光の織り成す途
ジズ・ユルドゥルム 12月15日11時
ファロスの光をめぐる二つの途(みち)、二人の守護者
その後日譚
関連シナリオ:
https://tw7.t-walker.jp/scenario/completed_scenarios?scenario_type_id=1081
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とある日の新宿駅行きのパラドクストレイン
お約束した方と
2週間間が開いたら〆(応相談)
1
ジズ・ユルドゥルム 12月15日11時
(イスカンダルを奪還してしばらく経つ。奪還直後はこれでしばらく亜人を見なくて済むかと思ったこともあったが、リグ・ヴェーダでも亜人達は相変わらず蔓延っていた。)
(今日もまたかの地で亜人を倒し、さらに蟲将を倒し、偽神も倒し……。片手に携えた槍は、最早どの種族のものなのかも分からない血で汚れている。
槍の手入れでもしようかとトレインの連結部のドアを開ければ、取っ手から上げた視線の先に、見慣れた姿が見えた。) ……おや。
エイレーネ・エピケフィシア 12月17日23時
(戴冠の戦に挑む諸勢力を「正常」と「イレギュラー」に二分するなら、蛇亀宇宙リグ・ヴェーダは間違いなく「正常」側の筆頭と言える存在である。浮遊大陸が動き出しアルタン・ウルクをも圧倒するという戴冠の戦まで、復讐者に残された時は決して長くない)
(幸いにして、預言された破滅を食い止めるために戦おうと志す者は多かった。彼らの内の一人が、今まさにジズの眼前にいた)
おお、ジズ様ではありませんか。
同じトレインに乗り合わせているとは……いえ、珍しいことではないですね。
(知恵と軍略の女神に仕える神官エイレーネ。普段の彼女であれば、この場合は「おお、ジズ様ではありませんか!此度も共に戦えて光栄です!」と天真爛漫に喜んでいたに違いない。だが今日は、微笑に飾られた声がどこか歯切れ悪く聞こえた)
ジズ・ユルドゥルム 12月20日13時
やぁ、エイレーネ。(目元を覆っていた面を外し、いつもと何ら変わりない様子でほがらかな声をかける)
ふふ。イスカンダルではよく一緒になっていたものなぁ。
それにリグ・ヴェーダ行きの電車にも時々乗り合ったな。この間のモヘンジョダロの任務でもそうだった。(ごく普通のよもやま話という様子で語りながら、外した面を腰のあたりに引っ掛ける。そこまで話して、ふと今日の彼女の様子を気に留めた)
……元気がないように見えるな。どうかしたのか?どこかにケガでも?
(普段のエイレーネの溌剌とした様子はよく知っていた。陰りが見えることが珍しく、少し前のめり気味に心配をする)
エイレーネ・エピケフィシア 12月25日23時
(エイレーネの手元には剣と砥石があった。クシフォスと呼ばれる古代の直剣は、槍ほど頻繁には用いないが常に携帯はしているものだ。長物の取り扱いに困る閉所での戦闘や、手から離れた槍を回収できない時に役立つ)
(率直な問いかけを受けて、粛々と刃を研ぐ手元の動きが僅かな間だけ止まる。その一瞬は、長く戦ってきた相手に隠し事は無駄だと悟る瞬間だった)
いえ、特に後を引くような手傷はございません。
ただ、そうですね……割り切ったつもりの選択を、思いのほか引きずっていることに気付いてしまったようです。
ジズ・ユルドゥルム 12月30日22時
(手元で剣を研ぐ様子を認めると、今日は槍でなく剣を使ったのかと少し物珍しそうにしげしげと眺めた。その後とくに断りも入れず、エイレーネの横あたりに腰を下ろす。)
(携えていた槍の穂先を手元に寄せ、血痕を拭うため道具入れから布を取り出した。隣にいるのが経験の浅い復讐者であれば、血なまぐさい武器をむき出しにしない気遣いをしたところだが、彼女ほどの復讐者にそんな気遣いは、少なくともこの場ではまったく不要と思えた)
