【個別】戻らない鳩
十埼・竜 2021年12月27日
――――モール地下街は、未だ混乱の渦中。
半ば廃墟となった商店街に、死者が蠢く。
商工会からの指示を伝える無線に、まれに奇妙な音声が混じるのだという。
索敵中のゾンビ・ハンターには、次の獲物の群れの位置を。
撤退中、帰り道を探す者には、安全なルートを。
時折苦しそうに掠れる、少年の声が。
1
薄羽・カゲハ 2021年12月27日
西ィ~~の区画は危ないぞォ~~~~。
34番、セブンスタ~~ァ。
(ストラトキャスターを肩に担いで歩むかげろうは退廃した世界を往く。)
(このクソッタレの道が己の覇道。その端すらも誰にも踏ませぬ。)
(バッギャン。さらり。ゴガン。ざらり。ジャギャーンともう一発。)
(蝶のように舞い、蜂のように刺す。そんな綺麗なもんじゃない。視界を侵す羽虫を叩き潰すのと等しい。)
薄羽・カゲハ 2021年12月27日
な~んて、羽虫はオレちゃん側だって~~~のっ!
(さっさと笑えよ破竹のように!そうらパッコーン!)
(無効票)
十埼・竜 2021年12月27日
(────||: Repeat :||)
(ギターのおと、と、)(こわす音)
(と────声だ)
(歌声。……歌声?酔っぱらいみたいな……)
(ゆっくり、目を)(開ける。)
十埼・竜 2021年12月27日
(ゾンビ映画みたいな、地獄が広がっていた。)
(ノイズの向こうに、曖昧に声帯を震わせるだけの呻き声が無数に)
(混じる、ギターの弦の音と湿った肉体を砕くくぐもった破壊音)
(髪がまばらにへばりついた頭蓋が、壊れかけた屋根の上に豪快に飛び乗るのが見えた。泥みたいな色の血飛沫と一緒に肉片が吹きあがって)
(それがだんだん、近づいてきているのが、見える)
十埼・竜 2021年12月27日
(逃げなきゃ)(逃げる?)(どうしてだっけ)(あれ)(あのひとはなんだっけ)(あったかそう)(ここはとてもさむいから)(きっとあれはすごくあったかいはず)
(――――||: Repeat :||!!!)
十埼・竜 2021年12月27日
(正気を、再演する)
(ノイズイーターに片手を当て、ターゲットを目の前のゾンビたちに絞る。電波を介して認識ジャック、幻の敵相手に同士討ちを誘発させて)
――――カゲハさん!(群れの向こう側で名前を呼ぶ、その声は)(かすれてはいたけれど、妙に陽気だった。)
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年12月27日
最期に聴いてけオレちゃんの~~~~………んえ?
(パッと跳んで兜割り。腐った下郎を一刀両断とはいかず。)
薄羽・カゲハ 2021年12月27日
(叩きつけたと同時に砂と化したストラトなど意にも介さず、朗らかに笑うのだ。)
お~~~おわりちゃん!こ~んなとこでな~にしてんの。
迷子?それか男を磨きにでもやってきた?
(無効票)
十埼・竜 2021年12月27日
(現れた少年は、まだ白いところを探す方が難しかった)
(首元にべったりと黒い血の跡)
(頭から泥を被り、あちこちで腐肉を浴びたような汚れ)
(いつにも増して、顔は青白い)
十埼・竜 2021年12月27日
失礼な、ただのバイトで「案内人」ですよ!
(こっちには目もくれない死人たちを横目に、すたすたと歩み寄って)
(互いの手の届かない距離で、ぴたりと止まった)
この辺の群れの位置の調査と情報提供、あとは帰り道の案内を。
(これいじょう)(ちかづいたら、だめだ)
カゲハさんも商工会の依頼で、ですか?
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年12月27日
きったないな~~~おわりちゃん!
こりゃあれだ、帰ったら犬みたいに洗ってやんねーとな!
(だっはっは!)
(せっかくの憩いのひとときを邪魔する狼藉者には粛清を。マイクスタンドを槍のように突き出して、失敗作の肉団子が3つ。)
薄羽・カゲハ 2021年12月27日
オレちゃんが依頼~とか言われて引き受けると思う~?
