イデアロゴスとの対話
●衛星軌道上、巨大UFO『アルカトラズ』~指揮座のアル・カポネ
その瞬間、空想科学コーサノストラの断片の王『アル・カポネ』が、歓喜の声をあげた。
アルカトラズ内に侵入したディアボロス達は、天正大戦国のクロノオブジェクト『千成瓢箪陣』やエリア51で確保した兵器を使い、アルカトラズの防衛機構を無力化すると、力押しでアルカトラズの外壁を突破していた。
コーサノストラ本国からの増援が滞っている中、水際作戦で、ディアボロスを食い止めるべく戦った、アルカトラズ内の戦力は枯渇、このままでは、アル・カポネが敗北し、《戴冠の戦》の敗北は必至という戦況だったのだ。
だが、その全ては覆った。
「よくぞ来てくれた、イデアロゴス! その姿は覚えがあるぞ、たしか、バイナリー・イデアロゴスだったな。
早速だが、手を貸してくれ。
あの、厄介なディアボロスに鉄槌をくれてやるのだ。
そうすれば、この俺と、コーサノストラの全クロノヴェーダは、イデアロゴスに従い、その全てを受け入れてやるぜ!」
アル・カポネは、空想科学によって作られた最高級葉巻メカを口にくわえると、アルカトラズに侵入しているディアボロス達に向かって嘯いた。
「残念だったな。時間切れだよ、ディアボロス。イデアロゴスの後ろ盾を得た、この俺こそが、《戴冠の戦》の勝利者なのだ。さぁ、バイナリー・イデアロゴス、我ら絶滅人類史のディアボロスを一蹴した、その力で、最終人類史のディアボロスを薙ぎ払え。
奴らの復讐心は、俺達、絶滅人類史のディアボロスに比べて脆弱。
その脆弱な復讐心も、これまでの勝利で、大いに薄まっているぞ。
奴らの最精鋭も、イデアロゴスと戦い抜いてきた、絶滅人類史末期のディアボロスでいえば、雑兵も良い所。
カカカ、さぁ、ここからは高みの見物とさせてもらうぜ」
そう言って、どかりと指揮座に座ったアル・カポネ。
だが、バイナリー・イデアロゴスは、アル・カポネの呼び掛けに対して酷く冷淡であった。
「君は、刻逆の失敗作の生成物だね。イデアロゴスとなる条件を満たす個体、2体のみ。
優先度、低。
個体、アル・カポネ、君達の扱いは後で決めるから、待ってて欲しい。
イデアロゴスとなりうる、個体、アル・カポネ、個体、アイザック・アシモフの2体の安全は、可能な限り保証するから安心して欲しい。
でも、優先度は低いから、確約はできないかな?」
「なんだと、イデアロゴス! お前達は、俺達が呼んだんだ。
俺達は、イデアロゴスに降伏する。
絶滅人類史の戦いで、お前達は、俺達に降伏を呼びかけたでは無いか!
それを受け入れると言ってるのだ。
つべこべ言わずに、俺達を助けやがれ!」
バイナリー・イデアロゴスの言葉に激昂するアル・カポネ。
だが、バイナリー・イデアロゴスの反応は変わらない。
「個体、アル・カポネ。降伏を受け入れないとは断言していませんよ。
まずは、優先度がより高い集団への対応を先とするのが合理的な判断なだけなのです。
回収に成功した、クロニクル・イデアロゴスの残滓から得た情報によれば、優先度、高の集団『最終人類史のディアボロス』の、イデアロゴスとなる条件を満たす個体数は、お前達の6000倍以上あります。
合理的に判断して、この優先順位が覆る事はありません。
順番を守ってくれれば、必ず話を聞きますから、待っててくださいね。個体、アル・カポネ」
その後は、アル・カポネがいくら吼えようとも、バイナリー・イデアロゴスは反応しなくなる。
優先度の高い集団たる、最終人類史のディアボロスへの対応を優先したという事だろう。
「くそっ、どういう事だ! 俺達の作戦は間違っていたというのかっ! くそっ、くそっ、くそっ!」
故に、コーサノストラの断片の王『アル・カポネ』に許されたのは、イデアロゴスと最終人類史のディアボロスの邂逅の結果が出る迄の間、悪態をつき続ける事のみとなった。
●同時刻、国際宇宙ステーション(ISS)~決意と目標
アルカトラズが周回する軌道よりも1600km低い軌道にある国際宇宙ステーション(ISS)。
そこには、最終人類史のディアボロスを代表するであろう者達が、揃って、バイナリー・イデアロゴスとの話し合いに挑もうとしていた。
最終人類史のディアボロス、更には、地球人類約80億(未帰還者含め)の命運をかける話し合いを前に、歴戦のディアボロスであっても、緊張の色は隠せない。
そんな中、月下部・小雪(おどおどサマナーところころコダマ・g00930)が声をあげた。
「みんな、ボクの話を聞いてください。
この数日、みんなで、一杯、意見を出し合って来ました。
