【イ】呼び人知らずの彼の名は・解答編
囗囗囗・囗 2023年5月20日
時系列は、ほんの少し遡る。
これは、貴方達三人が、ヨビビトシラズ・ナナシを騙る何某を追走するほんの少し前の出来事だ。
────貴方達三人は、これまでに、他の誰より
名前も正体も知れない、不可思議な男の事を見てきている。
見た目に反して意外とまともで、
学園に入りたてすぐで数々の問題を起こした割には、どこにでもいそうなありきたりの人間であることも
寒がりである事も、普通を貴ぶ事も、他の誰より理解していたろう。
独特の癖が、いくつかある事も。
目まぐるしく変わる口調。
自分の事に関してのあらゆる情報が秘匿される呪い。
それ以外にも、割と人を驚かせたがるという趣向や――
昼食は決まって丼ものを食べる事に拘っていた、という事も。
牛丼でも、からあげ丼でも、麻婆丼でも親子丼でも
レパートリーにキリはなかったが何にせよ、
日中、昼食を摂る時は何があっても丼ものの決まったサイズを食べていた。
また、それ以外にも貴方達は何個か有している情報がある。
一度、VR空間でグラフィティアートを描いた時。
好きなものを互いに一つづつテーマにする、と決めた時、彼が「太陽」を選んだ事。
何かの植物を育ててたと思しき事。
その植物が深く名前に関わるものであると思しい事。
名前に木が関わるであろう事。
学園に、実は親族が在籍するらしいという事。
いずれも彼にとって何らかの重要な手掛かりとなる可能性がある。
が、まだ足りない。
────そして、情報を探すうち。彼が過去に起こした問題行動に思い至る。
2
囗囗囗・囗 2023年5月20日
その問題行動とは即ち。
大勢の生徒が彼の暴走を止めに駆け付けた、校舎への落書きの一件。
多くの人に彼の問題行動を印象づけた事件。
────では、なく。
それより更に遡り、一番最初に彼が起こした問題行動。
≪学園の生徒三人に接近し不可解な言語による恫喝的行為をした.≫事例に、貴方達は注目した。
囗囗囗・囗 2023年5月20日
────彼をよく知る三名の中で、学園生徒会の監査である貴方は
当然、過去の学園内で撮った映像を閲覧する事ができる。
改めて、貴方達三人が揃って確認のためにその映像を見た時。
それは一つの閃きを齎した筈だ。
囗囗囗・囗 2023年5月20日
恫喝。がなり唸る謎の言葉の羅列。
映像越しにも判る、叫び散らす彼の普段は見ることもない形相。
一つたりとてまともな言語にはなり得ない、獣の唸りめいた叫び。
成程、確かに、初見のものが見れば怖気づくのも頷ける一幕だ。それは確かだった。
しかし、視点を少し変えれば違うものも見えてくる。
囗囗囗・囗 2023年5月20日
貴方達は全員
・・・・・・・・・・・
彼の言葉がそうなる時は
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
彼が自身の核心たる情報を喋ろうとした時である事と
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
核心に迫れば迫る程、言語のノイズ化は苛烈になる事を知っている。
囗囗囗・囗 2023年5月20日
────映像を見終わった後、ある確信を持った上で
貴方達はその≪恐喝された生徒の一人≫を訪ねる。
全く脈絡も何もない訪問に戸惑いを隠せないらしい件の生徒は、しかしぽつらぽつらと語る。
囗囗囗・囗 2023年5月20日
入学早々の件の出来事にどういった意図があったかには心当たりはないが
反省文が提出されて以降は特に何事もない事や
以降はまぁ、当たり障りのない関係性をクラスメイトとして保っている事。
囗囗囗・囗 2023年5月20日
そして
最後の質問には
怪訝な顔をやはりしつつも解を紡ぐ。
囗囗囗・囗 2023年5月20日
「────えぇ??なんでこの流れで兄の話が出てくるんでござる??いや確かにいるでござるが……」
「とはいえ例にもれず刻逆以降は消えた儘未だ逢えてないでござるよ。
……しぶとい兄だったのでどこかでひょんな折に顔を見せると思ってるでござるが……」
「…………名前??」
並日通・夏謡 2023年5月20日
「――柾(まさき)。木に正しい、で『並日通・柾』が兄の……某のお兄ちゃんの名前でござるよ」