面白そうなことになってっから見に来たわけよ。
そしたらこんなゾンビパニックになってるし、なんか声が聞こえるし。
ほんじゃおわりちゃんに案内してもらおっかな。
オレちゃん、声を頼りに来たからぜ~んぜん地形覚えてないんだわ。
(一歩踏み込んで、片手を差し出す。シェイクハンズ。)
(無効票)
十埼・竜 2021年12月27日
あっはっはあんまり乱暴しないでくださいね? こう見えてか弱いんで!!
(ざくり)(無惨に貫かれた死体にも、眉をひそめない)
(この地獄に、異様に明るい笑い声をあげて)
あはは、こんなにぐちゃぐちゃでさむくてわけわかんないのにわざわざこんなとこまでくるなんて
十埼・竜 2021年12月27日
(群青の視線が、いつの間にか)(露わな肌に吸い寄せられている。)
(差し出された甲殻の手をすり抜けて、青白い手がそちらへ)
十埼・竜 2021年12月27日
(――――||: Repeat :||)
十埼・竜 2021年12月27日
(慌てたように手を引っ込めた)
(だめだ)(もうだめなんだって、言ったら)(このひとは悪ガキで共犯で筋金入りの天邪鬼だから、きっと)
…………(引っ込めた手を、もう片手で強く握りしめて)りょーかい。
(押し殺した声は、まだ、陽気な色を貼り付かせている。)
十埼・竜 2021年12月27日
(このひとにさっさと帰って貰わないといけない)
さあ!次の獲物はあっちですよ!
(まだここはゾンビの群れの中。先導して、歩きだす。怖いものなんてなにもないみたいに)
(――――実際、そうだった。ゾンビは、何故か少年を襲うことはない)
……すみません、カゲハさん。だいたいそっちで、潰せます?
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年12月27日
(がっちりと繋ぐはずだったその柔らかな手の平。しかして拒絶されたそれを見るわけでもなく。口角を釣り上げて、じっとその群青を覗き込む。)
(彼の陽気を浴びたとて、翳りは知らず。)
はいはい。自分の世話ぐらい自分で出来ますよって。
オレちゃんを誰だと思ってんのさ。
(団体様にマイクをプレゼント。砂から延々と伸びるコードを携えて、ぐるりと愉快な一人旅。)
薄羽・カゲハ 2021年12月27日
おわりちゃんこそ、腐ってるとはいえ人型をやるの大変じゃない?
向いてないっしょ、そういうのさ。
(おかえりなさい小さな旅人。その手に収まったマイクを力任せに引っ張れば、骨と肉の五重奏。)
(何故襲われぬのか、聞かない。)
(無効票)
十埼・竜 2021年12月27日
(……見ないで)
(血の気のない、つめたく汚れた掌で、口を覆う)
(押さえ込む)
(あったかい、ん、だろう、な)(なあ)
十埼・竜 2021年12月27日
かげはさん、は、つよいもん。ね。
(||: Repeat :|| ||: Repeat :|| ||: Repeat :||!!!)
(とっくの昔に劣化コピーした正気を上書きして、再生する。し続ける)
(ああ゛、濁った呻き声を僅かに漏らして。)
十埼・竜 2021年12月27日
……向いてなかった、ですね。ほんとに。
(ひゅぅ、コードが風を切る。ぐしゃり、脆い体が破壊されるノイズ。周りで吹きあがる融けかけた五臓六腑。ばたばたばた、重い雨みたいに床が濡れていくのを、躊躇いもせずに踏んで歩く)
(まだじたばたしている腕を、ぶじゅ、ぱき、ブーツの底でやわらかく砕いて)
…………………そう思えば、「こう」なったのはまだマシだったのかも。(へっぴり腰でわあわあ喚きながらおっかなびっくり、パフォーマンスを著しく落として戦うよりも)
(なにもおそれずにすんでいるのなら)
十埼・竜 2021年12月27日
そういえば、カゲハさんって結局何が怖いんでしたっけ。
(あ。いました、と、呑気な声を上げた。放棄された屋台に、餓鬼のように群がる死人たち。早速、彼女の熱を嗅ぎつけて走って来た一体に、ポケットから無造作に小さな拳銃を取り出して、向けて)
(ぱぁん。……目玉が吹き飛んだだけでは、まだ追ってくる。)ごめん、任せます!
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年12月27日
地震、雷、火事、親父。
(いち、にい、さん、し。)
(ぐるりぐるりぐるりぐるり。両手それぞれに携えたエレキギターを、独楽のように回って屑肉に打ち付けていく。)
(汚れた傍から砂へと還る潔癖症。未だ止まらぬ音の閃光。)
薄羽・カゲハ 2021年12月27日
あとは自分が恐ろしい!