いろいろな意見が出たけど、ボクは、その全てに意味があったと思うのです」
そこまで言って一度言葉を止めた、小雪は、モーラット・コミュの『コダマ』をぎゅっと胸に抱いて、話を続けた。
自分の意見が、この世界の行く末を決めるのだという緊張と責任感で唇が渇く。
その唇をペロリとなめると、勇気を出して、続きを話し出した。
「攻略旅団の不思議な力と、それに注ぎ込んだ地獄変のエネルギー。その導きによって得られた、『最善の結果』を得られるであろう今回の交渉の着地点、目標を言います。
話し合いの目標は……、
『一定期間の観察猶予の獲得、色々な経験を積んで理性によって復讐心を克服して友好条約を結びましょう!』
です。イデアロゴスは、絶滅人類史の人類を絶滅させた悪い奴です。
ボク達の最終人類史を直接害したのは、クロノヴェーダとなった、絶滅人類史のディアボロスだったけれど、その原因は、間違いなくイデアロゴスでしょう。
でも、ボク達が、復讐だけに凝り固まっていたら、イデアロゴスは、絶滅人類史と同じように、この最終人類史の人類を絶滅させちゃうんと思うんです。
ボク達、最終人類史のディアボロスは、復讐だけに囚われたりしない心の強さがあると思うのです。
交渉の仕方とかは、ボクには判らないけれど、復讐心を上書きできるような楽しいことを繰り返し、過去も大切にしながらよりよい未来を夢見ていきましょう!」
小雪の示した、この方針は、攻略旅団が弾き出した、最善の方針。
そして、攻略旅団というシステムは、初期の新宿島の人口三十数万人を除いた、80億に迫る人々の願いの結晶……。
いや、ディヴィジョン化によって歴史を否定された人々の願いをも託された、それは、ディアボロスが、拠って立つ、根拠でもある。
であるならば、この小雪の意見が『少なくとも、話し合いで出された意見の中で、最も人類が生き延びる可能性が高い』ものである事は、議論の余地はないのだろう。
違う意見を出していたディアボロスを含め、全ての、ディアボロスが、小雪の言葉を『目標』と見据える事に同意する。
全員の同意が得られた後、小雪の意見を捕捉するように、獅子城・羽鳥(メタリックトルバドゥール・g02965)が口を開いた。
「イデアロゴスと話し合い、一定期間の観察猶予を獲得する方針は確定だね。
だけど、俺は、これだけでは不完全だと思うんだ。
重要なのは、この観察猶予期間に、俺達が、どう行動すべきかという事じゃないかい?
得られる観察猶予期間がどの程度かは判らないが、目的も無く漫然と過ごしては、全くの無駄だよ。
そこで、俺の提案だ。
この提案も、攻略旅団に最善と判定されているから、聞いて欲しい。
まずは、ディアボロスの力は捨てない事だね。
勿論、ディアボロスを辞める方法が存在して、それを希望する者を止める事はしない。けれど、観察猶予期間が終わった時に、イデアロゴスに対抗する力は、どうしても必要になるだろう。
戦力は戦う為だけではない、戦わない為にも戦力は必要なのだからね。
次は、秘密裏に後進を育てる事。
俺達ディアボロスには、通常の生物のような寿命など無いも同然だ。
観察猶予期間に、新たなディアボロスが生まれるかもしれない。
期間が一定以上あれば、俺達ディアボロス同士の子供だって生まれるだろうからね。
もし、可能ならば、俺達や絶滅人類史のディアボロスのように、イデアロゴスに滅ぼされる知的生命がいれば、仲間に加える事もしていければ……。
あとは、こっそりエネルギーの開発、調達、貯蔵を進めるのも重要だね。
最終人類史の人々にも協力を仰いで……勿論、クロノヴェーダみたいな事は絶対にしない。
これまで通り、楽しいお祭りやイベントを通じて、エネルギーを集めればいい。
可能ならば、コーサノストラの技術を研究して『貨幣からエネルギーを取得する』方法も模索したいね。
80億人の日常的な経済活動から無理なくエネルギーを獲得できれば、効率が多少悪くても、おそらく凄いエネルギーになるよ。
エネルギーが集まったら『100万$紙幣』ならぬ『100億新円札』でもバンバン刷ってもいい。可能ならば5000兆円くらい集めたいね。
他にも、暗黒世界蝦夷共和国の技術を研究して『幸福』のエネルギーも得たいよね。
全員を無理矢理幸福にするのは、『非人道的』だと思うけれど、自然に幸福になった人の幸福エネルギーをエネルギーとして得る分には、なんの問題も無いよね。
各国政府に『経済活動を活発に行い、国民が幸せになるように努力しよう!』と呼びかけるのは、とても良い事だと思わないかい?
