ヨサコイ・アゲアゲ・ダイコンダンスカーニバル！（作者 志稲愛海）

6

リプレイ

　潜入したリオの街を歩けば、そこかしこで熱心に踊りの練習に勤しむ人々の姿。
　カチカチッと軽快な音が耳に聴こえ、一見すると活気に満ちているように見えるけれど。
　これは、住民の莫大なダンスエネルギーを大天使やアークデーモンが獲得するために行わせているもの。
　しかも今回はただのダンスではない、ヨサコイダンスカーニバルである……！
　何故ヨサコイなのかは、日本の札幌で行なわれているヨサコイソーラン祭りと、時期的に何となくあっているから、くらいの適当なノリな気はするが。
　何はともあれ、クロノヴェーダの強化を許すわけにはいかないから。
（「踊る群衆にしれっと紛れちまえば、ダンスで目立つまでは気にされないだろ」）
　警戒が緩んでいる隙を突き、敵のの眼を逃れて街へと侵入を果たしたのは、クローディア・ベネット（黒き旗に矜持を掲げて・g10852）。
　まずはそっと、躍りの練習に夢中の人々の喧騒に紛れて機を窺う。
　この街には勿論、リオの住民だけでなく、大天使やアークデーモンもいるのだ。
　そして今回、人々に独自のダンスレッスンを強いているというのは。
（「リオのカーニバルでヨサコイでダンスバトルの相手はガングロと大根……？」）
　そう、絶滅危惧かと思われたガングロギャルと、人ですらない大根だというのだ。
　レイ・ディース（光翼のダークハンター・g09698）はそんな聞いた予知を思い返しながらも。
　今日も勿論一緒のエインと共に潜入した街を歩きつつ、こう呟きを落とさずはいられない。
　頭ぱぁん！　となりそう……って。
　だが、そんなツッコミどころ満載な敵ではあるが。
（「アークデーモンと大天使ってのはふざけた連中だが意外と厄介だな」）
　クローディアは妙な盛り上がりをみせる街を見回しながらも思う。
（「力を得るのに必ずしも人を殺す必要がない上に、妙なバカ騒ぎでも堅実な稼ぎを出しやがる。何かを探すか奪うかしなきゃならんアビスローバーにとっちゃ、弱点を補ってくれる相手って訳だ」）
　この世界に蔓延る輩と流れ着いた敵との相性の良さを。
　そして、だからこそ思うのだ。
　……これ以上面倒なことになる前に叩き潰してやらないとな、と。
　とはいえ、周囲には沢山の人々がおり、いきなりクロノヴェーダに攻撃を仕掛けても、強化されている敵と相対することになる。
　なのでまずはその強化を打ち破る必要があるが、その方法は――。
「どうしたの？　浮かない顔したりして」
　そう、一般人の少女に優しく声を掛けるのは、やはりすんなりと街へともぐりこんだ、四葩・ショウ（After the Rain・g00878）。
　……さて、ダンスに悩む一般人はいないかな？　なんてそっと視線を巡らせていれば、程なく見つけたのである。
　熱心にダンスの練習に励むも、何だか思い悩んでいる様子の少女を。
　そんなショウの声に、少女は少しだけ驚いたようであったが。
　柔らかで優し気な微笑みを向けられれば、抱く悩みをこう吐露する。
「私もヨサコイを上手に踊りたいのだけれど……高まるワッショイピーナッツ的ヨサコイ感というものが、さっぱり分からなくて……」
「……うん、そうだね。それはちょっと悩んじゃうね」
　分かる人の方がきっと少ない気しかしないのだけれど。
　すきなのかな？　ピーナッツ……なんて、ショウも共に首を傾けつつ、ピーナッツに悩める少女に寄り添えば。
「みんな上手だな！　流石はダンスの都リオ、噂を聞いて来た甲斐があったよ」
　住民のダンスを暫く見ていたクローディアも、パチパチと高らかな拍手で称えてから声をかける。
「私は踊りが大好きでね……ここのヨサコイってやつは初めてだが、見てたら血が騒いできた」
　――皆さえよければ一曲踊らせて貰ってもいいかい？　って。
