第10試合:氷獄詩変・蜘蛛の糸
神居・メト 2022年4月14日
どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を迷つてゐる遑はない。迷つていれば、いづれの波の下か、冷たい築地の上で、先の会戦のやうに何事も大きく掴むこともなく潰へるばかりである。迷わないとすれば────三人の考へは、何度も同じ道を低徊した揚句に、やつとこの局所へ逢着した。
《仲間のアシストで大波乱の波止場を脱し、
ゴールデンプチギガース出現ポイントである南側倉庫に向けて
【741310】のニ名が移動!》
《しかしそこで待ち受けているのは────!!》
────其処には一人の竜が、
倉庫の屋根の上で、時を待ってゐた。
0
竜城・陸 2022年4月14日
(五十七秒、)
(――満ちる冷気、)
竜城・陸 2022年4月14日
(五十八秒、)
(――刺すような殺気。)
竜城・陸 2022年4月14日
(殺気は、)(冷気も)(静寂も)
(この倉庫内、全域に満ちていた)
(逃げ場はない、などということは、十分に理解できるだろう)
竜城・陸 2022年4月14日
(そして、)
竜城・陸 2022年4月14日
(五十九秒、)
『死は――』
(全き静寂に、ことばだけが響くなか、)
(“その時”が訪れる――――)
(無効票)
十埼・竜 2022年4月14日
(待っていたのは、『座標』)
十埼・竜 2022年4月14日
(張り詰め冷え切り静まり返った倉庫の一角に、あぶく一つ分の、さざなみ)
(世界に新たな異物が割り込むときの幽かな揺らぎ)
、、、
(そこか!!!)
(無効票)
竜城・陸 2022年4月14日
. ・・
(――――それと、ほぼ同時に、)
『――汝が傍に』
(静寂は破られ、)
(無効票)
十埼・竜 2022年4月14日
(背中を押された勢いで駆け)
(同時に残った力をここに賭ける)
(遍く“波”を捉える電波の網を二重三重十重二十重!!!)
(出現しつつある『それ』にも、ぼくのいとはしっかりと絡みついて)
(きみへとつながったはず)
(無効票)
竜城・陸 2022年4月14日
(堰を切ったように、あらゆる命を狩り尽くす氷嵐が吹き荒れて――――)
(無効票)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(斬られた肩から零れ落ちるリソースを意に介さず。)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(その“眼”はただ眼前をの暴威を睨み。)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(残った片手が、虚空を掴む。)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(残されたリソース全てをを用い、スカイセンサーから放たれる無数の電波を、有質量の網として構築し続ける。)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(……網羅、というパラドクスは。)
(そこにある「電波」を「網」という形で具現化するパラドクスである。)
(初めからそこにあるものである以上、発動から展開までの時間は、無い。)
(加えて。扱う物が電波である以上、その速度は文字通り「光速」だ。)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(故に、どれだけの量の電波であろうと、構築するまでの速度は一瞬である。)
(無効票)
竜城・陸 2022年4月14日
(――――構築された、その、“網”が、先程までと同じ密度であったのなら。)
(きっと、この氷嵐は容易くそれごと彼らを呑み込み、瞬く間に虚空へと還してしまっただろう)
(けれど、十重二十重にも編まれた“波”を具現化したそれは、現実では有り得ないほどの密度を以て展開され)
(その精緻にして堅固な網目は、僅かの冷気がその向こうへ抜けることも赦さず、)
(迫り来る氷嵐の物量それ自体に砕かれるまで。)
(その勢いを、その冷気によるアバター体への侵蝕を押しとどめる。)
竜城・陸 2022年4月14日
(――思い返せば、確実に。)
(攻撃の発生は、少年の行動に、刹那、劣後した。)
(その“刹那”は、少女の“網”に拡げられ)
(標的の出現と“同時に”駆け出した少年が、フィールド内を自由に駆けることを許すだけの“間隙”となり――)
竜城・陸 2022年4月14日
(――そして)
(それは、同時に)
(少年を信じて“次の手”を打つ少女の動きを、許容するだけの間隙でも、ある――)
(無効票)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(スカイセンサーならば。十埼・竜ならば。)
(この電波の先には間違いなく。)
(捉えているはずなのだ。)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(そして。)
(ズィーベン・フィーアの最高速は、「かの一恋・花束の通常動作と、比する速度」だ。)
(風よりも。音よりも早い。)
(「青」の速度領域の一手で、網を。電波の先にある『それ』を。手繰り寄せる。)
