アーディティヤ『毘沙門天』
~大戦乱群蟲三国志・呉南方~

 大戦乱群蟲三国志南方。
 ディアボロスの仲裁を受け、平和な交流を進めていた蛮族『ヨアケの民』と『アサヤケの民』。
 その集落付近に、クロノヴェーダの軍勢が姿を現していた。

「我が名は毘沙門天びしゃもんてん。邪を退ける者にして、数多の配下を率いる神なり。
 大戦乱の世にあって他者と争わず、平和を選んだ人の子よ。怯える必要は無い。
 我らが槍は戦を撒く蟲を貫きこそすれ、平和を尊ぶ者を脅かしはせぬ」

 クロノヴェーダの軍勢を率いる毘沙門天は、怯え平伏する蛮族達に厳かに語り掛ける。

「既に南方より汝らを脅かさんとした『邪仙境』は、我ら神軍が平定した。
 平和を愛するならば、ただ我ら『アーディティヤ』を『信仰』せよ。
 さすれば『蛇亀宇宙リグ・ヴェーダ』の理がこの地を包む時、汝らにも真の安寧がもたらされよう」
「は、ははーっ!!」

 毘沙門天の言葉の意味をほとんど理解できぬまま、蛮族達は平伏しながら考える。
 どうやら、自分達の命は助かったらしい。
 だが、もしヨアケの民とアサヤケの民の間で、諍いが続いていたら……?
 畏怖を覚える人々の脳裏を、かつて集落間の争いを仲裁し、交友を結んだディアボロスの記憶がよぎるのだった……。