【 ??? 】RUN GIRL RUN
オード・レヴニ 10月31日01時
――191X.XX.XX
走る。
走る走る走る。
走れ。
そう言われたから。
走らなきゃ。
でも、痛い。暗い。……帰りたい。
深い森の木々が月明かりを遮って、数歩先も見えない。
まるで闇の中に体だけが浮かんでいるみたいに、右も左も上も下もわからないまま、足を動かし続けている。
それでも、蔦に絡まれ、枝に擦られ、酷いことになっているだろう足を見なくて済むのは好都合だった。
見れば、心が折れてしまうような気がしたから。
頭の中で、何度も同じ言葉がこだまする。
――わたしは一体どこへ向かっているの?
木々の間に灯りが見えて、咄嗟に草陰に身を隠す。
重い背嚢を捨て、紙束が挟まっているファイルを胸に抱えた。
硬い表紙の下で、心臓がどくどくと早鐘を打っているのがわかる。
金属音の混じった足音が近づく。
遠くで銃声が聞こえた気がして、嗚咽が漏れそうになる。
――だめ。
これをあの人達には渡せない。届けなきゃ。わたしは最後の「希望」なんだ。
本当はわかってた。
届けるひとたちは、大好きな家族のみんなは、もう誰もいないんだって。
わたしに、翼があったなら。
目的地があったなら。
戦う力があったなら。
……わたしが、いなければ?
こんなことには、ならなかったのに。
軍靴が目の前の草を踏み、つま先がじりとこちらを向く。
翼のない背を起こし、獣のように土を掻き、血塗れの足で地を蹴って、眩むような灯りから逃げ出した。
怒声。銃声。
――わかった。受け入れるよ。
それで、天使がひとり、海に落っこちた。
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