(砥石が刀身を擦る音が止んだのを聞いて、エイレーネの方に視線を移す。つい自分も一緒になって手が止まった)
そうか。君ほどの勇士だ、そこいらのトループス級やアヴァタール級に遅れをとるようなこともないか。
…割り切った選択を、引きずっている…?(一度言葉を切り、少し思考の間を置く)その選択というのは……もしかしてこの間の、ファロスの光の件についてか。
君は、あれを壊さないことを選んだんだったな。
エイレーネ・エピケフィシア 1月2日00時
お褒めに与り光栄です。此度もアテーナー様のご加護の下、無事に作戦を終えることができました。
(自分だけではなく奉じる神の力あってこそだと謙遜してみせる態度は、神々は傲慢を罰するという宗教観にエイレーネ自身の性格が合わさったものと言えた)
ご賢察の通りです。
わたしはファロスの光と天空寺院を天秤にかけ、リグ・ヴェーダ攻略の大局を鑑みるに後者を優先すべきと主張しました。
戴冠の戦までに浮遊大陸を移動不能の状況に追い込むことは急務です。
そのために大陸下ぼ蛇亀を直接狙う策を立てると共に、地上の攻略も加速しなければならないのが今の状況と言えます。
これから幾度となく立ち塞がるであろう天空寺院に侵入し、理解することは、最後のファロスの光よりも優先される……わたしはそう考えていたのです。
エイレーネ・エピケフィシア 1月2日00時
イスカンダルで戦っていた頃から今に至るまで、わたしは自分なりの理を尽くして作戦と向き合ってきました。
わたしの理は他の方が抱くそれと全く同じものになり得ず、情にも反するかもしれないことは、言うまでもなく理解しています。
それにもかかわらず……いざ実際に直面したことで、わたしは戸惑ってしまったのだと思います。
ずっと共に戦ってきたあなたとの、当然あるべき意見の相違に。
情けないことですね。
(恥じ入るように苦笑を浮かべながら、再び砥石を動かし始めた)
ジズ・ユルドゥルム 1月3日17時
私は神という概念を理解しているとはお世辞にも言えないが…。きっと君は女神から目をかけられているのだろうな。
(そこまで言って、あっ、と言いたげ顔になり)異教徒からこういう事を言われるのは、君の信条的に大丈夫だったか?
ああ、そうだったな。
そして私は、ファロスの光を壊すことを選んだ。
(彼女の語る戦局観を、静かに聞いている)
君は大局を見ているんだな、エイレーネ。(否定の色が微塵もない表情に、普段と同じ朗らかな声で話す)
イスカンダルのカナンの地から亜人に向き合い続けた君のことだ。あの忌々しい光のことを矮小にとらえているわけじゃないのは、私でも分かる。
そのうえでリグ・ヴェーダ攻略との天秤にかけ、何を優先すべきか決断したんだろう。
きっと、君の考えが正しいのかもしれないな。
ジズ・ユルドゥルム 1月3日17時
なるほどな。頭では理解していても、その「情に反する」ということが実際に起こって…
しかも、それに直面させたのが、昨日今日知り合ったばかりの人間ではなかったと。それで戸惑ってしまったと、ということだろうか。
……ふふ。思ったよりも信用してもらえていたんだな、私は。
いいや。私は情けないとは思わないな。
なんというか、それよりも……君が思ったよりも達観していなくて、安心したよ。
あの時は、アーディティヤに利用されないためだとか、信仰と蹂躙を掛け合わさせないためだとかいろいろ理由を並べたが。
一番は結局、自分自身の感情のためだ。(一度目を閉じて、ふ、と小さく笑った)
君の考えが正しいのだろうと思いながら、私は自分の感情を優先した。
幻滅したか?