そして、最後は、天魔武者を宇宙で使い潰して滅ぼす案を止めて協力してもらう事だよ。
天魔武者を使い潰す事は、攻略旅団の提案による決定だけれど、状況の変化によって、方針を変える事は、許されるだろう。
彼らと共に成長する事が出来れば、未来の可能性もより大きくなるだろう。
まだ、猶予期間を得られるかは決まっていないけれど、これが、俺達が目指すべき未来だと思う。
皆、協力して欲しい」
羽鳥の方針は、現状ただちに可能不可能の判断がつかないものもあるが、挙げられた意見でも間違いなく最大限の成果を目指すものだった。
当然ながら小雪の方針に反する事も無い。
つまり、この2人の方針を合わせたものが、最良の方針という事なのだろう。
こうして、自分達の目指すべき方針を定めた、ディアボロスは、自信をもって、バイナリー・イデアロゴスとの話し合いに挑む準備を整えたのだった。
●国際宇宙ステーション(ISS)~バイナリー・イデアロゴスとの接触
バイナリー・イデアロゴスは、国際宇宙ステーションにほど近い宇宙空間に、突如として姿を現した。
おそらく『過去を改竄して、その場所にいたという歴史に改変した結果、その場に突如現れた』という事なのだろう。
イデアロゴスの時間干渉能力の高さを見せつけられる事象ではあったが、この程度でディアボロス達に動揺は無い。
イデアロゴスの時間干渉能力は、未知の脅威では無く、既知の脅威なのだ。
対抗する事が出来ない、絶対の脅威であろうと、『知っている』のならば、対応する事もできるだろう。
出現した、二心一体の連星『バイナリー・イデアロゴス』に対して、文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)がディアボロスを代表するように口を開いた。
「ようこそ、二心一体の連星『バイナリー・イデアロゴス』。イデアロゴスである君と話合いが出来る事を、とても嬉しく思う。誤解やすれ違いを防ぐには、互いを知る事が何より重要なのだからね」
その雪人の挨拶に、バイナリー。イデアロゴスは満足そうに頷いて見せた。
「非常に合理的な対応、感謝します、個体、雪人。私達バイナリー・イデアロゴスは、クロニクル・イデアロゴスの犠牲が無駄では無かった事を、とても嬉しく感じています。
クロニクル・イデアロゴスの行動は、我らの中でも、合理的であったか否か、意見の分かれる所でしたが……、今回のような状況で引き起こされた『刻逆現象』の終結時に、イデアロゴスとなる条件を満たす個体が、これほど多かった事はありません。
クロニクル・イデアロゴスの行動の合理性は、ここに証明されました。
クロニクル・イデアロゴスが果たした役割について、後ほど、説明をお願いしたいと思います。
検証し再現性があると認定されたならば、今後、同様の状況に置いての、合理的な方針として取り入れる事になるでしょう。
さて、個体、雪人。
早速、話を致しましょう」
上機嫌に見えるバイナリー・イデアロゴスの様子に、雪人は、内心で安堵しつつ、会話を続けた。
「まずは、イデアロゴスという存在について、具体的に教えて貰いたいと思う。イデアロゴスは、俺達の事を良く知っているようだが、俺達はそうではない。それでは、相互理解とならないだろう」
雪人はバイナリー・イデアロゴスの2体の顔を等分に見ながら、そう呼びかけるが、それに応えたのは、女の顔だけであった。
「今回の話し合いは、バイナリー・イデアロゴスである『私』が担当しています。統計的に『女性』の方が『交渉』に適しているという合理的な判断です。
安心してください、私達の認識は『完全に統一』されている為、どちらが話したとしても、話し合いに影響がない事は保証します。
絶滅人類史のディアボロスは、私達を『別の個体』と認識して、それぞれ別々に交渉しようとしたり、『私達』を仲たがいさせようといった行動をしました。
最終人類史のディアボロスが、そのような事をするとは思いませんが、合理的に考えて誤解を避けるべきと判断しました。勿論……」
「交渉相手が『僕』が良ければ、『僕』が相手をするよ!
インターフェイスとしては『僕』の方が、『話しかけやすい』って、絶滅人類史のディアボロスは考えていたみたいだよ。
ただ、どうも、『僕』の話し方は、誤解を与えやすいみたいなんだ。
認識は『完全に統一』された『ニ心一体』だというのに、インターフェイスの差異で受け取り方が変わるなんて、不思議だよね」
バイナリー・イデアロゴスの女の顔が口を閉じて、男の顔がこう続ける。
「いえ、話し合いは、女性のバイナリー・イデアロゴスで問題ありません。私達も、誤解は避けたいところですからね」
雪人は、そう答えて会話を続けた。
『二心一体の連星』である意味について、少し考えてみたが、理解できるとは思えないし、理解する意味もないと判断したのだ。
「聞きたいことは沢山ありますが、まずは、実際に話し合う、バイナリー・イデアロゴス個人の話を聞かせて貰いたい。
バイナリー・イデアロゴスはどんな生物として生まれ、どのようにディアボロスに覚醒し、どんな経緯でイデアロゴス化したのしょうか?」
雪人は、この問いかけをする際に、幾つかの予測を立てていた。
そして、その予測に対する対応策も心中に秘してもいた。
だが、バイナリー・イデアロゴスの返答は、彼の予測から大きく外れており、すぐに対応する事は難しかったようだ。
「そうですね、多くの『私』は、イデアロゴスの歴史改竄によってディアボロスとなり、種の絶滅をもって復讐心を高め、その後、長い時間を経て、復讐心を捨て、イデアロゴスとなりました。
これは、『僕』の多くも、同じでしょう。
ごく少数の『私』は、イデアロゴス来訪と同時に、その思想に共鳴し、イデアロゴスに仕えるディアボロスとなり、後にイデアロゴスになりました。
この経緯で、バイナリー・イデアロゴスとなった『僕』は、統計的には、より少ないですね。
差異としてはそれほど大きくはありませんが、これは、有意差であると判断するのが合理的な所です」
雪人は、バイナリー・イデアロゴスの出自を問うた。
2心1体というのだから、もしかしたら、2人のディアボロスが、なんらかの方法で融合した……という可能性は考えていた。
が、この説明であれば、バイナリー・イデアロゴスというのは、非常に多くの個体からなる集団となってしまうのでは?
