【イ】エムライブ『outsider』
薄羽・カゲハ 2023年2月4日
エムライブ2日目。
『outsider』
lampshade/薄羽・カゲハ
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薄羽・カゲハ 2023年2月4日
運命だってさ────!
(笑う。)
薄羽・カゲハ 2023年2月4日
運命だってさ────!
(嗤う。)
薄羽・カゲハ 2023年2月4日
運命だってさぁ────!
(哂う。)
薄羽・カゲハ 2023年2月4日
(世界が爆笑の渦に包まれたらこんな感じなのだろうかと思わせるほど。)
(渦を巻くように音は鳴り響く。)
薄羽・カゲハ 2023年2月4日
(──────だが、笑いの津波はいずれ引いていく。)
(少しずつ、少しずつ小さくなっていく音の中で)
薄羽・カゲハ 2023年2月4日
はあ。
(ため息が聞こえた。)
薄羽・カゲハ 2023年2月4日
運命だってさ。
(笑えねえよな。)
薄羽・カゲハ 2023年2月4日
(右腕を、天高く持ち上げて、)
薄羽・カゲハ 2023年2月4日
(キンキンに耳朶へ響いて離れない、怒り心頭のギターソロが始まる。)
薄羽・カゲハ 2023年2月4日
(どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ!)
(いつもいつでも自己中心。困ったときばかり他力本願。)
(エゴを着ただけの猿どもが──────!!!)
薄羽・カゲハ 2023年2月4日
(かげろうは一言も発していないはずなのに、ギターはまるでそう叫んでいるようだった。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(いっそのこと、人類皆死んでしまえと、噴き上がって止まらない怒りから、腕を振るった)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(その、刹那────)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(プツ──────────────────)
(と、間抜けな音が抜けていく。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(唐突なアクシデント。弦が一本事切れた。素人だって、気づける音。)
(数拍、囁くようなドラムとベースが取り残されてしまった。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(──────────“ロック”が、止まってしまう。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
【そんな最中、かげろうは驚かなかった。】
【手元、その右手の下でぶらんと揺れる弦を垣間見て】
【『ああ、そうじゃねえか』】
【『そうじゃねえ』】
【『“怒り”の使い方は、こうじゃねえよな』】
(微笑みすら、浮かべていた。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(かげろうは、)
(ほんの僅かにブレスを挟んで、)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(────ギターのアームをへし折った。)
(同時に思い切り、右足を前に踏み込んで)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(呼吸をするように、ギターを鳴らす。ロックが息を吹き返す。)
(驚くべくは、その左手。今まで弦を押さえていたはずの手に。)
(折ったアームを握っていたことだろう。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(“ボトルネック奏法”。指を使わずに、酒瓶の首を当てる奏法。その派生形。)
(弦に這わせるように、アームを軽やかに動かしていく。)
(響くのは、砂漠のド真ん中で蜃気楼を見ているような、熱く茹るような音。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(先程とは打って変わって、顔を上げて観客全員に向かい笑顔を浮かべて)
(楽しそうに。踊るように右へ左へと歩きながら。)
(響くサウンドとはかけ離れていても。かげろうはずっと────一緒に砂場で遊ぼうとする子どもみたいに、笑っていた。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(やがてもう一度、ロックを愛するドラムとベースとギターの三馬鹿が集って。)
(詩を創っていく。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(ロックで、烈しさもある。閑やかな詩を。)
(そこに──────)
十埼・竜 2023年2月5日
(────ありふれた)
(どこにでもいるような)
(けれど耳に馴染む)
(ただの少年の声が、重なる)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
暗闇にありがとう
十埼・竜 2023年2月5日
「次は何処へ往こう」
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
どこへ歩いても迷うこともないし
十埼・竜 2023年2月5日
「ぼくが歩いていくとこが道だし」
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
俺は生まれてきた
十埼・竜 2023年2月5日
「ぼくは生まれてきた」
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
這ってでも往けるなら そこが 道だ
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
敵はどいつだ
十埼・竜 2023年2月5日
「ノイズはどこだ」
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
待ってでも 愛せるなら
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
その子は 人だ
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(Wo──Wo──Wo──Wo────!)
(声を上げろ!手を挙げて、みんなで!)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(Wo──Wo──Wo──Wo────!!)
(どうせお前ら、“良い”んだろ!!??)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(Wo──Wo──Wo──Wo────!!!)
(結局大体何でも許せる甘ったれなんだろ!!!)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(声を張って、張って、張って。ともすれば、泣きそうにも聴こえる聲の中で)
(静かに──────)
十埼・竜 2023年2月5日
「影は、どうしてずっと暗いところにいるのか知っているかい」
十埼・竜 2023年2月5日
「それはね────」
十埼・竜 2023年2月5日
『いつだって──────誰だって、傍にいてやるぞの意味なんだって』
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
オレの──────
(もう喉はガラガラで。肺だってまともに空気を蓄えてもくれない。)
(それでも、だとしても。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
生まれてきた────────
(届けてえ言葉があるんだよ。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
理由────────────!!!!!
(出し切れ。最期まで。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(僅かに聞こえた呼吸音。)
(かげろうが、跳ねる。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
オ゛ レ゛ は゛ こ゛ こ゛ に゛ い゛ る゛────────────ッ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! !
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
(舞台に、残響と影が、満ちる。)
薄羽・カゲハ 2023年2月5日
【終幕】