溺Lulu

crime : ディープブルー

法雨・ジン 2021年11月10日


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「あら」

「起きるのがお早いのですね」

店主が微笑んでいる。
寝ていたのだろうか。あなたが掛けていた筈のカウンターは無い。
薄暗い部屋に視線を巡らせてみれば、壁一面の巨大水槽が圧巻だーー店の奥、だろうか。……ここに魚は、どうやらいないけれど。
寝ていたのだろうか。飲酒で痛む頭を抱えて、少し動いてみると良い。
じゅぶり。
冷たい水をたんと含んだクッションが、あなたの下方に敷き詰められている。
重く冷たいクッションは体を沈め、不快感が強いだろう。

気づくと良い。
透明な障壁があなたを内側に閉じ込めていること。……思いの外広い。
金魚鉢のような球体にそって、一体どこから湧いてくるのか水が注がれている。
身体から熱を、こんこんと奪い取る、海水。
クッションが含める水嵩はすぐにこえて、ぱちゃり、あなたの指が波紋を描いた。

店主は外からあなたを見ている。
ごぼ、ごぼぼり。店主の右眼が、内で泡柱を上げた。
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刹那閃くオパールのあなた
20〜25レス程度を想定
一週間停滞で水の底

脱出は任意
消滅からの再漂着可
完全なる死のみ禁止させて頂きます。
(※説明書→世界説明→ディアボロスの能力→不死性 参照)




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霓・虹彩 2021年11月10日
──これは、

「そういうこと」かい、店主さん。

(沈める、ってのは)
(オパールを眇める。反して、心音はどうどう高鳴る)
(蜻蛉の翅も、仕事上がりの白い迷彩装も、重たく水を吸っていて、寒い、ぐわんと頭蓋脳髄が混濁する)
(全く、楽しそうな顔しているね。鏡面の反射に映る、わたしもか)

虫を金魚鉢で飼うもんじゃあないさ。
えーと、サングラスはそっち?
0

法雨・ジン 2021年11月10日
はい。
まさか、
お嫌でした?

(そんなまさか。あなたも笑っているじゃあないですか。)
(店主は瞬きをしない。)
(水嵩はじわじわとあがる)

飼いたい訳では無いですもの、ただ私の分まで死んで欲しいだけ。
ああ、カウンターに置かれていたサングラスですか? 大切なものでした?
0

霓・虹彩 2021年11月10日
どうだろうね。
どきどきはしてるよ。
“此処にいる実感”が持てるくらいに。

(うすら笑いの唇を舐めれば、ギブソンの辛味後味。
凍えは強烈なスパイス。
とん、とん、と、と、つま先で足下の硝子を叩く)

“私の分”ねえ。自分で死んで、流れ着くのは野暮ったい? 独り生き残るのも、難儀なもんだよ。
(クロノヴェーダとも違うだろう。酔狂なディアボロスもいたものだ)
それなりにね。
沈めるなら、あれも入れといて欲しかったくらいには。
0

法雨・ジン 2021年11月11日
ええ、あなたは此処におりますよ。
ここで沈んで、腐って、分解されていくのですよ。

だって辛いじゃあないですか。
ひとりぼっちで死んだのに、海にさえ拒絶されるなんて。
(『意思』が潰えなければ還ってこれるという珍妙な身体。おそらく、死ぬ事は『意思』ではないのだ。アクアリウムはそうわかっている。)
(と、と、つま先が動くたびに波紋。何をしているのかなと思う。暗い部屋の中、水槽から注ぐライトを反射してきれいな、みなも)
なるほど。宝物なのでしたら、後で一緒に沈めて差し上げましょう。
0

霓・虹彩 2021年11月11日
それは。
(──夢想する)
(ぷつぷつと虫達が、微生物達が、己の肌を食んでゆき、段階を経て水の中へと散々にばらけていく様を。儚い摂理を。)
(隠しようもなく)
(隠す理由などなく)
──素敵。

(たん、材質をつま先で確かめ終えて、ああ、これならば)それでもバーテンさん。
引き継ぎもなく死んだら、上司が明日盛大に困るんだ。
それに。

思い出からさえも拒絶された身としては。
先に、そちらへ乗り込まないといけないんだ。
(言うなり、ばしゃ! 冷たい水を掌で掬い、顔に浴びて、二度目には唇を寄せる)
(ごく、ごく、ご、ご)
(元々、大量の水分を必要とする身体。頭痛の隠し味が薄らいでいく。彼女の瞳の奥で、泡柱が立つのを思い出す。ぷは。)
……ふ、う。
奥の奥まで、水なら──君の血でも、飲んでいるようだよ。
0

