復させ続けているのだろう?」
「……いえ、そういうわけには」
と、フルルズンはかぶりを振る。
「何にしても、冬が近いのだ。この程度で値を上げるわけにはいかないし、何より……」
『時間は貴重であり、刻一刻と失われるもの』と、言い放った。
「それら、貴重な時間を補うのが『道具』であり、人の叡智。この道具たちも、ゴーレムもまた然り」
彼女のその言葉に、
(「なるほど、中々含蓄のある事を言う」)
と、感心したイルドニスだったが、
「……まあ、それはそれとして、ゴーレムくんの彫像は建てる!」
と、貴重な時間を費やす発言に、若干の疑問を抱くイルドニスだった。
●人間、食い物(農地)と寝床(家)があれば存外なんとかなる
「……はーっ!」
可変合体式大剣『ルガル』。イルドニスはそれを大剣形態にして振るい……農地に生えていた木の幹に切り付け、切り飛ばした。
「……ふっ、これを乾燥させれば、薪になるな」
「ほうほう、では村人たちの燃料には困らんですな。ゴーレムくん、運んでくれたまえ」
倒れた大木を、フルルズンの命によりゴーレムが運ぶ。
「……さて、次は」
大木が運ばれていったのを横目で確認し、イルドニスはルガルを再び構えた。
「……割り、引き裂け! 『振弧(カーリ・クァクシ)』!」
大剣を、地面へとめり込ませ……続けて地面から振り上げ、更にもう一度剣を振り下ろす!
その剣の切っ先は、先刻に切り飛ばした大木の『切株』。その周囲の地面が割れると……木の根が露出した。
戻って来たフルルズンのゴーレムに根と切り株を引き抜いて、運んでもらう。
何度か、同じ事を繰り返し、
「……さてと、撤去すべき木は、あと何本ですかな?」
「これで、ラストだ。この荒れた農耕地に生えていた、邪魔な木は……完全に撤去されたな。また……農地として使えるだろう」
「……うむ、それは万々歳。あとは……ゴーレムくんに命じて、ちょっとばかり耕しておきましょうか」
と、土を引掻いて掘り返すゴーレム。
「……手も、時間も、足りない中。それなりに達成できた……と言えるんじゃあないか?」
イルドニスは、村の方を見た。
建物は当初の予定以上に、その多くが修復されている。
そして、農具を始めとした、多くの道具も修復完了。食料の類は、屋敷の隣の倉庫にたっぷりと入れられている。
「……こちらの仕事は、完了したと判断していいだろう」
「いや、まだですよ」
と、フルルズンがかぶりを振った。
「切り倒した木を用い、ゴーレムくんの彫像を作らねば! ここはゴーレムくんに作ってもらう……いや、修復したノミや鋸使って、ボク自身で作るべきか……どっちがいいですかね?」
「……知らん。というか時間がないって言ってなかったか? それに……」
浮ついた空気を払うように、イルドニスの口調が厳しくなった。
「……これから、トループス級、それに……アヴァタール級『無頼商人アクサナ』との戦いが待っている。確かに言う通り、仕事は終わってはいないな」
彼の言葉を受け、フルルズンも、
「ええ。ボクのゴーレムたちも、その時には……働いてもらわねば、ね」
気を引き締めるかのように、表情と口調とを厳しくした。
風が、村を吹き抜けた。それはやや、肌寒さを感じさせた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【土壌改良】LV1が発生!
【修復加速】LV1が発生!
効果2【ダブル】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
フィリス・ローラシア
※アドリブ、絡みok
やはりというか何というか、亜人達の漂着も起こっているみたいですね。
現地の人々へ直接の危害になる可能性は低そうですが、態々敵の戦力を増やすこともなし、です。
後顧の憂いは絶っておきませんと。
ある程度場所が分かっているとはいえ、捜索範囲は広いですからね。
可能なら、パラドクス通信を利用して手分けして探すべきでしょう。
ヴァンパイアノーブルよりも先に亜人達を見付ける必要がありますし、他の仲間とは別方向に移動して捜索するのが効率的ですね。
でも、海岸をそのまま歩くのも目立ちますね。
亜人達に気付かれぬよう、冬期迷彩用のマントを羽織り、近くの木々や岩場を利用して隠密移動です。物音も極力控えます。
リュカにも捜索を手伝って貰いますが、飽くまで私の周囲の索敵補助です。
無闇に飛ばさず、目立たぬようにして貰います。
慎重に、でもなるべく速やかに標的を見付けましょう。
霧らしき現象や亜人らしき人影が見つけたら、他の仲間にすぐ連絡して応援要請。
後は準備が整うまで物陰で標的を監視して、頃合いを見て奇襲です。
アドル・ユグドラシア
※アドリブ、絡みok
一難去ってまた一難ではないだろうが、境界付近だとこうもややこしい事態になるようだな。
まぁ、支援の手は足りてそうだから、俺は亜人達の捜索に回るとしよう。
前情報通りなら、人々への危害はなさそうだが、中立派とやらが何仕出かすか分からんからな。
連中に横槍を入れる機会があるなら使うべきか。
とはいえ、だ。
一口に海岸と言っても範囲はかなり広いだろう。
複数人手が居るなら、手分けして広範囲に捜索の手を広げるべきか。
パラドクス通信があるなら、其方を利用して連絡を取り合い、可及的速やかに亜人達を発見するとしよう。
だが急いては事を仕損ずる。
冬季迷彩用のローブを羽織って地形に溶け込みつつ、周辺地形の遮蔽物、木々や岩場などを利用しながら隠密に移動する。
海岸沿いに連中が居るなら、丸見えで見付けやすいとは思うが、距離の問題もある。
レンズに反射防止処理をした双眼鏡を用いて遠方の確認もしておこう。
境界の霧または亜人達を見付けたら、すぐに仲間に連絡して呼び寄せる。
後は速やかに準備して敵を一気に片付けるぞ。
半乃目・丁
(トレインチケット)

白雪・咲羅
(トレインチケット)
春日宮・緋金
(トレインチケット)

日向・銀河
(トレインチケット)

備傘・鍬助
(トレインチケット)
魑魅・烏頭
(トレインチケット)
●発見されぬ危険
「……この辺りか」
海岸線。
それを臨む、岩場。そこにアドル・ユグドラシア(我道の求道者・g08396)は立つと、視線を向けていた。
「確かに、広いな。それに……隠れられる場所も、あまりない。視界はききそうだが……」
それは同時に、見つけるべき相手に、こちらが見つかる可能性も高い、という事。
おそらく、連中は海岸沿いに現れるだろう。その推測に基づいて行動するしかあるまい。
「……冬季迷彩用ローブ、よし、双眼鏡、よし。周辺地域の遮蔽物……確認、よし」
あとは、実行するのみ。双眼鏡には、反射防止処理が施されているから、光の反射で見つかる事は無いだろう。
「……もしもし、聞こえますか?」
と、そこへ『パラドクス通信』による連絡が入った。
「……こちら、フィリス・ローラシア(夢現の竜使い・g04475)です。こちらは今のところ、何も見当たりません」
「こちらアドル、こっちも同じだ。何もないから、ピクニックでもしている気分だったよ」
「そうですか。確かに観光で来たかったですね……とりあえず、リュカにも手伝ってもらってますが、そちらも何も見つかってないみたいです」
「わかった。ミニドラゴンなら捜索範囲は広がるだろうけど……見つからないように気を付けて」
「はい。そちらも気を付けて下さいね。……他の皆さんは?」
「参加してくれた連中は、それぞれ探ってくれてる。これだけ人員が来てくれたなら、発見の可能性も高まったが……」
「……逆に、こちらが見つかる可能性も高い、となりそうですね」
「ああ。ともかく、こちらはもう少し進んでみる。そちらも気を付けて。交信終了(オーバー)」
「はい、そちらも。オーバー」
定時連絡を終え、ひと息ついたフィリスは、
「……リュカ、何か見つかりましたか?」
低空を飛んでいたミニドラゴンを、自分の腕に抱きとめて訊ねる。が、かのミニドラゴンは残念そうに首を振った。
かの小さな龍は、偵察と索敵の補助にはもってこい。しかし……フィリスは無闇に飛ばさず、できるだけ目立たせないようにと心得ていた。
「こんなに見晴らしが良かったら、漂流してくる亜人に見つかりますしね」
あくまでも、自分の、フィリス自身の索敵補助にとどめる。そうでないと……逆にこちらが見つかってしまい、事態がより混迷してしまいかねない。
とはいえ、今のところは何も見つからない。快晴ではないが空は晴れ、海上にも取り立てて異常は見当たらない。
「……おーい、フィリスさん」
と、リュカの後から、同じくミニドラゴンが飛んでくると、
「悪いな、俺も彗星も、収穫は無しだ」
同じく近づいて来た、大柄なドラゴニアンの方に止まった。
「あ、お疲れ様です。日向・銀河(景星鳳凰・g04685)さん。それに彗星さんも」
リュカと同じ、ミニドラゴンの彗星は、
やはり残念そうに、かぶりを振った。
「一応、リュカと同じく、俺も彗星を低空で海岸線近くを飛ばし、探ってみたが……怪しいものは見つからなかった」
「いえ、仕方がありません。銀河さん、彗星さんと引き続き捜索をお願いできますか?」
そう言葉をかけたところに、
「ごめんなさい、ボクの方も収穫無しです」
半乃目・丁(舞台裏の白狐・g04619)、妖狐の男性と、
「……同じく」
白雪・咲羅(天使のレジェンドウィザード・g01174)、ワールドハッカーの少女が、近づいて来た。
「あ、お疲れ様です。……すみませんが、引き続き、お願いします」
ぺこりと頭を下げるフィリスに、
「……まあ、あまりこういうのは得意じゃあないんだけど……仕方ないわね」
咲羅はうんざりしたような顔とともに、溜息をつき、
「ま、簡単には見つからないものですよ。引き続き頑張りましょう」
丁は微笑んだ。
再び、彼らは散開する。
フィリスも、アドルが着ているのと同痔、冬季迷彩用マントを羽織ると、
「行きましょう、リュカ」
木々や岩場に隠れつつ、捜索を続行した。
●発見しつつある危険
「……やれやれだ。村や農地の立て直し……というのも大変だろうが、こちらの捜索もまた、正直大変だな」
と、アドルは小さく呟いた。
村を復興するのは、他のディアボロスが行っているはず。建物を修復したり、荒れ果てた農耕地をまた耕したり雑草を抜いたりと、面倒な労働が待ち受けているのは容易に想像できる。
それに比べ、此方の『亜人の捜索』の方が楽と言えば楽だが、手掛かりがほとんどない状態で、亜人が辿り着く場所を短時間で探し出せ……というのも、無茶かつ困難ではある。
あれから一時間近く探し回るが、それらしいものは見つからない。
気疲れしている自分を、彼は実感していた。
「……どうした。いい若いもんが、何を弱気な事を言ってんだよ」
彼の隣で、春日宮・緋金(案内人・g03377)が、バウンサーにして鬼狩人の彼女が。気合を入れるように彼の尻を叩く。
「てっ!?……って、緋金さん。何を……」
「ま、敵の居場所を見つけるなんざ、簡単じゃあないさ。けど、この世に簡単なことなんか無い。なら、続けて探すしかない。……あんたも、そう思うだろう?」
と、近づいて来た魑魅・烏頭(化外の怨霊使い・g07427)に話を振る緋金。
「……ふん」
烏頭は面倒くさそうに、鼻を鳴らすのみだったが、
(「……確か、彼女は」)
アドルは思い出していた。烏頭は雪降る森の中を、数十時間もかけて獲物を追い続けた事があると。
