【戦】戦闘測定
リップ・ハップ 2022年4月16日
『片方ずつしか使えないんじゃ片手落ちだろ』
彼のそんな想いを聞いてから、そして彼の健康指導をするようになってから早三ヵ月。
これはその後の経過を診るための戦い。
圧倒的に私が強いとかじゃなきゃ絶対評価はできねいけど、私と比較での相対評価は幾らでもできんだろ。
そして『受ける』ことに関しちゃ私はかなり適任。
何よりこいは主治医の仕事ってもんでしょ。
ぶつけてきなよ、今の全力。
私もぶつけっから。
#竜城・陸
#リップ・ハップ
1
竜城・陸 2022年4月17日
――――剣を上段に振り上げた、その身体が、
忽然と、目の前から掻き消える。
竜城・陸 2022年4月17日
とはいえ、彼女ならすぐに気付くだろう。
・・
その姿は、直上。
最初の攻防で投げ放った、二つ目の短剣が刺さった岩のすぐ傍。
竜城・陸 2022年4月17日
――――短剣の刀身には、魔術文字の刻印が刻まれている。
・・・・・・・・・・・・・・
その刻印は、自分と刻印との間の空間を繋ぐ、祭司(Druid)の秘儀。
刻印のある場所に存在するモノを引き寄せることと、
刻印のある場所へ、自身の傍に存在するモノを送り込むことが、できる。
いずれも、一切の時間的遅延なく、即時に、そして。
竜城・陸 2022年4月17日
.
・・・・・・・・・・
そして、送り込めるモノは、形あるものに限らない。
竜城・陸 2022年4月17日
本人が消えた先、
・・・・・・・・・・・
地面に突き刺さった短剣から、氷雪の魔術が展開され――
竜城・陸 2022年4月17日
当人は、落下の速度を乗せた剣閃を、
直上から、彼女目掛けて振り下ろす――!
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月17日
力の入りきらない故の低い姿勢。
そうして待ち構える彼の突撃が、剣を振り上げる姿が、眼前から消え失せる。
時を同じくして自分の身体に降りる影。
リップ・ハップ 2022年4月17日
仔細は違うだろう。
しかしそれをテレポートのようなものだと、彼は今頭上に居るのだと彼女は断じた。
似た手段を用いて戦うクラスメイトを知っている。トライデントに於けるVR空間に於いて実際に肌身で味わっている。
――しかし。
眼前から視線を切ることが出来ない。彼が消えたその足元、そこに残る短剣から先だってのブレスと同質のものが放たれようというのを捉えてしまったのだから。
リップ・ハップ 2022年4月17日
「んッの……!」
手数の不足。どちらかには満足のいく対応はできない。
選んだ一振りは足元から弧を描く直上への迎撃。
リップ・ハップ 2022年4月17日
――ただし出始めで大鎌の刃は地を掻く。
ゴルフクラブが芝を抉るように、刃は足場を砕き進行方向へと散らしていく。
瓦礫を用いた急場の障害物。今は他にアテにできるものもなく、迫る魔術へと放り。
上方から迫る刃を側面から弾きにと左腕を動かした。
(無効票)
竜城・陸 2022年4月17日
案外に対応が早いな、とは思ったが。
別段、存在を欺瞞したりはしていなかったな――と、そこで思い至って。
次回の課題にしよう、と脳裏の端に引っかけて、今は忘れる。
竜城・陸 2022年4月17日
正直に言って、咄嗟の行動でさして魔力を練れていない。
巻き上げられた破片に遮られれば、先の息吹ほどの効力を示すことはなく。
そして、振り下ろした刃は、
竜城・陸 2022年4月17日
「っ、……!」
――彼女の膂力で横から叩かれれば、当然、簡単にバランスを崩して逸らされ。
そのまま、切っ先が地面へ叩きつけられる――前に、
竜城・陸 2022年4月17日
――手の中から消え失せて。
最悪の最悪、その場に縫い留められて大きな隙を晒すことは免れた。
翼と尾をバランサーにして態勢が崩れるのは避け、たたらを踏んで踏み止まって、咄嗟に再度、手の中に剣を生み出して。
けれど、咄嗟に距離を離す暇はなく――――
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月17日
逸らした落下、横切る彼の身体を視線が追い。
しかし身体が追い切れない。
左腕の振りを支える十分な踏ん張りが利かず、
(体温的にもそろそろギリか……。)
伯爵の不調により冷気対策も今は不十分。行動不能までの時間を伸ばしているに過ぎない。
最後に頼るのは比較的無事な体幹。身体の捻り。
崩れつつある姿勢にも逆らわず、戦闘に於ける最適を描く彼女の身体は振り下ろしの斬撃として成立させる。
リップ・ハップ 2022年4月17日
その時。
彼女は左手の中に脈動を感じた。
力を血と、力の流れを血流と捉え始めた彼女だからこそ、それを脈動と感じたのだろう。
