【イ】メイド・イン・ギャング
クリスタ・コルトハード 2021年9月26日
「アァァァァァ!!!!! 殺す!!! ブッ殺す!!! 学生が調子に乗りやがってよォ!!!!!」
ベコベコに凹んだ金属バットを振り回して、レインコートの男が吠える。
ガツ、ガツ。
鈍い音が、地下に響いていた。
「随分イラついてますねぇ~。あ、もしかしてガキ相手に負けちゃったんですぁー?」
ちょうど地下へと降りてきた無精髭の男が、へらへらと笑う。
「テメェからブッ飛ばすぞオラァアァァァァァ!!!」
おぉ怖い、と肩を竦めて、無精髭の男は手近な箱に腰を下ろして、携帯を弄り始めた。
カラカラと音を立てて金属バットを引きずりながら、レインコートの男が無精髭の男へと近寄る。
振れば当たる、そんな距離で睨み合うふたり。
「こんなところで仲間割れしているのがバレたらヘッドが怖いですよぉー?」
「ひとりやふたり頭カチ割っても、どうせ隠れたまま出てきやしねェ! そういう奴だろうがよォ!」
「―――まあまあ。落ち着いてください」
そこで間に入ってきたのは、メイド服の女だ。
場違いな服装で、けれど強烈な圧を放って、レインコートの男を抑える。
「アァ!? 元はと言えばこの俺のイライラの原因はテメェンとこのガキだろうがよォ!!! どうしてくれんだァ!!?」
「ええ、ええ。強いでしょう、学園生は。けれど、ここを攻められたときは俺も対処しますから、ご安心を」
大声で捲し立てるレインコートの男に対して、メイド服の女は穏やかに答えた。
「あれあれ、お友達じゃないのぉ? いやぁー、良くないよぉ。お兄さん良くないと思うなぁ」
無精髭の男が、薄っぺらい笑顔を浮かべる。
「俺は……いつもご主人様の味方ですので」
「ご主人様ねぇ。友達よりもその日限りの主人を優先するなんて、分かんない子だなぁ」
「そうだ! ああそうだ! そのうち俺だってテメェのご主人様になれるんだよなァ!? なんでも言うこと聞いてくれンだよなァ!? そンときは良い声で啼いてもらうぜェ!」
無精髭の男が理解を諦めて携帯に再び目を落とすと、レインコートの男はメイドの女を指差して口角を上げた。
「ふふっ、お手柔らかにお願いしますね」
二人に背を向けると、メイド服の女は上階へと向かう。
「あと、もう少しでしょうか」
なんて小さくつぶやくと、薄暗い電灯の下で赤い目を細めて、くすりと笑った。
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