(自信過剰に振り下ろされたアコースティック。)
(綺麗なくびれがへたっぴな加工写真と化して。遅れたハロウィン、デュラハンの一丁上がり。)
薄羽・カゲハ 2021年12月27日
(ぐっちゃぐちゃに染まる薄橙の肌を拭う。頬と胸元。まるでどこぞの民族の入れ墨のような。)
おわりちゃんこそ、どうなのさ。
特に今んとこ。一番は。
(無効票)
十埼・竜 2021年12月28日
あはははぜったいうそだ!(轟音の向こうへと叫ぶように、笑う)……ああ、でも最後のはほんとでしょ。
(ギターが届かない位置のゾンビは、頭を弄って同士討ちをプレゼント。呻きながら互いに喰いあって動かなくなる。)
ぼく?
ぼくは――――
(弦、破砕音、砂の音。……それも一通り静まってしまえば)
(屋台通りの奥には、べたべたに汚れた緑のランプと、うっすら読み取れる「非常口」の文字が見えた。)
(もうすこし)(あとひといきで)(もう、)
十埼・竜 2021年12月28日
(||: Repe-⁼_∹^₌■■■
(あ。)
十埼・竜 2021年12月28日
(動きをとめた)
(群青の瞳はぼんやりと、宙をさまよう)
(首に手を当てる)
(だらりと、赤い血が流れ出すのを受け止めて)
(べろり、と、舐めた。)
(あたたかい)
(さむい。)
十埼・竜 2021年12月28日
かげは、さぁん。
(かすれたこどもの声が呼びかける)(ぐらりと、異形を纏った首が傾いでそちらを向く)(虚ろな眼は、血走って――――その肌をとらえた)
――――あ゛ぁ。
(濁って、喉を鳴らした。)
(手を掲げて。その胸元に、首に)(あかりに群がる蟲みたいに。熱に誘われた獣のように。)
(一歩、二歩――――)
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年12月28日
ん~?なんだよおわりちゃん。
そんな物欲しそうな眼をしちゃってさ。
(晴天の青空。雲一つないそれが、薄い暗雲に覆われたようで。)
(ああ、でも。そんなになっても綺麗なもんだね。)
薄羽・カゲハ 2021年12月28日
(砂時計のリミットのように、ざらざらと手から零れた砂が地へと融けて。)
(彼のか細い理性の、残り時間。)
────おいで。
(無防備に、腕を広げた。)
(無効票)
十埼・竜 2021年12月28日
(さむい)(ここは、つめたくて、さむくて)(だんだんじぶんが)(きえてくの)
(――――だれもぼくのこえがきこえない)(おとが、でないから)(くるしいのに、さみしいのに、だれにも、とどかない)
(だれも、てを、にぎって、くれない)
(こわい)(こわい)(こわい)(とうさん)
(て、を)
(――――見開いた眼に、涙が盛り上がって)(だらだらと、頬を汚す)
十埼・竜 2021年12月28日
(洗い流されたみたいに一瞬、濁った思考が澄む)
(滲んだ視界に、広げられた両腕が、見えた。)
(とおせんぼ)(いや)
(……クソ)
(ぼくが、何で、我慢して、がんばって、ここまで)
十埼・竜 2021年12月28日
(ほら、もう手が届いた)
……………………さそいじょうず。(かすれた声で、囁く)
(抑えのきかない身体が細い肩を鷲掴みにして)(あったかい)(覆い被さるように押し倒す)(はだが)(だらだらと涎をこぼして)(にくが)(ちは)
(そのうちがわをかんじたい)
(あたたかさを、ぼくにください)
(ひとの牙は、丸すぎて皮膚を裂くには向いていないから)
(きっと、とても不器用で、痛いだろうけれど。)
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年12月28日
(いって。後ろぶつけた。)
(呑気に幼稚な感情を抱く。強引かどうかは、まあ。誘ったのはこっちだし。)
(びちゃびちゃと溢れ落ちる汁は、粘着質で不快だ。けれど、死んだ体液よりもよっぽど心地が良い。)
(やがて首筋に、鈍い凶器が当てられて。)
(ぞくりと脊髄に、雨音が響く。)
薄羽・カゲハ 2021年12月28日
(じわじわと肉を裂く感覚が鮮明に脳裏を焼く。)
(編んだ紐を刃こぼれ包丁で強引に切ろうとしているような。)
(当然、痛みは格段に大きい。まして、人の理性を超えた、タガの外れた力。どれだけ肉が厚かろうが、骨が太かろうが。全てを噛み砕いて行く先は。)
(血、なんだろうけどさ。)
薄羽・カゲハ 2021年12月28日
・・・・・・ ・・・・・
(そこにそれは、ないんだよ。おわりちゃん。)
薄羽・カゲハ 2021年12月28日
(どこまで肉を裂いて、骨を断てど。辿り着かない。着く筈もない。)
(そもそも、流れていないのだから。)
(赤のせせらぎ。人が人である証。流れていなければそれは。)
(一般的に、死を意味するところである。)
薄羽・カゲハ 2021年12月28日
……ね゛、え……おわりちゃん。
(ぎちぎちと、玩具を返さない犬のように歯を立て続ける彼の、頭。歯なんかよりよっぽど人を傷つけそうなそれを避けて、痛みのない腕で撫でてやる。)
(何時ぞやも、こうしたっけね。)
(子をあやすように。慰めるように。手のひらを這わせる。)
────おいしい?
