【戦】祭りなんてくそくらえ
薄羽・カゲハ 2021年11月21日
豊穣祭、一日目。時刻は23時30分頃。
場所は旧校舎、グラウンド。祭りとは縁のない、寂しい居場所。
月以外の明かりが眩しい。いつもならば、とっくに一帯真っ暗だというのに。
未だ居残りで二日目の準備をしているのか。
それともただの悪ガキ共か。
「後者なら、名前を聞いておかねェとな」
そう呟いたかげろうは、指を鳴らした。
#薄羽・カゲハ
#十埼・竜
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薄羽・カゲハ 2021年11月22日
遠吠えするには喉が足りぬ 此処の酸素はどうにも薄い
矢面立つには勇気が足りず なあなあ生きてるお前は誰だ
禄でもない独りよがりを、いくつになったら卒業出来る
死に際にどうか聞かせてくれよ 皆の景色を見せてくれよ
二つ眼は太陽と月 一人のお前を惑星(ほし)が嗤ってんのさ
例外はなく針は進む 廻って廻って先が見えず
とっくに終わりは始まってんだ
(無効票)
十埼・竜 2021年11月22日
(痛い)(苦しい)(気持ち悪い)
(波は砕く。音も光も距離も身体もなにもかも砕いて混ぜてゼロに還そうとする)
(理不尽に押し付けられたその呪いに)(なんでそんな笑って燥げんだよ!!!)
(きっと少しだけ波に乗り慣れた体で、軋み悲鳴を上げる腕を掲げて、有象無象の喚き声を“握りつぶす”。ノイズイーター抜きでのスカイセンサー強制起動。手触りが虫でも潰したみたいに気持ち悪い)
(そもそも)(はじめから死体なら)(消したところで、)
十埼・竜 2021年11月22日
(――――ノイズではないものが、境界を失くしはじめた空間に響き渡る)
(歌が。)
(ノイズで霞む目に、それは、光みたいにうつった。)
十埼・竜 2021年11月22日
………っ、
(なんで)(なんで、)(なんで!!!)
(こんな音響最悪の舞台で歌うなよ)
(ぼくがくるしいのにそんなことしないで)
(――――妬みと怨みと羨望と、全力で叫んだ“こえ”は、きっとあなたの名前を呼んで)(あなたがそれを聴いているか、わからないけれど)
十埼・竜 2021年11月22日
(もう耳を塞いでいるだけの、ノイズイーターを毟り取る)
(ほとんど無意識に、ただ、その音を聴きたくて)
(――――ばき)
(明らかに波の音が重く、音の墓場を砕き始める。)
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
(必死すぎんだよ。馬鹿だなあ。)
(聞こえてるよ。聞こえてる。しっかりさ。なっさけねえ声で。)
(まるでオレが死ぬみたいじゃん。勘弁してくれよ。まだまだ女真っ盛りなんだ。)
(これからなんだよ。オレも、お前も。)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
(しっかり金色は射抜いていた)(だから、枷が外れたのも)
(首を括ったのも、見えた。)
(あーあ。ああ、ああ。)
(思春期にしちゃあ激しすぎんでしょ。どんだけ溜め込んでんのよ普段から。)
(こりゃあさっさと抜いてあげるべきだったなあ。あ、やべスラップミスった。いけね。)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
(人体を順繰りに巡るなんて生半可。全てが同時。)
(この大地に人間が立っている間、気圧やら重力やら、見えない何かで押し潰されているように。こいつはそういうやつだ。)
(世界を構築しているものが、そのままそっくり襲ってきてんだ。)
(ラスボスみたいなクソチート。頼むから死に際に変なことは言わないでくれよ。こっちはテメェ倒すのにどんだけ割くと思ってんだ。)
(ほら致命打で一名脱落。次に食らった一撃必殺AoE。仲間が次々死んでいく。砂に還って逝っちまう。オイオイオイ、許可してねえぞ。これだから自分勝手な連中は。でもまあいいか。それでいい。自我がなきゃいい音は出ねえ。)
(生き残りはオレとストラトキャスター。名前も知らねェ未知の一本。)
(さァ行くぜ相棒。最期の刻まで付き合えよ。)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
まだまだ人生これからだ 呑気に言うなよあほんだら
命の始まりが産声ならば 生まれたその日に祝福の鐘が世界に満ち溢れるだろう
けれどどうしてかその音はおれには聞こえなくて
ただひたすらに雑音だけがその耳に住み着いていた
気持ちの悪い音 不愉快な音 気色の悪くて 甲の高い音
耳を塞いだって 内側にいるんじゃ世話がないんだ
わかってくれとも思わないが
その瞳に宿した憐れみだけは潰してやりたかった
泣き叫んだ夜 満ちる月と足りぬ腹 あの星を貫いて
持って帰ったら、二度とそんな目では見られないのかもしれない
星空に何を喚いたって 何も返ってこないのは知ってるよ
だけどわからないじゃないか 誰もやってこなかったじゃないか
この世界にずっと声をぶつけ続けたら