法雨・ジン 2021年11月15日
そうでしょう。
お分かりいただけると思いました。
(ゆっくり。水槽に、歩み寄る)
(歩むリズムに合わせて、いとおしげに語る)
皮膚が水を吸って膨らんで。
柔らかさを微生物が食い破って、
濁った血がゆっくりと溢れ出て。
白い骨が肉にも見放され。
それが全部、透明へと還る流れ。
ーーそれを私が、見ていますから。

ーー(ばしゃ! 水を飲み始める相手に目を見開く。随分な飲みよう、増える水嵩を減らしたいーーわけでも無さそうだ。)(何か脱出手段がある?それはいやだ。)(障壁内に流れ込む嵩を増水。ごぼぼ、水は唸りを上げて内に注ぎ込まれる。)
困らせても良いじゃあないですか?ドタキャンくらいよくある話でしょう。
思い出からさえ拒絶されたあなたを抱きとめてあげるゆりかごが私です。それでは、だめですか?
0

霓・虹彩 2021年11月15日
(含んだ液体を舌で転がせば、塩っ辛くて)
(体液を彷彿)
(透明な血液を口元から、髪先から、滴らせながら、甘美な言葉の羅列に蕩ける)

そうだね──取り戻していたら、考えなくもなかったよ。
母の顔も知らない身。
君という揺り籠に。
肉も皮も委ねて、骨の髄まで融けるのも悪くない。

──だが。
今は停滞よりも、前進だ。

(こちらも歩み寄り、ぺたりと障壁に掌を合わせ、細い指を這わせる)
(足元から行くにはクッションが邪魔だ)
(増す水嵩。飛沫が盛大に上がる。膝上を超えはじめる。未だ動かない。澄んだ血みどろの体を、翅を、更に水で重くする。まだ、もっと、もう少し──)
(ああ、)
(自らを不利にしたくなってしまうのは、リスクジャンキーの性。)

ドタキャンは不味いよ。信頼ありきの仕事なのでね。
君のこれはライフワークかい?
それとも単なる趣味?
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霓・虹彩 2021年11月21日
そんなに、逃げてほしくないのかい?

(にたり)(虫の女がわらう)
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法雨・ジン 2021年11月26日
前進。
いってしまうのですか?
ーーそれは、とても寂しい。
(甘えるように語りかける。出れるものならばと煽り立てるように微笑みかける。私そのものでもあるガラス障壁の強度と、あなたのどちらが強いのか。)
(互いの掌が、透明なガラス一枚越しに重なり合う。私の手の方が少し小さい。)

その二つの境界は、どこか、にもよりますが……
ライフワークと呼ぶには我欲に過ぎず、趣味と呼ぶには魂が悦びすぎる。
ずっとこうしていたんです。
ずっとこうしていたいんです。
(雑談の柔らかさ。亜麻の如きしなやかな強靭さ。)
(大きな瞳が波紋のように揺れて笑った)
ええ、だって、やっと捕まえたんですもの。
久し振りなんです。こんなに綺麗な死体を飼うのーー
(冷却。海水が急速に冷える、海水は0度で凍らない。海水はもっと凍てつける。)
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霓・虹彩 2021年11月26日
っ、く、
(笑みが凍りつく。凍て冬が襲来する。小柄なおんなと境目でふれあっていた掌が、全身が、零下に固まりかける)

そ、う。つまり、嗜好か。
ずっと、こうしていた?
君は、なんだい。
もし、問いが無粋なら──悪いね。

(急速な冷却に、生理的反射で鳴りそうな奥歯を喰い締めた。)
(飛翔せよ、己は蜻蛉──別名、“dragonfly”、“魔女の針”。飛龍も魔法も、海に挑むにはうってつけの概念。無理な駆動に体が軋み上がり、ぞくりとする。わらいがやまない。スティレットを掴んだ。細い、細い、刺殺の爪牙。)

甘言に、寒水に、墜ちきる前に。
ねえ君、全力でカタをつけさせてもらう──よ!