エイレーネ・エピケフィシア 1月5日01時
そう在りたいと願っています。
故郷が誇る偉大な劇作家エウリピデス様の作品にも、「努力する者には、神も同じように努力してくれるだろう」という台詞がありますもの。[※『タウリケのイピゲネイア』におけるアガメムノンの子オレステスの台詞]
(異教徒がどうこう言われると、くすりとして)いえ、気にしません。元を辿れば遠い地からいらっしゃった神々も、故郷には大勢居られますし……。
人間よりも偉大なものへの畏れさえあれば、それでよいのです。
故郷の人々も……長い時を経てただ一つの神を信じるようになっていましたが、敬虔さは何一つ翳らずそこに在りました。
(最近帰還を果たしたギリシャ共和国の国民は9割が正教を信じ、残りの1割はキリスト教の他宗派・無宗教者・ムスリムが大方を占める。古代の信仰を復興する運動の参加者は全体から見てごく少数だが、エイレーネはそんな状況も時の流れとして受け入れている様子だった)
エイレーネ・エピケフィシア 1月5日02時
同じ戦場を知る者を措いて、他に誰を信じよと言うのでしょうか。
わたしはジズ様を信頼しています。その選択まで含めて。
ええ、仰る通り、頭では何もかも分かっていて……それなのに、心が追いつかなかったとは。
優しいお言葉を頂いても、やはり恥ずかしいと感じてしまいます。
ファロスの光をこの世から消し去りたいとは、誰もが願うこと。
あなたは人として当然の想いに従ったまで……わたしはそう考えます。
寧ろ、わたしの選択の方が薄情に過ぎたのかもしれません。
(イスカンダルにおいてエイレーネは殆ど迷いを見せなかった。それは敵の単純さに起因していたのだろう。だが、アーディティヤが持ちうる手札は亜人より多い)
既に亡い人間では復讐者は止められません。
ですが、アーディティヤは数多の人々を生かして力としています。
……最終人類史の人々を護るために斬り捨てねばならぬ命もあるかもしれない、と覚悟していましたが……全くの空回り、でしたね。
ジズ・ユルドゥルム 1月16日01時
良い言葉だ。そうだな、たとえ孤独な努力だったとしても、大いなる存在は我らの努力をよく覚えていてくれるさ。さらに同じように努力もしてくれるなら、より背筋が伸びるというものだ。
(エイレーネの微笑を見てこちらも気が抜けたように、ふ、と笑った)君が寛容で安心したよ。
(のんきそうに言いながら、穂先の手入れを再開する。信仰の違いを理由に突っぱねられる心配は、彼女のこれまでの人となりを知るがゆえに、そう深刻な心配ではなかった)
そうか。……君の故郷も、だいぶ様変わりしたようだ。本質的な敬虔さは翳らずに残っているとはいえ、寂しくはなかったか。
ジズ・ユルドゥルム 1月16日01時
ふふ。エイレーネにそう言ってもらえるとは光栄だ。
私も君を信頼しているよ。考えに差異があっても、信頼は以前から変わらない。
心が追い付かないのも無理はないさ。イスカンダルでは…今回のような選択を強いられることはほとんどなかったろう。
そこに来て、最後のファロスの光を壊す段であの二択だ。君にしたら、突然仲間が離反するのに似た感覚だったんじゃあないか。
確かにファロスの光を壊して「人々」を助けたいと思うのは、人間らしい想いと言えそうだ。
しかしあれを壊す選択が「最終人類史の人々」の助けになったかは……今はまだ、判然としないな。
ふむ。仮に君の選択が薄情だっとして、君は薄情者な自分が嫌か?(相変わらず朗らかな様子で、エイレーネの方を見遣る。その表情に、非難の色は無い)
必要な覚悟だな。(少し表情に影を落とし、静かに頷く)
だが、そんな覚悟が役に立つ時は、来ないほうがいいさ。私は……来ないことを、祈っているよ。
エイレーネ・エピケフィシア 1月26日00時
驚きはしました。イエースース・クリストス[「油を注がれた者イエス」の古典ギリシア語発音]なる未知の英雄とその父神が、人々の信仰を一心に集めていると知った日には……。
ですが、現代の皆様は異なる神を信じながらも、アテナイが誇った壮大な建造物の保全に努め、また賢者の言葉を広め続けています。
遠く離れた新宿島においてさえ、ソクラテス様やプラトン様の名を知らない者の方が少ないでしょう?