それに比べれば、一時間探した程度で弱音を吐くわけにはいかないだろう。
「……そうですね。引き続き、捜索を」
そう言いかけた、その時。
「アドル君!」
小さな蝙蝠が、近くに飛んできた。
「アドルさ~ん!」
それとともに、元気な少女の声が追いかけて来る。
「おい、声がでかいよ。ミルディア・ディスティン(伝説の子・g01096)!」
緋金にたしなめられ、「あ、ごめんごめん」と言いつつ落ち着いた彼女は、
蝙蝠が変化した男……備傘・鍬助(戦闘医・g01748)とともに、並び立った。
「……アドル君。先刻に、海岸線の、海上近くを飛んで捜索していたんだが……」
鍬助の言葉に被るように、
「そこで、あたしたち『アレ』を発見したよ!」
ミルディアは、海上へと指差した。
「……ん? あれは……!」
ミルディアが指差すものを見て、アドルは、
「……どうやら、『発見』したようですね。二人とも、お手柄です」
そうつぶやくと、パラドクス通信で、フィリスへと連絡を入れるのだった。
●発見した危険
「……アドルさん!」
フィリスは、他のディアボロスたちとともに、
アドルの元へと、急行していた。
「みなさん、お疲れ様です」
アドルに続き、
「おっ、来たか。皆も見えるかい?」
緋金が、『それ』を指し示す。
「……間違いねえようだな。彗星、お前も見えるか?」
銀河が、リュカと並ぶ彗星に声をかける。
「間違いないわね、あれは……」
咲羅と、
「……『境界の霧』に、相違なさそうだ」
丁も、『それ』を見た。
「…………ちっ、相変わらず、ぞっとしないな」
烏頭は忌々し気に呟き、
「まったくだ。まるで患部を浸食するガンの腫瘍を連想させる」
鍬助もまた、医師らしい事を口にする。
「ほんとだねー。なんだか、すっごく不気味」
ミルディアは、どこか呑気にも聞こえる感想を述べたが……その口調は真剣。
彼らが見ていたのは、海上に渦巻く『霧』。
海岸線の向こう、海上に、黒く、重苦しい『霧』が発生しており、それはあやしげに渦巻いていたのだ。
果たしてそれは、『境界の霧』。
そして、その手前。海岸線に……『それら』が泳ぎついていた。
「……あれは……?」
ぼろをまとった、緑色の肌を持った人影が、砂浜に上陸している。よろよろと、おぼつかない歩調だが……ぞくぞくと『それら』は上がってくる。
アドルは、双眼鏡でそれを見た。
「……間違いない、亜人だ!」
その首と両腕に、爆弾を装着している緑の肌のヒューマノイド。
疲れ切った歩調で、よろよろと歩くその姿は……どこか、哀れみを誘う。
「……アドルさん? どうかしました?」
「……いや、何でもない。フィリスさんも見ておいた方が良い」
と、彼は双眼鏡を手渡した。
他のディアボロスたちも、岩陰からそっと覗いてみたり、双眼鏡を借りたりして、その様子を見ている。
「……なんだい、ありゃ。爆弾を括りつけてんのかい」
「……というか、彼女ら自身に爆弾を内蔵してるようですね。……これはちょっと、厄介かもしれません」
緋金と鍬助も、双眼鏡を借りてそいつらを見た。
「……やつらが爆弾なら、話は早い。私が接近し爆発させてしまえば、簡単に片が付く」
「そうね。仮に爆発に巻き込まれても、最悪一人を失うだけで済む。その次には私がその任を負いましょう」
烏頭と咲羅が、己を顧みない戦術を口にするが、
「だめだよ! ……こちらの犠牲を出さないようにしないと、本当の意味で『片が付いた』とは言えないよ」
「ああ。……奴らの後に、親玉が控えているしな。そいつの事も、忘れちゃならねえ」
「そうだね。黒幕……というか、大物が後ろに控えている。そいつに食らいつく前に、三下相手に命を散らすわけにはいかないだろう?」
ミルディアと銀河、緋金が、その発言をたしなめる。
「……それで、どうします?」
丁が訊ね、
「……自分たちが、先に発見できた。ならば……」
「……するべき事は、決まりましたね」
アドルと、フィリスは、覚悟を決めたかのように口を開いた。
『多い』。
予想以上に、そのトループス級の数は、多かった。
軽く、数百人単位は要るだろう。動く爆弾が、それも起爆寸前のものが、徐々に海岸に上陸しているのだ。これが危険でなくてなんというか。
そして、その多くは。
まるで映画に出てくる、生ける屍のごとく。死体のような、生気のない状態で、座り込んでいたり、ただ立っていたり、よろよろ歩き回っていたりした。
全員が女性、全員が少女。そして全員が『小鬼(ゴブリン)』。
その『ゴブリン少女自爆隊』の動きは、緩慢。おそらく自爆攻撃を除けば、一体ごとの戦闘力はそれほど高くは無いだろう。その数の多さが取り柄に違いあるまい。
「……じゃ、ボク……僕は、後方支援します」
そう言う丁を残し、他のディアボロスたちは、注意深くゴブリンたちへと接近を試みていった。
緋金と、彗星を連れた銀河、ミルディンが、ゴブリンたちの右側から、
烏頭と鍬助、咲羅が、左側から、
そして、アドルとフィリスが、丁に見守られつつ前方から、
三方向からゴブリンたちを囲み、迫っていった。
「……これは……」
アドルは、遮蔽物に隠れつつ、ゴブリンたちへと接近を試みるも、
「……アドルさん。思うんですが……」
「……俺も……いや、私も同じ考えです」
フィリスに返答したアドルは、意を決し、迷彩ローブを羽織ったままで立ち上がり、
その姿を堂々と現して、ゴブリンたちへと大股で歩み寄っていった。
流石にそれを見て、驚きを隠せないフィリスだが、彼女も同様に立ち上がり、後を付いていく。
二人の姿を、ゴブリン少女たちは見つけたが……、
何も、しなかった。ただ顔を上げて『誰かが近づいてくるな』と確認するかのように視線を向けただけで、取り立ててなにも行動も、反応も、しなかったのだ。
「……」
アドルが剣を構え、
「リュカ!」
フィリスが、ミニドラゴンに命じても、その無反応と、怠惰にも思える鈍い動きは、改まらない。
そのリュカは、空中に飛び出し、身体中に紫電を纏い始めた。アドルもまた、刀身が黒い長剣『月光』を構える。
その様子は、左右の二つのチームにも見えていた。
「……なんだいなんだい、隠れて接近するんじゃあなかったのかい」
「……いや、緋金さん。あの様子だと……あのゴブリンどもは誰が近づこうが、どうでもいいって感じに見えるぜ」
「銀河さんの言う通り。アタシたちが至近距離に近づいて、攻撃しても……無関心なままって事に気付いたんだと思うよ」
右側。緋金の言葉に、銀河とミルディアが補足する。
「……どうやら、見られても接近する事に、問題は無いと気付いた様子だな」
「どうやら、その様です」
「なら、私達も構わないわね」
左側。烏頭も気づき、立ち上がるとともに、鍬助と咲羅も立ち上がった。
そして、彼らの思惑通り。
「……連中、本当に……『無関心』なままだな」
アドルとフィリスの後方、岩陰に隠れている丁は、それを改めて確認した。
ゴブリンたちは、ディアボロスを一瞥しただけで、ろくに反応しなかったのだ。
「……僕の『フリージングミサイル』。どうやら、ゴブリンに使う必要は無さそうだけど……」
しかし、丁は逆に不気味だった。自爆兵に改造された絶望が、彼女らをこうさせたのかもしれないが、
同時に感じたのだ。これは、『地獄の亡者たちが、地獄から湧いて出てきた』のではないかと。
●発見し続ける危険
最初に攻撃を仕掛けたのは、アドル。
「『ブラッディアクセル・ブレード』!」
長剣『月光』の黒き刀身に纏わせた、暗黒闘気。それをゴブリンたちの集団へ、切り付ける事で射出した。
そのまま、周囲の砂浜が……闘気により泥濘と化し、彼女らの動きを封じ……、
生命力を奪っていった。
「……ゴブリンたちが、爆弾とともに接近し、自爆されないようにと考えたんだが……」
アドルのそれは、杞憂だった。泥濘に足を取られ、生命力を吸われても、
まったく慌てる事も無く、無関心なままだったのだ。何をされようが、どんな仕打ちを受けようが、それに抗うどころか、反応すらしない。
「……リュカ、待って」
アドルのこの攻撃で足止めし、フィリスは己がパラドクス、リュカに電撃を纏わせ、それを用い攻撃する『神竜の行進・雷撃(シンリュウノコウシン・ライゲキ)』で止め……というのが当初の計画だった。
うまくいけば、連鎖爆発を起こし、一掃も可能。
そして、それから逃れるのを防ぐべく、左右を他のディアボロスで固めてもらい、逃げ道をふさいでもらっていた。
しかし……、
ゴブリンたちは、一人ひとりが爆弾。それが無数に存在する。故に、下手に連鎖爆発を起こすと、この海岸そのものの地形が変形するほどの大爆発が起こりかねない。それが唯一の懸念だった。
ではあったが、その懸念も晴れるかもしれない。
「…………皆さん、可能ならば、この海岸で爆発させないようにできませんか?」
敵の、ゴブリンたちのこの無抵抗を利用し、爆発を起こさせない事で……自体を解決できないか。
先刻に話し合った際の、いわばプランB。フィリスはパラドクス通信にて、
それができないか、仲間たちに頼んでみた。
プランB、決行。
「……どうやら、アタシと……」
「私の出番は、なさそうだね」
それでも、ミルディアと緋金は、油断なくゴブリンたちから視線を外さない。
「……俺のパラドクス、今回ばかりは……鎮魂のための、憐憫の涙という事にしておきたい気分だ」
その隣では、ドラゴニアンの銀河が、ミニドラゴンの彗星に見守られつつ、
『天の安の河原(アメノヤスノカワラ)』、己のパラドクスを放っていた。
それは、『水』の魔力による攻撃。水の魔力を、猛禽の姿にして飛ばし、ゴブリンらの集団の、中心部に着地させる。
その地点から、天の川を彷彿とさせる水流が周囲に発生し、撃ち出された。
「それじゃ、次は私だな」
左側に居た鍬助が、己がパラドクスを、自身の魔術による『吹雪』を発生させる。
「『アイスエイジブリザード』……みんな、そのまま凍っててもらうよ」
その言葉に、逆らうゴブリンたちは居ない。
むしろ、穏やかな表情すら浮かべている。このまま死ぬことで、爆弾として生きる事の苦役から逃れられるかのように。
吹雪は、ゴブリンたちを包み込んでいき、氷像のように凍り付かせていった。
「……最後は、私か」
そして、烏頭が進み出る。彼女の周囲には……怖気めいたおぞましい『何か』が、徐々に集まりつつあった。
それは、烏頭から巨大な、彼女の身体をはるかに凌駕するほどの、巨大な『拳』を形作る。
「……『妖怪変化・ダイダラボッチの巨拳(ヨウカイヘンゲ・ダイダラボッチノキョケン)』。あとは、この拳で……」
凍ったゴブリンたちを、掴んで、つまんで、かき集める。凍ったゴブリンたちは、一か所に集められていった。
そして、『拳』により握られ、巨大な塊にされる。
「……これで、いいのか? あとはこれを投げるんだな?」
訊ねる烏頭に、フィリスは頷く。
「はい。……では、投げる前に咲羅さん、お願いできますか?」
と、近くまでやって来た彼女へ、フィリスは促す。
「了解したわ。『イグジストハッキング』」
咲羅のパラドクス、それは『存在情報そのものを書き換える、人知を超えたハッキング技術』。
と言っても、今回行うハッキングはささやかなもの。
「……この、ゴブリンたちの中の一人。その爆弾の情報を書き換える……いいわ、やって」
「はい、烏頭さん、あの『境界の霧』へ!」
「……おう!」
即座に反応した烏頭は、『ダイダラボッチの巨拳』でゴブリンの塊を掴み、
『霧』へと投げつける!
