コレはヒトではありません。
十埼・竜 2022年12月4日
【サーヴァントは、パラドクスが実体を得て固定化された、ディアボロスと一心同体の存在です。言語を理解し、主人であるディアボロスの指示に従いますが、会話や自律的な判断、複雑な行動はできません。】
放送設備の扱いに慣れていて。
放送業務に拘りを見せて。
ぼくに対してなんか偉そうで。
結構話が判ってそうな雰囲気を纏う。
其処に少しでも父さんの要素があるのなら、ぼくには気付けるのだと思っていた。
ずっと一緒にいた家族で、
ずっとそばで声を聴いていた、一番のリスナーで
何より、ぼくは父さんを、心から愛しているのだから────
────奇跡が起こるとしたら。
愛によって、というのが、物語の定番だ。
0
十埼・竜 2022年12月4日
ねぇ。
(腕の中の毛玉に、声をかける。)
十埼・竜 2022年12月4日
(ぺちゃぺちゃとぼくの指を舐めていた顔を上げて、モーラットは真っ黒な瞳でぼくを見た。)
(伝わる波は、微かな不安)(それだけ。)
十埼・竜 2022年12月4日
…………………………………お前は、
十埼・竜 2022年12月4日
(もぁ。相槌みたいに、一声啼いた)
(その声は似ても似つかない。)
十埼・竜 2022年12月4日
お前、は、
十埼・竜 2022年12月4日
(次の言葉が続かない)
(口にしてしまったら────認めてしまったことになる気がして)
(形にさえしなければ、まだ希望は繋がってる気がして)
(そんなのは幻想で、事実だとしたらそれは過去でしかなくて、終わったことは覆らない。何ビビってんだ)(怯えようがなにしようが、どのみち取り返しはつかないんだから)
十埼・竜 2022年12月4日
(改竄史に奪われたのならただ取り返せばよかった)
(最終人類史・新宿島で起きた変化が、奪還に伴い2021年8月の延長線上まで巻き戻ったケースを、)
(ぼくは、知らない)
十埼・竜 2022年12月4日
(もぁぁぁ)
(黙り込んだぼくに、モーラットが不安の波を逆立てながら長く啼くので、その小さな頭を指先で撫ぜた。細い腕が指に伸びて、ぶら下がるみたいに姿勢を変えたモーラットは再度指先を舐めはじめる。)
(温かい舌。飼ったことはないけど、仔犬なら、こんな感じなんだろう)
十埼・竜 2022年12月4日
("人間"が残ってるなら、)
(触れるだけでもいい。見つめてくれるだけでもいい。優しい声をかけてくれるだけでも。愛の表現形がたくさんあることは、とても素敵だ)
十埼・竜 2022年12月4日
……いいんだよ。そんなに、しなくて。
("人間"なら────こんなことを、しなくても。)
十埼・竜 2022年12月4日
…………ねぇ。
(声から力が抜けて。)
十埼・竜 2022年12月4日
……お前は、ほんとは、ぼくの父さんだった?
十埼・竜 2022年12月4日
(答えは、波一つ、返ってこなかった。)