(実際のところ、古代から現代に至るまでに失われた神殿や著作物は数多い。だが、その事実は残された財産の偉大さと膨大さを否定しない)
たった1000年前まで使われていた文字――現在の研究者が「線文字B」と呼ぶそれを忘れ、ミュケーナイやクノッソスといった古都の栄光の記憶も朧げになったわたし達と比べれば、圧倒的な進歩ではありませんか。
(「歴史」の概念が生まれて間もない時代に生まれた少女は、自嘲するように言った)
エイレーネ・エピケフィシア 1月26日01時
……否定しきれませんね。
僅かに過った気の迷いに過ぎず、すぐ正気に戻って同じ目的のため闘った事実があるとしても……その瞬間は、戦友から永遠の決別を突き付けられた心地でした。
嫌……というよりは、恐ろしく感じます。
例えばの話ですが。アポローン様が予言を下されて、何がどうあろうとも1人を殺さなければ100人を救えない運命とわかっているのであれば、わたしはそうすべきと考えるでしょう。
ですが、情を捨てることに慣れすぎた結果……無事に101人を救えるかもしれない時にも、誤った選択を下してしまうようになることを恐れているのです。
此度の選択は、境界を踏み越える最初の一歩だったのではないかと……。
(エイレーネが奉じる女神は、戦争の神にして知恵を司る存在、そして都市の守護者でもある。その名に懸けた戦いが野蛮に死を振りまくだけの結果に終わるなど、あってはならない……梟のような鋭い眼差しが、緊張した内心を物語る)
エイレーネ・エピケフィシア 1月26日01時
……獣神王朝で尽力した復讐者達が死者の書の間を乗り越えなければ、蹂躙戦記への到達はあり得ませんでした。
ならば、わたしも同じことをする覚悟を持っておかなければ非礼に値するというものです。
尤も、モヘンジョダロの1件はやはり筋違いだったのですけれどね。死者の書の間にはああなることを回避する方法はなかったでしょうから。
ジズ・ユルドゥルム 2月2日12時
(その名前を聞いて、それはそうだろうなぁという、若干の同情が混ざったような顔になる)
私も驚いたよ。黒い土の……ナイルの恩恵ある地で、さまざまな新しい神が信仰されているらしいと風聞を聞いていたが。数千年経って、その新しい神々はすっかりどこかへ去ってしまったのだから。
私のような古い田舎者は、まったくついていけんなぁ。(眉を下げて笑い、軽く肩をゆらした)
その偉大な先人の名は聞いたことがある。復讐者に配られる、現代一般知識の歴史の章に載っていたっけ。
ただ生きることが今よりはるかに難しい時代だったんだ。過去を記録することが疎かになったとしても、誰も責められんさ。
でも、過去が失われることを嘆いた誰かが他にも居たから、君が生きた時代の記録が今も残っているのかもしれないな。
ジズ・ユルドゥルム 2月2日12時
そうか。(目を伏せて、頷き、エイレーネの言葉を聞く。それから再び、彼女の方を見遣った)
すまなかった、エイレーネ。君に嫌な思いをさせてしまった。
あの光を破壊すると決めたことは後悔していない
。だが、君の覚悟や決断を空振りさせてしまったことは、申し訳なく思う。すまなかった。
イスカンダルは醜悪な仕組みの世界だったが…それゆえに、私達はほとんど常に境界の「こちら側」に立てていたな。
今後も同じようにいられればいいが…。(その保証はどこにもないと知っているがゆえに、歯切れ悪く言葉を切った)
割り切ることに慣れすぎたせいで、すべてを救える道があっても、それを見失ってしまうかもしれない、か。(何かを思い起こすように、ふ、とひとつ息を吐いた)その恐れには、私も身に覚えがあるよ。
恐ろしくても、どんな未来に繋がるか分からなくても、他者を巻き込むかもしれなくても…それでも選択をしなければならないのがつらいところだな。
ジズ・ユルドゥルム 2月2日12時
死者の書の間…、懐かしい名だ。
ああ、あれを打ち崩せたのは、あの場所の攻略に尽力してくれた皆がいたからこそ、だ。突破できなければ、獣神王朝に打撃を与えるのは難しかっただろう。
回避する方法は……どうだったのだろう。私は、真の意味で彼らを救おうとは、ほとんどしなかった。回避する方法を探すよりも、割り切ることを選んだ。
方法はなかったのか、私が見失っていただけなのか。…今となっては、何もわからないな。
エイレーネ・エピケフィシア 2月2日20時
ふむ、ジズ様は獣神王朝の中でも周縁部の生まれだったのですね。
今日まで伝わっている神の名を唱えることがない辺りで、朧げに察してはいましたが……。
わたしが生きた時代や土地は、ジズ様のそれと比べればまだ生活に余裕があったからこそ、過去に目を向ける余力を持てていたのでしょう。
(結局のところ、そのような余暇は奴隷なくしては得られないものだったのだが……見方を変えれば、奴隷に食事を与えて耐用することも都市の産業なくしては成り立たなかった、と言えるかもしれない)
ジズ様は明敏ですね。
偉大な歴史家ヘロドトス様も、当時記憶されていた出来事が「やがて世の人に語られなくなるのを恐れて」大著『歴史』を手掛けるに至ったのです。
本来の歴史を取り戻すために戦う復讐者の皆様や、作戦の記録を残す時先案内人の方々も、きっと同じ想いを抱いているのではないかと!