いつかは割れて 悲鳴をあげるかもしれないだろ
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
最後に流した涙はいつだったかなあ もう覚えてないけれど
すっかり乾いた涙腺と、上手になっただけのいらない愛想笑い
ああそうだ 大丈夫って言葉だけは世界一上手い自信があるよ
ただひたすらにその羅列だけを唱えて生きて来たんだ
柔らかい声 温かい声 待ち望んでいた 歓喜の声
それを伝える人はもういないけれど いつかの日の為に練習したんだ
褒めてほしいとも思わないが
その舌から転び出た思いやりは刺してやりたかった
目覚めたくない朝 ぶつかる日差しと水晶体 あの太陽を握りしめて
焼けて爛れたら、二度とあんな口を利かなくなるのかもしれない
黎明を何度呪ったって 何度も来るのは知ってるよ
だけどわからないじゃないか 誰もやってこなかったじゃないか
この世界をずっと怨み続けてみたら
いつかは裂けて 謝ってくれるかもしれないだろ
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
当たり障りのない話 当たり前の人生は日常じゃない
頭はいっつもぐちゃぐちゃで 掻き混ざったら脳漿スムージー
もう出来ないじゃない やらないじゃない 願い祈りと命は想い
恥ずかしいくらいの思春期を 軽はずみな黒歴史を
理不尽な世界がありがたい 不公平な世界がありがたい
不条理な世界がありがたい どうせぼくも 烏滸がましい人間だ
聲を何度届けたって 限度があるのは知ってるよ
だけどわからないじゃないか ぼくだけしかやれないじゃないか
この世界をずっとずっとずっとずっとずっとずっと 響かせてみたら
いつかは弾けて 変わっちゃうかもしれないだろ
変わっちゃうかもしれないだろ
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
変えられるかもしれないだろ。
(無効票)
十埼・竜 2021年11月22日
(ノイズじゃなくて、その音が真っ先に)
(染めて、汚して、届いてくれると信じていた)
(とっくに平衡感覚は死んでいて、ふわつき泥濘む地面)
(それでも音を頼りに鬼さん此方)
(歪な黒い頭蓋を抱きしめて、)(罅の入る指はもう頼りないから、腕で)(それで、目の前まで、とぼとぼ歩み寄って。)
十埼・竜 2021年11月22日
(――――このうたは、だれの、うたなんですか)
(見透かされたぼくの、あるいは)
(淀んだままの蒼に、少しだけ光が差す)
(戦意というものがあるのなら、多分もう失くしてしまったし
これを外した時点でぼくに帰路はなくなっている)
(その残り滓で、今にも崩れそうな腕で、ノイズイーターを掲げた)
(蒼混じりの金の頭に、被せようと押し付けて。これが最後の意地悪。)
……ほらやっぱり。
(殺してくれるんじゃないですか。そこまでは言葉にならなかった)
(最期に聴こえるのが、歌でよかったと思う。)
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
(喉首はもはや、頭を繋げているだけの棒切れで)(指爪はもう、割れ切った。)
(相棒の生命線は、あと、一本。)
(これじゃあおわりちゃんを生かしてらんないね。君の命を留めてられないね。)
(終わりを、止めらんないね。)
(嗚呼、死に逝く王子が、最期に妃に宝冠を捧げるみたいだなんて)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
────バァ~~~~カ。
(声になっていたか。音になっていたか。)
(聞こえたかどうかは、知らないが。)
(砕けた手で、穢らわしい冠を弾き飛ばして)
(そのまま)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
ぱん。
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
(頭の上で諸手を合わせた)
(それだけだ。それだけで)
(この世界は"─"を忘れ去った。)
("───"と頭を叩かれたように。あれだけ"────"の世界であったはずなのに。)
("──"と、静まり返った。)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
(よ、おわりちゃん。気分はどうだい。)
(そもそも"─"が出ないのだから、喉が焼かれてようが関係がない。)
(口だけ"────"と動かして、目の前の少年に笑いかけた。)
(無効票)
十埼・竜 2021年11月22日
(前言撤回なんか最期にすっげーーーバカにされた気が、)
(それも撤回することになった。)
(ただもう何もかもにぐちゃぐちゃと掻き回されているだけの耳の奥で、なにか、弾けて)
十埼・竜 2021年11月22日
――――、
、
(耳に触れる。手の激痛でそこに何かあることが知れる)
、……、――!!
