【終末ラジオ】第2週。_ ̄―=後。
十埼・竜 2022年2月11日
────やがて、灯台の窓の明かりが消えて、
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十埼・竜 2022年2月11日
(……端末を片手でいじりながら、少し険しい顔をして。異形のヘッドホンを被った白い少年────ぼくは、そういつもと変わりなく、灯台の扉を開けて外に出た。)
奉利・聖 2022年2月11日
(金の髪を夜風に靡かせて)
(背の高い男は、そこにいた)
奉利・聖 2022年2月11日
……………。
奉利・聖 2022年2月11日
…おりましたか。
(ふぅ、と息を吐いた)
十埼・竜 2022年2月11日
(顔をあげて。)
(…………それで、何が起こったのか────あの放送が流れたんだな、って、察しはついた。)
十埼・竜 2022年2月11日
おりましたか、なんてへんなこと言うなあ……今夜も聞いて貰えてないのは残念だけど。
(大丈夫、大丈夫。まるで言い聞かせるみたいに柔らかく繰り返して、ひらひら手を振った。ほら、元気。)
十埼・竜 2022年2月11日
(────消えた、なんて自覚はどこにもない)
奉利・聖 2022年2月11日
消えていたんです。
奉利・聖 2022年2月11日
貴方の気運が、完全に。
奉利・聖 2022年2月11日
(そっと、タトゥーに塗れて手を差し出した)
触れてください。
今。貴方は。ちゃんと存在しているのですか。
十埼・竜 2022年2月11日
(振った手が凍りつく。そのまま、ぱたり、落ちた)
きえていたんです?(鸚鵡返し。)
十埼・竜 2022年2月11日
………消えた?
(重そうなヘッドホンごと、鳥みたいに首を傾けて。再びの句にはもう少し血が通った────慄きと、焦りが。)
(落ちた掌を持ち上げて目の前に晒す。夜闇に青白く浮かぶ両手の細い指。)
……って、なに。
(ゆっくりと、視線を)(入墨だらけの手に移して)
奉利・聖 2022年2月11日
──人の気運が消えるのは。
その人が死した時と。
『消滅』した時です。
十埼・竜 2022年2月11日
(おそる、おそる、その文様を指でなぞるように、触れる)(ぼくの手もいつも冷たいけど、このひともそうだ)
……ほら。
(確かめるみたいに、手のひらで触って、)(握る)
ありますよ。手。……ぼく。
奉利・聖 2022年2月11日
…僕はずっとここで知覚の網を広げておりました。
異常は無かった──あなたの気運が消えた以外は。
放送の時間の間だけ、貴方は
『居なかった』
十埼・竜 2022年2月11日
(妙なラジオを前にして、自分の手がノイズで霞んで消えた────あれをぼくは『気のせい』だと思っていた)
死んでない、よ。ぼく。まだ。
消えてもいない。
消えてない。
……ね。
十埼・竜 2022年2月11日
気のせい、なんじゃ、ない?
(軽い、軽い、誤魔化しに縋る眼差しで)(だって、先輩は────本気でそう言っていると、ぼくの耳は聴き取っている)
奉利・聖 2022年2月11日
(…ちゃんとこの手はある)
……今はちゃんと、居るみたいですが。
竜さん。「Radio-DINO」は言っていました。
奉利・聖 2022年2月11日
聴取率の振るわない番組は、残念ながら終了となると。
だから存続の為には、聴いて欲しいと。
貴方の今夜の放送は、誰も聴いていなかった。聴けなかった。
もし、これが貴方にも適応されているのなら。
もしこれが、続くのでしたら。
(その先は…言葉にしなかった)
十埼・竜 2022年2月11日
(指先が真っ白になるほど、握る手に力を込めた。タトゥーが引き攣れて歪むけれど、大した力はぼくにはない)
せんぱい。
……Radio-DINOはぼくだ。
(怒りを押し殺した声で吐き出して────)
十埼・竜 2022年2月11日
(────手の力を緩めようとしても、だめだった。震えて、しまって)
そいつ、さあ。
そんなこと、言うんだ。……言ってたんだ。
(その理屈は、わかる。……刻逆前の、健全なラジオの世界の理屈だ)
(ぼくや父さんが則ってきた、世界のルール。)
……それが続くと、したら?
十埼・竜 2022年2月11日
…………Radio-DINOを、奪われたら。
ぼくにはなんにも残んない?