エイレーネ・エピケフィシア 2月2日20時
いえ!ジズ様が気に病まれることではありませんよ。(少し慌てたような声の大きさ。琥珀色の瞳孔が猫の目じみて開く)
そもそも、攻略旅団の方針として提示された条件は光を破壊する側に有利でした。
この結果は「まだその時ではない」と告げる、神々の思し召しなのだと受け止めています。
戴冠の戦が始まれば、いよいよ何よりも優先して護るべき最終人類史の人々が危機に晒されます。
その時、ディヴィジョンでの命の価値を低く見積ることを強いられないと断定できるほど、わたしは楽観的ではありません。
手を汚す覚悟は以前から固めていますが……それが本当に求められているかを判じるのは、簡単なことではないと身を以て知りました。
(今回も考えていない訳ではなかった。天空寺院への突入が決まれば、合わせてファロスの光の内部での破壊や、移送前にカーリーを討つ作戦を提案していたことだろう。だが、個々人が抱える一線は想定よりも入り組んでいた)
エイレーネ・エピケフィシア 2月2日20時
では、ジズ様に「恐れ」を抱かせたのは、死者の書の間での一件なのでしょうか……?
残念ながら、救おうと試みた方々が本願を成し得なかった以上、ジズ様の選択は仕方のなかったことです。
死者の書の間から引き返せば、より多くの人々がディヴィジョンの仕組みに苦しめられるのですから。それは誰にとっても受け入れられる結果ではありません。
その上であなたは救済を試みる仲間の道も認めて、暫くは待っていたはず……理性的な判断だったと思いますよ。
(当時いなかった者が差し出がましい口を叩くものだと、思わずにはいられなかったけれど、この言葉にだけは力強い笑顔で真実を帯びさせたかった)
ジズ・ユルドゥルム 2月13日12時
ナイル川のずっと西の荒地の生まれでな。(エイレーネの言葉にうなずきながら)文明から孤立した場所だ。「神」の概念も正しく伝わっていなくて…偶像も、聖典も、決まった神もない、古い自然信仰が残る地だった。
おぉ、その名も聞いたことがあるよ。君の故郷は歴史に残る偉人ばかりみたいだ。
歴史を作った人々と、それを記録した人々。その二つがあって、初めて「歴史」が出来上がるんだな…。(ハキハキ話すエイレーネと対照的に、壮大なものを思い浮かべるように、ぼんやりとした口調で)
「本来の歴史」…その言葉が持つ本当の重さについて、あまり考えたことがなかった。
ふふ。(偉大な歴史家について語る姿に、見守るように目を細め)かの人が歴史の父なら、君はまるで「歴史の子」みたいだ。
エイレーネは、歴史が好きか?