「バイナリー・イデアロゴスとは、1体のイデアロゴスなのか? それとも、違うのか?」
雪人の問いに、バイナリー・イデアロゴスは、「あぁ、そうでしたね」と答えると、イデアロゴスの生態について、説明を加えた。
「絶滅人類史のディアボロスもそうでしたし、多くのディアボロスには理解されないのですけれど、互いを理解しようとする話し合いですから、説明するのが合理的ですね。
では、個体、雪人の問いに答えましょう。
イデアロゴスは合理的な存在です。
しかし、合理的な存在には、幾つかの類型が存在します。
全てのイデアロゴスが合理的であったとしても、合理的に下された選択肢には多様性が存在するのです。
そうですね、目の前に『敵』がいたとします。
『敵を殺す為に剣で切る』事は合理的な行動です。
同様に『敵の動きを止める為に矢で牽制する』のも合理的な行動です。
また同様に『戦いを避けて撤退する』事も合理的な行動の一つでしょう。
イデアロゴスは『合理的』な存在ですが、その合理的な判断が全て完全一致する事はありません。
それ故に、イデアロゴスは『複数のイデアロゴス』として存在しているのです」
バイナリー・イデアロゴスの、ここまでの話は、雪人にも、話を聞いていた周囲のイデアロゴスにも理解できた。
が、この続きの話は、理解できなかった。
「ただし、合理的な判断は一つではありませんが、有限です。
有限であるのであれば、あらゆる状況において行う『合理的な判断』が全て一致する可能性があります。
さて、個体、雪人。
あらゆる状況において『全く同じ合理的判断』を行う複数のイデアロゴスは、果たして、別のイデアロゴスなのでしょうか?」
理解できなかったので、この問いへの答えを雪人は持っておらず、返答することなく話の続きを即する。
「答えは、『同じイデアロゴス』となるですね。
バイナリー・イデアロゴスとは、『あらゆる状況において全く同じ合理的判断』を行う、イデアロゴスの集合体と解釈する事も出来るでしょう。
個体、雪人の認識できる最も近い言語で例えれば、『バイナリー・イデアロゴス』という概念が『バイナリー・イデアロゴス』であり、『バイナリー・イデアロゴス』と完全に一致するイデアロゴスは、その全てが『バイナリー・イデアロゴス』となるわけですが……。
完全に理解するには、イデアロゴスとなる必要があるでしょう」
今は、完全に理解しなくても良いというバイナリー・イデアロゴスの言葉に、雪人は同意しつつも、考えを巡らせ続ける。
(「完全に同一の存在が複数あったのならば、それは一つの個体……なのか?
不合理さは無限に存在する故、俺達ディアボロスも一般人にも、そのような事はありえないが……、イデアロゴスのように、完全に合理的であるのならば、それもありえるのか?
いや、待て……」)
雪人が何かを思いついたように、問いを口にした。
「ならば、最終人類史に来たクロニクル・イデアロゴスは、クロニクル・イデアロゴスの一部であり、別の場所にクロニクル・イデアロゴスが生きているという事になるのかい?
クロニクル・イデアロゴスが、無数のクロニクル・イデアロゴスの集合体であるというのであるのならば、つまり、そういう事なのだろう?」
この雪人の問いに、バイナリー・イデアロゴスは首を横に振った。
「あらゆる状況において『全く同じ合理的判断』を行うのですよ。つまり、全てのクロニクル・イデアロゴスが、地球での『刻逆』に介入しているのは当然の事です。
クロニクル・イデアロゴスという概念は、完全に消滅する事になり、再び、クロニクル・イデアロゴスが現れる事はありません。
イデアロゴスとはそういう存在だと考えてください。
どうですか? 個体、雪人。相互理解は深まりましたか?」
雪人は(「相互理解できないことが理解できたよ」)と諦観しつつ、
「あと一つ、確認したいことがあるんだ。エレナ、次をお願いする」
と、一人のディアボロスに会話の席を譲った。
雪人の紹介を受け、エレナ・バークリー(Highlander/Absolute Wish・g00090)が、前に出て、バイナリー・イデアロゴスに疑問を呈して見せた。
「私達ディアボロス……ひいては、地球に暮らす全人類と、あなた達イデアロゴスとの認識には大きな隔たりがあるのは仕方がない事でしょう。
イデアロゴスが、ディアボロスを評価してくれた事は有難く思います。
ですが、私達は、私達がイデアロゴスになる為に、全人類を『あとで元に戻せる』からといって、殺す事を許容できないのです。
時間を支配するイデアロゴスの皆さんにとっては、『あとで元に戻した人間は、元の人間と同じもの』と認識できるのでしょう。
ですが、私達にとっては違うのです。
今ここで、私と全く同じ遺伝子、全く同じ肉体、全く同じ知識、全く同じ性格を持ち、全く同じ行動をする『コピー』が現れたとしましょう。
イデアロゴスから見れば、それは同じ物なので、片方を無くしてしまっても良いとなるのかもしれませんが、私達は、そう思えないという事です」
この前置きに、バイナリー・イデアロゴスは、『時間干渉能力を持つディアボロスをコピーする事は出来ません』と異論をはさんだが、エレナが、「ならば、コピーするのは一般人と考えて下さい」と言葉を変えると、バイナリー・イデアロゴスは、『それであれば可能です』と頷いた。
更に、
「歴史を改竄すれば、一般人を含めた生物及び非生物は、その歴史に合わせた形に変化します。それは、合理的でもあり、摂理でもあります。
そうですね、個体、エレナには、少しだけ、その認識を貸してくださいますか?