「波が来るぞ! 全員、海岸から陸地に向かって走れ! そして物陰に伏せろ!」
アドルの声に、全員が従い……、
数秒後、大爆発とともに、
霧が吹き飛び、発生した大波が海岸に襲い掛かった。
そして、更に数秒後。
「…………す、すみません……これほどまでに、波ができるとは……」
「けど……どうやらみんな、大丈夫のようだ……」
フィリスとアドル、その他全員がびしょびしょになりながら、岩陰から出てきた。
「……緊急時だったので、津波に、『フリージングミサイル』を撃たせてもらいましたよ。はあっ、無事でよかった」
と、丁も安堵の溜息を。実際彼のおかげで、爆発の衝撃で発生した大波を防げたのだ。皆の目前には、凍り付いた大波が。
フィリスは、海岸および陸上で、ゴブリンたちを一掃する事を心配していた。が、ゴブリンらの無抵抗から、即座にある作戦を立てた。
アドルのパラドクス、その泥濘により動きを奪い、
銀河の『天の安の河原』で水流を浴びせ、
鍬助の『アイスエイジブリザード』で、凍らせ、
烏頭の『妖怪変化・ダイダラボッチの巨拳』で凍ったゴブリンたちをかき集め、ひとつの塊に。
そして、咲羅の『イグジストハッキング』で、彼女らの爆弾が一つだけ、爆発するようにした後、
烏頭の巨拳で、境界の霧へと投げつけてもらい、霧そのものを破壊。
海上ならば、陸上で爆発させるよりも環境への影響が少なく、破壊もないだろう。
そう考えて、実行したわけだが、
「……まあ、うまくいって良かったが。最後の津波はちょいといただけないぜ。濡れちまったよ」
銀河と、
「……でも、これで……トループス級も、全部倒せたのなら御の字かな」
鍬助が、やれやれと安堵する。しかし、
「……いや、そう簡単には終わらんようだ。まだゴブリンは残ってるよ」
緋金と、
「……数はだいぶ減っているけど……さっきの波で、海岸の別の場所に打ち上げられてる。ほら……」
双眼鏡を覗きつつ、ミルディアが指摘した。
その方向には、確かにゴブリンが。爆発に巻き込まれずに済んだ、ゴブリンたちの群がそこにはあった。
大多数は先刻のフィリスの作戦で一掃された様子で、確かに残りの数は少ない。とはいえ、先刻に比べて少ないだけで、まだ二~三十人ほどは居るようだが。もっと居るかもしれない。
「……ちっ。なら、再び戦うまでだ」
「ええ。先刻同様、効率的に処分するのみ」
烏頭と咲羅は、立ち上がる。
その通り。それに、数を減らせたのだから、連鎖爆発させても先刻ほどの威力はもう出ないだろう。陸上で爆破させても、問題は無い。
「……行こう」
「ええ。行きましょう」
今度こそ、敵を一掃するため。……あの哀れなゴブリンたちに、引導を渡すため、
アドルとフィリスも、立ち上がった。それに伴い、他のディアボロスたちも立ち上がるのだった。
善戦🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
効果1【パラドクス通信】LV1が発生!
【泥濘の地】LV1が発生!
【冷気の支配者】LV1が発生!
【無鍵空間】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
【一刀両断】LV1が発生!
【水源】LV1が発生!
【使い魔使役】LV1が発生!
【隔離眼】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV3が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
【ロストエナジー】LV1が発生!
【能力値アップ】がLV4になった!
【ラストリベンジ】LV1が発生!
フルルズン・イスルーン
んむ、ではさっさと漂着したのに引導を渡そうかね。
その未練と役割をロマノフに持ち込まれては困るのだ。
クロノヴェーダは自己変革を起こせないのがね。
大いなる元素よ湧き上がれ、フィロソフィアス・ゴーレム!
【水源】の用意とともに、水で満たすのだゴーレムくん。
爆破対策の基本だね。湿気らせて動作不良起こさせる。
そもそも表裏漂流してきてるしパラドクス戦にそういう気遣いは無用?
ま、イメージの問題さ。無為無策で受けたいとは思わないものだ。
そして、その水はそのまま彼女らを希釈し溶かすものである。
津波のようにその水を相手にかける事で攻防一体になった対処法だ。
さあ、賢者の石より放たれし波濤よ消し去ってしまうが良い。
足跡も痕跡も、流るる水の前に灌がれるものでしかない。
もはや消え去ったディヴィジョンからの漂着者よ。ここに汝の未練果たせるものなし。
イルドニス・クルヴィ
……不倶戴天の敵なのであろう。
ならば、討つしかあるまい。
ここで、情けを掛けて被害を被るのはここに住む民だ。
…それに此奴らを助けたところで、あの状態では何にもなるまい。
それこそ、ここで散らせた方が……誰からも搾取されずに済む、それも一つの情けであろう。
砂浜に降り立ち、可変合体式特大剣を大弓へと変形させ、番えた大矢に万全の殺気を込めて撃ち放ち、【穿孔】を発動させる。
風を引き裂きながら敵を射抜き、大弓の勢いと大矢の破壊力で海の方へと押し出し、海の中で爆発させる。
このまま海の藻屑となるか……その腑抜けた面を脱ぎ捨てるか選べ。
言葉を投げかけながらも、大矢を撃ち続ける。
容赦なく、情けを掛けず、敵を射る。
敵が自爆をしようものなら、身体に仕込んだ爆弾に狙いを定めて大弓で射抜き、自爆のタイミングをずらし爆発の威力を下げさせる。
……ふん、最期に覚悟を決めたか。
なれば、此方もその覚悟に見合ったものを贈ろうか。
大弓に銀の杭【飢牙・リュコス】を番え、弦を大きく引き絞り撃ち放てば、銀の流星の如く輝く一射を見舞う。
アドル・ユグドラシア
※アドリブ、連携ok
ふむ、亜人の特性か個人の特性か知らんが、極端過ぎるな。
だからと言って同情するつもりはないが。
回収される前に、ここで引導を渡すのがせめてもの情けか。
では、この場は一気に片付け、回収役に気付かれる前に速やかに掃討する。
接敵時には、通信障害を発動して敵の情報伝達を妨害する。
こいつら自身は情報発信出来んだろうが、何らかの手段で回収役に勘付かれるのも面倒だからな。
その上で、敵の退路を断つように動くとしよう。
戦闘ではサンダースパイクを発動、雷を纏いながら敵に突撃し、斬撃と電撃を敵にお見舞いだ。
だが下手に突出しては爆発に巻き込まれる。周囲の味方と足並みを揃えて敵に当たるとしよう。
突出の危険がある場合は無理に接近せず、雷撃を飛ばして敵を怯ませる。
弱った敵から確実に潰し、敵の数を減らすが、もし離脱する敵が居たら最優先で叩く。
敵の自爆に巻き込まれる気はないが、爆発の範囲は広そうだ。
なるたけ爆心地から離れるが、それと同時に雷を纏って障壁とし、衝撃を防いで直撃を避け、上手く爆風を受け流すか。
フィリス・ローラシア
※アドリブ、連携ok
ここまで漂着してきたのは、彼女達には幸運だったのか不運だったのか、分かりませんね。
でもやはり、亜人の行いを考えれば同情出来ませんけれど。
ともあれ、此方は此方の目的を果たすのみ。
ヴァンパイアノーブルと彼女達が合流する前に、速やかに殲滅します。
行きますよ、リュカ。
リュカには周囲の警戒をして逃げそうな敵を見付けて貰って、私は『心の鎖』をばら撒いて、手当たり次第に敵勢を締め上げていきましょう。
戦闘では『心の鎖』を敵集団に放射し、締め上げて動きを止める序でに薙ぎ払います。
もし接近戦を行う味方が居たら、其方と目標を合わせて、敵の動きを止めるなどして援護ですね。
その際には、味方を攻撃に巻き込まぬよう注意です。
基本的には弱った敵から順番に狙い確実に数を減らしていきますが、逃げる敵が居れば其方を最優先で狙います。
もし敵が自爆と共に拳を飛ばすというなら、その起爆や拳の飛散自体を鎖の締め上げで邪魔して勢いを殺ぎましょう。
それでも来るなら、切り払って直撃を防くか、魔力障壁で衝撃を吸収します。
●『死者たちの夜明け』の調べは、『ゴブリン』が手がけた
「……っと、遅れましたが到着したのである。んむ、ではとっとと戦ってさっさと引導を渡してやろうかね」
海岸線。そこにやって来たフルルズン・イスルーン(ザ・ゴーレムクラフター・g00240)は、
「まったく、ロマノフに余計なものを持ち込むなと言いたいね、割とマジに」
多少うんざりした口調で、そんな不満をこぼしていた。
「……そうだな。不倶戴天の敵、であるならば……討つしかあるまい」
彼女に続き、少年の顔を持つ人狼の漢が言った。
彼の名は、イルドニス・クルヴィ(刃纏いの狼・g11345)。先刻まで、村の修復をフルルズンとともに行っていた者。
「ああ、合流できてよかった。村の方は?」
アドル・ユグドラシア(我道の求道者・g08396)が訊ねると、
「万事問題ない。全てではないが、多くの建物が修復できた。食べ物も、農耕具や道具の修復も、農耕地の整備も彼女のゴーレムの手伝いで全て終わらせている。本当に、彼女とゴーレムは大したものだ」
イルドニスは答え、
「いやいやいや、それほどでもあるが、それに加えてイルドニス君の尽力あってこそではあるよ。うん。やはり真面目にコツコツ努力する、頑張る君のがむしゃらこそが、この世界を変えるものだと改めて実感なのだよ」
それを否定せず、イルドニスの事も含め鼻高々になるフルルズンだった。
「ま、まあ。それは何よりですが……」
と、フィリス・ローラシア(夢現の竜使い・g04475)が、ミニドラゴン・リュカとともに、
海岸線へと、厳しい視線を投げつけていた。
「私たちの方も、先刻に彼ら……いや、彼女らトループス級を発見しました。他のディアボロスの方々の協力を得て、奇襲し、先制攻撃に成功。おかげで、その大半を殲滅できはしましたが……」