ジズ・ユルドゥルム 2月13日12時
……ありがとう。(気に病むことではない、と慌てる様子に、小さく笑って静かな礼だけを返した)
私も君も、条件の有利不利が逆転したとしても、同じ選択をしたことと思う。今回はたまたま、光を破壊しない側が不利だったな。
戴冠の戦か。…あと、半年ほどで始まるんだな。(あっという間だ、と遠くを見るような目をする)
……ディヴィジョンの命、か。……彼らは大地を奪還すれば泡沫に消える存在だ。
最終人類史の人々こそが最も守るべき存在であり…その優先順位を見誤るべきではないのだろうな。
だが、正直、複雑な気分だよ。自分と同類の改竄世界史の人々の生命に対して、優先順位が低いと思わなければいけないのは。(ふぅ、と短く息をついて)
…そうだな。覚悟を決めることよりも、その覚悟をもとに一歩踏み出すことのほうが、はるかに難しい。
ジズ・ユルドゥルム 2月13日12時
そんなところだ。
救える道があるのに、私がそれを探し出せない……いや、探し出せないと決めたせいで、無辜の魂達を無駄死にさせるのではないかと思うとな。(思い出すように、言葉を切って)恐ろしかったよ。
さぁて、どうだったか。二年以上前のことだからなぁ。(すっかり忘れてしまったよ、と困ったように笑ってみせた)
私はいまだに、選ぶことを恐ろしく思ってばかりだ。それでも…選択しなければ、進めない。それが境界を踏み越える一歩だったとしても、進み続けたいんだ。
君にとって今回の選択が、最初の一歩だったのかどうか…今はまだ分からないかもしれないな。
だがもしそうだったとしても、君はきっと大丈夫だ。(根拠はない。根拠はないが、強い確信だけは持って言った)
カナンの地でマミーやエンネアドを追討していた頃と同じ…いや、もっと強い、眩しい意思が君の中に見える。
エイレーネ・エピケフィシア 2月18日00時
アイギュプトス[エジプト]の西……わたしの時代にはリビュア[ざっくりエジプトより西の範囲]と呼ばれていましたね。
ヘレネス[ギリシャ人]がリビュアの地中海沿岸部に植民市を築くのは、獣神王朝の時代よりずっと後のこと。その時でさえ、今日サハラと呼ばれる砂漠は現地の民すら容易に越えられない壁でした。
……過酷な大地での暮らしが、ジズ様の頑強な意志を形作ったのですね。
(故郷は女にとっては肩身の狭い世界ではあったけれど、それでも都市生活の恩恵で命を繋げたことは否定できない。自分より遥かに厳しい世界で生きたジズを、感嘆の瞳で見つめる)
ヘロドトス様は小アジアの生まれですが、アテナイに滞在されたこともあるようです。
彼や後に続く学者達がいなければ、世の物事はいつまで経っても時の波に押し流されていたでしょう。
歴史の子!よい響きです。
ええ、わたしは歴史を……今日まで受け継がれてきた人々の営みを、心から愛しています。
エイレーネ・エピケフィシア 2月18日01時
同類の人々……全くですね。
わたしも未だに、自分のことを過去の影であると見なす癖が抜けません。
最終人類史で愛する人と出会い、この大地に在って未来をどう生きるかを朧げに思い浮かべるようになっても、なお。
(エイレーネは自分と同じ信仰を失った人々を愛している。だが、彼らと同じ世界でどのように生きていくかの答えは未だ出せていなかった)
目を背けたくもなりますが、それでも考え続けるしかないのでしょうね。
最も多くの都市と人々を護るために、何が最善であるかを。
……あなたのお陰で、先走る前に改めて考え直せました。有難い限りです。
エイレーネ・エピケフィシア 2月18日01時
それでもあなたは、間違いなくより多くの命を救う道を選びました。
迷いと恐れが未だに残るのは……熟慮されていたからでしょう。
我が身に引き比べれてみれば、此度のわたしには逡巡がなさすぎました。
……心の奥底で慎重さを欠き、万事上手くいくと期待しすぎていたのです。
(陽光の下で快進撃を往く者の背後にこそ濃い影は付き纏う。今にして思えば、先立つ提案でマンディール石やディヴィジョン構造の情報を得られたことで、慢心もあったのかもしれない)
