第17試合:竜血戦 ~ 天
三隅・彩乃 2022年4月23日
空舞う竜に不可視の爪が飛ぶ。
放つもまた、竜。
進もうとする者、それを許そうとしない者。互いの方針を認識しあい、起こるのは進路の転換か。はたまた我を通すための更なる行動か。
横切ろうとしていた影は一つ所に止まり、見据える二人の視線に冷たい闘志を返す。
今シーズン最後の試合。そして各チーム、各参加者の思惑入り乱れる戦いの一つが北部立体駐車場で始まろうとしていた。
1
竜城・陸 2022年4月24日
――それとほぼ同時。
毒々しく、禍々しい光を帯びた熱線が、階下を焼き掃って――――
(無効票)
竜城・陸 2022年4月24日
――――ついに、決壊を迎えたように。
建物全体が音を立てて、ひび割れ、崩れ落ち始める――――!
田中・夜美 2022年4月24日
完全に無防備になっていた夜美
だから、彼女には何が起きたのかわからなかった
ただ自分が突き飛ばされた、という感覚だけがあって
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田中・夜美 2022年4月24日
まだ開いていた瞳には
腕が千切れ飛ぶ
彼女の、彼女の中の最強がいて
(無効票)
田中・夜美 2022年4月24日
呆然とした意識が、元に戻ることはなく
崩れ始めた足元に、ただ飲まれるように
そこにいた
リップ・ハップ 2022年4月24日
(――――……っあーー。)
瞬く間も置かず伸ばした左手が、合するその腕が、氷の剣に抉り飛ばされていく。
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月24日
(そっ、か。アイツもあんとき、)
勝利すること。そして生き残ること。その合理ばかりを積み重ねてきた身体にとっての、疑いようもない不合理。
(こんな感じだったのかな。)
突き動かしたものは、きっと――。
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月24日
剣が過ぎ去り、露わになるのは立ち尽くすチームメイトの姿。
このままでは無抵抗に崩落に巻き込まれるのは明白で。
少女はさらに一歩踏み込み、大鎌を手にした右腕で夜美を抱え込む。
そうして身を挺し庇った少女と二人、彼女は崩落する足場に飲み込まれていくのだった――――。
竜城・陸 2022年4月24日
――――落ちていく姿をただ見ていた。
追撃の手を打つ余裕はなかった。
痛みに抗するので精いっぱいだ。
今少し呼吸を、脈を落ち着けなければ、これ以上の戦闘は難しい。
(無効票)
竜城・陸 2022年4月24日
痛む翼を無理矢理広げて、僅かに、その場から浮き上がる。
“竜”の部分は“人”の部分より頑強で、ゆえに直撃でも折れたりはしていない。
羽搏くたびに痛みが走るが、病のさなか、いつも感じていたそれよりは余程緩い。
まだ、耐えられるレベルだ。
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竜城・陸 2022年4月24日
ざっと西側駐車場の現況を確認する。
光線の出元と思しきあたりに、チームメイトの姿はない。
巨人の姿も見えないことからすれば、クラスの後輩も離脱した後だろう。
――そこへ瓦礫の中から、金の髪の少女がまろび出てくるところまで見えたあたりで、ようやく呼吸が整って。
崩れゆく眼下の立体駐車場へ、視線を向け直し――
(、)
竜城・陸 2022年4月24日
崩落で運よく二人共潰れた、なんて。
そんな希望的観測はしない。
続く戦いへ向けて、ゆっくりと呼吸を整えながら――――その姿を、探す。
田中・夜美 2022年4月24日
(触れられた)(それはわかった)(全身に)(恐怖が走った)
(気がした)(こわい)(一瞬)(そう思うけど)
(それを理解する前に)(気がついたら)
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田中・夜美 2022年4月24日
(ぱちぱち)(目を開ける)「……う?」(なにが)(なにやら)(よくわかってない)(みたいで)
(ただ)「リップ?」(そうだ)(リップが)(いた)(ような)
リップ・ハップ 2022年4月24日
状況が急速に、そして大きく動いた。
僅かでいい。仕切り直すための時間が要る。
飛行可能な陸を相手に片腕、その片腕も仲間を抱えるために使われるとなればはっきり言って勝負にならない――その判断で巻き込まれることを選んだ崩落は、結果的に時間を作るまたとない機会になった。
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月24日
左腕喪失。
そこかしこには擦過傷。打撲も多く、当然それらは伯爵による治癒の働かないVR世界では純粋なリソースの損失だ。
腕だけでの満足いかない保持は落下の衝撃や数々のダメージの前に解けてしまったのだろう。
夜美から少し離れた場所に彼女の姿はある。
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月24日
周囲は瓦礫の山と立ち込める粉塵。
視界の悪い中、屋上に居たのは不幸中の幸いだったと安堵する。
(のぞみからの通信は無し。最後見えたのはあれえみりか?)
