【イ】豊饒祭2022:開会式 一日目・10:00
竜城・陸 2022年11月19日
◆
開会式の壇上には、藍色の翼と尾を持つ竜人の姿があった。
青のクラスを纏める“蒼海番長”――竜城・陸その人である。
「豊饒祭の開催にあたって、生徒の皆、そして職員の皆様方の多大なるご協力を賜ったこと、大変嬉しく思います」
去年までと同じあいさつで口火を切ったのち。
常日頃浮かべた穏やかな微笑はそのままに、壇上から、並ぶ生徒たち一人一人の顔を見渡して。
「――本日までの皆のご尽力に感謝を。堅苦しい話をあまり長々とするつもりはないから、どうぞ楽にして」
むしろもう遊びに行ってもいいよ、なんて冗談めいた一言を付け足しつつ。
「これまでに三度の戦争を経て、それ以外にも多くの戦いを経験したね。幾つもの土地が奪還され、この最終人類史に帰還した人々の数も増えつつある」
「元々この最終人類史に存在した方ばかりでなく。ディヴィジョンという全く異なる世界から、この世界に訪れた方も居られることかと思う」
「新たな土地に不安を覚えている方も多いだろう。あるいは、これまでの戦いを経て、思い悩むことのある方もいるだろう」
「そんな思いを抱える皆の心を癒やせるような。数々の激戦を経てきた皆が、これからも先へ進むための糧になる思い出を作れるような」
「皆で作り上げたこの祭事の場が、そういうものになるように願っているよ」
平時と変わらぬ柔らかな語調でそこまでを滔々と語り終えて。
壇上の竜人は、気持ちを切り替えるように咳払いをひとつ。
「それでは――これより豊饒祭の開催となる」
「今日ここにあるものは、青のクラスと緑のクラスが一丸となって作り上げた成果の結実であり――何より君たちが守ってきた日常そのものでもある」
「どうか存分に、楽しんでくれると嬉しいよ」
0