【closed】ヘドロの上の未草
藤野木・嬉々 2021年9月8日
閉まってる。
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藤野木・嬉々 2021年9月8日
【9月雨の日】
藤野木・嬉々 2021年9月8日
(小さな店内は随分と片付いた。部屋の端に磨かれたブリキバケツが重なって、床はなんとなく小奇麗にされている。壁の一面にはフラワーキーパーがあったが、中身も片付いてがらんとしたただの棚と化している。なんとなく、まだ汚水の不快な臭いが残っている気がするが、随分前に鼻が慣れてしまったので気のせいかもしれない)
藤野木・嬉々 2021年9月8日
(ぽいと放り投げた雑巾がカウンターに乗らず、通り越して向こう側へ落ちたのを見ながら、小窓の下に座って煙草を咥える)…結構広い店だったんだ…。(思った以上に、という意味ではあるが。所狭しと並べられた売り物の花たちが無くなってしまうと、声が反響しそうな広さになったので少し新鮮だった)
藤野木・嬉々 2021年9月8日
(煙草に火を寄せる。す、と息を吸うとチリリと音が鳴って、赤く綺麗に煙草の先が輝く。あぁ綺麗) (細く長く息を吐いた。自分の肺を巡った煙は、その存在を示すように現れ空気に混じる)…夢、を。見た。(まるで店内に、もっと詳しく言えばカウンターの辺りに誰かいるかのように。独り言にしてはやや相手意識の強いそれが、煙と空気に溶けていく)
藤野木・嬉々 2021年9月8日
大きな、深い水槽が目の前にあって。…水族館とかにさ、あるじゃん。1階から2階までの、吹き抜けみたいになってるとこに、ドーンっておいてあるやつ。(言葉を吐いている間は、煙は手元で揺れるだけ)酷く濁って、澱んでいて。水面の方はそんなでもないんだけれど、下の方は…もうなんだか、泥とも、澱ともつかない何かが。(ところどころに、流木のような黒い棒状のものが見えた。折り重なるようにして)(ぼんやり思い出しているうちに、気づけば手元の煙草の灰が伸びていた。小窓の縁に置いておいた灰皿に落として)
藤野木・嬉々 2021年9月8日
水槽だから、ガラス隔ててるんだから近寄ったところで問題なかったんだけど、…めちゃめちゃ、こわくて。(近づいたら、ドン、と。何かがあちらからガラスを打ってきそうな気がした。ドン、ドン、と)なんか、ガラス隔てた先にいるには…ガラス越しで向かい合うにはヤバイ何かが、その澱の中にいる気がしたんだよ。…夢の中のアタシは、中にいるそれに、とっくに見つかっているっていうのに見つかっていないフリをして。…私も、見つけていないフリをして、ずっとその水槽を気にしながら、見ないようにしていたんだ。(話すのに夢中で、灰が伸びてしまった。トン、と灰皿に落とすと、また深く深く煙を吸う)
藤野木・嬉々 2021年9月8日
(「特にオチも盛り上がりもない夢の話を聞かされるのが一番困る」とよく言われた。それでもこの身が浸った恐怖を、話さないことには昇華できない。煙で吐き出すには、心があの澱んだ水に浸りすぎている)…この店のせいでもあるんだから、そうやって黙って聞いてくれてりゃいいよ。(返事は一生来ないのだから。有害なものを吐き出すことぐらい許されるだろう。また一つ、ため息が空気に消えていった)