まだ、僅かな数が残っている。それらを倒さねばならない。
「……成る程。ちなみに、その先刻のトループス級は、奇襲で確実に倒したのかね?」
「はい、フルルズンさん。助けて下さった他のディアボロスの皆さんに協力してもらい、事なきを得ました。その総数は、おそらく……」
フィリスからその数を聞き、
「……そんなにか。ゴーレム連れてきても、ちょいと骨が折れそうと予測してしまうな」
フルルズンは、やや顔をこわばらせる。
「……それはともかく。先刻に打ち漏らしたトループス級を、確実に倒さないと。二人とも、協力して欲しい。あの……『ゴブリン少女自爆隊』を一掃するために」
アドルの言葉に、もちろんと頷く二人。
「そう言えば、手伝ったという他のディアボロスたちは?」
イルドニスが聞くと、
「他の場所を回ってもらっている。……あの場所以外にも、上陸したゴブリンが他にいるかもしれないからな。一人でも残さないために索敵し、発見したら撃破しないと」
アドルが答えた。
その、ゴブリン少女隊は、
海岸を蠢いていた。それはどこか……死体を求め蠢く、小さな蛆虫のような印象を与えていた。
そして、
2~30人ほどの数だったゴブリンたちだったが、新たな者たちが、続々と海から這い上がって来た。
『Z95』、ゴブリンの一人は、仲間たちとともに、やっとのことで海岸へ上がっていた。
先刻、境界を越えて泳いでいたが、先行した者たちの殆どが凍らされ、塊にされ、投げつけられ、
境界の霧を、吹き飛ばすほどの大爆発を起こしていた。
そのおかげで、自分も、生き残った僅かな仲間たちも、岸へと打ち上げられたが。だが、仲間の多くが死んでしまった事は事実。
……いつまで続くのか? いつまで、このような仕打ちを受けなければならない?
自分が存在する事が罪なのか? だとしたら、神はなぜ自分たちをこの世に産み落とした? なぜ私は存在する? 私は苦しむために生まれてきたのか?
そもそも、私は何者だ? 両親は誰で、どこでどうやって育ったのか。この爆弾を埋め込まれたのはいつ……。
やめよう。考えても無駄だ。思い出そうとしても、今まで何一つ思い出せなかった。
改造されたと最初に聞いた時、嫌だった。だが、嫌がったところで何も変わらず、何も好転しない。
だから、嫌がるという感情自体を、感じる事をやめた。
何もかも、覚えていない、思い出せない、思い出したくないし、覚えていたくない。
よろめくように砂浜を歩いていると、
『…………?』
敵意めいた何かを、感じた。
「……このまま、可能な限り隠れつつ接近し……」
「攻撃、といったところかね。しかし……」
イルドニスとフルルズンは、アドルとフィリスに訊ねていた。
「しかし、最初に遭遇したゴブリンガールは、君らを発見しても『無反応』だったのだろう? なのに今回は用心するのかね?」
フルルズンの問いに、二人はかぶりを振る。
「……念のため、です。今回もそれが通用するとは限りませんから。ね、リュカ?」
フィリスとともに、リュカも頷く。
「それに、相手は『嫌がっているのを無理やり改造され、自暴自棄気味に』なっているとも聞く。ならば……用心に越した事はない。自棄になり自爆されたら、こちらが危ないしな」
アドルの言う通り、相手の体内には爆弾が内蔵されているのだ。
「……確かに。精神が不安定な時に、不必要な刺激を与える事も無いな」
「うむ。水素ガスでパンパンな風船を、火のついたマッチでつっつくような事は避けねばなるまいよ」
アドルの説明に、イルドニスとフルルズンは納得。
隠れつつ、ゴブリン少女隊に接近し……、
そして、その姿をそろそろと、現した。
●緑の『ゴブリン』は、後にホブゴブリン、デモゴブリン、ニューゴブリンという亜種を生む
『…………?』
遮蔽物はもうない。そこに最初に姿を現したのは、
イルドニスだった。
続き、フィリスが隣に並び立つ。
「リュカ、イルドニスさん。行きますよ!」
ミニドラゴンは吠え、
「応!」
イルドニスは、己が武器、『可変合体式特大剣:ルガル』を、『大弓』に変形させていた。
既に、矢がつがえられ、弦を引き絞っている。
「……穿ち、開けろ。『穿孔(レイデュス・ヴァンド)』!」
狙いを付け、矢が放たれる!
それは、ゴブリンたちの集団に襲い掛かり……、
『Z95』の周囲にいた、ゴブリンの一人へと命中した。
『……?』
彼女たちの半数は、それに反応できなかった。反応した者たちも、恐れを抱いていない。
矢に貫かれたゴブリンは、勢いを止める事無く海の方へと吹き飛ばされ、海原に弾き飛ばされ、
海中に没した後、爆発を起こし、果てた。
その様子を見て、うろたえた様子を見せたゴブリンも居たが、
(「……逃げない?」)
フィリスは、パラドクスを用いて『逃げるゴブリンを捕縛』せんとしていた。が、奇妙な事に、
『逃げる』ゴブリンは居なかった。
逆に、接近してくるゴブリンはいた。まるで何かを求めるように、地獄に落ちた死者が、救いを求めすがり付いてくるかのように、よろよろと向かってくる。
「……『選べ』」
冷酷な、イルドニスの声が響く。彼は既に、次の矢を番えていた。
「……このまま、『海の藻屑となる』か……その『腑抜けた面を脱ぎ捨てる』か、選べ」
返答を待つことなく、次の矢が放たれる。それも、一撃だけでなく、連続で。
容赦はない、情けをかける事もない。冷酷に、冷徹に、彼はルガル・大弓形態で矢を放ち続ける。
だが、
『……して……』
「?」
『…ころ……して……おね……がい……』
何人かは、そう呟き。立ち上がった屍が歩くかのようによろよろと近づいてきた。
「ならば、望み通りに……」
そう言いつつ矢を放たんとするイルドニスだったが、
「……くっ!」
『躊躇』、してしまった。その顔はあまりにも、あまりにも……哀れを誘う表情だった。
そして、躊躇から立ち直るのに、イルドニスは時間をかけすぎた。2秒もかかったのだ。
さらに1秒をかけ、狙いを定め、矢を放つが……、
『…………あなた、私たちの『ご主人様』にはならないのね……』
『Z95』が、矢を避けて、
イルドニスに言葉をかけた。
(「……? あの個体は?」)
それは、近くで隠れているアドルに、訝し気な表情を浮かばせるものだった。
肩に大きく『Z95』を刺青が入ったそいつは、やはり虚ろではあったが、
どこか、『期待』しているかのような表情でもあった。
「…………」
とりあえず、自身のパラドクスの準備に入る。『通信障害』の効果で、恐らく周囲への、特にアヴァタール級への連絡は出来ないように仕向けたが。
しかし、不安がぬぐえない。どこか……『何かを待っている』。そんな気がする。
まさか、罠を仕掛けている? ……だが、どうもそうとは思えない。自暴自棄に? それもどこか違う気がする。
その隣では、
「……『"完全なる 調和 存在"』……其はこの世界を構成せしもの、其は全であり個、個にして全、あらゆる存在、命ある物、命無き物、その全てから生まれ、全てを生みだすもの、我、求め訴える、大いなる元素よ、沸き上がれ。……『フィロソフィアス・ゴーレム(ロ・オリン・クァロス)』」
フルルズンが、ゴーレムを作製していた。
それは、『賢者の石』のゴーレム。錬金術の秘奥により作り出され、個体のように振る舞いつつ、液体の性質を持つ。
とはいえ、ちょっと禁忌に触れすぎてまずいため、色々と機能を封じたバージョンではあるが。
「……うん、いつもながら見事な出来。凄いぞボク、偉いぞボク。そしてボクの作ったゴーレムよ、自画自賛と言われようが、実際賛美しかないから仕方なし。……ん?」
そこまで自賛した後、彼女はアドルの様子に気付いた。
「……どうかした? 何か問題でも?」
アドルは彼女に、かぶりをふる。
「……いや、何でもない」
亜人たち、その所業から同情は出来ないし、するつもりもない。
ではあっても……なぜか、躊躇してしまう。
「……これは、ボクのただの独り言で、単なる戯言だが」
彼の横でフルルズンは、ゴブリンたちを見つつ言った。
「……何かの書物で読んだことがある。死刑執行人は、たとえ処刑の対象がどんな極悪人だろうが、執行時には処刑に『罪悪感』を覚える事があるという。それは、普通の人間として当たり前の感情であり……その罪悪感がきれいさっぱり消えてしまった時が、いよいよヤバいそうだ」
「…………」
「ま、躊躇するのはまともな人間である証拠。彼女らをちょちょいと片付けた後で、反省でも鎮魂でも、好きに行えばいい。今は……」
するべき事を、する時。
「……ああ、そうだな」
アドルは眼を閉じ、開くと、
剣をしっかり握り、精神を研ぎ澄ませ始めた。
●ゴブリンは、最弱などではない。災厄を呼び込む恐るべき尖兵也
「……どういう意味だ!」
イルドニスの言葉に、
『……私は、従うべき誰かに従うため、ここに、流された。私たちは、誰かに『従う事』しか、できない』
「? お前は、何を……? 従属を自ら選ぶというのか?」
『……逆らう事など、できない。逆らったら、爆発する。だから、従うしか、ない。なのに、なぜ……『従わせて』くれないの? ご主人様に、なってくれないの?』
「それは、お前たちがクロノヴェーダだからだ! 歴史を歪め、人々を傷つけ、苦しめるからだ!」
『……なら、どうして……傷ついた私たちを……助けて、くれないの?』
「……!」
それを聞いた時、
「イルドニスさん!」
と、『Z95』に、その周辺のゴブリンたちに、鎖が巻きつく様子を見た。
「我が心を持って鎖となし、その未来をここに示し定めよ……『術式『心の鎖』(チェインオブハート)』! ……大丈夫ですか?」
「あ、ああ。すまん」
思わず、ゴブリンの言葉に聞き入ってしまった。
だが、それは後だ。今、ゴブリンたちは、出現した多数の鎖により拘束されている。が、それらすらも『あえて受けている』ように見える。
……いや、『あえて』でも、拘束されている今がチャンス!
