第7試合:路地裏サテライツ
三隅・彩乃 2022年4月7日
S1:第7試合 ~市街地~
⑤住宅地付近にて
入り組んだ路地、立ち並ぶ家々、空を切り分ける電線の群れ。
人々の営みを模した箱庭の中に、暮らす人の姿はない。
それでも、仮想で作られた町並みには、電信柱の間を縫う電話局のケーブル。
甍の波の向こうには、聳える基地局の電波塔。
ベランダから空へと掌を広げるような、衛星放送の受信アンテナ。
それが人の暮らしだと主張するように、繋がりの象徴が立ち並ぶ。
住民だけが消え去った、見慣れた狭い街並みの
静かだった電脳の空に、波が広がっていく。
0
新堂・亜唯 2022年4月9日
(――試合開始直後、地図表示⑤、住宅地付近)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
ええい……今回は孤立スタートかよ。
一貴たちは合流しやすそうだけど……。
(そこは、馴染みある日本の街並みを再現したような入り組んだ路地)
(家々の塀と植え込みに区切られた道、頭上に広がる電線の群れ……視界が悪いのは、単独行動には助かるところか)
とりあえず、大通りを渡って東に向かうか……?
(周囲を軽く確認しつつ、小さな体が路地を駆けだしていく)
十埼・竜 2022年4月9日
(――――びしり、窓ガラスが鳴る)
(路地に面した――――否。)
(この住宅街全体が、空気が重く張り詰めるように、一瞬、こわばって)
(テレビがひとりでにつく)
(ラジオがひとりでにつく)
(そこらに止めてあった車が勝手にクラクションを鳴らす)
(住宅街中の時計が、アラームが、火災報知器が、あらゆる音を放つものがけたたましく叫び出す)
(足音を掻き消すほどの大音量で!)
(無効票)
十埼・竜 2022年4月9日
(――――聴きようによっては、大層豪勢な喧嘩販売だった。)
新堂・亜唯 2022年4月9日
――!
(フィールドの隅だけあって、静かな一帯だ)
(だからこそ、窓ガラスの震えに気づくのは早かった)
……そう言えば、この地帯に転送されたのは俺だけじゃ……
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
なっ、これは――!!?
(異能というほどではないが、亜唯も耳は良いほうだ、ゆえに)
(その耳を劈くような大音響には、あっというまに驚きを通り越し、苦痛へと変わった)
(――攻撃を受けている!? くそっ!)
(両手で耳を塞ぎながら、路地をかけ、当たりを見回す。確か、このあたりに転送されているのは)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
……っ!!
(「とんだゲリラ放送じゃん、竜先輩」という文句も、街を震わす音に呑まれた)
十埼・竜 2022年4月9日
(自分の、剥き出しの耳に触れて。)
――――ふたりとも、誰か近づいたら知らせるから。
……ぼくも、なるべく、喰いとめる。
(大丈夫、だいじょうぶ。二度繰り返して、一旦通信を切る)
(無効票)
十埼・竜 2022年4月9日
……あいくん、かぁ。
止まってくれた。やっぱり素直で、いい子だね。
(普段は厭う轟音の真ん中でも平気な顔で、電線の向こうの空を見上げて)
(手を、振り翳す)
(――――きみにとっては、向かうべき大通りの方から聴こえるだろう)(断続的な爆発音と銃声が更に耳に負荷をかける)
(まるで、この場にぼくのチームメイトが揃ってしまったかのように)
新堂・亜唯 2022年4月9日
……!?
(向かおうとしていた方向から聞こえてくる、戦闘音)
(銃声!? 一貴や未樹の攻撃で聞こえてくる音ではないはず。この試合の参加者で銃を使う相手なんて……)
……敵チーム? まさか、こっちに集合してきてるのか!?
(ただでさえ、視界の悪い住宅地。彼が与えた音の情報だけで、戦況を誤認するには十分だった)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
……っ(強行突破はできないだろう。大通り側には進めない。ならば)
ここは、竜先輩とやるしかないか!
(開けた通りに出ることをやめ、踵を返し、路地側に駆けだした)
(とにかく、向こうの音は障害物を貫通して届き続ける。音を出している本人をあぶりださねば始まらない!!)
