【個】宵闇に深く
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月18日
下駄箱に手紙を入れた。
場所と時間だけが書かれた手紙。
今どき、メールで済ませればいいのにとも思ったがこっちのほうが通じそうな相手だったからだ。
内容は、そうでもないかもしれないけれど。
――――そんなわけで、指定の時間である17時。
日も高くなってきた放課後、区が取り戻されたことによって地形が変わり、放棄された港。
柔らかい風に乗って磯の匂いが香る、空っぽのコンテナ地帯。
時間が止まったような場所。
対象
#ミサゴ・ゾーリンゲン
#竜城・陸
0
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
弾丸が光に、熱に触れる。
一瞬で溶かされ、弾丸だったものは無惨に床へと零れて終わる。
そう、ただの弾丸ならば。
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
“洗礼弾”と呼ばれる弾丸がある。
教会の信仰、つまりは神と呼ばれるそれに対する何千万という想いの上塗りによって超常的な現象を“破壊”する術式の込められた弾丸だ。
――とはいえ、それでどうにかできるものには限度がある。ましてや、神に近しいそれを神への信仰で突破できるはずがない。
故に、この弾丸に込められたものは“信仰”ではない。
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
「“地獄”だ」
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
「地球上の消え去った部分。戻ってきていない部分の人間――ひいては大地そのものが抱く“怒り”」
「この炎は、まだ戻ってきていない大地の想い。
“神”だろうが、この惑星にいるのなら、抗えない。抗わせない
グラビティチェイン
“重力の鎖”」
「オレの信仰、オレの根源、オレの根幹」
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
――光を、熱を突破した弾丸が竜の頬を掠めた。
「『吼えるクジラ号』が船員見習い。ミサゴ・ゾーリンゲン」
「来いよ。フィジカル以外は全部撃ち落としてやる」
(無効票)
竜城・陸 2022年2月19日
「……地獄」
呟いた。
血は流れない。蒸発するように消えて、そのまま傷も癒える。
――なるほど。
小さく呟いて、
竜城・陸 2022年2月19日
――武器を降ろした。
たぶん、
・・・・・・・・・・・・・・
今から行うことに耐えられないから。
竜城・陸 2022年2月19日
「――仕方がないな、」
さて、正直、しかしこれに自分が耐えられるものやら。
わからないが――
「悪いけど、ミサゴ」
竜城・陸 2022年2月19日
「加減ができないから」
「全身全霊の一撃で来て欲しい」
「でないと――」
竜城・陸 2022年2月19日
「ここへきて初めて、人を殺すことになる」
(無効票)
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
―――――熱い。身体の内側も、外側も。
なのに何故か、一瞬凍てつくような悪寒が走った。
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
《地獄》には大きく分けて2つの使い方がある。
拳で打ち込むことで「人間」へ相手のスペックを落とし込んでいく《グラビティチェイン》
“洗礼弾”に込めたのも、その一端だ。
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
――ハンドガンを、マガジンが空になるまで撃ち尽くす。
リコイル
狙いはつけていない。その反動がほしい。
“停滞装甲”を通じ、蓄えられた反動はハンドガンが10発、ショットガンが9発、スナイパーライフルが1発、対物狙撃銃が1発。
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
もう一つ。
無尽蔵ともいえる魔力の濁流を肉体の強化に回す《インフェルノファクター》
構えた右の拳が、赤黒い炎に包まれた。
「おう」
――――地獄と、蓄積された反動。細かい迎撃は必要ない。総てを、一撃に集約する。
(無効票)
竜城・陸 2022年2月19日
「――ありがとう」
編むそれは、完全なものではない。