(陸は……まだ上に居るっぽい。焦って追いかける気配がねー。てことはそれが出来る状況。見えてねーとこはミサゴが残った? んで最終局面を任した、かな。)
崩れ行く駐車場から見えた光景。そして今の周囲の状況。併せて彼女は予想を立てた。
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リップ・ハップ 2022年4月24日
(私らも一人向かわねいと、土俵に上がれん。)
二人で向かうわけにはいかない。陸を最後の争いに頭から参加させてしまう、それに見合うだけのリターンが恐らく無い。
向かう一人を自分にはできない。喪失した左腕をはじめリソースを流出し続けている今、盤面に影響できる時間が必ず不足する。
「…………暴竜ちゃん、無事?」
そうこうしてるうち、夜美の声が耳に届いた。
距離はそのまま、周囲も警戒しながら。彼女に視線を向けて。
田中・夜美 2022年4月24日
あ、う、うむ! 無事である!
(無事)(全然平気)(全然平気だ)(全然平気なのは――)
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田中・夜美 2022年4月24日
「……あっ」
(気がつく)(リップの状態に)
(――全然平気なのは)(リップが)(片腕を使って)(かばってくれたからで)
(無効票)
田中・夜美 2022年4月24日
「り、リップ……だ、大丈夫か……?」
. ・・・・・・
(おずおずと)(近づいていく)
(しょぼんと)(落ち込みながら)(不安そうに)(ふるふると)
リップ・ハップ 2022年4月24日
「――――…………」
呆然と。
それは屋上で、突如の揺れに見舞われた夜美のように。
自分から距離を詰めてくる彼女の姿に、レザーマスクの少女の時間は僅か止まった。
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月24日
だがそれは本当に僅かのこと。
こうしている今も刻々と状況は進んでいっている。
「大丈夫でーす。私つよつよだから。わはは」
だから明るい調子で、生きている右手にピースサインをさせる。
今は夜美の変化――或いは常を思えばこその異常に触れることも、彼女をこれ以上の不安に陥れてしまう可能性も避けた。
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月24日
そして傍らの大鎌を拾い上げる。
彼女のVR上の得物である大鎌、子爵。現実の伯爵と同じ形状を持つその刃には柄との接合部分に切れ込みが、そして隙間がある。
「でね、暴竜ちゃん。はいこれ」
その隙間で柄を握り、繋がった後端を夜美に差し出した。
田中・夜美 2022年4月24日
だ、大丈夫か!(むふー)(良かった)
(いや)(でも)(片腕――)(やっぱり)(そっちを)(見ちゃって)
(無効票)
田中・夜美 2022年4月24日
(って)(あっ)(こちらに)(渡された)(柄の後端に)
(少しだけ)(びくりと下がって)
(でもこれ)
(これは)リップの……鎌!(リップのだ)(リップの)(鎌!)
(無効票)
田中・夜美 2022年4月24日
(また一歩)(近づいて)
そ、それは……リップのだぞ? 我のではない!
(何でそれを)(渡そうとするのか)(伺う)(ように)
リップ・ハップ 2022年4月24日
視線には当然気が付き、軽くなってしまった肩をちらと見て。
「わはは。まー流石に片腕だとね。振り回すのも勝手違っちって」
ぐりんぐりん。そこに無い腕を回すように肩を動かした。
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月24日
「だから私のだけど、今は暴竜ちゃんのがよりよく使えっかなって」
半分嘘で、半分本当のつもりだ。
片腕に加え両足も満足に動かないままに先日鎌を振ったところである。
殊戦闘に於いては勝手が違かろうが彼女の身体は最適を描くだろう。
しかしながら目の前のチームメイトは、目にした技術や能力を限定的ながらも再現して見せる。
常にではなく瞬間でなら、隻腕となった自身より両腕の彼女の方が上回るのではないかと踏んでいた。
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月24日
「それに私らチームメイトじゃん? なら私のもんはチームのもん。したらチームのもんは暴竜ちゃんのもんでもあるってね。ししし」
柄を差し出したまま、普段よりも近くに踏み出してくれている夜美に片膝をついて。目線を合わせて。
「だから今は、私のもんでもあるけど暴竜ちゃんのもんでもあっていいって私は思うの」
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月24日
「それ持ってさ。最後の戦い、頼んでもいい?」
これは命令ではない。このチームには上下関係は存在しない。
だからそう、お願いなのだ。
少女は自身の得物と共にこの試合の行く末を彼女に託す。
田中・夜美 2022年4月25日
「わ、我の方が……?」
(そんなことない!)(リップの方がつよつよ!)