(頬を辿って喉に手を、両手で締めるように触れる)(振動、は、ある)(脈。)
十埼・竜 2021年11月22日
(その恰好のまま、驚愕と困惑にまみれた顔を上げて)……――――、(何笑ってんですか)(唇だけが動く)
(…………頭がひんやりして、すずしい。)
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
────!
(いつもと変わらぬ笑顔。お腹まで抱えているけれど、やはりその笑い"─"はそこにはない)
(そもそも、笑い"─"だなんて、そんなものはあっただろうか。)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
(世界は"─"を忘れた。次にその色を。次にその輪郭を。)
("─"とは波ではない。"─"とは振動ではない。)
(論理も、理屈も。表現する言葉たちも。あっという間に世界の脳から抜け落ちていった。)
(やがて鼓動と呼ばれたそれも、彼の体から忘れられていくだろう。)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
(無"─"の中にいると、人は自身の体内の"─"と幻聴によっていずれ発狂するらしい)
(だがそもそも、"─"という存在が消えてしまったら?)
(自身の命の存在すら、確かめられなくなってしまったら?)
(どうなっちゃうんだろうね。)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
──、────────────。
(オレちゃんに何か言いたいことあるんじゃないの?と耳に"────"の手を当てて。)
(ま、オレちゃん宛てじゃなくてもいいんだけどさ。)
(今なら、何を言っても許されるよ。許さない世界なんてないんだから。)
(試しにオレちゃんが、さん、はい。)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
──────────────!!!!!
(体を腹からくの字に折り曲げて、苦しいくらいに叫んだのだろう。)
(何も伝わらなくていい。この言葉は、誰にも聞こえなくていい。)
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
───、
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
───。
(無効票)
十埼・竜 2021年11月22日
(自分の鼓動が手のひらから滑り落ちていく)…、……!!
(何度も何度も確かめるたびに首の周りがべたべたになっていくけれど)
(そのうち、ぱたりと腕を降ろしてしまった。)
(ぼくはいま、忘れようとしている。とても大切で、とても大事で、とても――――)
(――――どっちだったのか、わからない。)
十埼・竜 2021年11月22日
【「まるで世界の終わりみたいだ」】
【「ここまでで、いいの?」】
十埼・竜 2021年11月22日
(いいもんか。)
十埼・竜 2021年11月22日
(世界から“―”が消えたところで、やっぱり此処は古い校舎の裏で、月明かりがボロボロのジャンクたちとぼくたちに降り注いでいて)
(別になんにも、終わっていそうになかった。)
――、―――――――。
(それ、何の真似ですか。)
――――――――――――――――――――?
(自分でやっといてバカバカしくないんですか?)
十埼・竜 2021年11月22日
(痛む胸を広げて肺一杯に夜の冷たい空気を吸い込んで。)
―――、
(ぼくは、)
―――、―――――、――――――!!!!!