(無効票)
十埼・竜 2021年12月28日
(先刻舐めて口元を汚した自分の血が、そのまま傷口と混じり合う)
(そこには、それだけ。)
(なんで)
(何度も、何度も、何度も、歯を立てて、齧りついて、噛み砕いて、舌で探って、)
(――――なんで)(ああ、やっぱり、って)(ぼくは。)
十埼・竜 2021年12月28日
(声に、反応して)(唇を離した。)
(氷のように白い髪はもうべたべたにくすんで汚れて、指を差し入れれば絡まって引っ掛かる。掌の下でぼんやりした顔が上げられて)
(一瞬だけ、その金の瞳に焦点が合ったようだった。)
(口角が、申し訳なさそうに、上がる。)
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年12月28日
────素直でいい子だね。
(だからこそ。このままではいられない。)
(撫でていた手のひらを少し離して、腕を彼のうなじへと回す。)
(そこから、一気に。この胸元でその綺麗な顔が潰れてしまうぐらい、力を込めて締め出した。)
(僅かにでも動かすだけで激痛の左肩も、全開の力を込めて。)
(まるで蟷螂に捕食された得物。虫の折り畳まれた足に巻き込まれた不幸で小さな虫。)
(些細な仕草も、息も許さぬ姿勢のまま。肺に空気を取り込んで。)
薄羽・カゲハ 2021年12月28日
彷徨い惑いて揺蕩えど、月は一度も応えてくれず。
願い祈りて望めども、星は遠く幾光年。
なあ、お前は何処に行くと言うんだ。
なあ、お前は何を求めて生きているんだ。
決めてないなら、オレが定める。
クソッタレの神様より、よっぽどマシさ。
ここがお前の終着点。
この場所が、お前の見つけた。全て。
薄羽・カゲハ 2021年12月28日
(強引で、乱暴な。詩をぶつける。)
(耳元に、直接。)
(トんでしまうような、その詩を。)
(無効票)
十埼・竜 2021年12月28日
(あ゛は、と、肺が潰れたような呻き声をあげて)
(その口も柔らかな肉に塞がれる)
(リミッターの外れた腕が藻掻こうとするが、そもそもが鍛えてもいない細い体で)
(うなじに)
(ノイズイーターの鋭い棘が、いくつか突き刺さろうとしていたのを)
(偶然にも、その甲殻の腕はきっと防いでいた。)
十埼・竜 2021年12月28日
(――――このままうたってくださいって、いったっけ)
(わるいことしたなあ)(あれ)(いつのことだったっけ?)
(歌声が頭の中を砕いていくみたいだ)
(そっか)
(――――あったかいとこで、よかった。)
十埼・竜 2021年12月28日
(全身が、ぐったりと脱力する)
(顔色はまだ、ひどく悪いままで)
(けれど、寝息は、穏やかなものだった。)
(。)
薄羽・カゲハ 2021年12月28日
………………マジで痛ェ。
(乾いた笑いと安堵の呻き。)
(起き上がろうにもこの寒空が冷たくて。喉に刺さって息をするだけで溺れているみたいだった。)
(溺れさせたのはオレだってのに。)
(繭のように砂を纏わせて、一時の休息を。)
(オレもキミも疲れ果てた。)
(いい夢見ろよ、お互いに。)
薄羽・カゲハ 2021年12月28日
────おやすみ。
(。)