(そう言いそうになったけど)(片腕)(やっぱり)(しょぼん)
(無効票)
田中・夜美 2022年4月25日
(リップのものは、チームのもの)(チームのものは、我のもの)
(違う!)(リップはリップで)(我は我!)
(そう言いそうになったけど)(なぜだか)(言葉にならなくって)
(無効票)
田中・夜美 2022年4月25日
(片膝をついたリップと)
. ・・・・・・・
(目線が合わさる)
(無効票)
田中・夜美 2022年4月25日
(最後の戦い)(そうだ)(青の番長だけが)(戦いじゃない)
(ゴールデンプチギガースを倒すのが)(目的)
(無効票)
田中・夜美 2022年4月25日
(小さく)(頷いて)
(手を伸ばす)(ゆっくり)(ゆっくりと)
(手で)(鎌に)(触れて)
(無効票)
田中・夜美 2022年4月25日
「わかった! 我に任せるがいい!」(がっはっは!)
「リップの鎌で!」(それと)(リップの力!)
(我の知ってる)(つよつよのリップで!)
「ゴールデンプチギガースをやっつける! ぞ!」(ぞ!)
(無効票)
田中・夜美 2022年4月25日
(あ)(でも)(そうだ)
「……リップは、どうするんだ?」
リップ・ハップ 2022年4月25日
いっぱい考えている。考えてくれている。
揃った目線。いつもよりも近い距離。
すぐさま違うと、やらないと、そう言わないでくれること。
びくりと震え、離れて行ってしまわないでくれること。
それだけでもどうにも胸がいっぱいで。
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月25日
その上お願いを聞いてくれると口にされれば、
「うん。お願いね、暴竜ちゃん。暴竜ちゃんに任した」
まだ戦いの狭間に居るとはいえ思わず表情は綻んだ。
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月25日
最終局面、そこに今できる最大で戦力を注ぎ込む。
その為の自身の戦力の譲渡。
大鎌越しに繋がる感触を刹那惜しんで、彼女に力を託した。
そして立ち上がり、次へと思考を切り替え始める。
「私? 私は陸の相手」
変わらずそこに在る気配。油断なくこちらを探る意志。
体中がそれを感じ取っていた。
田中・夜美 2022年4月25日
(任した!)(リップに)(任された!)
(むふー!)
(無効票)
田中・夜美 2022年4月25日
(でも)(鎌を)(ぎゅっと)(抱えて)
「青の番長の相手……」
(無効票)
田中・夜美 2022年4月25日
(ちらっと)(リップの手を)(見る)
(渡された)(子爵も)(見る)
リップ・ハップ 2022年4月25日
夜美の視線――黒髪の奥から向けられているだろうそれの言いたいことは分かる。
「おーん。もしかして鎌がねーってだけで私が手も足もでねーとか思ってる??」
だから強がる。
青の番長を倒しきる目はこの立体駐車場と共に瓦解し、相打ちの可能性すら今しがた手渡した。
彼女は己の必敗を悟っている。 ダチ
それでもこの幼く、可愛い、そして愛すべき仲間が安心して進むためには、必要なことだと思った。
(、)
リップ・ハップ 2022年4月25日
対面はそこまでで、いよいよ背を向ける。
時間の猶予はもうない。
「私を誰だと思ってんだ。つよつよのリップちゃんだろ」
最後にそう力強く口にして。
自身の最後の役目へと歩き始めた。
田中・夜美 2022年4月25日
「お、思ってない! 思ってないが……!」
(でも)(でも)
(無効票)
田中・夜美 2022年4月25日
(そう)(言おうとした)(けど)
(リップの背中)(リップの言葉)
(そうだ)(リップはつよつよ)(超つよつよ)
(だから――)
(無効票)
田中・夜美 2022年4月25日
(歩き始める)(リップを見送る)
(託された)(子爵を)(ぎゅっと)(抱きしめて)
(無効票)
田中・夜美 2022年4月25日
(たったたった)(駆け出した)(最後の戦いへ――)
(離脱)