(片掌は君と合わせたまま。)
(もう片腕で、がん、がぅん、がん、がっ、突剣の爪牙が硝子を穿つ、動け、動け、さもなくば虫籠の中で凍えて死ぬばかり、堪らない!)
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法雨・ジン 2021年12月2日
なに、も何も。
私は、ご覧の通り。美しい生き物に御座います。

(生き物というよりは。ただただほのしずかな水底のように微笑んでいた。)
(がん、がん!ぎん! 針がガラスを貫こうとする耳障りな音。肩まで水が上がってしまえばそんな抵抗も水圧が無にするだろう、まだ、まだ満ちぬ。寒さよ虹色の身体から力を奪え、そうでなくては、ーー破られると。『水槽』は無意識に理解をしていた)

……よしてくださいな。
ねえ、無駄な抵抗なんてしていては。あなたの亡骸が苦痛に歪んでしまう。

(水飛沫のようにあがる焦りを殺せ。勝機を感じさせるな。己に言い聞かせるように胸を撫で下ろして、衝撃に耐える事に己の力を注ぎ込む。硝子越しに合わせた手のひらの内側が汗ばんで、いや)
(はやく絶望しろはやく諦観しろはやく甘さに沈めはやく凍えて沈め、はやく、ここは、あなたのための。水葬!)
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霓・虹彩 2021年12月2日
(美しい、は認めよう。然し)

生き物にしては、さ!
君、熱く赤い血が流れてなさそうじゃあないかい!

(一撃ごと、透明で冷ややかな君の血潮に濡れ、駆動域が悲鳴を上げる、堪らない、最高に高揚する! 零下の熱に炙られ凍えながら、笑みに歪んだ唇にぎざぎざの鋭い牙が覗く。)
(水面は今や太腿を這い上り、腰に到達しようとしている。足の感覚はとうにない。だが腕はまだ此処に!)

御免だね!
抵抗させろよ、生死の縁で足掻かせろ!
わたしをどうかさせてくれ!

(陶酔/凍水の感覚が背骨を這い上り、蒼白、凍傷か低温火傷でも起こしたのか熱い、くらくらする。どうかしている自分のギアをもっともっともっと、ああ!)
(合わせた掌の硝子にかじかんだ爪を立て渾身の──最高潮の、一撃を!)
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法雨・ジン 2021年12月8日
(きん、と、氷がひび割れるような音がまず、した)
あ、(罅、)
っ、あ、このっ、(抑えようとしても。もう遅い。罅は隔たりにばきばきと拡がり、そこから冷えた空気と水が溢れ出して)

ーー足掻くなよ!!
虫は虫らしく、溺れて死ねよ!!!
(あああ楽しみにしてたのに、こんなに胸が高鳴ってたのに、溺れるようなばかのくせにたかだか陸の虫けらのくせに。濁った感情が口からどうっと溢れたのは決壊の証だ。)
(罅は悲鳴に合わせるように拡がってーー)
(水圧に耐え切れることなく、ど、しゃ、破片の炸裂。冷えた水が水槽の形を保つことをやめて、低く低く、わずか一瞬の大波の如く)
(ざん、ぶ、と床に)(凪果てた)

(その波を思い切り浴びた女は、ぽたぽた雫を指先からこぼしながら)
(ひどく不機嫌そうな面持ちで、むしけらを睨み付けていることだ)
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法雨・ジン 2021年12月8日
…………、

サングラス。
でしたっけ。
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霓・虹彩 2021年12月11日
ふ、くく───
(罅から冷却水が溢れ出る。割れ果てた水槽の中、冷たい羊水から開放された虫の女は破顔する。凍えた身体からぺきぺきと音がしそうなくらいに、盛大にのけぞり笑う)

あっはっはっはっは!
こんなに楽しかったのは久々だ!!

(よいしょ、水槽の亀裂から外に出る。無造作な出方のせいで、肩の辺りを切ってしまった。混ざり合う透明な血と赤い血。薄赤の滴が床に滴る。)
(混ざり合えとて、嗜好同士が噛み合わない。いやはや得てして、そういうものだ。おうおう無念そうにしちゃって。)

とびきり刺激的な体験をどうもね、ド変態のかわいいバーテンさん。
馬鹿は馬鹿でも、見ている馬鹿より踊る馬鹿なんでね。あれ、阿呆だったっけ? どっちでもいいや。
そう、サングラス。寄越しなさいな。