とりもなおさずこの身体がまだそれに耐えきれる状態ではないから。
だから――多分――彼が全力で抗うのなら、
「死なないでよ?」
信じてるからね、と、
竜城・陸 2022年2月19日
――――呟いた声が溶けると同時に、
その姿も、溶けていた。
竜城・陸 2022年2月19日
――いや、正確には、まだ“そこにある”ことくらいは感じられたかもしれない。
ただ、まるで陽炎みたいに揺らいで、
その奥に、べつの何かを見ているような、そういう感覚だ。
竜城・陸 2022年2月19日
何処までも高く遠い、
何もかもが満ちているような空虚。
熱いのになぜか、空恐ろしいくらいに寒々しい。
・・・・・・・・・・・・・・
世界の涯ての空を見上げている。
何故だか確信めいて、そう思わされる――その奥に。
身も心も溶かし尽くされるような、全てを灼き尽くすような、
どこまでもただただ、高く、遠く、鮮烈な、
畏怖すべき、なにかが在ることを、
感じるだろう。
竜城・陸 2022年2月19日
――それこそ、これがただの光であったなら。
ただの超常であったなら。
この重力の鎖に抗うことは、困難であったかもしれない。
けれど――
竜城・陸 2022年2月19日
――――どの文明にも、どの地域にも。
等しく人々が崇め奉り、絶対と奉ずるものがある。
地球と呼ばれるこの惑星を、“人の生きるべき場所”たらしめているもの。
すなわち――
ひとが、“太陽”と呼ぶモノである。
竜城・陸 2022年2月19日
人は太陽に抗わない。
――それが絶対のものであると信じているから。
太古の昔から。
今に至るまで。
そして。
竜城・陸 2022年2月19日
数々の神話、文明に於いて。
たとえば、神々の主、王の御父として。
たとえば、不変の裁きを齎すものとして。
たとえば、善良なる真実と正義の主として。
時に――“運命を決する者”として定義される、
“光の神”とは、
すなわち“太陽の神格”である。
――そして。
この“神”はまさしく、“そういうもの”だ。
竜城・陸 2022年2月19日
だから。
――その“地獄”が、この惑星を端とするものである限り。
それが、“神としての自身の全力”を侵す道理は、ない。
少なくともこの竜がそうと信じていれば、“そう”である。
――ゆえに、ここで、問題となるものは、
その全力を「自身の制御できるサイズに留められるか否か」だけだ。
竜城・陸 2022年2月19日
溶けかけた自身を確立するために、強く思う。
“見せてもらいに来た”と言った彼に、まともな自分を見せてはやれなかったこと。
――“そうである自分”を厭った結果の、中途半端な、ただの化け物の姿。
そんな姿だけを彼の中に残しておくのは――――
竜城・陸 2022年2月19日
「――正直、悔しいからね……!」
今度はきっとまともに、「声」として耳に届いただろう。
この“全力”に耐えられる武具など持ってはいないから。
結局、振るうのは己の拳。
叩きつければ砕ける脆いそれでも、“己の魔力を乗せるに堪える器”ではある。
全力を、その右の拳だけに込めて――
竜城・陸 2022年2月19日
――存在の維持だけで精一杯の拳は、狙いなんて全く付けられないまま、
どこに向かって飛んだやら、自分でもわからなかったけれど。
(無効票)
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
曰く。
太陽神だろうと、人は自分たちに害をなすのならば打倒したのだという。
母親から聞いた話だ。本当かどうかはわからないし、そもそも神様の定義からしてズレるのかもしれないけれど、それでも。
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
人間の可能性――この惑星の可能性は、無限大で。
御伽噺を終わらせるのは、いつだって人間の仕事だ。
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
.
チ カ ラ
この“地獄”で、出来ない道理はない。
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
「うるせえな――こっちは全部出してんだ」
ヒトがいつだってそうしてきたように、前へと一歩、踏み出す。
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
「ダサく終われねえだろ―――ッ」
踏み込んだ足に、振り抜いた拳に、全ての反動と“地獄”を乗せて、その右腕を振るう――!