そう思ったイルドニスだが、
『Z95』を除く、彼女の周囲の、拘束されたゴブリンたちは、
拘束されたまま……、『自爆』した。
「「!?」」
相対していたフィリスは、『魔力障壁』でイルドニスとともに爆風を防ぎ、
「「?!!」」
近場まで隠れて接近していたアドルとフルルズンは、それに驚かされた。
「自爆攻撃か、だが自らを吹き飛ばしたのなら……」
こちらから攻撃する必要もない。そう思ったその時、
「! まずい! 逃げろ!」
「逃げるのですっ!」
二人は叫んだが、遅かった。
腕が、腕そのものが、質量兵器がごとく、砲弾の如く、撃ち込まれてきたのだ。
『ハンドグレネードパンチ』、胴体部を爆発させる事で、腕だけを撃ち出す。
そしてその両腕には、爆弾が装着され、飛ばされてきた。
ひとつだけなら、躱せただろう。だがその『腕』は、十数体分が向かってきたのだ。
多数の爆弾付きの腕が、爆風を受け高速で向かってくる!
普通の人間ならば、どんな超人的な技量を持っていようが……回避は不可能!
だが、イルドニスは、
「…………なめるな! 『穿孔』に穿てぬもの、無し!」
吠え、ルガル・大弓形態から再び矢を放った。
それは先刻同様に、矢を分裂させ、『腕』へ、ほぼ全ての『ハンドグレネードパンチ』へとぶち当たる!
空中で、無数の爆発の花が咲く。それは奇妙に美しく、どこか……悲しげな花だった。
『……どうして……』
その中で、まだ生き残っていた『Z95』は、
なおもすがり付かんとするが、イルドニスはそれに耳を傾けない。
「……さて、我が愛しきゴーレムくん。頼むよ」
そしてその時、フルルズンは、ゴーレムに頼んでいた。
『水源』の効果により、ゴーレムの立つ足元より、
水が流れ出していた。それは小さな川のように、流れを生じさせ、
ゴブリンたちの足元に向かっていった。
「雷鳴の剣よ、迸れ……!『サンダースパイク・ブレード』!」
ゴブリンたちへ、アドルは斬撃とともに電撃を放つ。
下手に爆発に巻き込まれないようにと、距離を取ってはいるが……やはり効果的に、多くを一撃で倒す、という事は敵わず。
「……先刻に奇襲し、数を減らしておいてよかった」
アドルは思った。先刻に比べ、今は僅かな数しかない。……それでも、新たな個体が加わり、合計百体はいるが。
だが、先刻はもっと居た。もしも先刻のまま、数を減らさない状態で戦ったのなら、確実に自分たちはやられていただろう。
加えて、今彼女らは、固まってもなければ、密集しているわけでもない。そのため、一掃を狙ってもなかなかうまくいかない。
フィリスは、イルドニスの隣から離れ、ゴブリンの周囲を回り、端から鎖で拘束していくが、
「……思った以上に……時間が……かかります……!」
その動きを、歩みを止めるので精一杯。攻撃する余裕はない。
いや、フィリスが攻撃したら自爆して、爆弾付きの腕を飛ばしてくる。
「……先刻の、攻撃してこなかったのは……私たちが単に幸運だったから、ですね……!」
そう、ゴブリンたちは『倒させて』くれたのだ。だからうまくいった。
が、今は違う。今は……あの『Z95』というリーダーらしき個体のように、何かを求めているようだ。
だが、求める『何か』。それが何かはわからない。
そして、
「くっ! 数が……多すぎる!」
イルドニスも苦戦。矢を、文字通り矢継ぎ早に放ち続けていても、きりがない。矢がゴブリンの身体に突き刺さり、後方に吹き飛ばすが、
次第に、爆発を起こさず、起き上がって接近してくるようになったのだ。
ならばと、首の爆弾目掛けて矢を放ち、爆破させると、
今度は先刻のように、爆発の勢いを利用し両腕を飛ばしてくる。
足を狙うが、物理的に足を破壊しない限り、痛みを無視してよろめき歩いてくる。
足を破壊したところで、這いずって来る。
腕も破壊し動けなくしたら、爆発する。
「……ならば、鎖で……」
先刻のようにフィリスが鎖で完全に拘束したとしても、『時間差爆破攻撃』で、自身を自爆させ、両腕を飛ばしてくる。
フィリスも、『魔力障壁』で防ぐが、きりが無い。
そんな集団が、イルドニスと、フィリスの近くへと徐々に接近しつつあったのだ。
二人は悟った。自分たちは、追い詰めていたのでなく、逆に追い詰められる状況に陥ってしまったのだと。
やがて、
「……くっ!」
「……はあっ!」
イルドニスと、フィリスは、膝をついた。
『…………』
そして、『Z95』は、そんなイルドニスに向かい、
表情を浮かべず、虚無的な状態のまま、さらに接近してきた。
●……そして彼女らは、そんなゴブリンに改造された哀れなる者たち
『絶望的』。
アドルは、更に数体のゴブリンたちへと電撃を、『サンダースパイク・ブレード』を放ったが、やはり、事態を好転させるまでには至らない。
「……くっ……フルルズンさん!」
しかし、自分は好転させられずとも、彼女ならば……!
アドルの叫びに、
「お任せを! これはかなりまずい、かなり危険でかなりマジヤバな状況。しかし!」
先刻より、ゴーレムの足元から溢れ、流れていた水は、いつしか、
ゴブリンたちの足元へと流れ、巨大な水の染みになって、彼女たちの足元に広がっていた。
『……?』
『Z95』も含め、ようやくゴブリンたちはそれに気づく。砂浜ゆえに、液体は染み込み、あまり表に出ていなかったが……、
「……この状況を、ボクならひっくり返してより良き結果を出せる!」
地面の、砂浜の『染み』から、突如……水のような液体が湧き出てきた。
そして、その液体は、
『!? ……これ、は
……!?』
『Z95』を含め、ゴブリン全員の足元を濡らし、地面そのものをくぼませ、溜まっていき、
ゴブリンたちを、『腐食』し始めた。
「それは、ただの水じゃあない…………キミらを腐食し、溶解させる……『酸』に近いものだな。緑の小鬼くん」
まさに然り。ゴブリンたちは全員、立っていた巨大な染みが、巨大な窪みと化し、
その窪みに、液体が溜まって巨大な水たまりとなると、
その溜まった水……液体が、ゴブリンたちを溶かし始めたのだ。
「紹介しよう。ボクの作った、愛しい可愛いカッコいいゴーレム、『フィロソフィアス・ゴーレム(ロ・オリン・クァロス)』。賢者の石のゴーレムさ」
フルルズンは、自分とともにゴーレムと並び、立った。
「このゴーレムの能力は、『無』から『水』を作り出す事。そして、その水は……」
『敵対存在』を希釈する、魔力水の洪水を起こせる。
つまりは、敵を溶かす酸の洪水を起こせる。どんな相手でも、液体を浴び、溶かされ流されるしかない。
爆弾だろうが、爆発する前に溶解してしまえる。まさに……このゴブリンたちには相性の悪い敵。
「……これは……凄まじいな……」
イルドニスは、溶けていくゴブリンたちを見て、驚愕し、
「本当に……けれど、助かりました……!」
フィリスは、安堵の溜息をついた。
「……流石だな、これなら爆発させずに、敵を葬れる」
アドルもまた、感心する。
「いやあ、それほどでもありますが。此処からアドルくんもゴーレム沼にハマりますか? ませんか、そうですか。はーっ……。ま、それはそれとして、とどめいきましょうか」
好きなゴーレムが役立ち、喜びつつ早口になったフルルズンは、
「……?」
『Z95』が、最後に口を開き、
『……ああ、思い出せた。これで………』
言葉を、何か言ったのを……聞いた。
フルルズンだけでなく、アドルも、フィリスも、イルドニスも、
確かにそれを聞いた。
その、聞いた事で受けた衝撃を、払うかのように、
「……我がゴーレム、賢者の石より放たれし波濤よ。海へと彼女らを流し、消し去ってしまうが良い」
フルルズンが命じ、魔力水は奔流となり、ゴブリンたち全てを溶かし、
海上へと、流していった。
「……足跡も痕跡も、流るる水の前に灌がれるものでしかない。もはや消え去ったディヴィジョンからの漂着者よ。ここに汝の未練果たせるものなし」
その言葉は、どこか、
鎮魂の詩のように、海岸に響いていた。
やがて、爆弾を埋め込んだ、緑のゴブリンたち、ないしはその少女たちの姿は、
ウクライナの海岸線から、全てが消え、無くなっていた。
「……助かった、礼を言う」
「ええ。あらためて、ありがとうございました」
周囲を簡単に調べ、あのゴブリンたちの姿が消えている事を確認し終えたイルドニス、それにフィリスとリュカは、
安堵のため息をついた。
「いやいや、どういたしまして。……ここで普通ならば、勝利のポーズを決めて喜ぶところ、ですが……」
だが、フルルズンの顔は、あまり嬉しそうではなかった。
それは、アドルも、
「……聞いたか、あいつの……最後に言った言葉を……」
そして、
「……ああ」
「ええ。聞きました」
イルドニスとフィリスも同じだった。
「……ああ、思い出せた。これで……爆発する事無く、死ねる。ありがとう……これで……ママに……」
『Z95』は、確かにそう言っていた。
しばらくの、沈黙の後、
「……ここまで漂着したのは、彼女、そして彼女たちにとって吉か凶かは定かではないですが……亜人たちの行いから、彼女には同情できません」
フィリスが、冷たく言い放った。だが、他の皆は、
その言葉は、あえて冷淡で辛辣に聞こえるよう、彼女が装っているように感じていた。リュカを抱いていた手が、震えていたのだ。
「……俺も、同感だ。哀れであっても、敵ならば討つしかあるまい。下手に情けを掛けて被害を被るのはここに住む民だ」
イルドニスはそう言って、一呼吸置き、
「……それに、此奴らを助けたところで、あの状態では何にもなるまい。それこそ、ここで散らせた方が……誰からも搾取されずに済む、それも一つの情けであろう」
やはり冷たく、そう言い捨てた。
「そうそう、全くその通り。そもそも、連中の未練と役割を、ロマノフに持ち込まれては困るのだ。杞憂が無くなってきれいさっぱり、めでたしめでたしと祝杯をあげたいね」
フルルズンが、つとめて明るく言ってみる。
「……ああ、そうだな……」
アドルも、それに続かんとするが、
「……だが、なぜだろうな。妙に……腹が立ってしょうがない」
誤魔化し切れないとばかりに、低く呟くように、己が感情を吐露してしまった。
「…………」
イルドニスも、それに同意するかのように。
「そうだな。俺もなぜか……胸糞が悪い」
あれは、彼女たちは……戦士ではなく、ただの一般人だった。素性がどうであれ、『悪』の手にかかり、その身を穢され利用された『悪』の犠牲者に違いはない。本来ならば、悪を正す自分が守る対象。それを……自分は、自分たちは、逆に殺してしまった。
それは事実。どんな理由があろうが、言い訳はできない。
「……『許せん』。……このような所業を行った者が、許せん。一般の者たちを虐待し、己が欲望に利用した事が、許せん。何より……彼女たちを救えなかった無力な自分が……許せん!」
ぎりぎりと、歯ぎしりを立てている自分を知った。
しばらくの沈黙の後、
「……そういえば、アヴァタール級は、本来はあの彼女たちをスカウトするために、ここに現れるんでしたっけ。ならば……本当の戦いはこれから、ですな」
フルルズンの指摘が、その沈黙を破った。
そうだ、戦いは終わっていない。ここからが、ある意味本当の戦い。
その戦いに勝ち抜くため、ディアボロスたちは……気を引き締めるのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【水源】がLV2になった!