(睨む視線を物ともせず。見下ろして、にぃっと笑う)
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霓・虹彩 2021年12月11日
ねえ。
お名前なんての。
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法雨・ジン 2021年12月12日
そうですか。楽しんでいただけて、私もうれしいです。
(見上ぐ。濡れた仏頂面と低い声は、これっぽっちも言葉通りのことは思っておりません、と言わんばかり。)
(水槽の女は、水を浴びてもちっとも凍えた様子はない。は、と諦観自嘲を含んだため息を笑うように吐くと、くるりと虹色のむしに、背を向ける。)

名前を知って、どうしますか。通報でもしようって言うなら無駄ですよ、この新宿はいくらでも一般人の洗脳が効く世界なんですから。
復讐者の警察がいるのなら話は別でしょうけど、生憎、今は証拠も、ありませんからね。

(話しつつ、小柄な背は奥の扉に消えて、すぐにまた戻ってくる。店舗部分に繋がる扉だ。カウンターに置き去りだったサングラスを手に持ってーーぽい、と。弧を描かせて放る。むしがよほど手元が狂わない限り、取りやすい位置を狙って。)

法雨ジンです。
法律の法に、ふりしきる雨。アルコールのジン。
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霓・虹彩 2021年12月13日
(澄ました笑顔の女の仏頂面と不機嫌が面白い。そんな顔するんだ、へーほーふーん)

冷水じゃなくて、気だるく温かいぬるま湯だったら、わたしも甘やかされて二度寝してたと思うよ。
いんや、別に? 愉快の記念に聞きたかっただけ。
警察とは無縁の無法地帯で生きててね。残念ながら秩序の番人は知り合いにいないのさ。それに久々にテンションあがったし、無問題ってやつよ。通報なんて無粋の極みさね。

(壁に凭れてバーテンが戻ってくるのを待っていた。サングラスを難なく受け取り、かけ直しながら、“法律の法”の辺りでくつくつ笑う。)

みのりね。悪い冗談みたいな名前だこと。
わたしは霓虹彩。雨降りの後にかかる虹と、彩り。霓はこう。

(聞かれてもいないのに、紅したたる指先を壁紙に押し当て、悪戯のように画数の多い漢字を書く。)
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法雨・ジン 2021年12月20日
温水プールが御所望でしたか。死に怯える顔も好きなもので、つい厳しくしてしまいましたね、あーあ。
……そうですか。なら、いいんですけど。
(愛想と行儀の良いバーテンダーとしてにこにこ振る舞っていた表情は、もうどこにもない。ため息、うんざり、最早諸々隠しもせずに。)(通報はしない、との話にも、それはそれで奇天烈なものを見る目を向けていた。)

(青いひかりばかりの世界で、濡れた血色は大層鮮やかに見えて。ああやだ、一目で文字を覚えてしまう。)
……その字も、確か、虹の意でしたっけね。
雨の後には虹が出る、って? あらあら、名前で随分と丁度いいオチがつきました!

ーー楽しかったなら。また飲みに来てくださいます?
(は、と自他まとめての嘲笑をこぼして。ああ馬鹿な話、そんな事あるわけはないない。)
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霓・虹彩 2021年12月21日
悪趣味かい。ま、人のこと言えないし、苦しがられるほど楽しくなる気持ちは分からなくもないけどね。

(けらり、背を預けていた壁からするり離れる。さっむ。タオルのサービスは無いようだ。奥の扉が店に繋がるなら、このまま帰らせてもらおう。)

そう、虹。にじいろ。
ね、思ったより綺麗に着地したよ。
当然。気が向いたら。
溺れるくらいの強い酒を頼みに。

(あっさり答える物好きな虫。かつかつ、硬質な脚で歩き出して扉を潜る)

じゃ、また。
(──ぱたん。数拍後、小さく、扉越しにくしゃみが聞こえるだろう)
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霓・虹彩 2021年12月21日
(──、一度くらい)

(死んでみるのも、愉しいかもしれない)
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法雨・ジン 2021年12月29日
(来る気があるのか)
(大きな水槽の瞳を数秒見開いて。それから息をはく。手を胸にあて、今更ながらの恭しい礼の真似事。)

またのご来店、お待ちしておりますよ。とんだ悪趣味仲間として、歓迎させていただきます。

(ーーぱたん。夜風が濡れた身体を襲うことだ。当然のくしゃみを聞きながら、さて次があるならばその時は)(その胆力への賞賛がてら。ぬくい酒を出してやるのもいいやもしれぬ)
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法雨・ジン 2021年12月29日
(こうべをあげれば ひとりきり)
(エアレーションの音が、今宵ばかりはひどい耳鳴りみたいだ。)

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