　元々ガングロギャルや大根でさえ受け入れるような陽気でフレンドリーな気質の住民たちが、そんな気さくに告げたクローディアの申し出を断るわけはなく。
「ほら、わたしのヨサコイダンスで元気出してよ」
（「かくなる上はモフモフヨサコイ！」）
　ショウとレイも、リオの人々の心を掴むべく颯爽と行動に出る。
　そう……大天使やアークデーモンを圧倒するようなヨサコイダンスを見せつける事が出来れば、敵の強化を打ち破ることができるのだから！
　ということで、ショウが颯爽と着こなすのは、目にすれば心躍る鮮やかな法被。
　さらにヨサコイといえば欠かせない鳴子の音色を高らかに響かせて。
（「新宿島で動画を観て練習したんだ」）
　これが本物のヨサコイダンスだということを見せるべく振付けは大事に、けれどアレンジは大胆に。
「はわ、素敵……っ！」
　目が合えばぱちりとウインクしてみせて、ファンサービスもわすれずに。
　うまくいかなくたって――わらって、わらって、って。
　指先まで熱いハートで満たして、少女へと手を差し出す。共に楽しく踊るために、手を。
　少女はそんなショウのヨサコイに魅せられながらも、迷わずその手を取って。
「ピーナッツにこだわる必要なんてないのよね！」
　ちょっぴり覚束なくたって全然気にしない！
　鳴子をカチカチ、楽しくヨッチョレ、どっこいしょ！
　そして――可愛いものを見ながら踊りなさい、なんて。
「わわっ！　な、なんてもふもふかわいいヨサコイなんだ……！」
　レイが住民達に見せるのはそう、モフモフヨサコイ！！
　Angel Goats Dancingを発動させれば、エインと召喚した赤ちゃんヤギ達も一緒にヨサコイダンス！
　だが、モフモフヨサコイを披露するからには。
（「エインと呼び出す赤ちゃんヤギはそのままでいいけど」）
　レイがすちゃっとその身に纏うのは、もっふもふなメーラーデーモンの着ぐるみ！
「暑くて重いけど気合よ！」
　色々カオスな上々に、ちょっと壊れ気味……いえ、これぞモフモフヨサコイ魂です！
　そして、ただでさえ可愛いのに、法被を着てゴキゲンに羽をパタパタ、鳴子をカチカチするエインと赤ちゃんヤギ達は十分に人々を魅了して。
「わぁ！　モフモフヨサコイ、可愛いし楽しそう！」
　レイも鳴子の代わりにタンバリンをシャンシャン、タップシューズを履いて軽快な靴音を鳴らして。
　あっという間に周囲は、空前のモフモフヨサコイダンスフィーバー！
　ショウも近くの水辺を水面走行し、水の上だってヨサコイダンスの舞台に変えちゃって。
　大きく大胆に、けれど優雅な動きで、ばさりと。
　賑やかな声が溢れる空に広げるのは、まるで船の帆のように風を受ける、ナイトブルーの薄絹。
　そして煌めく銀の波濤を揮うが如く、硝子のレイピアで波間を拆いていけば。
「す、すごい！　なんて美しいヨサコイダンス！」
　見つめる住民の瞳にさらなる輝きを与えるのは、きらり舞わせた水飛沫。
　そしてレイがもふかわ、ショウが美しく優雅に踊るというのなら。
　鳴子を受け取ったクローディアも、まるで心躍る航海に出るかの如く、力強く導くように。
　颯爽と羽織った船長の上服を、賑やかな声を響かせる風にひらりとはためかせながら、踊ってみせる。
　そう、そんな彼女のダンスが、リオの人々の心を揺さぶらないわけはない。
　この街の人達だって、海と共に在るこの世界に生きているのだから。
（「海賊生活の中、大波に揺れる船上で剣や弾を紙一重で躱し、宝のために危険なダンジョンを渡り歩いてきた」）
　……稼業の経験で培った素早くしなやかな身のこなしで、迫力あるダンスを見せてやろう！　と。
　そんなクローディアのヨサコイを目にすれば、感化されたように、豪快にばさばさと。
　次々と空を舞いはじめるのは、大きなヨサコイ旗。
　街の盛り上がりは最高潮、老若男女、それぞれのヨサコイダンスを誰もが楽しんで。
　着ぐるみダンサーとして現場入りして躍るレイは、さらに多くの皆を誘うように。