奉利・聖 2022年2月11日
それは───。
(そんなことはないと、言いたかった)
(でも彼にとって、Radio-DINOがどれだけ重くて)
(それ以外がどんな重さなのか、本人以外には分からなくて)
(気休めになるような言葉を、出せずにいた)
分かりません。何故貴方が消えるのか。
あの「Radio-DINO」は何者で。何を目的にしているのか。
真実が分からないから、僕には何も出来ずにいる。
十埼・竜 2022年2月11日
(────"おわりさき・りゅう"が刻逆後の世界で為したほとんどすべて、"Radio-DINO"の名義で残されている)
(もともと、父が息子(ぼく)の名前を冠してつけた局名だったのだから)
(────名実ともに、これはもうぼくの2つ目の名前だった。)
十埼・竜 2022年2月11日
……「成り代わる」。
(────珍妙な落語を通して聞いた、まるで怪談噺のオチみたいな言葉を、)
(口にしてしまったら)
……ぅ、
(小さく、嗚咽が漏れた)
(あなたの手を握りしめたまま、片手で顔を拭っても)(追いつかない)
奉利・聖 2022年2月11日
……最悪、そうなることもあるかもしれません。
(ハンドタオルで、代わりに彼の顔を拭おうとして)
僕は、無力です。この事態をどうにかする方法が、思い付かない。
暴力で解決できないから、付け焼刃の慰めくらいしかできない。
奉利・聖 2022年2月11日
まだ分からない事も多くて、敵が誰なのかも確定していないので。
確たることを言えないのが、残念でなりません。
ただ、もし。
奉利・聖 2022年2月11日
貴方の大事なものが、奪われることになったとしたら。
貴方が、そうはさせないと望むのであれば。
奉利・聖 2022年2月11日
どんな手を使っても叶えます。
それだけは、誓いましょう。
十埼・竜 2022年2月11日
(小さなタオルの下から、まるで途方にくれたこどもみたいな目が、涙をいっぱいに湛えて)
(心配かけてごめん、も言葉になりきらなくて、小さく首を横に振った。)
十埼・竜 2022年2月11日
(――――そうだ。わからないことだらけで)
(ぼくにはそれすら聴こえなくて)
(ただ理不尽に、終わりの気配だけが近づいている)
(嗚咽を飲み込んで、呼吸を繋ぎ止めて)……ぼく、は。
ぼくが、一番怖いのは。……何も遺せないことだ。
Radio-DINOが、父さんの放送局が遺せないことだ。
ぼくはそのために、なんだって、やる。……やってきた。
十埼・竜 2022年2月11日
(深い海底のような蒼の瞳が、あなたの顔を見上げた)
ぼくは、Radio-DINOだけは奪われたくない。
(握る手にもう片手を添えて、祈るように包んで)
お願いです。
ぼくは――――(どうなろうと。)
奉利・聖 2022年2月11日
(そっと、空いた手の指先で口を遮る)
ならば、奪わせません。
そして貴方も、奪わせない。
奉利・聖 2022年2月11日
此処には、やはり貴方が居なければ。
皆そう思っています。
(見透かしたような言葉で)
それくらい貴方とRadio-DINOは…心の根付いているのですよ。
奉利・聖 2022年2月11日
大丈夫。今はただ…耐えましょう。
多くの人が異常を把握しています。このままでは終わらない筈です。
辛くて、不安だと思います。それでも耐えましょう。
情報を集めて、明らかにして。
対処をします。
十埼・竜 2022年2月11日
(唇を塞ぐ指一本。シンプルな宣言。)
(それだけで視界が開けた気がした。深い海の底から、水面まで)
(――――ああ、奉利・聖って先輩は、ほんとにかっこいいな)
十埼・竜 2022年2月11日
(頼りない足で、地面を踏みしめた。彼を真似て背筋を伸ばす。)
(深呼吸。)
……うん。
(やっと、縋った手を、解ける)
十埼・竜 2022年2月11日
ぼくって意外と愛されてる、みたいだからね。
(少しぎこちない笑顔は、今度こそ誤魔化しなしで。)
……それに、前回が2/3で……で、今日でしょ。向こうが週一放送でも、こっちは毎日だし。
次があるなら、また来週の週半ば。
……それまでに、ぼくも情報集めとくよ。
奉利・聖 2022年2月11日
努力の賜物です。
誇ってよいことですよ。
(こちらもようやく、硬い表情を崩せた)
…今はまだその周期ですが、油断はしないでください。
前と比べて、あちらの状況が多く垣間見えましたし…何か狙っているかも。生徒会や番長方も関心を示してますから、遠慮なく。
奉利・聖 2022年2月11日
…永月寮にお送りしましょうか?
十埼・竜 2022年2月11日
(ふと振り向いて、光の灯らない灯台を見上げた)
…………ラジオのことなら、さ。
じゃあ、ぼくひとりで戦わなきゃな、って、思ってたんだけど。
(危機を伝える装置であれ、危機の源になってはいけない。……特に、ぼくたちは。)
…………誰かがいてくれるのって、嬉しいね。やっぱ。
十埼・竜 2022年2月11日
(向き直って、白い息を吐き出して笑う)
いいの? ……折角だから、お言葉に思いっきり甘えようかな。
……なんならお風呂入っていきます?
(すっかり調子を取り戻した声で、)
(雪のちらつく夜の道を、歩き出した。)
奉利・聖 2022年2月11日
いいですね。
ついでにちょっと掃除しておきましょう。温泉代としてね。
(恐怖や不安は、にじり寄ってくる)
(それでも、それに抗って)
(現在を生き、明日を迎えるのだ)