(無効票)
竜城・陸 2022年4月14日
(――――それと、ほぼ同時)
(荒れ狂う氷嵐が生み出す冷気が、“網”を侵蝕し)
(それはすぐに、無数の皹を生んで、)
(音を立てて――――)
(無効票)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(その身を守る網は容易く砕け散り。)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(吹き荒ぶ冷気が、広がっていく。)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(「これでは、また。私の負けですね。」等と呟く暇も無く。)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(少女の体は、凍て付き砕けていく。)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(腕を失った肩から零れるリソースが凍り。)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(全身の皮膚が凍てつき。)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(その“眼”の機能が凍結し。)
ズィーベン・フィーア 2022年4月14日
(最後に、網を握っていた拳が、砕けて消えた。)
(離脱)
竜城・陸 2022年4月14日
(――――氷雪が“網”を破り、再び吹き荒れるまでに要した時間は、一瞬で)
(けれどその一瞬で、状況は劇的に動いていた)
竜城・陸 2022年4月14日
(崩れゆく体に、視線こそ向けずとも)
(――「やられたよ」)
(そう、唇が動いたのを)
(その口元に浮いた、紛れもない称賛の笑みを)
(凍て尽いた少女はもう、見ていなかったかもしれないが)
竜城・陸 2022年4月14日
(――内心、間に合わないだろうな、なんて思いも、浮かびはしていて)
(けれど、)
……だから諦める、なんていうのは、俺の流儀じゃないしね。
(なんて、そんな呟き一つ)
(手に持った剣を、標的へ向かって投げ放ち――)
(。)
十埼・竜 2022年4月14日
(実体化した網に絡め取られ、彼女が手繰り寄せた金色の体が)
(ぼくに向かって飛び込んでくる)
(凍てつく死は、すぐ背中に、踵に、迫る)
十埼・竜 2022年4月14日
(稼げた時間は)(ぼくの反応速度のぶんと、網羅の防壁ぶんと、手元に引き寄せた標的のぶんと)
(嵐を背にしたぼくの体、脆い盾ひとつぶん)
(既に握りしめている)
(耳が、目が、腕が、動くうちに)
(今度こそ外さない)
(黄金に向かって、銃口を)
十埼・竜 2022年4月14日
ーーーーーー!!!!!
十埼・竜 2022年4月14日
(咆哮も銃声も背中を貫く剣の痛みも、すべて氷の嵐が呑み込んだ。)
(離脱)
竜城・陸 2022年4月14日
 ̄ ̄―‐――___ ̄ ̄――― ___ =―  ̄ ̄___ ̄―==
―――― == ―― ̄ ̄ ̄ ―__――━ ̄ ̄_――_
 ̄ _―_ ̄―=ー =_≡_ ̄― =-=
竜城・陸 2022年4月14日
_ ̄―=  ̄≡_―ー= _≡ ̄≡_―
 ̄―‐―― __ ̄ ̄――__=≡_-
――― ==  ̄ ̄_
竜城・陸 2022年4月14日
 ̄≡ _―_ ̄―=
_―=
竜城・陸 2022年4月14日
.
.
竜城・陸 2022年4月14日
(――――荒れ狂う氷嵐が嘘のように引いたあと。)
(半壊した倉庫の中に残ったのは、たったひとり)
竜城・陸 2022年4月14日
(落ちた剣を拾い上げる)
(少年がいた痕跡も)(少女がいた痕跡も)(もうどこにも残っていない)
(静寂の中に響くのは、自身の靴音と、)
竜城・陸 2022年4月14日
《――_=―……が――_━ ̄ ̄ ました―=》
(途切れ途切れの、ノイズのような、誰かの声)
竜城・陸 2022年4月14日
(ここら一帯の“波”は全て形になって、)
(そして氷嵐が食い潰してしまった)
(だから、途切れ途切れのそれの中身は、この耳にはほとんど届かないけれど――)
竜城・陸 2022年4月14日
《_ ̄=数の集_━ ̄ りま――_》
(見ている多くの生徒たちには、確かに聴こえているだろうから)
《勝―__は――――》
(彼らの手には確かに、“宝”をその手に掴んだ感触が残っただろうから、それでいい)
竜城・陸 2022年4月14日
(――最初から、侮ってなどいなかった)
(油断をしたつもりだって、一切なく)
(手を抜いたつもりだってない)
(だから、これは――)
竜城・陸 2022年4月14日
……その知恵と勇気で、竜でも神でも出し抜いてしまう。
そういうものだものね、人間は。
(今できる最善を以てなお、一歩先を行ったのは“人”の機知と機転だった)
(ただ、それだけのこと)
竜城・陸 2022年4月14日
(降ってわいた幸運でもなく)
(折り重なる偶発的事象に救われた、というのでも、でもなく)
竜城・陸 2022年4月14日
(その持てる全てを以てして、“必然”を手繰り寄せ)
(勝利を勝ち取ったのは――――)