「ヤギの耳&角付き鉢巻と付け尻尾、蹄付きのモフモフグローブとブーツを用意したのでどうぞ」
　可愛くてもさすがに一般人に着ぐるみは厳しいし、鉢巻の方がカチューシャより取れにくいという気遣いもみせながら。
「えへへ、似合うかな！」
　嬉しそうにヤギさんに変身した住人の皆と一緒に、カチカチモフモフ。
　とにかくリズミカルに音色豊かに、耳でも楽しんでもらうべくキュートな赤ちゃんヤギの合唱も入れちゃいつつ。
　もふもふ着ぐるみでちょっぴり動きにくいレイもなんのその、エインや皆と一緒にキビキビ踊って、ヨサコイダンス！
　そして、人々をモフモフ夢中にさせているレイであったが。
（「さ、さすがに着ぐるみで全力ダンスは……ディアボロスだから何とか生きてる感じ…？」）
　活性治癒で何とか回復しつつ、まさに全身全霊の全力ダンスです……！
　それからショウは改めて――さぁ、って。
　誘いの手や声を差しのべるのは、こう思うから。
「きっと、ほんとうに大切なのは。貴方達ひとりひとりが、皆が楽しく踊ること」
　――だから、と。
（「魅了して与えるだけじゃ、なくて」）
　……踊っていなくてもいっしょに楽しめるような、ダンスを！
　そして、楽しく促すのはそう！
　さぁ、皆で一緒に――鳴子に合わせて手拍子する、クラップ・ユア・ハンド！
　それぞれのヨサコイを目一杯楽しむ人達が鳴らす音たちが、リオの街に響き渡る。
　すっかりディアボロスのヨサコイに魅せられ、楽しく踊るリオの街の人達。
　だが、そんな賑やかな声を聞きつけ、慌てて駆けつけたのは。
『ちょ、なにこれ！？　意味不すぎて、マジやばたんピーナッツ！』
『うちらハブってMK５！』
『まじアリエンティー！　ラディシェルさま、うちら、ガチしょんぼり沈殿丸なんだけどぉ～！』
　そう激おこぷんぷん丸でしょんぼり沈殿丸なガングロギャルこと、デーモンギャル達と。
　しゅたっと駆けつけながらも、やはり独自の美学に基づいたポーズを取る、裏切りの大根使ラディシェル。
　そして折角集めたエネルギーで得た強化を打ち破られ、ガチめにおこなギャル達に、大根はこう告げる。
『でしたら、素晴らしい提案があります。熱い情熱をぶつけ大根農家に勧誘して、全員ヨサコイダイコンダンスを躍らせましょう』
　それから、そんな大根使の言葉に、かしこ！　と。
　デーモンギャル達は、謎のパラパラ風ヨサコイを踊りながらも、人々にヨサコイダイコンダンスを強要してくるが。
　ディアボロス達のヨサコイに魅せられ、躍る事の楽しさを知ったから
「でも私達……ヨサコイを好きなように、楽しく踊りたい」
　そう、ふるりと首を横に振る人々。
　そして尚、激おこになるギャルたちに、裏切りの大根使ラディシェルはポーズを取りつつも言い放つのだった。
　……同意しない者は、駆除しましょう、と。
　だが勿論、そんなことはさせやしない。
　ディアボロスはすかさず、襲い来るガングロギャル達と大根の前に今、立ち塞がる。




　カチカチと軽快な鳴子の音が響く中、ヨサコイダンスに励むのリオの人々。
　だが、そんなヨサコイカーニバルは、大天使やアークデーモンがエネルギーを得るためのもの。
　けれど人々は、ディアボロス達が披露したダンスを見て、そして一緒にヨサコイを踊って、気付いたのだ。
「ヨサコイダンス、楽しいね！」
「やっぱり私達はサンバが馴染み深いから、ヨサコイサンバなんてどうかな？」
　謎のギャルダンスやダイコン踊りのヨサコイを強いられながら踊るよりも。
　自分達が楽しいと思えるダンスをすることが一番だということを。
　元々ノリの良い人が多いこの地が、ディアボロス達のヨサコイダンスでさらに盛り上がりをみせる。
　しかし……勿論、アークデーモンや大天使がそれを許すはずはなく。
『ちょとォ！！　ヨサコイサンバとかマジ意味不なんですけどォ！』
