カクリヨ通信

《通信3》亡霊パソコン

浮珂鴫・傾 2023年11月15日
舞台:今となっては君の城。そこに置かれたままの前王の遺物。
時刻:夜22時

壊れてはいなかっただろう。
だが、あえて充電していた訳でもない筈だ。
バッテリーはとうに空。
電源コードはコンセントに繋がっていない。
蓋は閉じている。
起動ボタンに触れてもいない。
このノートパソコンは道具として既に死んでいた。

『buzz...』

駆動音。
閉じた蓋と本体の隙間から画面が光っているのが分かる。
死んだものが甦る法がこの世界にあるものか。
だがカクリヨではどうだ?

君は開かない事を選ぶ事もできる。

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トーク参加者ID:???, g02268




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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
室内に響くのはパソコンの駆動音。
そしてキミの鼓動。

電気に分解され、無理やり閉じた管に流されてきた信号に生じた微かな波は、パソコンと同様、亡者の足跡を辿るに等しい。
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『はじめまして。応じてもらえて嬉しいよ。』

『通信相手は──』

『ランダムなんだ。選んで繋げているわけじゃない。キミの父さんとのフレンドだったわけじゃない。』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『がっかりしたかい?』

『通信を止める?』
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十埼・竜 2023年11月15日
……ちょっとだけ、笑ってしまった。
図星だったからだ。
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十埼・竜 2023年11月15日
『いや、父さんのフレンドだったら逆に気まずかったところ』
『僕はDINO』
『ランダムで適当に通信相手探してるの? 昔のアマチュア無線みたいなことしてるね、きみ』

静けさに、打鍵の音が響く。
……タイピングってのも久しぶりだ。いつもは、ズルをするから。

『通信は切らない。面白そうだもの』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『推察はね。出来るよ。』

『ボクが接続するのは、〚もう使われていない回線か端末を介して〛だからね。』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『DINO。聞き馴染みのある名前だ。』

『ともあれ安心したよ。通信に出てくれて、尚且つ話し相手になってくれる人を探すのは意外と骨が折れるからね。』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『最初に名乗ったけれど、ボクはkey。』

『アマチュアの電子放浪者さ。よろしく。』
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十埼・竜 2023年11月15日
もう、使われていない。
……胸を咬む痛みは確かにあったけれど、それ以上に奇妙な響き。

『確かに、その条件じゃ大概空き家に繋がりそうだね』

電子放浪者、key。……まるで、ほんとに亡霊みたいじゃないか。
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十埼・竜 2023年11月15日
『聴き馴染みってことは、もしかしてRadio-DINOをお聴きいただいたことがあるかな』
『お掛けになった回線は、現在Radio-DINOに接続しております。ランダムでラジオ局引き当てるの、きみ、なかなかの豪運だね!』
『使ってないPCが急に起動したから、びっくりしたけどさ』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『死んだ回線を遡って、上手く生きた誰かの通信ソフトに潜り込める時もあるんだ。』
『電話の場合は、コール音で誰かが気付いてくれる事もある。そうじゃない割合の方が高い事は認めよう。』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『ああ。やっぱり。聴いた事がある。』
『電波や電気を通じた……所謂〚通信〛というものなら、ボクは凡そ干渉が可能だからね。ラジオはその時間、他者に向かって話しかける他人の声をリアルタイムで拾える貴重な時間なんだ。有難く拝聴している。』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『一度通った事がある道(回線)だから知らず通りがかってしまったのかもしれないな。』
『驚かせた事は悪かった。だけど、ボクはこれこの通りの存在だから、大目に見てもらえると嬉しい。』
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十埼・竜 2023年11月15日
『潜り込む。……きみ、通信回線の妖精さんみたいだね』
亡霊、より、こっちの方が何だか馴染む。……そうであってほしいと思ったのは否めない。

『楽しんでもらえてたみたいで嬉しいよ! 今後も是非よろしくお願いします』
『……ラジオが“貴重”だなんて、随分寂しいところにいるんだね』
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十埼・竜 2023年11月15日
『一度通ったことがある道?』
『前も、このPCをノックしたことがあったの?』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『妖精!そんな風に言われるのは初めてだな。』
『そんなにいいものではないけれどね。ボクは自分の事を──そうだな。』