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
思いの丈では五部。
なら、勝敗を分けるのは――――
竜城・陸 2022年2月19日
――当然、この体で振るえば“神”の権能は十全にはならない。
自分は、死んだ神の灰から生まれたモノだ。
刻逆というものによって、死の運命を結果的に免れただけのもの。
“神”はもはや、「自分が一度死んでいる」ということを理解してしまっている。
竜城・陸 2022年2月19日
――当然、神が滅びないということなどない。
この“神”の世界観に於いて、“神”とは“自然”である。
それこそ、父なる神を討ち果たす、なんていう物語の文脈なんて枚挙にいとまがないし。
人が自然に――太陽が齎す数々の天災にも――幾度となく抗い、結果としてここに歴史を繋いだことも、“神”は知っている。
竜城・陸 2022年2月19日
だけど、
でも、
一歩一歩を踏みしめて歩く愛すべきものたちを守る力を、
それを示す方法が今、これであるとするのなら、
絶対に、負けたくはないから――
竜城・陸 2022年2月19日
――“それも貴方なら。
「そうしたい」んだってことが、伝わるといいわね”――
竜城・陸 2022年2月19日
(――ああ、)
(ようやくわかった)
(“俺”の伝えたいこと――――)
竜城・陸 2022年2月19日
――拳に込めた、魔力が、まだ強くなる。
まだ、ここを力の底にはしない。
どうして、“そう”であったのか。
思い出せたから――
――――もう、大丈夫だから。
竜城・陸 2022年2月19日
その拳は、きっと、彼の拳とぶつかり合えば簡単に砕けたけれど。
そこに込められた魔力は、相手の身体を傷つけることひとつなく、
――ただ、その身に宿った力の全てを、“浄化”の権能で、空にして。
竜城・陸 2022年2月19日
それで、呆気なく、光は霧散した。
(無効票)
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
地獄というのは、不安定な力だ。
文字通り制御不能の濁流で、その根源にあるのは怒りという負の感情だ。
碌に訓練もしていない能力を使いこなすのが土台無理な話なら、相性の悪い力とぶつかった時にどうなるのかなんて想定しているはずもなく――
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
「…………寸前で切り替えたな。勘か?」
単純な出力勝負になるかと思っていたが、そうはならなかった。
お互いの右拳が、コツンと衝突するだけのあっけないほど可愛らしい終わり。
想定していない事態に、苦笑して。
(無効票)
竜城・陸 2022年2月19日
「……いや、別にそういうんじゃないかな」
軽く苦笑して、砕ける――というほどもなかった拳をまじまじと見る。
竜城・陸 2022年2月19日
「ただ、そういう――ただぶつけるだけが、示すことではないな、と。
負けない――というのはそういうことだけではないな、と。
思っただけ、というか」
――あの一瞬でそれを思い出さなかったら、どうなってただろうな。
ちらりとそんなことを考えて、やめて。
竜城・陸 2022年2月19日
目を閉じて、開く。
「――まあ、色々と自覚させられたって話かな」
(無効票)
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
「また仙人みたいなことを……」
――とはいえ、訓練の域を超えてきていたところで。
我ながら少し箍を外しすぎた、と。
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
「……まあ、見たいものは凡そ見れた気がするし、いいや」
(。)
竜城・陸 2022年2月19日
「え、そうかな……みんな考えたりしない?
自分の力はどう使うべき、みたいなそういうこと」
若干砕けた、そんな調子で言って、
「……うん、そうか。それなら、何より。
前のはさすがに、格好悪いし」
(。)
ミサゴ・ゾーリンゲン 2022年2月19日
「どう使うか、決めてるから迷わねえんだよ」
自分の場合は――だが。
「…………いいんじゃねえの。満足したなら。
んじゃ、片づけていこうぜ。流石に騒ぎ過ぎて誰かしら見に来られても困るし――――」
竜城・陸 2022年2月19日
「でもほら、使い方にも形があるだろ。今回はそういう話って言うか」
なまじ力の形が定まっていない分そういうのが、……とか。
言いつつ、続いた言葉にそういえばと、先程突き破った天井を見上げて。
「これ、壊して大丈夫だったよね?
ダメだったら修理、付き合ってね……」
しとらに頼むのもあれだし。
なんて少し疲れた口調で、そんな言葉を付け足しつつ――――