(月に咆える。)
十埼・竜 2021年11月22日
(それから)
(血まみれの手を、彼女の襟首に伸ばして)
―――――、―――――。
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
("──"と引き付けられて、瞳と瞳がかち合った。)
(ぶは、ひっでえ顔。なんつったら、怒るかな。まあいいか、聞こえないし。盛大に笑ってやろ。)
(そんでもって、やってもらお。)
(その胸に押し付けるように、死にかけのストラトキャスターを渡した。)
(かつて、大殺戮テロを齎した。その凶器。)
(もはやそれは、かげろうと一心同体の、未だ命のある生き残り。)
(お前は京都のあの時、オレの"──"について来なかったけれど。)
(すっげえ気持ちいいんだぜ。壊すってのはさ。)
(お利口さんのおわりちゃんに教えてあげるぜ。今なら、誰も聞いちゃいないし。)
(それに、)
(オレは最初に言ったよな。)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
───、───────。─────・──!
(無効票)
十埼・竜 2021年11月22日
(きっと全然伝わってない)
(ああ、伝わったところでやっぱりこんな顔で嗤われる気がするし)
(視線には怒りと呆れと諦めが入り混じる)
(その上、押し付けられたのは)
(いつかのラウンジ、月明かりに照らされていた姿と比べたら、あまりに無惨でボロボロの、)
(何を言ってるのかわからないけれど)(何を煽られてるのかは、何故かわかる)(だってあなたはぼくよりよっぽど、)
十埼・竜 2021年11月22日
……─────。
(いつかの言葉をそっくりお返し吐き捨てて、)
(ひったくるようにその首を掴んで)
──────、──!!!!
(そのまま、地面に、今できる全力で。力任せに叩きつけた。)
(無効票)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
(きっと酷い"─"がしたのだろう。"──"も"──"も聞こえやしないが。)
(確かに今、ここで。)
(オレは殺された。)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
(どんな顔で死んだのやら。死に顔は、自分すらも分からない。)
(なんとなく、胸のあたりが苦しくなった気がして、手を当てる。)
("──"は、聞こえない。)
(まあ、でも。うん。)
(よかったよ。)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
(犯人が死んだのなら、当然世界は思い出す。)
(耳鳴りが治る時のように、遠い彼方から微かな音が響いて来た。)
(ああっと。危ないね。)
(一応はさ、オレが捨てたようなもんだし。)
(ノイズイーター。彼の枷であり防波堤。そいつをオレが嵌めるってのもなんだか変な話だな。)
(彼の頭に、差し出してやる。)
(叫ぶ)
十埼・竜 2021年11月22日
(耳に伝わるものが何も無くても、身体の奥まで響く衝撃が、視界に舞う土埃と屑が、千切れ弾けた弦が、)
(これはもう終わったのだと、告げる)
(その向こうに見た彼女の顔は、妙に安らかそうで)
(いつか、どこかの、白い箱の中に、そんな顔を見たことがある気がした。)
十埼・竜 2021年11月22日
(半端に残ったネックを握ったまま、膝が崩折れる。単にもう、体力が限界で────ああ。耳の奥に、いやな、"音"が)
(もう馴染んだ重みがそれを塞いでくれる。波が、遠退く)
……かげはさん、
(何だったんですか)(何やらすんですか)(────それともどうせ聴こえなかっただろう言葉でも、繰り返そうとしたのか)
(言葉ごと、意識ごと、そこで途切れさせながら。)
十埼・竜 2021年11月22日
(戻ってきた音の中に、もうひとり分の心音が見つからないのを)(ひどく、気掛かりに思っていた。)
(叫ぶ)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
─────。
(彼の持っていたストラトキャスターの首。それに触れながら。)
(ありがとうな。相棒。)
(さら、と。まだまだ小さな手の平から、砂となって零れていった。)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
(死んでるみたいに眠ってる、少年を受け止めた。)
なんだよおわりちゃん。こんなときまで半端ものじゃないのって。
……聞こえなきゃ、伝わんないぜ。
(さてさてどうしたものやら。おぶっていくにはこちらに筋力もなければ、もうそんな体力も──)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
(あ、)(そこに、聞こえた。)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
や~~~~やっぱ持つべきものは友達だよな~~~~~~!!!
(とりあえず気合で。意識のない体も、その頭もでかなり重たいけれど。)
(あそこまでは運んじゃろ。お礼の一つ。)
(よたよたと不安定に歩き出した)
薄羽・カゲハ 2021年11月22日
────あんがとね、おわりちゃん。