『〚アンデッド〛だと──』

『思うよ。』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『通信ゾンビだ!怖いかい?』

笑い転げる動くイラストが送信された。
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『そう。ボクのいる所はね、誰も来ないし、誰もいないんだよ。』
『だからこうやって呼吸をするために〚外出〛が必要なんだ。』

『そういう意味では、キミが……ラジオの司会という情報に敏い人が出てくれたのは確かに豪運だったな。色々と楽しい話が聞けそうだから。』

『キミが話してくれるならだけれど』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『正確には少し違う場所だけれどね。』
『回線のルートが近かったというだけで。一度だけキミの番組に手紙を送った事があるんだよ。』
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十埼・竜 2023年11月15日
アンデッド。
死に切らぬもの。
死に切らぬ通信端末の、不条理に灯った画面の中で、いやに陽気なイラストが笑う。

笑わずに、それを見つめて。
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十埼・竜 2023年11月15日
『きみ、まさか本当に幽霊?』

『リターナーは珍しくない世界だけどさ』
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十埼・竜 2023年11月15日
通信回路の廃墟巡りをして、時々、声をあげて、話し相手を探して。
……ああ、それで「放浪者」?

まるで、次元のズレた世界と話している気がする。

『僕が遊びに行けたらいいのにね、賑やかさは保証するよ』
『僕はお喋りな方だからね。何か聴きたいことがある?』
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十埼・竜 2023年11月15日
『trがみ』手が滑った『手紙!?』打ち直した。
『Radio-DINOにおたよりくれたことあるの!?』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『ボクは人間だよ。』
『今この時代の区分においてはれっきとした。ね。』
『通信越しに証明するすべはないから、その点は信じてもらうしかないけれど。』

『でも、キミがそう思いたいなら幽霊って事で構わないよ。ボクの種族や存在の確かさは話の面白さに関わるものではないし、』

『人によっては幽霊と話しているという空想の方が、浪漫があるものでもあるからね。』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『ありがとう。キミの賑やかさにはいつも救われているよ。』
『でも、ボクはあまり喋り上手ではないからね。誰かと対面で話す事があまりにも朧すぎて。』
『だから、この位の距離感が丁度良いのかもな。』

『外の事なら何でも。ラジオの裏話とか……キミは学校に通っているんだっけ?そういった話とか、或いはよく宣伝しているショッピングセンターの話しとか。』
『聞けるだけでボクは楽しいからね。』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『あるよ。2022年7月26日22:15だ。』
『曲をリクエストしたな。』
『それに愚痴っぽい話もした。』

『言いそびれていたな。ボクの気持ちを、〚僕の代わりに世界中にばら撒いて〛くれて、ありがとう!』
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十埼・竜 2023年11月15日
『アンデッドだなんて自称するからさ』
『通信越しの証明が出来ないなら、僕がRadio-DINOってのも嘘かも知れないし』

死者、となると。どうも少し、警戒心と自制心が勝りがちだ。
それらはしばしば、ぼくの手には負えない相手だし。
…………本当に彼岸の存在だというのなら、ぼくにとって、興味深過ぎる。

だって。そこには声が届かないのが、大前提だったから。

『きみは愉快な電子放浪者、それで十分ロマンチックだよ』
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十埼・竜 2023年11月15日
『本当に、ただの世間話に飢えてるんだね』
『そうだなあ……僕の通ってる学校の、今年の修学旅行がゲームの世界だった話とか』『ショッピングモールのハロウィンセール、一日当たりの迷子数が100人を超えた話とか』『ラジオのネタ探しって今はスタッフ三人でやってるんだけど、この間大事件があった話とか』
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十埼・竜 2023年11月15日
(ぱっと、過去ログを漁る)
『RADWIMPSの、「人間ごっこ」』
憶えている。
『匿名希望さん、きみか』

『少しは、気が晴れたのなら、よかったけれど。』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『……頑なになったね。』

『分かった。ごめん。少しいじけているだけさ。何分ボクは人間だけれど、キミたちとは随分と生きている環境が違う。』

『と、そう考えるのはボクの決め付けだけれどね。』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『ねぇ。キミは思った事は無いかな。』

『何かに打ちひしがれた時。深い空虚に包まれた時。』


『こんな自分の状態で果たして生きていると言えるのだろうか──ってさ。』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『ボクはある。』