……むう、「君は故郷にいた頃と比べて刃が鈍った」と喝破されても仕方ないと身構えていたのですが。
ジズ様がそう仰るのであれば……信じましょう。
ジズ・ユルドゥルム 3月9日03時
そうか、そうか。(歴史を愛すると語るエイレーネの顔を、喜色に満ちた表情でニコニコと眺めた。しばしの間の後、ふと真顔に戻って)人々の営み、か。
……言いにくいんだが、私は君が言っていたような「歴史を取り戻すために戦っている復讐者」には当てはまらない自覚があってな。
世界を全て元通りにしたいという目的は同じだが、私が取り戻したいのは「歴史」ではなく「人」で…。
最終人類史にもいるであろう、「この世界の私」の子孫を取り戻したいんだ。
ゆえに、歴史を取り戻すために戦う…というのがあまりピンと来ていなくてな。でも、君と話していてしっくり来たよ。
歴史を取り戻すということは、現代まで連綿と繋がる人の営みを過去ごと取り戻すことで…
一番新しい歴史を…今を生きる人を取り戻すために戦えば、おのずと歴史のために戦うことにもなるのかも、と。
(今さら気づいたのかと言わんでくれよ。と気恥ずかしげに眉を下げて笑った)
ジズ・ユルドゥルム 3月9日03時
(愛する人、と聞いたところで、いつも彼女の隣に立つ見慣れた人物を思い返し、つい目を細める)
私も似たようなものだ。過去の影だとか、いるはずのない歴史の異物だとか…そんなふうに思う。
すべてが終わり、もしも何もかも元通りになったとして…そのあと、故郷のようで故郷でないこの大地で、我らはどう生きていくべきなのだろうな。
ふふ。私はただ、頑固に自分の考えを貫いていただけさ。考え直せたのは、君が考えることを止めなかったからじゃあないか。
私もまた、考え続けなければならないな。何が最も大切で、何が最善なのか。
ジズ・ユルドゥルム 3月9日03時
どうかな。熟慮を重ねたからか、選択の結果を負う覚悟が固まっていないからか。
だが…迷いや恐れを消し去りたいと思うのと同じくらい、それらがあるから私は未だ人間で居られるのだとも思う。
(自分の前腕あたりを見遣る。帰りの電車に乗る前にはあった小さな傷は、復讐者の不死性によって跡形もなく消えていた)
(エイレーネの言葉を否定も肯定もしないまま、静かに聞いている)
私も、頭に過った悪い未来に囚われすぎたところがあった。
君とは逆で、このままでは良くないことが起こると頑迷になっていたよ。
そうでなければ、もう少し君の考えを聞く余裕も生まれたかもしれない。
ははっ!そんな熱血な説教をする奴だと思われてたのか、私は?(格好を崩して笑う)…確かにエイレーネは叱られて伸びる性質(たち)の気はするが。
ああ。もしも今の君に鈍っている自覚があるのだとしても、その陰が晴れた時はきっとまた眩さを取り戻せる。私はそう信じているよ。
エイレーネ・エピケフィシア 4月10日00時
いえ。むしろジズ様は既に気付いておられたのでしょう。
眼に見えずとも、護るべきものの存在に。
それは実に困難な発見です。
もし故郷の建造物が何一つ残っていなければ、或いは賢者の言葉や神々の物語が全て忘れ去られていたのならば……今と全く同じだけの信念を抱いて戦えていたか、わたしには分かりません。
新宿島でも当然のように手に入ったアクロポリスの写真や、プラトン様の著作……時を超えた繋がりを間違いなく示す物証に励まされることがないのですから。
(勤め先の神殿すら辛うじて残っていたわたしは、あまりにも恵まれていました――と苦笑する。アクロポリスのプロピュライア[門]手前に立つ小さな箱型の神殿、アテーナー・ニーケー神殿は勝利の女神の像や屋根を失いつつも、概ね原型がわかる形に修復されているのだ。エイレーネにとって自分が生きた時代は今なお具体的なものだった)
エイレーネ・エピケフィシア 4月10日00時
ふふ。闘いに急かされる身で考えるには、あまりにも遠大な問いですね。
(半ばあきらめたように吐息を溢す。最も信頼の置ける愛する人が自分と同様に戦場を駆け回っていることもあって、共に時間をかけて考える機会すらも今は高望みに思えた。だが、いずれは向き合わねばなるまい)