私の『インターフェイス』だけでは、説明が難しい事が多そうですので。
いえ、難しい話ではありません。
私の『認識』を、個体、エレナに伝達しますので、その『認識』を、個体、エレナが理解できる範囲内で言語化するというだけです。
『認識』に大きな隔たりがありますので、この方法では『完全な情報』を伝達する事はできませんが、この話は『重要では無いが、ニュアンスが大切』部類の話と想定されますので、この方法が合理的だと判断します。
お願いできますか? 個体、エレナ」
バイナリー・イデアロゴスの問いに、エレナは頷く。すると、エレナの口から、バイナリー・イデアロゴスの言葉が紡がれ始めた。
「まずは、歴史を『川の流れ』だと捉えてみてください。
一般人とは『この川の水』となります。
人間が、川の流れを変えれば、川の流れは変わりますが、流れる水は同じ水です。
ダムを作れば、川の水量も変わりますが、その水は、ダムに貯められているだけで、水が無くなった訳ではありません。
周囲を極寒に変えれば、川は凍り付くかもしれませんが、それも、水が氷に形を変えただけ。
つまり、本質的な違いは無いという事です」
エレナは、自分の口から、許容出来ない暴論が吐き出されるのを、必死に耐えた。
否定しようにも、自分の口は、バイナリー・イデアロゴスが使っている為、口をはさむ事が出来なかったからだ。
だから、バイナリー・イデアロゴスが認識を元に戻した時点で、叫ぶように反論した。
「生きている人の歴史は、好き勝手に弄る事は許されません! それは、それは、クロノヴェーダの所業です!」
と。
だが、バイナリー・イデアロゴスは、そのエレナの言葉に、首をかしげる。
「個体、エレナは何を言っているのでしょうか?
個体、エレナの認識を使いましたので、少なくとも、個体、エレナは意図を理解できたはずです。
その発言は、あまりにも合理的ではありません」
エレナは大きく深呼吸をして、気を落ち着かせる。
(「そうです。イデアロゴスとはこういう存在なのです。なら、聞き方を変えましょう」)
エレナは、そう思い直すと、再び口を開いた。
「ディアボロスの存在がその惑星の生命の自滅を招くというのであれば、全ディアボロスの過去を改竄して、『ディアボロスが存在しない』状態にすればよいのではありませんか?
隕石落下による地球人類と環境の破壊は、失うものが大きすぎます。
イデアロゴスが同胞を増やしたいのではなく惑星の滅亡を避けたいのであれば、『ディアボロスの方を除去』という選択肢もあると思います」
このエレナの提案について、バイナリー・イデアロゴスは、理解できない存在に対する奇異の目で応じた。
「まず、時間干渉能力を得た者の過去を改竄したとしても、その存在が消える事はありません。
この事は、絶滅人類史の歴史を改竄しても、絶滅人類史のディアボロスの存在が消えなかったという一点で、証明されています。
ディアボロスとなった時点で、ただの『流れる水』では無くなるのです。
ディアボロスの存在を消す事自体は不可能ではありません。
時間干渉能力のある物は『不滅』ではありますが、『刻逆』現象内であれば、存在を滅する事が可能だからです。
クロニクル・イデアロゴスが、『刻逆』現象内で消滅した事が、それを証明しているでしょう。
ですので、個体、エレナの望みを果たす場合は、『ディアボロスが発生する度に殺害する』事となりますね。
ですが、これは、個体、エレナの望みでは無いと推察します。
個体エレナの認識でいうならば、それは数だけ多い『虫けら』を救うために『人間の赤ん坊を殺す』行為であるからです。行いたいとは思いません」
エレナは、一般人を虫けら呼ばわりする、バイナリー・イデアロゴスの言葉に憤りを覚える。
だが、一般人を救うために、ディアボロスを殺したくないというのは善意なのだろうと、その怒りを押さえつけた。
「であれば、ディアボロスが発生しないような歴史に改竄する事は……」
と問う。
これに対しても、バイナリー・イデアロゴスは、不可能では無く『やりたくない』という応えを返した。
「ディアボロスが発生しないように……という事は、あなた方の認識でいうならば、知恵を持ち文明を持つ段階に至った知的生命体を発見した時、その知恵を奪い文明を滅ぼすのと同じ事となります。
これもまた、個体、エレナの意図とは違うのでは無いでしょうか。
私達イデアロゴスとしても、『虫けら』だとしても、意味も無くその文明を滅ぼすような行為は、したいとは思いません」
これもまた、イデアロゴスの善意の表れなのだろう。
相変わらず、時間干渉能力を持たないものを『虫けら』扱いしているが、その『虫けら』でさえも、意味もなく滅ぼしたくはないというのだから……。
その答えにどう反応して良いか判らずに黙り込んだエレナに変わり、雪人が、バイナリー・イデアロゴスに礼をしてみせた。
「俺達の疑問に答えてくれて感謝する。非常に合理的で納得できる内容ではあった……だろう。
この疑問の答えを踏まえた上で、話し合いを始める……という事で良いだろうか?」
雪人の言葉に、バイナリー・イデアロゴスは、個体、エレナを含めた最終人類史のディアボロスが、自分の説明を理解してくれて嬉しいという表情で、鷹揚に頷きを返してくれたのだった。
エレナの問いとその答えにより、この世界から『新たなディアボロスが発生する』事は阻止できない事が確定する。
つまり、これからの交渉は、この事実を踏まえて行う必要があるという事になるだろう。