『ボクがいるのは空虚の真っ只中だからね。』

『だから、生物としてボクが生きている事は保証するけれど、ボク自身、この状態で人間として生きていると胸を張って言い難いのさ。』
『そこは許容してほしいな。』

『回線に押しかけておいて厚かましい話だけど。』
(舌を出す顔のイラスト)
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『うん。お陰様で。自分で出来ない訳じゃないけれど、どこかの生きた通信から何かを発信するのは元の通信主に迷惑が掛かるから好きじゃないんだ。』
『この肩身の狭い生き方の上、通信世界の指名手配犯なんかになった日には目も当てられない。』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『何せ独りぼっちだからね。』
『へぇ。それならボクも追構築できるかも知れないな』
『そんなに人が消えて騒ぎにはならないのかい?』
『大事件?何だいそれ、詳しく知りたいな!』

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外の世界を知るための会話は弾み、日付けを越えるより前に来ると。
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『さて、楽しい話をたくさん聞けた。キミの時間をボクに分けてくれて、ありがとうDINO。』
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浮珂鴫・傾 2023年11月15日
『ボクはそろそろ帰るよ。』

『そして、キミ。仕事の時間だろう?』
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十埼・竜 2023年11月15日
……入力を、少し躊躇った。
『あるよ』
『多分、きみとは、だいぶ違う形だろうけど』二度と帰れない、病室のベッドの上で。あるいは……このパソコンの主が、二度と戻らないのだと知った時。
『何も遺せないのなら、何の意味もないじゃないかって、思った。
ぼくは遺りたかったからさ。』
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十埼・竜 2023年11月15日
きみは。
……その状態を、赦せないと思わないのか。

それなら、と、思わなくはないのだけれど。流石にそれこそ厚かましい。
だから、言えなかった。ぼくの声が届いて、それを楽しんでくれているのなら、今は何も。
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十埼・竜 2023年11月15日
『通信世界の指名手配犯! それもなかなか派手な肩書じゃない?』
なんて、混ぜっ返しながら。

他愛のないお喋りのラリーを、暫く続けて――――きみに促されて、時計を見る。確かに。
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十埼・竜 2023年11月15日
『ありがと、またADさんに叱られるとこだった』
『key、よければ一曲リクエストしていかない?』
『ぱっと思い浮かばなければ、いいんだけどさ。急な無茶振りだし。』
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十埼・竜 2023年11月16日
『楽しかったよ。またお喋り、できるといいね』
『こうしてこのPCから呼んでくれれば、だいたい気付けるからさ』
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浮珂鴫・傾 2023年11月16日
『いいのかい?』
『ボクはあまり音楽には明るくないんだけれど。そうだな──』
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浮珂鴫・傾 2023年11月16日
『それじゃあ、一曲リクエストだ。』

リクエスト音楽のURLが貼られる。
https://www.youtube.com/watch?v=1jFEhVWIQIM
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浮珂鴫・傾 2023年11月16日
『ボクだけではない。世界にはたくさんの放浪者がいるからね。みんなに祝福を頼むよ。DINO』
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浮珂鴫・傾 2023年11月16日
『ボクも楽しかった。一度通った道は覚えているんだ。』
『そのつもりがあれば、また会えるよ。』

やがて画面にノイズが走り始める。
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浮珂鴫・傾 2023年11月16日
『それじゃあ。また何処かで』

ぶつりと黒くなる画面の向こう。一瞬だけ見えた言葉は、
≪ご指定のIDは存在しません。≫
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十埼・竜 2023年11月16日
『お』『リクエストありがとうございまーす!』

『そりゃ勿論』
『ラジオは、旅のお供に最適だからね』
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十埼・竜 2023年11月16日
『まt』画面に走る、ノイズ。それに、入力の手を止めて。

――――暗転。
はじめから、何もなかったみたいに。
ただ、キーボードの幽かなぬくもりだけ、ぼくがしていたことを残していた。
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十埼・竜 2023年11月16日
「……また、どこかで。」

一声。きっと届かない声を、去った見えない旅人に掛けて。
ノートを、閉じた。
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浮珂鴫・傾 2023年11月16日
《接続は正常に終了されました。》
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