【戦】蒼に届くまで
新堂・亜唯 2022年1月11日
新しい年の空気も馴染んできた、1月の中頃。
この学園ではもう見慣れた景色であろう、模擬戦の風景がグラウンドに広がっていた。
正式な手続きに則っての模擬戦。
学園側に対して周知の上で、想定される余波に対しては、リスクケアだってされている。
だが――相手は蒼海番長、竜城・陸。
それは力という概念の具現、目視できる神秘そのもののような相手。
例えるなら笹の小舟が、雄大な蒼海へ風任せに漕ぎ出すようなマッチメイク。
だとしても、強大な壁を前に立ち向かわなければならない理由が有る。
#竜城・陸
#新堂・亜唯
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新堂・亜唯 2022年1月11日
(――凍る、凍る、凍る。世界そのものが停滞するような力が襲ってくる)
(それでも)
(相手の攻撃はどこからだって届く。自分の切り札は射程範囲外)
(それでも)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月11日
(この人を恐れちゃだめだ)(こんなところで膝を折っちゃだめだ)
(だって)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月11日
(大好きだから、この人を選んで、挑んだんだ)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月11日
―――――――――■■の■!!!!
(キンッ――と、歪な音がして)
(前方から迫りくる凍結だけが、止まった)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月11日
(その手には、銀色にきらめく、小さな、小さな、戦いに使うには小さすぎる刃)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月11日
(ステンレス製の〝メス〟が握られていた)
竜城・陸 2022年1月11日
(――その眼前には既に、鋭く冴えわたる氷槍の一撃が迫っているだろう)
(朝焼け色の瞳は、)(眼鏡のレンズ越し、真っ直ぐに少年を見ていた)
(驚愕など浮かべていない。自身の術が破られたことに驚きもなければ、隙を晒すこともない)
(無効票)
竜城・陸 2022年1月11日
(――だって、信じていたからだ)
(この程度で終わるわけがないだろうと)(思っていたから)
新堂・亜唯 2022年1月11日
……。
(使用したパラドクスは、なんてことはない。新宿島に最初から居た復讐者なら、多くの人間が使えるであろう。基礎中の基礎のようなパラドクス)
(〝復讐の刃〟だ)
(けれど――)……陸にいと向き合うために本当に必要な切り札は、遺産じゃなくこっちだった。
だって……。
(眼前に迫る、氷の槍を見据えて)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月11日
これは……
(認識の問題だ)(それは、今や〝西洋医学〟の象徴)
(神の作りたもうた人の器を切開し、解体し、人の理に分解する道具)
神秘の領域を切り開く刃だから。
(無論、それはお題目。彼が握るのは、単なる金属製の、量産品にすぎない、ただのメスだ)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月11日
(足の裏に、気功の斥力を作り出して、踏み出す)
(氷の槍を、正面からその刃で受け止めて――当然、折れる。砕ける。耐えられないはずだ。筈だ、が)
……。
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月11日
(槍から生まれた氷の破片が、頬を割いた)
(耳を削ぎ、肌を斬り、飛び散った鮮血が空中で、赤い雪になって固まっていく)
(それでも、折れていないその刃を構えて、一歩ずつ)
(宙を歩んで、彼の元へ、向かっていく)
竜城・陸 2022年1月11日
(折れ砕ける破片の向こう、)
(――怯まず)(目を逸らさず)(歩んでくる姿を見て)
(無効票)
竜城・陸 2022年1月11日
(明白に。)(明確に、)
(顔を、歪めた)
(きっと、彼にしか見えないそれは、)
(泣き出しそうな、そういう、顔だった)
(無効票)
竜城・陸 2022年1月11日
(火脹れのように、肌が焼け爛れて――)
(目を閉じた)(“切り替える”)(そして、)
(握り締めた柄が、短い刃を形成した)
(それを、握り締めて)(数歩の距離を、自ら詰める)
(無効票)
竜城・陸 2022年1月11日
――最後だ。
(握り締めた、それは)
(――確かに、神秘の産物ではない)
(神秘を紐解いて科学で、技術で生み出された代物だ)(だからその刃は、彼の刃では砕けない)
いくよ――
(無効票)
竜城・陸 2022年1月12日
(それは、)(人の世に神秘在った頃の、数多の軌跡を束ねた魔術)
(それを載せるのは、“友人”から手渡された、“自身が心から信頼する武具”)
Claidheamh Soluis
――“ 光 輝 の 剣 ”。
(少年の胴を横に薙ぐように、一振り)
(それは“魔術で統制した、完璧で不自然な”動きではない、)(拙い、“普通の人間らしい”、そういう動作だった)
新堂・亜唯 2022年1月12日
(――ああ)(陸にいが泣いてる)
……小熊先輩は言ったんだ。
「復讐者なんだから怒れ」って。
(開いた唇の水分が、凍てついて切れる)
(睫毛に霜が降りて、体から生命力が――熱が奪われていく)
でも俺は、やっぱり、友達に怒るってのはどうもできなくて、でも