『ちゃんと教えた通り、パラパラヨサコイを躍らないなんて、激おこぷんぷん！！』
　自分達の言う通りにしなくなった人々に、激おこな様子で駆け付けたデーモンギャル達。
　そして、また謎ポーズを優雅に取る大根使の意向通り、自分達に同意しない者を駆除せんとするけれど。
　当然、まずその対象になるのは。
『アンタ達がワケワカメなことしたから～チョベリバ～！』
『ガチさげぽよな件～。こうなったら、ダンス勝負で決着ピーナッツつけるしかない系？』
　そう、リオの人々をダンスで魅了したディアボロス。
　そんなキーキー言いながらも戦意漲るガングロギャル達に、四葩・ショウ（After the Rain・g00878）は笑んで返しつつも。
「いいよ、そのダンスバトル。受けて立ってあげる」
　ひらりと、リオの人々の前へと躍り出て。
　レイ・ディース（光翼のダークハンター・g09698）は、万一の為に備え、エインと共に住民を守れるよう位置を取りながらも。
（「ダンスバトルに負けた後に一般人にどうあたるかは敵にもよるみたいね」）
　ちらりと、喚くデーモンギャルと謎の大根使を見遣りつつ思う。
　――このヤマンバと大根には一切の情け容赦なしでいいでしょう、と。
　折角、自分達のヨサコイを楽しんでくれて、そして一緒に盛り上がってくれている人達を傷つけさせはしないし。
　それに何より、レイはふるりと首を振って否定する。
（「好きなものを好きと言わせず自分達の好みを無理強いするのも気に入らない」）
　エネルギーを得るために人々に自由に楽しく踊ることを許さぬ、その勝手な考え方や言動を。
　だから、ギャルと住民の間にすかさず入ったレイは、容赦なく速攻で。
　――凍りなさい……。
　ばさりと翼を羽ばたかせれば、現れた光の粒子で次々と生み出すのは細かな氷柱。
　そして数多の凍てつく煌めきを躍らせて、驟雨の如くデーモンギャルへと叩きつける。
『って、ちょ、マ！？　ぎゃあっ』
『ガチな件……ふぎゃっ！』
　それから、デーモンギャル達がギャーギャー騒いでいるうちに。
　レイは同時に、住民へと大声で呼び掛ける――逃げて！　と避難を促すように。
　その声でハッとした人々へと、エインも大きな鳴き声を響かせて。
　自分へと視線を向けた人達に一生懸命訴える。
「えっ、こっちに逃げろって？　た、確かに！」
「み、みんな！　逃げるぞ！」
　ぴょこぴょこと身振り手振りで、安全な場所へと退避するように。
　そんな状況に、ますます激おこになりながらも。
『むきィ！！　じゃあまずはアンタ達から、うちらみたいに爆イケににしてやんよ！』
　そうショウへと向けるのは――ぎゃ｜ﾚ〆ﾚ）〈！
　絶滅したギャル語を喚きながらも、ディアボロス達へと素早く化粧やデコレーションを施さんとするデーモンギャル達。
「貴女好みに着飾ってくれるの？」
　でも、それもわるくないんだけど――と紡ぎながらも。
　デコ盛りな長いネイルの指先がショウをデコろうと向けられた刹那。
　――みせてあげるよ。
『……っ！？』
　紡がれた言の葉が、それとひきかえに綻び咲き迸らせる。
　溢れるほどの白焔を。花弁の如く咲いては燃え盛る、あの日の復讐を。
　そして満開にふわりと花笑むのはそう――『わたし』のカケラたち。
「ミラージュの乙女達とのダンスを魅せてあげるよ」
　ショウを象った乙女達がひらり、華麗にその手を伸ばして。
　乙女達と手と手をとれば、代る代る踊るように、ダンスの相手に見初めた披露していく。
『ちょ、イケツラすぎてバビるんですけどォ、って！？　うぎゃっ、ふぎゃんっ！？』
　いちばん深く傷を抱いた貴女、って……そう、かわるがわるに攻め立て、手にした白焔のレイピアを次々と突き立てては乙女達は消えて。
　でも――最後にその胸をふかくふかく、レイピアで貫くのは、ショウ自身。
　そしてひとり踊り終えれば、くるりと視線を巡らせる。
「さぁ、次は誰が踊ってくれるのかな？」