迷いを捨て、正しい道を往くためには、時として存分に迷わなければならないのかもしれません。
モヘンジョダロの一件を教訓として……戦いが終わった時にどうするかも、今から決め込むのではなく様々な形を考えておくべきなのでしょう。
わたしの場合、どうあろうとクロエ様と婚礼を交わし共に暮らすことだけは変わらないでしょうけれども。
(惚気る時に全く臆さない……というか、惚気ている自覚すらなさそうな調子で胸を張る)
エイレーネ・エピケフィシア 4月10日00時
盾の扱いを初めて学んだ時は叱られましたね。
今にして思えば、教官役の方が女に武芸を教えるというスパルタ人じみた仕事を嫌がっていただけかもしれません。
何にせよ、確かにわたしは真に受けて見返そうとしました。今日まで生き延びたことを思えば無駄ではなかったはずです。
ジズ様が信じて下さるのでしたら、わたしもそうしましょう。
(エイレーネがそう言った直後、がたん、とトレインが揺れて減速を始めた。車窓に映る時空のあわいの景色が薄れ、間もなく新宿駅に到着するとのアナウンスが社内に響く)
おお、そろそろ帰りつくようですね。
(最終人類史の時空に入ったことで最高レベルの【アイテムポケット】が解禁された。砥石を小箱に入れ、剣を鞘に納めてからポケット内に格納する)
ジズ・ユルドゥルム 4月21日02時
何も残っていなかったら…どうだろうな。君なら案外、それでもどこかで何かが受け継がれているはずだと、見えない希望を支えにして今と同じ信念を持てていたかもしれないぞ。
私は…郷里で愛したものが何一つ形をとどめて残っていなくとも、卑屈になったことは無いつもりだが…
それでもやっぱり、君の故郷がちょっと羨ましい。(エイレーネのことを、少しだけまぶしそうに見た)
私の郷里にも「歴史の父」みたいな偉大な人物が居てくれればよかったんだが。ふふ…歴史家が生まれるには田舎すぎたな、あの土地は。
ジズ・ユルドゥルム 4月21日02時
イスカンダルとの決着が着いたら少しは急かされずに済むか…などと思ったこともあったが、当然そんなことはなかったな。
(つられるように短い溜息をついた)遠大な問いに思いをはせるだけの時間は…どうやら全てを終わらせるまで無さそうだ。
おやおや、そうかそうか!戦いが終わったあとの、ふたりの将来かぁ。(あからさまにニコニコし始める)
私は…君達二人がまだ冒険仲間程度の関係だったころからトレインに同乗していたから…どんどん関係が深まっていくのが、傍から見ていて嬉しくてなぁ…。
そうかぁ…君とクロエがなぁ…。(急に酒でも飲んだのかというくらいしみじみ語りつつ)
…幸せにな、エイレーネ。陰ながら応援しているよ。
ジズ・ユルドゥルム 4月21日02時
君にも教導役から叱られていた頃があったんだな。そうして逆境を糧にするところは、とても君らしい。
ふむ…?君の故郷では女に武芸を教える仕事は嫌がられていたのか。逆にそのスパルタの人々は女に武芸を教えていたと…?…ちょっと興味が湧くな。今度そのスパルタ人についても調べてみよう。
(自分の言葉に同意してくれるエイレーネに強く頷いたところで、アナウンスが車内に響いた)
おや、もう到着か。(自分もアイテムポケットへ武器をしまい込みながら)
今日は話せてよかったよ、エイレーネ。
…もしかしたら、また今回のような事があるかもしれない。私達も人間だから、意見を擦り合わせきれないこともあるだろう。
それでも、私は君を信頼しているよ。
それはこれからも、きっと変わらない。
(電車が完全に停止して、電子音を鳴らしながらドアが開く。席を立ち、行こうか、と振り返りながら歩みを進めた)
ジズ・ユルドゥルム 4月21日02時
(守護者達の道行きは、再び別々の線を描き出す。それがこの先寄り合うのか、あるいはすれ違うのか、道の行く末は誰にもわからない)
(しかし光の織り成す途は、今日このとき、確かに交わったのだ)
ジズ・ユルドゥルム 4月21日02時
【〆】