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
(ひび割れる音。指先の感覚が失せていく)
誰かが間違ったことを言っていたら、ぶん殴りに行きたいし。
(それでも、メスを形成することに集中する。一秒の隙もなく持続的に使い続ける「復讐の刃」、これだけが今の命綱だ)
誰かが傷ついていたら、どこへだって包帯を巻きに行きたい。
陸にい相手にそれができたら、きっと誰にだって――(ただ、そう思って、挑んできた)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
強い力を持った人は、責任を持つから。
問題があれば、一人で抱え込んでしまうし……もし何もかも嫌になったら、全部ぶっ壊すことだってできるでしょ。
(けれどあの日、過去を語りながら「死にたかった」と口にしたこの人に、自分は、それ以上なにも届ける言葉は持たなかった)
(この人だけじゃない。NEO新宿連合、生徒会室の騒動、思うところはあっても、届けるだけの力なんて一つもなかった)
(関係のないところにいるしかなかった。今までも、これからも)
でも、そんな時でも
(無論、そんな無茶が長く続くわけもなく、彼の刃が届く前に、ちっぽけなステンレス製のメスは砕けて)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
(その、もはや氷細工と区別のつかない右腕を、目いっぱいに伸ばす)
(そう、勝つことは最初から目的じゃなかった。ただ――)
いつかどれほど拒まれても……「人の手があったかい」ってことを、伝えに行ける自分でいたいから……!!
(ただ、彼に届くこと。それだけが、今日のちっぽけな目標)
(そのために伸ばした手は、彼の人間らしい一振りを、洗練された武術の動きで以て捌――)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
(――ばきん)
(伸ばしたその腕ごと、小さな体が空中で砕けた)
竜城・陸 2022年1月12日
(――振るった刃はあっけなく、凍り付いた少年の身体を砕いて、)
あ、
(手放した刃が落ちた、)
(いや、手放したのではなく、)
(――もうそれは、ヒトのカタチを保っていなかった)
(無効票)
竜城・陸 2022年1月12日
(――目の前に広がるものが視えただろうか)
(少年にも)(これを見守る、全てのものにも)
(何処までも高く遠い、そこにはなにもない)
(何もかもが満ちているような空虚だった)
(熱いのになぜか、空恐ろしいくらいに寒々しい)
(根拠もない。知りもしない。見たことすらないだろう)
(そもそも、世界に“そんなもの”はないということは、いやというほどに科学が証明したはずで)
(それでも、確信めいて思わされる)
(いま、)
(――世界の涯ての空を見上げている、と)
(無効票)
竜城・陸 2022年1月12日
(その中心にあれば少年には感じられただろう)
(どこまでも重く、昏い)
(怒りすらも抱けない空虚)
(求めることを忘れさせるほどの諦観)
(そして、)
(――それらすべてを内包した、深い絶望――)
(無効票)
竜城・陸 2022年1月12日
(――うるさい)(うるさい)
(“なにもない過去に戻るかもしれない”?)
(“もう死んでいるかもしれない”?)
(“何も変わないかもしれない”?)
(……ふざけるな)
(無効票)
竜城・陸 2022年1月12日
(言ってやるよ)(あいつの真似をするのは癪だけど)
(で?)(――それが何?)
(そんなことが、)
(今生きていることを諦める理由になるものか)
(今、この手を伸ばせない理由になっていいはずなんて、)
(無効票)
竜城・陸 2022年1月12日
(そんな道理は、)
(もう、世界の何処にだってない――!!)
(無効票)
竜城・陸 2022年1月12日
(――伸ばした両手が、)
(力強く、しっかりと)
(砕けて、落ちるはずだった少年の身体を、抱き寄せる)
…………、
(無効票)
竜城・陸 2022年1月12日
自分で死んでいい権利はないって言ったくせに、
自分が死ぬかもしれないのに手を伸ばすのは、いいんだ。
(顔が見えないくらいきつく抱きすくめたまま、言葉に出した)
(明確に。明白に。非難めいた声音)
新堂・亜唯 2022年1月12日
(――陸にいが泣いている)
(あれ、これ、俺――死――)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
(結局、何様のつもりだったんだ)
(力も足りずに挑んで、この人に辛い思いをさせて、辛い顔をさせて)
(始終見ていた。生命の消えるその間際に巻き起こった、自分が斬り払わなければならなかった神秘)
(そんなものまで使って、自分を救おうとする大切な人の、辛そうな顔)
(こんなことをしに来たのか)(こんな弱い自分で)(こんな頼りない自分で)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
(小熊先輩は言ったはずだ)
(「復讐者なんだから怒りなさい」と)
(今、何に対して最も強く怒るのか。決まっている)
(彼を泣かせたもの。頼りない自分。か弱い自分。そんな自分を)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
(―――――そんな自分を、俺は赦せるか)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
(ただ叫ぶ。砕ける体で、凍てついた喉を振り絞って、最後の言葉を叫びながら、無い腕を伸ばす)
――!!