　目立つ立ち振舞いで、注意を惹き付けるように。
　……仲間が攻撃する隙をつくれたらいい、と。
　そしてそんなデーモンギャル達へと光の粒子で成した氷柱をぶつけ、エイン用の氷のジャベリンも大量に作って一緒に投擲していたレイだけれど。
　ちょっぴり鬱になるのは、易々と避けられはしないということは分かっているから。
（「反撃のギャル化は逆説連鎖戦じゃ必ず喰らっちゃうか……」）
　自分達と同類のギャルにしてしまわんと施される、反撃の『ぎゃ｜ﾚ〆ﾚ）〈』――訳してギャルメイクは。
　そしてギャル化した自身に精神的なダメージを負わせることが目的だということも、分かってはいるから。
『デコ盛りガチメイクで、爆イケのチョベリグ！　……って、ちょっとォ！！』
　デコられているエインはちょっぴり可愛いけれど、じゃらじゃらとあげぽよにデコられても、落ち着いてさっさと払い落として。
　ヤマンバメイクをされても、さっさと手際良く持ってきたメイク落としシートで拭いて。
　すぐに、何もなかったことにするレイ。
　それでもしつこくギャル達がガングロ厚塗りしてきて、なかなか取れない時は、すぽっと着ぐるみを被り直して。
『え、何それ、デコきゃわで高まる……ぎゃっ！？』
「アウトオブ眼中だからァ、ガチで凍っちゃえ的な……」
　着ぐるみ姿を謎に褒められても、そんなつい口から出ちゃうギャル語も、全部必死で忘れます！
　そして現実通り絶滅していくデーモンギャル達に、ショウはふっと近づいて。
「好きなものを磨き上げて、メイクというドレスを着こなす貴女は――とても魅力的だ」
　ガングロ悪魔のその顎に触れようとしながらも、囁くように紡ぎ落す。
　……でも、ありのままの貴女とも、踊りたかったな、なんて。
　そして顎クイされそうな気配に思わずあげぽよなって、見惚れるようにぼうっとなったギャルへと。　
『えっ、え、マジイケピーナッツな件……って、ギャフンッ！』
　ショウは硝子のレイピアを突き立てて、最後のデーモンギャルをギャフンと言わせれば。
　ガングロギャルとのダンスバトル（物理）に、勝利を果たしたディアボロス。
　そしてショウは今度は、謎の優雅なダンスポーズを取る大根使な大天使へと微笑みをむける。
「ねぇ、貴方はどんなダンスをみせてくれるの？」
　レイも、冷気の支配者をここぞと駆使して。
（「大根を凍み大根にする下準備もできるわ」）
　いざ、『裏切りの大根使ラディシェル』との決戦に臨む。






　デーモンギャルどもを退けた後、ガングロメイクをメイク落としシートでよくよく入念に拭き取ってから。
（「ギャル語を口走っちゃったのはさっさと忘れよう」）
　レイ・ディース（光翼のダークハンター・g09698）は、なかったことにする。
　ギャル化して、ギャル語を喋ってしまったことなんて。
　いや、敵の攻撃の効果で、あの時はギャル語が自然とぽろりと出てしまったのだけれど。
「と言うか意味がわからないものも多くて覚えているのが難しいわ……」
　むしろ難解すぎて正直、ギャルたちが何を言っているかすら分からなかったのであるが。
　ちらりと視線を向けるのは、ちょっぴりだけギャル化の名残で、ほんのりデコ装飾が残っているエインの姿。
　いえ、ゴテゴテキラキラにデコられたエインを可愛いと思ったのは内緒です。
　そして、デーモンギャルとの、ある意味派手激しいダンスバトルを制したディアボロスであるが。
　真打登場と言わんばかりに、颯爽と文字通り躍り出てくるのは。
『踊れよ、舞えよ、地に満ちよ』
　すらりとした手足で、しゃきーんとポーズを決める大根天使。
　そんな『裏切りの大根使ラディシェル』を、思わず四葩・ショウ（After the Rain・g00878）はじいと見つめて。
「……ちょっと、かわいいかもしれない」
　何気にぽろりと呟きを零してしまうも。
　ハッとすれば、ふるふると首を横に振って。
