【イ】豊饒祭一日目 AM10:00 開会式
竜城・陸 2021年11月20日
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開会式の壇上には、藍色の翼と尾を持つ竜人の姿があった。
青のクラスを纏める“蒼海番長”――竜城・陸その人である。
「豊饒祭の開催にあたって、生徒の皆、そして職員の皆様方の多大なるご協力を賜ったこと、大変嬉しく思います」
常日頃浮かべた穏やかな微笑はそのままに、壇上から、並ぶ生徒たち一人一人の顔を見渡して。
少しだけ、居住まいをただすように背を伸ばす。
「――さて、俺たちディアボロスは、パラドクスと残留効果の恩恵で多くのことを成し得るけれど。
それもその種となる自然がなければ意味をなさないものだ。
ゆえに――与えてくれる自然と、ひいてはこの大地、世界、それらへの感謝を」
「連綿と紡がれてきた歴史の中で形を変えながら、なお今も続くこうした祭事を通して……今一度、各々の心に銘記して貰えればと思う」
「そしてそれが、世界を取り戻そうという君たちの糧になることを願っているよ」
そこまでを言い終えて――いちど、呼吸を置くように小さく息を吐いて、吸って。
それから、ふわりと眦を緩める。
「……なんて、まあ、堅苦しい話はここまでとしよう。
一刻も早く遊びたい、という顔もちらほらと見えるからね」
「ああ、ただ――この二日間、新宿島に暮らす一般の方々もお越しになっているからね。
学園生として、ひいては人々の歴史と世界を支えるディアボロスとして、節度ある行動を心掛けてほしい」
これだと結局最後までお小言みたいだなと、僅かに苦笑を吐いて。
壇上の竜人は、気持ちを切り替えるように咳払いをひとつ。
「それでは――これより豊饒祭の開催となる。
今日ここにあるものは、青のクラスと緑のクラスが一丸となって作り上げた成果の結実であり――何より君たちが守ってきた日常そのものでもある。
どうか存分に、楽しんでくれると嬉しいよ」
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