(けれど、この歴史ではともかく――ある歴史においては、【シャウト】は得てして、最も原始的で強力な自己治癒の手段である。そして)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
(魂が放つ強い怒りは、肉体を凌駕する)
(彼の場合は――)
陸にい、ごめん……。
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
……ごめんなさい。
(しっかりと抱きしめる両腕も、凍てついた肌も、髪も、奇麗なものだった)
(そして)
https://tw7.t-walker.jp/garage/gravity/show?gravity_id=17841
(抱きすくめる彼の体には、まるで陽だまりのような温かさを伝えていた)
(無効票)
竜城・陸 2022年1月12日
……何か、謝ることがあった?
(“自分のせいだ”なんて思って、勝手に足を止めかけたのは)(勝手に、“自分”を投げ出そうとしたのは、こっちのほうだ)
君は当然の権利を行使しただけ。咎も責もない。
そして、死んでいないのならそれでいい。死んでいなければ幾らでも治してあげられる。
(抱きしめた身体は、一見もとの姿に戻ったように見えるけれど)
不調はないかい? あれば言って。すぐ治す。
新堂・亜唯 2022年1月12日
だって陸にい泣きそうだった。
(見たんだから)(しっかりこの目で)
咎とか責とかじゃない。
俺は、悲しい顔をしてもらうために来たんじゃないのに、足りなかった。だから……。
……でも。
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
(遺産たる包帯が、しゅるりとはためく。彼の目にも映るだろう、〝亜唯のカルテ〟)
こんな形で使いたくはなかったけど
(専門的な数値はのぞいても、見れば、分かるだろう。もう、健康だ)
陸にいだから、力が出せると思ったんだ。
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
ごめん。ごめんよ。ごめんなさい。
(まだ、赦せない。不甲斐なかった自分を赦せない)
(皮肉にも、その思いは癒しの力となって、暖かく彼を照らし続ける)
もう、二度と砕けたりしない。
(その結果は亜唯にとっては苦いものだったが、だからこそ)
(今日この日、初めて本当の意味で、復讐者になった)
竜城・陸 2022年1月12日
――あれは、俺じゃないよ。
いや、俺なんだけど、そうじゃなくて――……、…………。
ただ、“僕”が怖かっただけ。
また殺してしまうかもしれないって。
それで、その通りになってしまったって思って――あんな風に。
(ヒトの形を手放した、)(満ちており空虚な、世界の涯ての空)
…………でも、
(無効票)
竜城・陸 2022年1月12日
君が諦めずに手を伸ばしてくれたから。
俺だって諦めずに手を伸ばそうと思えたんだよ。
(なくしたくないと思えるくらいに大切に思えたから)(そういうものが、たくさんできたから)
だから、それを謝らないで。俺だって、もう大丈夫だから。
(もう一度、強めに抱きしめる)
(冷たくもない)(熱くも、ないだろう)
(触れたところで命を奪われるような感覚は、ない)(二度と、そういうものにはならないと決めたから)
俺も、もう、二度と自分を手放したりしないから。
新堂・亜唯 2022年1月12日
(――それでも)
(それでも、それでも、彼にとっての「俺」と「僕」の違いは、自分には分からないけど)
(でもやはり、悲しい思いをさせたのは事実だから)
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
……うん。……うん……。
(涙声で唸りながら、彼の言葉には、ただ頷き返す)
竜城・陸 2022年1月12日
(泣かないでよ、なんて苦笑して)
(背中を、軽く、優しく、叩く)
……、ね、アイ。
もしそれを、苦しいとか、悔しいって、思うなら。
また、次。
次は、もっと、いい勝負をしよう? ……待ってるから。
その時は俺も、ちゃんと、もっと、自分らしく――これが、“竜城陸”だ、って。
そう、言えるように、これからも頑張るから。
(演出継続)
竜城・陸 2022年1月12日
(少しだけ身体を離して、)(目を合わせた)
……さ、帰ろうか、アイ。
新堂・亜唯 2022年1月12日
……うん。
(漏れてくる嗚咽を噛み殺すように、すん、と鼻を鳴らして)
もう負けない。
こんな情けない姿見せない。
(無効票)
新堂・亜唯 2022年1月12日
(顔を上げる)
(ずびーっとまた鼻を鳴らして)
(演出継続)
新堂・亜唯 2022年1月12日
(涙を拭って、仕上げ)
うん……帰ろ。
(そう言って、穏やかに帰路につく――)