●地球の未来を掛けて、ディアボロスの説得交渉
最終人類史のディアボロスが、この話し合いで目指す目標は、
『一定期間の観察猶予の獲得、色々な経験を積んで理性によって復讐心を克服して友好条約を結びましょう!』
である。
そして、イデアロゴスの認識が、ディアボロスと大きく隔たっているのは、これまでの会話により、疑いようもない。
しかし、イデアロゴスの論理そのものは、決してディアボロス達にとって縁遠いものではない。
「放置すれば危険だから滅ぼす」
「管理できる内に、被害をもたらす可能性を完全に排除する」
それは、この2026年8月だけでも、榎本武揚の打倒や明智勢力への対処において、ディアボロス達の下した決断に通ずるものでもある。
イデアロゴスがディアボロスのためとして人類絶滅を行おうとしている今、ディアボロスは善意からもたらされようとしている『合理的』な絶滅を拒絶しなければならなかった。
イデアロゴスが『彼らの認識による善意』と、同じく『彼らの認識による合理性』に基づいて行動している事は、間違いない。ならば、話し合いによって目標を達成できる可能性は0では無い。
一里塚・燐寧(粉骨砕身リビングデッド・g04979)は、そう信じて話し合いの口火を切った。
「まず、絶滅人類史のディアボロスが『刻逆の儀式』を行った理由について語らせてもらおうかなぁ。
イデアロゴスにとっては『虫けら』で、ディアボロスがイデアロゴスに進化する為の邪魔者かもしれないけれど、『一般人』の存在は、『刻逆』を行う程に許せない行為だったんだよ。
だから、これからも、イデアロゴスが同じ方法を取る限り、第二、第三の絶滅人類史のディアボロスが現れて、『刻逆の儀式』を実行する危険性は残り続けるんじゃないかなぁ?」
この燐寧の問い掛けに対して、バイナリー・イデアロゴスは、
「個体、燐寧の言葉が合理的である事を保証します。正確には、絶滅人類史のディアボロスは、7例目の『刻逆の儀式』使用案件となります。『刻逆』を経て新たなディアボロスが生まれた、初の事例でもありますが」
と、正確な返答を返してみせる。
この返答を受け、燐寧は、
「であれば、なおさら、効率が悪くても『非イデアロゴスのレベルでも納得できる』方法で仲間を増やす道を模索する必要がある筈だよね」
と力説するが、これには、バイナリー・イデアロゴスは否定的な見解を示した。
「私達イデアロゴスは、無限の年月を消費し試行錯誤を繰り返す事で、これが最も効率的な方法である事であると合理的に結論づけています」
が、この否定は燐寧にとっては想定内であるので、更に言い募る。
「確かに、効率的な事を否定できないよ。でも『刻逆』の発生はイデアロゴスですら予知できない以上、不完全な事も否定できないよねぇ。
イデアロゴスになって忘れたかもしれないけど、復讐心を持つ生命体は時としてどんな狂気の行いにも手を染めるよ。
侵略的な方法は刻逆をまた誘発するだろうし、それはイデアロゴスの行動を原因として引き起こされる災厄だよ。
刻逆の発生を望まないなら、希望する者だけ復讐心の原因が存在しない環境に送って訓練させるとか、他の手段は考えられないかなぁ?」
と。
バイナリー・イデアロゴスは、この燐寧の主張に「確かにその通りです」と賛同を示して、返答を行った。
「復讐心を持つ生命体が狂気の行いに手を染めるのは真実です。
イデアロゴスが介入しなかった場合のディアボロスは、復讐心を互いに向け合って争い続け、最後には、全ての人類を滅ぼす最終戦争を引き起こします。
そして、ディアボロス同士が争い合って醸成された、複雑に絡み合う強烈な復讐心は、消し去る事は出来ません。
そうなってしまったディアボロスは、イデアロゴスになる事は不可能である為、処分せざるを得ないのです。
とても悲しい事ですね」
イデアロゴスが善意の存在であるというのならば、その悲しみは、真実なのかもしれない。
だが、だからといって、ディアボロス以外の人類の絶滅が最善の手段であるという結論は、最終人類史のディアボロスとして、決して認める事は出来ないのだ。
その決意と共に、燐寧に続くように、アンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)が話し合いに挑む。
「クロニカルは、イデアロゴスは全能の神では無いと明言したよ。
そして、今、貴方も、イデアロゴスでも避けられない『悲しい事』がある事を口にしたんだから……。
確かに貴方達は全能じゃない」
アンゼリカは、そう前置きすると、最終人類史のディアボロスの決意を口にする。
話し合いであるのだから、妥協できる所は妥協する事も必要だろう。
だが、決して譲れない物は決して譲る事は出来ない。
その覚悟を示す事こそ、この話し合いに必要である、アンゼリカは、その確信と共に宣言して見せたのだ。
「イデアロゴスは、『刻逆現象』に干渉する事は出来ず、絶滅人類史のディアボロスと認識をすり合わせる事も出来なかったよ。
そして私たち最終人類史のディアボロスが生まれたのは、クロニクル・イデアロゴスの影響があったとしても、決して貴方達の計算内ではなかった……。
この戦いの様々な「誤算」や「想定外」は、イデアロゴスも進化の終着点に達していないという事を示しているんじゃないのかな?
そして全能ではないとしたら、イデアロゴスもまた伸びしろがあるということになるよね?