過去にも一度、それを感じたことがあった。
同寮生との模擬戦に於いてだ。
彼女はその全貌を知る由もないが、神性からの影響により身体を変質させていた者、そして血とを介した神性との間接的接触。その際に。
リップ・ハップ 2022年4月17日
原因は伯爵の――大鎌に潜む怪物の不調。弱体化。
それにより器である鎌の力が顔を覗かせる。
リップ・ハップ 2022年4月17日
それは大地の女神が生み出した金属、アダマスを用いて鍛冶の神が造り上げた刃。
農耕の神はこれを以て天空の神を主神の座から失墜させた。
幸運の神は巨人の暗殺を成し遂げるに至り、
半神の勇者は怪物の頸を斬り落としてみせた。
神による罰にして神に対する罰。即ち是、神罰兵装。
神、怪物、果ては不死でさ屠ったと云う生粋の『超常殺し』。
リップ・ハップ 2022年4月17日
死力を尽くし出し切った身体が、頭が、忘却していたその名を浮かび上がらせる。
「搔っ斬れ」
その真なる名を――
「ハルパー」
――或いはアダマスの鎌、とも。
リップ・ハップ 2022年4月17日
その刃は――
――神に届く。
(無効票)
竜城・陸 2022年4月17日
向き直って、剣を構えて、
「――――、」
驚愕に、目を瞠る。
彼女が手にした得物の纏うモノが、先までとまるで異なっていることに、気付いたから。
竜城・陸 2022年4月17日
視るまでもなく。
識るまでもなく。
本能的に理解する。
・・ 僕
ソレは、“神”に届く――――、
竜城・陸 2022年4月17日
――――それでも、その身を覆う障壁が形成され。
その刃を刹那、留めたのは。
もはやその障壁を生むモノが、その身に纏っていた“人為らざる者の傲慢”では、なくなっていたから。
竜城・陸 2022年4月17日
それを、
――――竜は、“矜持”と言い換えた。
この力は。
人為らざる、過ぎたる、魔にも災いにもなり得るこの力は。
何もかもを守る者である為に、授かったものであると。
守るべきものがある限り、それを守ると願い続ける限り、自身が朽ちることはないと定めたから。
竜城・陸 2022年4月17日
けれど、それを形成する魔力も。
“神の残滓から成る”自身に由来するものなれば――――
竜城・陸 2022年4月17日
――――響いたのは、
澄んだ、少し硬い、硝子が割れるのに似た音。
鎌の刃が、形成された魔術障壁を、断ち割った音。
そうしてそのままに振り下ろされる、鎌の刃の向かう先は、竜の首筋で――――
竜城・陸 2022年4月17日
――――そう。
先の一瞬。障壁が、鎌を留めたのは刹那。
その刹那の間に。
親友たちに繰り返し繰り返し付き合って貰った、その経験則の導くまま。
僅か、ほんの僅かだけ上体を動かすことと。
鎌の刃と、自身の間に、咄嗟に剣を滑り込ませることは、できていた。
それも当然に、彼女の持つ人並み外れた膂力には完全に抗しきれず――
竜城・陸 2022年4月17日
けれど、わずか、ほんのわずかに。
その切っ先は、狙われた首を逸れて、肩口へ向き。
そのまま、弧を描く切っ先は、上体を逸らした分完全な直撃にはならず。
肩から胴を裂いて、肋骨を断ち、肺腑を裂いて、身体から離れた。
竜城・陸 2022年4月17日
剣は、手から離れて落ちた。
平時自身の魔力で完全に“復元”されるはずの身体は、しかし、いつもと同じ道筋をたどることなく。
噴き出す血が、闘技場を染めていく。
竜城・陸 2022年4月17日
「あ、……、う、……っ」
痛みに耐えるように奥歯を食い縛りながら、傷口を抑えて蹲った。
流れ落ちる血を留めようと、傷口を凍結させていき――――
竜城・陸 2022年4月17日
「…………、」
止血を終えて、手を離し、
「………………ちょ、っと。効いた……」
ちょっと、どころではない傷だとは、見た目に明らかだが。
口ばかりは達者に、切れ切れのそんな言葉を紡いだ。
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月17日
過去数度感じた、硬質なモノにぶつかる衝撃。
それを破砕する手応え。
慣れ親しんだ、肉を斬り骨を断つ手触り。
最後に待っていたのは、刃がさくりと地に刺さる感触だった。
リップ・ハップ 2022年4月17日
くたりと膝をつき、浅く速い呼吸が刻まれる。
「やー……私は、もー無理。こっから先があんなら、……はぁ……命がけ」
生々しい疲弊が全身にあった。彼女の身体が本当の意味でそれを感じたのは一体いつぶりなのだろうか。
リップ・ハップ 2022年4月17日
斜めに突き立った鎌。その柄に引っかけた右手でどうにかこうにかサムズアップを、
「やっぱつえーね、陸は」
そして賞賛を送る。
