放送電波研究会

問)甕の中身を答えなさい。

十埼・竜 2023年3月18日
ぼくに聴こえない、ぼくに似た声の/
死んだぼくを「潰し」「混ぜ」異形のヘッドホンを形成するという/
「ノイズイーター」と名付けられ、「アラタ」との「約束」にひどく執着する/

────"これ"は、何か。


ノイズを呼び寄せる力を持ち/
ノイズイーターを生み出し/
「混ぜられ」/けれど再度現れて/
「約束」を結んだ/

────アラタとは、誰か。


生み出した者を自身に「混ぜる」/
集まるノイズを「食べる」/
世界の果てを、臨む/

────約束は、何故結ばれたのか。




放送の終わった部屋で、堂々巡りの夜が増えた。




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十埼・竜 2023年3月18日
結局、どんな問いが湧いたところで、最終的にはこうだ────「ぼくの呪いは解けるのか?」
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十埼・竜 2023年3月18日
曰く「命に混ぜられた」、ノイズを呼ぶ力を打ち消して。
ぼくの生死に干渉するノイズイーターを不要として。
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十埼・竜 2023年3月18日
……それは、ぼくは「元に戻る」ことだと思っていた。
ディアボロスではなく、残り時間だってわずかな2021年8月の、病床のぼくに。
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十埼・竜 2023年3月18日
「だから」
「答えはもっと先でもいいかな、って、思っててさ」
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十埼・竜 2023年3月18日
遠からず終わるなら、それまでのらくら現状維持。

……そうも言ってられなくなった。
状況も。
ぼく自身の願いも。
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十埼・竜 2023年3月18日
「……ノイは、コレとお喋りできる?」
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十埼・竜 2023年3月18日
モーラットの真っ黒な瞳には、ぼくしか映っていないようだった。もぁぁ。もぁぁ。曖昧な鳴き声が纏う波は"不安"。
……ぼくをその問から遠ざけたい、みたいに。

父さんが、例えば母さんについて、言い淀むことが時々あって。その時の声音に似た音を、獣の鳴き声から探してしまう。
判るはずもないのにね。ぼくは昔から耳が良かったわけじゃない。
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十埼・竜 2023年3月18日
「なぁ」
「わかんないから聞いてんの」
「お前は」
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十埼・竜 2023年3月18日
「……どっち側だ?」
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十埼・竜 2023年3月18日
もぁぁ。
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十埼・竜 2023年3月18日
「こういう時ばっかりケダモノぶるなよ、いつも偉そうなくせに」
「……ぼくは、本当に」

「命どころか相棒の良識(こころ)まで賭けてんだぞ」
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十埼・竜 2023年3月18日
指先を、小さな舌が舐めた。
それが酷く熱くて、ぼくは体が冷え切っていることを知る。
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十埼・竜 2023年3月18日
モーラットの"不安"は、単純にぼくに向けられていた。何かを隠すでも誤魔化すでもなく、ただ追い詰められているぼくを案じて。
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十埼・竜 2023年3月18日
「……」
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十埼・竜 2023年3月18日
それに気付いたら、もう何も言えなかった。
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十埼・竜 2023年3月18日
「冷静さを失ったらインタビュアー失格だね」
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十埼・竜 2023年3月18日
もぁ。
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十埼・竜 2023年3月18日
「…………お前は、刻逆の前後のことを、何も思い出せない?」
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十埼・竜 2023年3月18日
沈黙。
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十埼・竜 2023年3月18日
「……ぼくに伝えないと、"約束"した?」
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十埼・竜 2023年3月18日
沈黙。
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十埼・竜 2023年3月18日
「ぼくが知ってしまったことで」

「ぼくが殺されたことがある?」
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十埼・竜 2023年3月18日
────もぁ。
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十埼・竜 2023年3月18日
「………………お前」
手で顔を覆う。
「それは今更だぞ…………」
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十埼・竜 2023年3月18日
ぼくに何も伝えようとしない、その理由が多分これだ。知ったぼくは恐らくショックを受け、それを「壊れた」と判定されて殺される。ああ、そういえば彼にも「大丈夫か」と何度も念押しされたっけ。海に入ろうとしてパニック起こすのもそういうことか? こいつの中で、水中とぼくの死が完全に結びついてるせいで?
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十埼・竜 2023年3月18日
もう大丈夫だ、なんて言葉をこいつは信じない。
もう終わったことだ、何度も投げ掛けられた言葉を、父さんは絶対に信じなかった。
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十埼・竜 2023年3月18日
……刻逆から何かろくでもないことが起きていて。
このモーラットが、もとは父さんなのだとして。
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十埼・竜 2023年3月18日
母さんのことに、重ねて。
ぼくまで心の傷として刻んでしまったのだとしたら。
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十埼・竜 2023年3月18日
本当に、それは────
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十埼・竜 2023年3月18日
「……熱ッ!?」
ふつふつと煮え滾った想いがあらぬ場所から湧いて出た。そんな熱さと痛みを感じて慌ててジャケットを叩き、原因らしき物体をポケットからつまみ出して「あっっっつ!!」机の上に放る。
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十埼・竜 2023年3月18日
緑色に発光する、真空管。
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十埼・竜 2023年3月18日
もぁぁ。もぁぁ。
「……マジック・アイ。6Z-E1型、に近い……と思うけど」もぁぁ。「今、何かに同調してるってことだよね?」もぁ。
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十埼・竜 2023年3月18日
見ている前で、ふっ、と、蛍光は薄れていく。
けれど。
……消えきらない。
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十埼・竜 2023年3月18日
左右対称に広がる扇形の同調ゲージが、蝶の羽ばたきみたいにゆっくりと明滅する。
触れられるくらいに温度を下げた真空管を摘んで、握り込んで、そこにある"何か"に耳をすませた。
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十埼・竜 2023年3月18日
ノイズは、脈拍を思わせた。
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十埼・竜 2023年3月18日
「これ、さ」
「……やっと、使い道がわかった気がする」
────騎士団の遺産。
たったひとつの真空管が、戦うための道具なら。
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十埼・竜 2023年3月18日
「これで最悪も、ちょっとマシになるのかも知れないね」
うまく使えれば、打てる手が、ひとつ増える。
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十埼・竜 2023年3月18日
「……とはいえ最悪は最悪なんだよ。されたくないし、させたくもない」
またわずかに熱を持ち始めた真空管をポケットに押し込んで。
「まずは……やっぱり聴取だよなぁ。商工会への申請、通るといいけど……」
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十埼・竜 2023年3月18日
呪いは解けるのか。
最後の設問の手前に、避けられない疑問がいくつもある。
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十埼・竜 2023年3月18日
ノイズイーター────"これ"は、何か。
アラタとは誰か。本当にぼくの父さんなのか。
約束は、何故結ばれたのか。
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十埼・竜 2023年3月18日
「……刻逆の、あの時」
「ぼくと父さんに、何が起きたんだ」
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十埼・竜 2023年3月18日
────それを知らないことには、ぼくは、結論を選べない。
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