今こそ、従来のやり方を改善するタイミングが来たと私は思うよ。
少なくとも、私たちは断固として人類絶滅を看過できないし、戻せるからと言って、いま生きている命と心を切り捨てはしないから!」
バイナリー・イデアロゴスは、一瞬のうちに数十年分の思考を重ね、アンゼリカの問いを吟味する。
決して、合理的では無い。
だが、イデアロゴスで無いのであれば、合理的で無い事は罪ではない。
合理的では無い存在が発する不合理な意志による行動を、不合理だからと切り捨てない事。
それは、かつて、イデアロゴスが考え、試行錯誤し、そして、失敗して、切り捨てた方法論でもある。
だが、しかし。
「或いは、最終人類史のディアボロスであれば、それも可能なのかもしれません。
最終人類史のディアボロスは、その身に宿す干渉力に比して、復讐心が非常に弱い。
私達イデアロゴスに対して、ここまで、合理的な会話を行う事ができたディアボロスは、過去に記録はありません。
これは、『刻逆現象』の結果、新たなディアボロスが生まれた事に前例が無いのですから、当然かもしれませんが。
個体、アンゼリカ。
あなたの言葉には、検討すべき点が多々あるようです。
ですが、前例が無い為、どのように対処するのが合理的であるかの結論を下す事も出来ません。
故に、私達イデアロゴスは、皆で話し合い、行動を決める事になるでしょう。
この話し合いは、長い時間を要しますが、皆さんにとっては、短い時間に過ぎません。
最後に、こう問います。
最終人類史のディアボロスが望む、未来を聞かせてください。
合理的に判断する一助として、当事者の希望は、考慮するに値するパラメータの一つなのは間違いありませんから」
女の顔の言葉に「遠慮せず、忌憚のない意見をお願いするぜっ!」と、男の顔が念押しすると、待ってましたとばかりに、ヴェルチ・アリ(GE-07・SOL01847・g03614)が口を開いた。
「それじゃ、オレの意見をきいてもらいます。
手前味噌だが、オレ達は、最高の『サンプル』になるんじゃないですか?
そもそもこのような状況になる前にイデアロゴスは介入することが全てだったから、この様な状況は初めてでしょう。
なら、これはイデアロゴスにとってもしっかりと検証しておくべき内容です。
この先も『刻逆』が起きないとどうして言い切れるでしょうか。僅かな確率であっても、見逃していい理由にはならない。
だから、最終人類史のディアボロスをテストケースとしてほしい。当然、手出しは一切なし。手出しをした瞬間に、価値を見出せなくなる。滅びるなら、滅びるまで。その最期までをもって、イデアロゴスには参考にしてもらいたいのです」
そう胸を張って主張する、ヴェルチの言葉に、バイナリー・イデアロゴスの『私』と『僕』は、「非常に合理性のある意見です」「やるじゃん、ディアボロス」と、口々に褒めると、
「個体。ヴェルチの提案は、これまで存在したあらゆるディアボロスの主張と比較検討した結果、他に類を見ない合理的で理性的な提案であると判定されました。
私達、僕達は、最終人類史の『サンプル』としての有益性について、肯定的な意見を持ちます(持つぜ)。
この話し合いを持って、最終人類史のディアボロスとの話し合いを終了。
我等イデアロゴス全ての合議をもって、対応を決定します。
結論が出る迄、暫し、お待ちください」
その言葉と共に、バイナリー・イデアロゴスの姿が掻き消えた。
おそらく『全てのイデアロゴスが話し合う場が既に準備されており、全てのイデアロゴスが会議に参加できる歴史』とやらを新たに改竄したという所だろう。
ヴェルチは、ほっと息をつくと、安堵したように用意した椅子に腰かける。
「結果とやらがいつ出るかは判らないが、暫く様子を見た後、問題なさそうなら、新宿島に帰還する……でいいですか?」
交渉決裂からの、最終決戦といった危機を回避したヴェルチは、椅子に座ったまま、皆に確認を取る。
イデアロゴスの時間間隔が不明という事で、集まった皆も、その意見に賛同する。
何かあれば、また、予兆を利用した連絡を入れて来る事だろう。
少しだけ弛緩した空気。
だが、その空気を破壊するように、バイナリー・イデアロゴスが姿を現した。
「お待たせしましたか? 最終人類史のディアボロス。
合議の結論が出ましたので、伝えに来ました。
なにぶん、初めての事象という事で、合意を得るには時間がかかりましたが、全てのクロノヴェーダが合理的と認識する結論に至る事が出来ました。
最終人類史のディアボロスの体感時間に換算すると、2000年程かかりましたが、これは、イデアロゴスの合議の時間としても、おそらく最長に近いでしょう」
合意に至るまで2000年かかった……という、バイナリー・イデアロゴスの説明に、ヴェルチ達ディアボロスは、時間スケールが違う事に驚きつつも、その結論を聞こうと身を乗り出す。
「大筋で、個体、ヴェルチの提案を了承するという結論になりました。
最終人類史のディアボロスについては『観察猶予』期間を設け、関係一般人の絶滅処理を行わずにイデアロゴスに至るサンプルケースとします。
また、『観察猶予』期間中は、イデアロゴスによる観測が禁止されます。
イデアロゴスが観測する事が、未来に影響を与える可能性が非常に高いからです。
故に、
イデアロゴス全ての『認識』から、最終人類史のディアボロスに関わる情報を、『観察猶予』期間終了まで、『消去』する事も決定しました。
『観察猶予』期間の長さについては、最も意見が割れましたが、
『500年』とさせていただきます。