(片手で片耳を塞ぎながら、もう片方の拳を握りしめ)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
おらぁっ!!
https://tw7.t-walker.jp/garage/gravity/show?gravity_id=26921
(空拳と名付けたその技は、拳の勢いで、見えない砲弾の如き風圧を飛ばす)
(敵が見えなくても戦い様があるのが、トライデントだ。路地にいるプチギガースを巻き込みながら、周辺の民家ごと巻き込んで崩し始めた)
(点数を稼ぎながら、敵をあぶり出そうという魂胆だ)
十埼・竜 2022年4月9日
(こっちに走ってくるのを、音の“波”で捕捉して)
(試合時間10分。勝利条件の投入までならたった3分。
ぼくの仕事は、他のふたりの『耳』役をやりながら、きみをここに引きつけて逃げ回ることだ。幸いここはひどく入り組んでいるし、そもそもぼくには――――)
(無効票)
十埼・竜 2022年4月9日
(どばーーーん!!!)
(衝撃波だか暴風だかわかんない『圧』が主無き民家を横から殴りつけて突き抜けていった!!)
……!!(悲鳴上げそうになったけど必死にこらえる。だって家ぶっ壊されたらその分音のイヤガラセには空白地帯ができるから!!)
(無効票)
十埼・竜 2022年4月9日
(ついでにぽぽん、と軽快な音を立ててプチギガースが消えていくのも聴こえる)
……だよなぁそーなるよなあ!
(きみには、見えただろうか)
(路地のどこかの一角、空をかがる、電線が)
(不意にばらばらと切れて垂れさがったのだ。)
新堂・亜唯 2022年4月9日
こっちにいるプチギガースは、特別多いわけじゃない。
ここに居座っても点数への貢献は大きくないだろうけど……(地道にやるのは勝利へつながる)
(それに、得点し始めれば敵も黙ってはいられない、と考えたのだが)
……おっ。
(家を壊したことで、音を出す端末が少し減ったことに気づけば、その空白地帯に一端足を止め)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
……!!
(屋根の向こう、電線が切れたのが見えた。確かに、見えた)
(それは、相手にとって好ましい現象か否か)
(――縮こまっているよりは、後者に賭ける価値はある)
行ってみるか!
(地面を蹴り、塀を乗り越え、家の窓を、扉を叩き壊しながら、できるだけ直線で進む)
(目指すは電線の切断地点!)
十埼・竜 2022年4月9日
(壊された建物のぶん)
(千切れた水道管からは水が漏れて、路地を濡らしている)
(小さな丸い、ゴーレムの濡れた足跡が、いくつか。てんてんと続いて)
(きみが薙ぎ倒すプチギガースも、よく見れば、皆同じ方向を目指していた。)
(無効票)
十埼・竜 2022年4月9日
(ノイズを破壊音が叩き潰してゆく、その先。)
(件の電線は、大きな水たまりにすっかり浸かり込んでいた。)
(ばち、ぽしゅん。)
(プチギガースは、その電線が敵であるかのように突っ込んでいって)
(ばちん。ぽしゅん。)
(煙をあげている。)
(――――きみがそれを見て、足をとめたのなら。)
(ぱぁん、と、拙い銃撃が放たれる。)
新堂・亜唯 2022年4月9日
(水道管に影響が出てる。VR空間では地下まで作りこまれてるなら、ガス缶とかには気を付けなきゃならないか)
(なんて考えながら、濡れた足跡をたどって、瓦礫の増えた路地を駆けていく)
(そうしながら、気づけば、プチギガースが何かに誘導されているようで――)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
――あ。
(水たまりまでたどり着いて、気づいた)
(〝ビリ猟〟だ。この人、ターゲットを誘導して一気に掃除してる)
(まずい。これが出来る相手を生かしておくのは――)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
――!!
(すんでのところで、背を反らすようにして銃撃を避けた)
(なびく金色の髪が、銃弾に掠れてはらはらと落ちていく)
そこかぁっ!!
(再び、〝空拳〟。銃撃の飛んできた方向へ、空気の拳が飛んでいく)
十埼・竜 2022年4月9日
(そもそもぼくには――――ろくな攻撃手段がない。)
(音でリソースを削り切れるわけでもなく、普段の依頼だって攻撃は完全にひとまかせ。同士討ちや自滅を誘えても、ぼく自身ができることといったら)
(ああ、今更、悔やんでも仕方ないけれど。)
(無効票)
十埼・竜 2022年4月9日
っ!(この距離で外すのめちゃめちゃカッコ悪いな!!)
(弾はその鬣みたいな髪を掠っただけだった。小さな体が大きく反って、体の捻りが綺麗に流れるように。その拳に、剣呑な“波”が渦巻くのが聴こえて)
(こっちが隠れていたのが、路地から見えにくく暗い建物の中なのが思いっきり裏目に出た)
(がしゃん!ばきん!!派手な破砕音が耳を劈いて)
(顔面を庇った腕から先が千切れて吹き飛ぶのが見えた)
(無効票)
十埼・竜 2022年4月9日
……あたり。
(腕の断面を見せつけるみたいに、翳す。深呼吸。ここからこの距離、きみの間合いで、まだぼくにできることって?)