【友達催眠】LV1が発生!
【通信障害】LV1が発生!
【未来予測】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】がLV2になった!
【先行率アップ】LV1が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
フルルズン・イスルーン
これにて商人の仕入れの品物は無くなったのだった。
初めからから品物にさせるつもりも無かったけどね。行為と結果に価値を付けると往々にして陳腐になるものさ。
特に何のためにの意味を伴わない価値なら尚更。
では空の荷を置いてゆくが良い。グレイシャー・ゴーレム!
迎えの使者を待ち構えて迎撃だ!
そうだね名目としては。
我が故郷の戦士はヴァイキング!
海を渡り! 品を商い! 時として略奪を行うもの!
それに習い、求めたるものは既に略奪された!
と悪びれなく宣言するのだ。なに、こういう風に行くのも悪くはないだろう? ボクらはロマノフにとって悪いことをしに来たのさ。
ゆけぃゴーレムくん! 氷河の流れに飲み込まれる船の如く海の藻屑にしてやるのだ!
基本にして奥義、剣と盾を構え突撃!
遠距離戦主体系統はさっさと間を詰めて余裕をなくすのが定石。ボクの弱みがそうだからね!
そして、盾で押し込み面で動きを抑えて避ける隙のなくなったところに剣をざっくりと差し込む。
質実剛健。戦士とはまさにそうあるべきだと思わないかい?
フィリス・ローラシア
※アドリブ、連携ok
※ネメシス形態(エルフ)使用
漂着した亜人達も倒しましたし、後は回収役だけですが、最後まで油断せず、ですね。
回収役にお土産を渡す必要はありません。このまま迎撃して倒してしまいましょう。
機動力確保のために飛行しますが、低空飛行に留めます。
戦闘ではリュカと力を合わせて攻撃です。
魔力を集中して『重唱』の術式を発動、遠距離からリュカと一緒に砲撃して、敵をその場に足止めします。
敵の動きを止めれば、それだけ味方も攻撃をし易いでしょうしね。
接近戦を行う味方が居たら、此方の砲撃に巻き込まぬよう注意しつつ、援護射撃です。
砲撃の際は、敵のばら撒く呪符を巻き込むように撃って、敵の放つ呪いの弱体化も狙いましょうか。
敵の放つ呪術に対しては、触媒となる呪符の範囲を確認の上、呪いと毒を避けてその外側に退避ですね。
後は呪符を破壊して範囲を狭めたり、そもそも呪符を展開させぬよう、両手を撃って攻撃妨害するか、両足を撃って体勢崩しを狙うか、ですね。
追い縋ってくるなら、後は魔力障壁を張って防御、直撃回避です。
アドル・ユグドラシア
※アドリブ、連携ok
※ネメシス形態使用(能力限界突破のみ)
残すはこの後来る回収役のみか。
敗残兵の回収自体は良い着眼点だったが、それを邪魔するのも当然居るということ位は、推測しておくべきだったな。
では、最後の後始末といこうか。
機動力確保のため飛翔するが、低空飛行に留める。
戦闘ではバーサークを発動。小細工せず接近戦を仕掛け、全身全霊を込めて敵の防御諸共叩っ切る。
攻撃の際は、他の味方と攻撃タイミングを合わせるか、攻撃序でに双剣で押し倒しというか切り倒しを試みて体勢崩しを狙い、敵の隙を大きくしてやれば、後続も狙い易くなろう。
それに俺一人に集中するなら、他から手痛い反撃が来るだけだ。
後は敵の攻撃だが、面倒くさいというのには同意してやる。
では正面からぶつかり合うとしようか。
まぁ、敵の震脚が予備動作なら、それを目印に敵の攻撃方法を見極め、双剣で後ろに受け流して直撃を回避しつつ、空いた背中に斬り付けてやるだけなんだが。
生憎、至近は俺の間合いだ。細かい拳法には興味はないが、競り合いで負けてやる気はないぞ。
イルドニス・クルヴィ
後は、回収役人だけか。
………終わったことを悔いても仕方あるまい、今はただ目の前の『悪』を討つとしよう。
それだけは変わらぬ俺の『狩り』なのだから。
亜人達を回収しにきた、商人を待ち構えよう。
………奴らの無念を晴らすためではない。
全ての者の無念を背負っていては自分が呑まれる……だが、俺の心を晴らすために討たせてもらう。
ふむ……ヴァイキングか………北の益荒男達………ならば、振るうはコレの方がいいか。
大剣を両刃の大斧へと変形させ、振るおう。
大斧を下に構えて、一気に踏み込み、地面をしっかりと捉えてから【振弧】を発動し、大斧を地面にめり込ま、割る勢いで振り上げ、両刃を利用してまた一気に振り下ろし敵の防御を打ち砕く二連撃を見舞う。
……刃はどこまでも追うぞ。
その悪行がある限り。
敵の攻撃に対しては、拳法に対応すべく、大斧から手を離し、素早く動けるようにしておこう。
敵が一撃を放ってきたら、【餓爪・ウルヴル】を付けた腕を挟み込み、【振弧】による鋭いアッパーカットを打ち込もう。
…共に藻屑となれ、冷たい海の底でな。
●損をして、得を取れ
『……はあっ!? ちょっとこれ、どういう事よ!』
そいつの出現は、いきなりだった。
『居ない! 居ない居ない居ない! あの爆弾仕掛けの死にぞこない共が居ない! あれだけの数がいたはずなのに、ここに上陸するはずなのに、なぜ一人もいないのよ! それに……』
そいつは……彼女、『無頼商人アクサナ』は、
顔をしかめていた。整った顔つきが、醜く歪んでいる。
『この状況は? まさか……戦闘があった? それでみんな爆発し、いなくなった? はっ、まさか。あいつらに自決できるほどの度胸は無いし、そもそも爆発する理由もない。そんなわけが……』
が、次第に……『認めざるを得ない』事に、気付きつつあった。
『……ふざけんな! ゴブリンどもが全員吹っ飛んだっての!? ……だとしたら、大損だわ。投資した金、みんな無駄になっちゃったじゃない! 許さん……許さないわよ、金を無駄にさせた莫迦ども、全員ぶち殺し……いや、何らかの形で弁償させない事には、気が済まない!』
その顔に似合わぬ、凶悪な面相で喚くアクサナ。
そして、
『……ふぅん、そういうわけね』
しばらく地団太を踏んでいた彼女は、
『出てらっしゃい。そんな殺気まみれなら、すぐに気づくわ。……人数は、三人……いや、四人ってとこかしら?』
何気なく、周囲へとそう声をかけた。
「……気付いていたか。もう少し接近してから攻撃しようと思っていたが」
大剣を手にした、少年のような体格の男が岩陰から現れる。
狼のグリムリーパー、イルドニス・クルヴィ(刃纏いの狼・g11345)。
「鋭いな。ただ回収しに来ただけの、非戦闘員ではないという事か」
木の陰からは、蒼い瞳と、オールバックの青髪、長身の青年が姿を見せる。
人間のデストロイヤー、アドル・ユグドラシア(我道の求道者・g08396)。
「……思った以上に、危険な相手のようですね。色々な意味で」
藪の陰からは、紫の瞳に銀髪、色白な女性が。その足元には、小さなドラゴンが従っていた。
レジェンドウィザード、フィリス・ローラシア(夢現の竜使い・g04475)。そしてミニドラゴン・リュカ。
「……我が故郷の戦士は、ヴァイキング! 海を渡り! 品を商い! 時として略奪を行うもの!」
幼い少女に見える彼女が、大仰な台詞とともに、同じく藪から現れる。
錬金術師で、リアライズペインター。フルルズン・イスルーン(ザ・ゴーレムクラフター・g00240)。
彼女の隣に立つのは、大柄な『ゴーレム』の姿。
「……それに習い、求めたるものは既に略奪された!」
フルルズンは、「決まった!」とばかりに得意げになるが、
『……ヴァイキング? 略奪?……はっ! おいそこのちんちくりん、あのゴブリンどもをどこかにやったのか、爆破したのか知らんが……どうやらお前らが、何かしでかしたようだな……』
大仰に、嘆いてみせるアクサナ。
「……ちんちくりん?」
『ああ、そうだ。まったく……考えようによっては、未使用の爆弾を大量に回収できたというのに』
「……ちんちくりん?」
フルルズンの反応を無視するアクサナに、
「……ま、確かに『敗残兵の回収』という点は、悪くない着眼点だったが……。しかし」
アドルは、言い放った。
「しかし、それを邪魔する者も当然居るということ位は、推測しておくべきだったな」
『ふん。居たとしても、端から潰すつもりではあったけどね』
そんなアドルに、アクサナはいまいましげな口調で言い返す。
「潰す? 私たちも、回収役にお土産を渡す必要はない……そう考えています」
フィリスも進み出て、
「…………ふむ、ヴァイキングか。北の益荒男達……ならば、」
イルドニスもまた、進み出る。その手に握るは、可変合体式特大剣:ルガル。
そのルガルを変形させ、身構える。