（「なんて、いけないいけない……！」）
　確かに、ちょっと何だかかわいい気がしないでもないけれど。
　いくら、リオの地に勝手に作った畑に植わって日光浴していたりとか、大根を愛する人にはなんか優しかったりとか、多分何もかも深く考えてなかったりとかする姿を見ても……眼前の大根は一応大天使なのだ、多分。
「ははっ、こりゃまたイカれた大天使がいたもんだ」
　そんな敵である大天使を、クローディア・ベネット（黒き旗に矜持を掲げて・g10852）も見遣って。
「フローラリアとかいう植物のクロノヴェーダがいたはずだが、そっちじゃないのかい？」
　どうみても、大天使というよりは断然植物にしか見えないラディシェルに、そう突っ込まずにはいられないけれど。
『私は至高の大根への熱い情熱をぶつけるべく、ヨサコイダイコンダンスを踊る大根使』
「まぁ、あんたが何者だろうと私がすることは同じだ。切り刻んで鍋に沈めてやるよ！」
　また違ったポーズを取る目の前の大根を、文字通り料理してやります！
　そう、大根と言えば美味しい根菜類。
　レイはそんな大根な大天使を凍らせて、凍み大根にしようかと思っていたのだけれど。
「凍み大根の作り方調べてみたらかなり時間かかるし、それ以前にクロノヴェーダは食べられない……」
　凍み大根とは、大根を煮てから軒先に吊るし、凍らせては溶かすという工程を幾度も繰り返して作られる手間のかかる調理法で。
　それ以前に、大天使だからきっと食べられない。
　そう冷静に思いつつ、ちょっぴり期待したように大根を見つめ、デコの残る羽や尻尾をぱたぱたさせているエインに気付いて。
「エイン、シャキシャキ大根サラダと冷やしおでんは新宿島に帰ってからよ」
　わざわざ面妖な大根使ではなく、きちんと美味しい大根料理は、帰ってからのお楽しみに。
『素晴らしい提案があります。皆、大根農家になってヨサコイダイコンダンスを躍るのです。そうしないというなら、排除しましょう』
　そして本当に何も考えてないけれど、ダイコンへの情熱だけはある感じの大天使の言葉を、ショウはきっぱり否定する。
「人びとを大根農家になんて、させないし。同意しないから駆除、なんてもっとダメ」
　それに、そんなに踊りたいなら、と――さぁ、わたしと踊って？　って。
　堂々と立ちはだって咲かせるのは、ひかりの魔力。白薔薇の聖花から踊るような花吹雪のカーテン・ライズを。
　いざ、今度は大天使相手に、ダンスバトルの幕を上げれば。
　可憐なはなびら達がひらり、硝子のレイピア《レディ》たちへと変じて。
　魅惑のステップを踏んで、ショウは数多の煌めきたちと踊って踊って――刃を突き立て、斬りひらいて。
　大根使ラディシェルも、すかさず背に負う葉を軸にした光の翼で華麗に宙を舞えば。
　艶やかな自慢の大根脚に渾身の力を籠めた、反撃の飛天大根脚を繰り出してくる。
　そして謎の美意識による着地後のキメポーズも、シャキンッと勿論忘れない。
「あれが……ヨサコイダイコンダンス？　負けてられないね」
　ショウはそんな大根使の躍るような蹴撃に、花弁から咲かせた握る硝子のレイピアの連撃を揮って対抗して。
　繰り出される大根脚を斬り払うように軌道を逸らしては、威力を落とすべく試みる。
　そして敵が、戦場という舞台を派手に踊り狂うというのならば。
　――『野郎ども、大騒ぎの時間だ！』
「私達の嵐で、あいつを呑み込んでやろうじゃないか！」
　クローディアがダンスバトルの舞台に喚ぶのは、カトラスを手にした海賊の霊たち。
　包囲隊形を作り、異なる方向から次々と切りつけることで、大騒ぎの猛攻を仕掛けて。
『……！』
　謎に優雅に踊っていた大根が僅かによろめけば。
　クローディアも颯爽と地を蹴り、船長のサーベルの刃を躍らせて。
　大根の首をスパンと切り裂く！　……つもり、なのけれど。
「……いや待てよ、大根の首ってどこだ？」