(もし、きみが通信機などを耳につけているのなら。じりじりと嫌なノイズを吐き出し始める――――耳元で音を爆発させれば、せめてその聴覚を、道連れくらいにはできるだろうか。)
新堂・亜唯 2022年4月9日
……っ……!
(弾も避けたが、こちらも、仕留め損ねた)
(思うに、竜先輩に真っ向勝負のイメージはない。姿を現したその表情には、若干の諦観を感じるか?)
(いや――残り時間に気を配る。随分とこの住宅地に留められた。残り時間は? 騒音で通信はろくにできなかった。仲間たちの戦況に気を配る余裕も……)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
(その一瞬の思考すら、敵の前でするには、うかつだった)
――っづぁ、あああああっ!!!!
(彼の目論見通り。通信機は耳にセットしたままだった。ノイズ、と認識する間もなく、鼓膜から三半規管まで音の爆発がブチ抜いていく)
(煩い、というより、痺れる。下顎にかけて突き抜ける痛みがあって、脳を揺らされるような――)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
(――まったく、この期に及んで何を。どれだけ目の前の先輩に苦しめられたと思ってる)
(油断できるような、気を散らせるような身分か? この自分が)
………っ……
(残り時間はもうない。今吐き出せるものを、吐き出さねば)
……ら゛……っ……
(左手で支えた、右手をおおまかに、彼の方向へ向ける。右手の親指と中指を合わせた)
(――いわゆる〝指パッチン〟の構えに見えるだろうか)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
…………螺月流……っ
(急に、あたりでけたたましく音が鳴り始めた)
(先ほど彼が慣らしていた数多の騒音が、まるで早回しのように鳴り響きながら、亜唯のいる位置へと向かって集まってきて)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
―――奥義。
(やがて、全ての音が吸い取られたように、無音になる)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
(ぱちん、と指を鳴らすと共に)
(周囲の空間が螺旋状に〝捻じれ〟ながら、指を向けた方向にある物体を捻り潰していった)
十埼・竜 2022年4月9日
(うめき声に目を伏せてしまった)
(ごめんね)
(それ、痛くて気持ち悪くてほんと最悪、なんだよな)
(そんなの、ぼくが一番よく知ってる)
(────ああ)
(それでも、きみは、立ち向かえるんだ。)
(無効票)
十埼・竜 2022年4月9日
(リソース低下のアラートが頭に響く。わかってるってば。稼いだ時間で、最後の通信を飛ば────)
…………!?
(ぶわ、と)
(散々鳴らしてそのまま散ったはずの、音の"波"が、街の四方八方から立ち上がり津波みたいに押し寄せてくる、その肌触りに総毛立つ)(狼狽えて空を見上げすらする。頭の上からすべての音が降ってくるような錯覚────は、現実のものにはならなかった)
(無効票)
十埼・竜 2022年4月9日
(かわりに────耳が痛むほどの、静寂)(アラートすら聴こえない)
(きっと構えたその指先に"波"のなにもかもが飲み込まれて、小さく小さく押し込められて、それを解き放とうものなら────)
(そう予測できたところで、なすすべなく)
(ばきばきばぎばぎめきめきめぎぐしゃぐしゃぐじゃぐじゃ静寂を捻り掻き毟る音が轟轟とぼくに迫り、圧し折り、砕き潰して)
(無効票)
十埼・竜 2022年4月9日
(ぼくの最期ってだいたいこうなんだな、つくづく)
(────きっとそこには、あとかたも残らないだろう。
呼び寄せていたプチギガースも含めて。)
(離脱)
新堂・亜唯 2022年4月9日
………。
(拳を前に突き出したまま、足にはもう力が入らない)
(今の攻撃でプチギガースは何体か巻き込めただろうか。全体の得点数はどうなっているのだろうか)
(もう分からない、今の攻撃で、全てのリソースは吐き切ったのだ)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
……あ゛ー……。
(未だ正常にならない平衡感覚のまま、崩れ落ちる)
(空は揺らいでいるように見えるけど、先ほどよりは広く見える。当たりの電線が、攻撃の余波で切れたせいだった)
(壊れた通信機からは、誰の声も聞こえてこない。そもそも話しかけられたって、この耳では聞こえないだろうけど)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年4月9日
(とにも、かくにも)
…………静かだな……。
(瓦礫の山に、もう音はしなかった)
(離脱)