「……形態変形:斧! お前に言う事はない。ただ、これだけは言わせてもらおう」
大斧とともに、彼は言い放った。
「……刃は、どこまでも追うぞ。その『悪行』がある限り」
『……くっ!』
その『凄味』、その『戦意』。それらにアクサナはおののき、一歩下がった。
『……ふん、貴様ら如き、私の敵ではないわ! ……まさかと思うが『回収役』、ついでに『商人』が、無力とでも思ってるんじゃあないでしょうね? この……ちんちくりんの田吾作ドサンピンどもが!』
おののいた事、恐怖した事を恥じるかのように、彼女は……虚勢を張った。
「……ちんちくりん? それに、田吾作ドサンピン?」
と、フルルズンはゴーレムとともに、アクサナに改めて進み出た。
「……ボクも言わせてもらいます。ボクらはロマノフにとって悪いことをしに来たのさ。さあ……」
そして、そばに立つゴーレムに命じる。
「これぞ、『グレイシャー・ゴーレム(ディン・グラキル・グラー)』! ゆけぃゴーレムくん! 氷河の流れに飲み込まれる船の如く! 海の藻屑にしてやるのだ! ちんちくりんとしつこく言った分も含めてな!」
それは、永久凍土のゴーレム。氷結魔法から生じたそれは、氷の鎧、氷の剣と盾、そして『ルーン文字』……それらを携えた、戦士の装束を身に纏っていた。
ゴーレムの対角には、フィリスが、
そしてイルドニスの対角には、剣を手にしたアドルが、
アクサナを囲むようにして立っていた。
『……なるほど、お前たちがディアボロスか。あのゴブリンどもを片付け、この私も片付け、ロマノフの我ら吸血鬼たちの活動を邪魔するつもりなわけね』
アクサナは、忌々しげに、しかし同時に嘲るように、ディアボロスたちへ視線を投げ寄こす。
『…………!』
それは、いきなりだった。虚空に『兵器』がいきなり出現したのだ。
『こちら、『全方位発砲ガドリングガン』! 360度全方向へ、弾丸を打ち込む事が可能です!』
大砲のように、車輪が付いた台座の上には、四方へ向けられた砲門が付いていた。それらは機関砲の銃身であり、全方向に、回転しつつ弾丸を発射可能な造りに。
「「「「!?」」」」
その珍妙な兵器が発砲する直前、
ディアボロスたちは、即座に行動した。
アドルとフィリスは陰に隠れ、やり過ごす。
そして弾丸が発射し、フルルズンはゴーレムの陰に隠れ、イルドニスは回転させた斧で、それぞれで防御していた。
『……『こちら、入荷したてでございます』。ま、あんたらもムカついてるんだろうけど、私もムカついてるのよね……殺したくなるくらいに!』
アクサナは吠えた。それはまさしく、欲望の獣が叫ぶかのような声だった。
●ハイリスク・ハイリターン
「ゴーレムくん!」
フルルズンの命を受け、ゴーレムは巨体に似合わぬ素早い動きを。
そのまま突進し、ガドリングガンへ剣を振り下ろし、破壊する!
『……ちいっ! また損したわ! ……ん?』
跳躍し、ゴーレムから逃れたアクサナに、
「はっ!」
イルドニスの斧が切りかかった。が、
『ふん、そんななまくら刃、かわすのは朝飯前!』
アクサナは身体を捻り、それをかわしていた。
「……速い!?」
『いいや、坊や。あんたが遅いだけ!』
空中でイルドニスの斧を弾いたアクサナは、蹴りを放ち、そのまま彼を地面に打ち倒す!
(「!? こいつ……体術も!」)
『……『金勘定しかできない商人が、何故?』とか思っていそうね……』
地面に降り立ち……奇妙な構えを取るアクサナ。
『『ああもう、めんどくさいわねっ!!』。仕入れも、売り込みも、荒事と同じ! さんざっぱら修羅場をくぐってる商売人を……舐めんじゃあねーわよ! クソガキが!』
その構えは、東洋の武術でも、西洋の格闘術でもない。おそらくは和洋折衷、あれこれ取り入れているのだろう。
このような相手では、斧はかえって不利。イルドニスは武器を自ら手放し、己も構えを取る。
『はっ! そっちも格闘で来るか!』
地面を足で強く踏みつけ……中国武術の『震脚』に似ていた……ステップを踏むと、
(「……来る!」)
アクサナは一瞬でイルドニスへと接近し、腰を落とした重たい一撃を放つ!
ガッ……と、その拳は彼の身体へ迫り……、
イルドニスは、籠手『餓爪・ウルヴル』をはめた腕で、それを受け止めた。
『!? これは!?』
ウルヴルは、ただの籠手ではない。その内部に鋭い杭を四本内蔵し……打撃の瞬間に飛び出して敵にダメージを与える代物。
籠手の杭が、アクサナの腕を挟み込む。そのまま、イルドニスは腕を取ったまま追撃せんとしたが、
『……いいのかしら? 『呪い』と『毒』を、そのまま食らうわよ!?』
露わなその胸、その谷間には、いつの間にか。
『呪符』が、禍々しさを放つ呪いの札があった。
それだけでなく、気が付いた。……彼女の周囲の空気が、ひどく澱んでいくのを。
「!? ……くそっ!」
ウルヴルでの挟み込みを解除し、イルドニスはすぐに後方へと下がる。
『……『やれやれ、ストックを開放しましょう』。……あら、どうしたの? 攻撃してこないの? まあ、カウンター喰らって、呪いや毒を受けたくないでしょうからねえ……おおっと!』
入れ替わりに、グレイシャー・ゴーレムが切りかかってきた。体術で、ゴーレムの動きを捌くアクサナ。
彼女の胸元、袖の中、服の下には、呪符や毒気を放つ呪いの紙が、大量に仕込まれていたのだ。
あのままだと、イルドニスはそれに引っかかり、即座に毒や呪いを受け止けていたに違いない。
「……まったく、そんな戦いを見せられちゃあ、こちらの思惑台無しじゃあないですか。激おこゴーレムプンプン丸ですよ」
ゴーレムとともに、フルルズンが改めて対峙するが……、
(「やれやれですな。このままでは『一方的に無双して手も足も出させず瞬殺』……という戦いは、チっとばかし無理っぽそうです」)
その心中は、穏やかでは無かった。
『……デカブツには、デカブツで相手しましょうか! 行け!』
その穏やかでない心中を、更に後押しするかのように。
アクサナは再び、パラドクス『こちら、入荷したてでございます』を使用。
大口径の大砲をその場に出現させ、砲撃!
「……ちっ! 厄介! けど、ボクのゴーレムにそんな程度の武器が……」
フルルズンはそう言ったが、言い切れなかった。
『『連射式大砲』! 火薬は食うが、威力は保証付き! 近距離で食らい続ければ……その程度のゴーレムを倒す事も不可能じゃあないわよ!』
まさに然り、グレイシャー・ゴーレムは楯で防ぐも、直撃が続き、爆発が発生するため……後方に下がらざるを得なかったのだ。
「……フルルズン、シールドで防ぎながら下がれ! こいつは……思った以上に厄介な奴だ!」
イルドニスが、叫ぶように警告した。
「……フルルズンさんのゴーレムには、毒や呪いは効かないでしょう、けど……」
離れた場所より、その攻撃を見守っていたフィリスは、
リュカとともに、何とかして見出さんとしていた。
アクサナの『攻略法』を、そして『弱点』を。
「けど、このままではあの大砲でやられてしまいます。……私達が飛翔して攻撃するにしても、付け入る隙を見つけない事には……こっちが危ないでしょうね」
フィリスが呟くと、
「……ああ、そうだな。こちらが危ない、面倒な相手だ。だが……」
アドルが進み出た。
「だが、面倒な相手だと同意してやるが、倒せないわけでは無かろう。……正面から、ぶつかり合うとしようか」
その手には、双剣が。
「アドルさん、危険です!」
「百も承知。しかし、危険を恐れて勝機はつかめない、だろう?」
それ以上の返答は無し。アドルは走り出し……、
「…………!」
飛翔した。
そのまま低空を飛び、その両手に双剣を構え……、
『はっはっはー! ゴーレムをぶち壊してやる! ……狼、また来るか!』
フルルズンとイルドニスとが同時に攻撃を仕掛けるタイミングで、
「……全て、断ち切る……! 『バーサーク・ブレード』! はーっ!」
不意打ちを食らわせた。
『ゴーレムの攻撃など当たらん! 狼、お前も引っ込め!』
ゴーレムをバカにするように回避したアクサナは、イルドニスへ向かい、
鉄山靠のように、斧での斬り込みを躱して型と背中で体当たりし、彼を吹き飛ばす。
が、その直後にアドルの双刃が彼女に届くと、
『!?……なっ! ぐああっ!』
その身体を切り裂いた。手ごたえはあったが、
(「……だめだ、浅い!」)
直前で躱され、肩口を切りつけただけで終わった。
『小癪な!その程度かすり傷だ!』
死角から切り付けたものの、アクサナは身体を捻り直撃を回避。猫のように四つん這いで地面に這いつくばり、体勢を立て直す。
その瞬間、
「リュカ、本気で行きましょう!」
巨大化したリュカとともに、フィリスが魔法を放つ!