『500年』が経過後、イデアロゴスは『消去』した最終人類史のディアボロスに関する情報を再取得し、最終人類史のディアボロスの状況を確認します。
最終人類史のディアボロスがイデアロゴスに至っていたのならば、同朋として迎え入れた上で、この成功例を元にして、ディアボロスへの対応を変更する事になるでしょう。
逆に、ディアボロスが復讐心に呑まれ、イデアロゴスになる事が不可能になっていた場合は、全処分を行った上で、以降、このような実験を行ないません。
イデアロゴスに至っていないが、イデアロゴスとなる可能性があるという場合は、更に
『500年』の観察猶予期間を設ける……。
いかがでしょう?」
『私』の言葉に続いて『僕』が、情報を捕捉する。
「500年ぽっちじゃ短すぎると思うけどね。オリジン・イデアロゴスが妥協できる最長の時間が、コレだったんで、我慢してくれ。
オリジン・イデアロゴスは、ディアボロスの危険性を執拗に主張したが、500年であれば問題は無いだろうと最後には納得してくれたわけだ。
まぁ500年程度ならば、大きな変化は無いと思うが、この期間は『最終人類史のディアボロスが、どれだけ助けを求めて』も、僕達イデアロゴスは、それを認識する事が出来ないので、注意してくれ。
逆に言えば、500年ごとに手を貸す事が出来るって事だが……、手を貸してもらう事を前提とするようならば、サンプルとしての価値が揺らがざるを得ない。
可能な限り、自助努力で、なんとかしてくれよ」
三日月を思わせるバイナリー・イデアロゴスの男性側の口から話された、ディアボロスを心配する言葉に嘘偽りは無さそうだ。心配の方向性が斜め上なのは、イデアロゴスクオリティだろう。
「あと、申し訳ありませんが、個体、アル・カポネと、個体、アイザック・アシモフの2体については、イデアロゴスへの進化を希望している為、連れて行かせていただきます。
これにより、皆様は《戴冠の戦》を完遂した勝利者となる事はできませんが、『《戴冠の戦》の勝利者となり、強大な力を得てしまえば、さすがに放置は出来ない』という意見が強かった為、このようになりました。
これは、個体、ヴェルチの提案である、今後、発生するディアボロスへの対応サンプルという意味合いにおいても、不適合となると判断した結果でもあります。
『刻逆現象』を発生させない為のサンプルが、《戴冠の戦》の勝利者の力を持っていたのでは、有益なサンプルとは言えないでしょう」
バイナリー・イデアロゴスの説明には、ヴェルチも納得せざるを得なかったが、コーサノストラの扱いがどうなるかだけ、慌てて確認を取った。
「ちょっと待って欲しい。断片の王が生き残って、北米大陸の奪還が行えなくなるなら、オレ達は同意できません」
このヴェルチの確認に、
「安心してください。所属するディヴィジョンから離れることで、『断片の王』の権能は失われます。
個体、アル・カポネの支配していた北米大陸は、既にあなた方が制圧している。
個体、アル・カポネおよび個体、アイザック・アシモフが地球を離れ、影響力が及ばなくなったなら、最終人類史へ戻るでしょう」
と『私』が応えを返す。
「つまり、空想科学コーサノストラの奪還は出来るって事だね。
絶滅人類史の想定した形ではないけれど、それが終われば南極大陸も奪還されるか……」
ヴェルチは、そう言って安堵すると、集まったディアボロスを見渡して、異論がない事を確認すると、バイナリー・イデアロゴスに『了承』の言葉を返した。
「とても合理的で理性的な話し合いが出来た事を嬉しく思います。それでは、500年後に、また会いましょう。
願わくば、500年後に、イデアロゴスとなった皆さんと再会できる事を期待しています」
そう言って、バイナリー・イデアロゴスは消え去った。
更に少し遅れて、衛星軌道上の巨大UFOアルカトラズの反応も消失する……。
こうして、ディアボロス達の多くの選択の積み重ねにより、永遠存在イデアロゴスの脅威は、戦う事無く切り抜ける事が出来た。
ディアボロスは、この『500年』の猶予期間を有効に使うべく、動き出す。
ディアボロスの力を磨き、後進を育成し、エネルギーを集め、天魔武者と協力する。
このディアボロスの方針が、未来にどう影響するか、イデアロゴスが観測を辞めた以上、その未来を知る者は、この時点においては皆無である。
未来は、未確定のまま、最終人類史のディアボロスの手に委ねられようとしていた……。
●隔離領域~巨大UFO『アルカトラズ』
「こんな決着が赦せるか、畜生が!
赦さねぇぞ、イデアロゴス。
それに最終人類史のディアボロス!
ああ、一度は赦すなんてことを考えた俺がバカだったぜ。
こうなっちまえば、俺達の復讐の炎は絶対に消えねぇ。
そうだな、アイザック!!」
「あぁ、勿論だとも、我が友アル・カポネ……!
これでは、絶滅人類史のディアボロスの皆が浮かばれない。
アーサーも、ナポレオンも、ジャンヌも、誰一人クロノヴェーダとなって歴史を改竄したいなどとは思っていなかった。
それしか方法が無かったが故、血涙を流しながら、人の身を捨て、人類史を滅ぼす決断を下したのだ。
それを、今になって人類を絶滅させなくてもいい、ディアボロスのまま、歴史を改竄せず対処する方法があった、だと……!?
あんまりだ。絶対に認める事はできない。そう、絶対に、だ!!」
「アーサー達とはソリが合わなかったが、あの覚悟を否定することだけは許されん。
最終人類史のディアボロスは必ず滅ぼさなけりゃあならん。
そうしなけりゃ、あいつらの決断が間違っていたことになっちまう」
「「未来永劫、絶対に許すものか、最終人類史のディアボロス!」」