　大根だから、どこが首なのか、そもそも首という概念があるのかすらわからない。
　とはいえ、クローディアは大根使の隙を狙い澄まし、揮う船長のサーベルを閃かせる。
（「よくわからんが、肩より上の部分が首だろ。きっとな！」）
　腕みたいなのがあるから、きっとその付け根あたりが肩で、その上が首に違いない。
　多分、きっと、そのはずです。
　そして怒涛の猛攻からの、首（？）を狙った一閃に、大根は堪らず大きくよろめくけれど。
　何とか大根の皮一枚繋がっている顔（？）をディアボロスたちに向けながらも、こう提案する。
『貴方も大根農家になりませんか』
　そんな至高の大根への熱い情熱をぶつけ、大根農家になってヨサコイダイコンダンスを躍らないかと誘ってくるラディシェルだけれど。
　レイはそんな大根使の熱烈なお誘いに答える。
「エイン、凍らせて砕け散らすわよ」
　翼から現れる光の粒子を煌かせ、全てを拒絶する凍える冷気で。
　そして氷の細剣とエイン用の氷の三叉電磁槍を生み出せば、凍気を伴った刺突の連携攻撃で挟み撃ち。
『なっ、この熱き大根農家へのいざないを無下にするなど……ぐっ！』
　大根農家になってヨサコイダイコンダンスを躍るのは、断固拒否します！
　いや、大天使は倒すべき存在であるが、大根自体には勿論罪はない。
　むしろ――うん。すきだよ、大根、と。
「コンソメおだしをじっくりコトコト、たっぷり吸わせて、或いは、バター醤油を絡めて炒めてもいいよね。仕上げにとろーりチーズを載せて、大根ステーキにするの」
　……わたしの妹もすきなんだ、なんて。
　ふふ、と細める瞳で眼前の大根使をショウはみつめながらも。
　抜かりなく、退路をなくすようにひらりと動いたなら。
　花吹雪の中で、軽快にステップ踏んだめくるめくダンスで、華麗なレイピア捌きのアクティングで。
「さぁ、魅惑の大天使様――もっとわたしと踊って」
　逆に大天使へとお誘いし見舞ってあげる。閃き突き立てる《レディ》と踊る、剣戟のフラーズ・ダルムを。
『くっ、何故、大根農家になってヨサコイダイコンダンスを躍らない……！』
　いや、大根使ラディシェルがいくらそう熱心に大根農家に誘おうとも、クロノヴェーダは食べられないのでノーサンキュー！
　だからレイは、よろけながらも謎ポーズを取る大天使へと、さらに繰り出す。
「運動後の涼気は心地よいし結晶がキラキラしててヨサコイカーニバルのイベントにもピッタリでしょ？」
『ぐぅっ、冷凍大根になってしまう……！』
　ダンスイベントの演出にもキラキラ輝いてぴったり……かもしれない光の冷気の鋭撃を、エインと一緒に。
　そして懲りずに、大根農家とヨサコイダイコンダンスへと誘ってくるけれど。
「あんたも意外と植民地の支配者らしい所があるじゃないか。人を無理やり農奴にしようなんてな」
　クローディアは、再びカトラスを手にした海賊の霊を嗾けながらも。
　よってたかって別々の方向から敵を斬り、怒涛の大騒ぎをする、道半ばで倒れた海賊たちに続いて地を蹴って。
「自由を奪われ、好きでもない仕事を家畜以下の待遇で続ける連中を私は沢山見てきたよ」
　改めてぐっと握りしめた船長のサーベルを容赦なく大天使へと揮う。
　――だから海賊になったのさ、と。
「自由の旗を掲げ、甘い汁を啜るお偉いさん方を竦み上がらせるためにな！」
『……！！　なっ、ぐはぁっ！』
　最後まで謎ポーズをする裏切りの大根使ラディシェルを叩き斬って、身勝手なダンスカーニバルを終わらせるのだった。
　そんな大根な大天使が倒れ、遂に地に還れば、ダンスバトルは終わったけれど。
　ショウは、ラディシェルに負けないキメポーズにウインクをひとつ。
「ヨサコイサンバ、すてきだね」
　……ねぇ、わたし達にもおしえて、って。
　これからリオの人々と一緒に躍るのは、形式に囚われない、楽しくて自由なヨサコイダンス。

最終結果:成功
完成日	2024年07月11日