「私に続いて! 『術式『神竜と精霊に依る息吹の重唱』(アンサンブルブレス・ブレイカー)』!」
フィリスが放つは、氷の精霊魔術。リュカが放つは、光の神竜の息吹。
それらが混合した合体魔法の援護砲撃が、アクサナに襲い掛かる。
『こっちもかッ!?……くっ!あああっ!』
さすがにこれは躱し切れず、命中! その余波を受け、『連射式大砲』も破壊される。
……が、やはりまだアクサナへのダメージは軽微。寸前で彼女が『楯』を取り出し構えたため、ダメージの大部分がそれを破壊するのに費やされてしまったのだ。
『……ふん、ちょいと驚いたわ。ほめてやろうじゃあないの』
壊れた楯を捨て、立ち上がったアクサナ。その表情には、
いつしか『嘲り』は消え、『ムカつき』と『警戒』とが現れていた。
●欲張るな、しかし焦るな
フルルズンのゴーレムは、ふらつきつつなんとか立ち上がった。
アドルとイルドニスもまた、立ち上がり、改めて構え直した。
『……ここまで粘るとは、正直驚いたわ』
そんな彼らを、アクサナは油断なく見据え、言葉をかける。
『どう? 私の部下にならない? そうすれば……稼ぎ放題、様々な村や町も襲い放題、富と名声を我が物にできるわよ? 金も、名誉も、戦いの相手も、好きなものが手に入るわ!』
アクサナのスカウトに、
「……そんな話は、聞く耳持たん」
「……ああ。戯言には興味は無い」
イルドニスとアドルは、即座に断り、
「ボクは考えさせてもらいます。……ボクのゴーレムを、ここまで痛めつけてくれた仕返しに、あなたをブン殴りブチのめした後にね」
フルルズンは、ゴーレムに寄り添い立たせつつ言い放つ。
「……リュカ、もう一度行くわよ」
フィリスは、返答自体していない。そんな価値など無いと、その態度で語るかのように。
『……なるほど。チャンスを捨てるとは……よほど死にたいらしいわねぇぇぇッ!』
本性を現したかのように、アクサナは胸元に手を突っ込んで、呪符を取り出し展開。
それとともに、新たな『兵器群』を虚空から取り出した。
『……『ストック開放』と、『入荷したて兵器』! 同時展開だ!』
アクサナの周囲に薄い煙が立ち込め、空気が澱んでいった。
「あれは……『毒』か?」
「……おそらく、そうでしょうね。……魔術的な『呪詛』も、展開しています」
アドルとフィリスが、それらを認めた。
そして、虚空から出てきたのは……、
「……『槍』? いや、長柄の『斧』か?」
イルドニスが訝しみ、
「……あれは『ハルバード』! それも、何やら仕掛けがありそうです!」
フルルズンがその疑問に答える。
『いかにも! よーく観察できた様ね。この『毒霧散布の呪い』は……結構強力よ! それに!』
『ハルバード』を振り回す。
『これも! 優れた武器! ……おっと、そのゴーレムには、この兵器がお相手しましょう』
虚空から、いきなり巨大な『それ』が出現し、ゴーレムと対峙した。見たところは『ツァーリ・タンク』と呼ばれる三輪の戦車に似ているが、それよりはるかに大きい。
『……これぞ『ギガーント・タンク(巨人戦車)』! 『ツァーリ・タンク』をより強化・巨大化させた、パワーだけならゴーレムに負けない代物!』
まさに然り。衝角付きの胴体部は、一対の巨大な車輪と、補助輪の三つが支えている。その上に載っている二連装砲塔は、まるで人型の上半身。
そいつは、突進し……、
二連装大砲で、ゴーレムへと砲撃し始めた!
それとともにアクサナ自身も突進し、
体術めいた動きで、イルドニスに、アドルに、切りかかった!
「ゴーレムくん! 防御を! ……ああもう、こんな兵器を持ち出すなんて、聞いてないし予想外! まともじゃない人の考えはこれだから困るってもんです!」
かろうじて『ギガーント・タンク』の砲撃をゴーレムの氷の盾で防ぐも、フルルズンは焦りを禁じ得なかった。
そして、砲撃は止むと同時に……車輪で高速移動し、胴体部の衝角で突進・体当たり! ゴーレムはそれを盾で受け止めるも、よろけ、尻餅を突く。
「フルルズン!……ぐっ!」
『よそ見とは余裕だな、狼!』
ハルバードを軽々と操り、アクサナはイルドニスに切りかかった。
斧形態のルガルで、それを受け止めるイルドニス。そのパワーは恐るべきものだと、文字通り身体で彼は感じ取っていた。
パワーと技量だけでなく、放った呪いもアクサナを強化していた。
連続で何度も叩きつけられ、防戦一方。しかも、周囲に漂う『毒』が、イルドニスの判断力を奪っていく。呼吸すらろくにできない。
(「ぐっ……かはあっ……! このままでは
……!」)
間合いを取らんと下がったが、
『逃がさない! お前の得物……頂きだ!』
アクサナにハルバードの斧部分で殴りつけられ、鉤部分でルガルを引っかけられた。
「!しまった!」
そのまま、ルガルを手から離され、弾き飛ばされる。
『もらった!』
「イルドニス、下がれ!」
飛翔したアドルが、空中から双剣で強襲し援護するが、
『甘いんだよ! ボケが!』
ハルバードには、やはり仕掛けがあった。石突の部分から、鎖分銅が長く伸び……、
「ぐあああっ!」
アドルを打ち据えたのだ。
「アドル!」
『狼、お前も寝てな!』
「!」
鎖で薙ぎ払われ、それがイルドニスを直撃すると、
彼もまた、地面に叩きつけられた。
「……くっ! どっちを……!」
フィリスはどちらを援護すべきか迷ったが、すぐに、
「……リュカ! あの戦車を!」
リュカとともに、戦車へと魔法を放つ。だが、光線魔法が直撃してもダメージは軽微。
『莫迦か? その程度の攻撃など、『ギガーント・タンク』には……』
「……効かないでしょうね。けど、時間を稼ぐ事は出来ます!」
まさに然り。
「ありがとう! ほらグレイシャー・ゴーレムくん! 立って戦え! 君は強い子、元気な子! こんなガラクタなんかに負けない、元気で強い、男の子! だよ!」
フルルズンの応援を受け、ゴーレムは再び立ち上がり、
再び、剣と盾とを構え直した。
●損失を、利益に変える知恵と発想が肝要だ
『……ふん、思った以上にゴーレムは頑丈なようだが、果たしてどこまでやれるか! やれ、『ギガーント・タンク』!』
再び、砲撃しつつ体当たりを食らわさんとするが、
『ギガーント・タンク』はいきなり、その勢いを止めた。
『!? どうした?!』
タンクは、片方の車輪を地面の割れ目に挟み込まれていた。
「……さっき言ったはずだ、刃はお前の悪行ある限り、どこまでも追うとな! 『振弧(カーリ・クァクシ)』!」
それは、立ち直ったイルドニスの仕業。彼がタンクの前に立ち、振り上げた斧を地面に叩きつけたのだ。
割れた地面が、タンクの車輪の片方を挟み込み、突進を止める。
返す斧で、車軸に刃を叩きつけ……切断! 『ギガーント・タンク』は、移動能力を失い、そのまま横倒しに。もうこれで、大砲も撃てない。
『なっ……貴様ぁッ!』
アクサナは飛び掛かったが、
「……よそ見とは、あなたも余裕ですね。リュカ!」
フィリスとリュカの『重唱』が再び放たれ、氷と光線の魔術が襲い掛かった。
『……莫迦め! この『呪詛』は遠距離攻撃の的を外す効果もある! お前の攻撃など当たらぬ! ……ぐっ!』
「……当たりましたね、その足に!」
だが、やはり『浅い』。
『ふん! この程度かすり傷! まずはお前とそのトカゲを殺す!』
先刻のように、アクサナはハルバードから鎖を伸ばし、フィリスへと襲い掛かる!
が、
「!」
「……二度も同じ手は食わない!」
その鎖を、進み出たアドルは双剣で弾き飛ばし、
『……このっ!』
彼女が震脚を踏んだタイミングを見計らい、飛翔する!
「……生憎だな。至近は、この距離は、俺の間合いだ! 競り合いで負けてやる気はない!」
飛翔したまま、アドルは、
毒を用心し息を止めて、懐に入り込み……、
「!」
再び『バーサーク・ブレード』を一閃! アドルはアクサナのハルバードを叩き折った。
『……やるな! だが、武器を壊した程度でいい気になるな! また別の兵器・武器を取り出して……なんだ?』
アクサナはいつしか、ゴーレムに接近されていた。
その盾に叩きつけられ、『ギガーント・タンク』の胴体に、身体を押し付けられる。
『ひいっ!』
「……そのチャンスは既にゼロ。あと……お前がボクらに勝つ確率も、逆転の確立も、全部ゼロってなもんだよ。そして……」
返答を待たず、盾で押し込み、面で動きを抑えたところに、
ゴーレムは持つ剣を、その身体へざっくりと突き刺した。
『! ぐあああああああっ!』
断末魔の悲鳴が響き、
フルルズンは、その悲鳴の主へと語りかけた。
「……ボクのゴーレムは『質実剛健』。戦士とはまさに、そうあるべきだと思わないかい?」
アクサナは、それに対し、
『……クソボケの……ちんちくりんどもが……』
そう呻き、そして……そのまま動きを止めた。
『ギガーント・タンク』ごと、悔し気な形相のアクサナの死体を、
フルルズンはそのまま、ゴーレムでロマノフの海へと放り投げ……海へと沈めた。
それを見つつ、イルドニスは、
「…………お前が回収しようとした者たちと、共に藻屑となれ。この、冷たい海の底でな」
静かに呟いた。
「……リュカ、それに皆さん。お疲れ様でした」
フィリスが、皆にねぎらいの言葉をかける。実際……思った以上に皆は、疲れを覚えていた。
「ああ、お疲れ……これで、亜人の漂着と、回収は阻止できた。そして……」
アドルと、
「……農地復興も、できるだけの事は行った。任務、完了と言ったところか」
イルドニスも、その声に疲労を隠し切れない。
「ですね。……さて、それでは……ボクのグレイシャー・ゴーレムの勝利の姿をうっとり眺めた後で、帰るとしましょう。それにしても、ゴーレムからしか得られない栄養素があるものだと、近頃実感するのですよ」
フルルズンの言葉に、苦笑する他のディアボロス。
そして彼らは、再び海へと向かうと、
凪となったロマノフの海を見つつ、祈った。二度と、クロノヴェーダが侵略しないようにと。
そして、この地に戻って来た人々に、平和と平穏が訪れるようにと。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【アイスクラフト】LV1が発生!
【飛翔】LV1が発生!
【建造物分解】LV1が発生!
【土壌改良】がLV2になった!
効果2【ダブル】がLV3になった!
【グロリアス】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV2になった!