リップ・ハップ 2022年4月17日
左手は柄をひと撫でしていた。
彼の障壁を破った、そして彼の身に届いたその得物を一瞥して。
リップ・ハップ 2022年4月17日
陸に視線を戻す。
「どだった、具合は。……あー、どだったってか、どう? それだいじょぶなやつ?」
戦いを通して感じただろう自分の身体と力の調子。
当然それも聞きたいが、目の前には――氷で覆われているものの――真新しい傷がある。
そもそもがして、生傷を負った彼の姿を見るのは彼女にとって初めての事であり。
(無効票)
竜城・陸 2022年4月17日
「いや、俺も……、
続けるって……ゲホ、言われたら、割と、腕試しの範疇は超えるかも……」
時折大きく息を吐きながら、咳き込みながら。
そんな状態で紡がれる途切れ途切れの言葉も、青白い顔も、どう見ても続けられそうには見えないだろう。
が、「無理だ」とは言わなかった――もうほとんど、意地のようなものだが。
竜城・陸 2022年4月17日
身長に息を吸って、吐いて、呼吸を可能な限りに整えて、
「……、」
いたら、聴こえてきた、言葉に。
竜城・陸 2022年4月17日
「……うん、ありがとう、リップ」
彼女と同級生の、とある生徒に習った呼吸法の基本。
それで、幾分――傷が治ることこそないが――呼吸は整ったようで。
零れた言葉は先よりは少し滑らかで、顔色こそ悪いけれど、表情も穏やかで。
竜城・陸 2022年4月17日
調子は、と問われれば、少し考え込むように視線を落とした。
「……とりあえず、戦闘の時のことに関しては。
前よりよほど出力は上げられたし、翼や尾の扱いも慣れてきたし、反動で体に負担がかかったような感覚もなかった、かな」
考えながら、ひとつひとつ言葉に出し、
竜城・陸 2022年4月17日
傷のことを問われたなら、
「……自分の体への悪影響は、浄化の魔力が取り去ってくれるから。即死でない限り、そのうち治るんだけど」
だけど、と。
言った後、少しばかり考え込んで。
傷の具合の説明に、というよりは。
自分にはわかりきった事実を、言葉に出すことで、罪悪感や責任感を感じさせないかと憂慮したからだが。
「…………ちょーっと、完治に時間がかかるかもな……」
主治医に、病状について虚偽を伝えることはよくないな、と思ったことと。
明日が大事な戦いの日であることも、相俟って。
「今日は少なくとも、ミーレにお願いしたほうがいいかも知れないし、
えーと、……輸血、してもらった方がいいかも、しれない」
結局は、観念して素直に言葉に出した。
(無効票)
リップ・ハップ 2022年4月17日
怪物が少しずつ調子を取り戻してきたのだろうか、身体の回復が緩やかにペースを上げはじめて。
「そっか。成果出てるよーならよかった。これも陸の、そいにあんたを支えてくれるクラスの皆の頑張りの成果だね」
リップ・ハップ 2022年4月17日
「…………」
彼の言を聞き、目視できる傷を観察する。障壁を破ったという事実を心に留め置く。
それらから自身の得物が――名前を思い出しただけの、未だその全貌を知らない大鎌の力が彼の傷を"彼にとってのただの負傷"に留まらせていないという状況を推測するに難くなく。
リップ・ハップ 2022年4月17日
「ミーレのとこまでは、届ける」
それまでの事は任せて、と。
よろり。立ち上がり、がつんと膝に拳を一発。
万全には程遠いそれに活を入れて。
リップ・ハップ 2022年4月17日
「肩貸すよ。あーでも左ね、左。右は今まだ遠慮しといて」
彼の横に並び立ち、くいくいとアピールする。
身長差こそあれ、もたれ掛かり下から支えられるには寧ろ丁度いいだろう。
(無効票)
竜城・陸 2022年4月17日
「――――そうだね。そう、思うよ」
クラスの皆の尽力、という話と。
あるいは、自身の――という話まで、全てを含んで、頷いて。
竜城・陸 2022年4月17日
「……と、ああ……」
立ち上がる彼女を見上げて、
無理しなくていいよ、と言いかけて。
けれど――さすがに肺が半分潰れて血が全く足りないこの状況では、まっすぐ歩くことも難しそうで。
竜城・陸 2022年4月17日
取り落とした剣を手に取って、杖のように支えにして立ち上がり。
それを虚空へ返してから、
「…………ごめんね、世話をかけてしまって。」
素直に、言葉に甘えるように。
彼女の左肩に、少し体重を預けるように寄り掛かるのだった。
(。)
リップ・ハップ 2022年4月17日
「いーってことよ」
肩にかかる重さ。身体の幾らかを預ける彼と共に歩き出す。
リップ・ハップ 2022年4月17日
「私も得るもんあったし」
運ぶだけなら十分となりつつある右腕に持ち替えた大鎌。
視線はそれに向け、思考は今日の結果と彼の容体に傾けるのだった。
(。)