春の訪れを前にして
川津・いつか 2023年3月30日
新宿島某所、ワンルームマンション。
いつもの部屋で2人、いつも通りに夕餉を終えた。
そう表現できる程度にはこの時代――最終人類史での生活に慣れた頃。
時間にすればじき半年が過ぎようとしていた。
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川津・いつか 2023年3月30日
「……やっぱさ。独学ってのには限度があると思うワケよ。
あ、いやメシの話じゃねえよ? そっちは今日も上手かった、ごっそさん」
と神妙ながらどこか締まらない様子で切り出したのだった。
羽矢島・影房 2023年3月30日
「よろしい。食事への文句を言うなら自分で作れというところであった」
ご馳走様でした、と品の良さの抜け切らない丁寧な礼を食卓に向けてから、大真面目にそう言います。
(無効票)
羽矢島・影房 2023年3月30日
「となると、戦い方の話か?我らは戦い方が似通っているわけでもなければ、そもそも拙者は体系だった兵法を学んでいるわけでもない」
川津・いつか 2023年3月30日
「ああ、元がどうあれおれもお前も復讐者としちゃぺーぺーのままだ。
もちろん実戦で学ぶ、ってのも手ではあるけどさ……」
復讐者は死なない……正確には死んでも蘇る不死であると聞く。やってできない芸当ではないだろう、が。
「訓練する為の場があるならそれに越した事はないだろ?」
そう言って一枚のチラシを取り出します。
羽矢島・影房 2023年3月30日
「……学校。と言っても、当世では足利にあるという其れとは様相が違うのだったか。どちらかといえば寺子屋の延長のようなものと聞いているが……」
チラシを手に取り眺めね。
川津・いつか 2023年3月30日
「らしいね。
ほら、以前にもちょっと話したことあったろ学校。
あれからちょっと調べてたのさ」
諜報は忍びの得意技である。と言っても今回は周辺住民からの聞き込みが主だが。
「そこは特に復讐者が多いらしい。
相当な実力者も……派手好きな数寄者も多いって専らの噂だ。
ほら、あの高笑いするスマホアプリあるだろ。アレ配信元とか」
羽矢島・影房 2023年3月30日
「高笑い……?」
はて、と首を傾げつつも。
「ふむ、よいではないか。行ってくるよい」
なるほど、と頷きます。
川津・いつか 2023年3月30日
「な、いいだろ! ちょうど来月から新入生を受け入れるらしくて……おう?」
あれ!? という顔。
「いや待て待てなんで他人事なんだよ。こっちは完全にお前も誘う気で貰ってきたんだぞ、願書ってヤツ」
ほら、とチラシに次いで取り出して見せる2人分の願書。
羽矢島・影房 2023年3月30日
「む。拙者もか?」
驚いた顔を見ると、こちらも意外そうに首を傾げて。
「てっきり、お主が通うという話かと思ったのだが」
川津・いつか 2023年3月30日
「いやまあ、そうだよ。そうだけどな……」
えーとと考えながら、一度お気に入りのマグカップ(←)で口を湿らせる。
「……なんていうのか、今のままじゃ中途半端だろ。
復讐者として戦うにも、この時代で生きるにもさ。
学ぶ場が必要だと思うんだ」
(無効票)
川津・いつか 2023年3月30日
だから、このままではいけない。
それは確かだと思うし。
そこに影房を巻き込んだのは、彼女の為を思ってというのも完全な嘘ではない。
嘘ではない……が。どうにも恩着せがましくて言い訳臭い。
「……けど一人じゃちょっと不安だろ。だから誘ったんだよ、いけないかよ」
口を尖らせながらそんなことを言った。
羽矢島・影房 2023年3月30日
随分と時間をかけて紡がれていく言葉に、静かに耳を傾けて。
「……お主の技と違い、“影房”の戦い方が、他者から学べるかはわからん。故に、あまり乗り気ではなかったのだが……」
(無効票)
羽矢島・影房 2023年3月30日
「……ふ。他ならぬ共犯者がそういうのであれば、致し方なかろう。一人では寂しくて学びにも身が入らぬと泣き疲れてはな」
くす、と微笑み一つ。
川津・いつか 2023年3月30日
「うるへーー! 人多すぎんだよこの時代!」
照れ隠しに大声を挙げて。
慣れた相手には気安いが、あまり多人数のいる環境には慣れていない忍びであった。
(継続)
川津・いつか 2023年3月30日
「くっそ、二つ返事してくれりゃ余計な事言わずに済んだのによ……
わかんねえだろデーモンの業だって元々南蛮渡来だしなんかそれっぽい使い手がいるかもしれねえだろ」
そう適当言って
「とにかく入るってことでいいんだな……!?」
羽矢島・影房 2023年3月30日
「やれやれ、よもやお主が人見知りする性質だったとはな……」
と、大真面目なセリフにほのかに揶揄うような色を乗せて。こちらは人と接する立場故か、人見知りはあまりしない性格でした。
(継続)
羽矢島・影房 2023年3月30日
「自分の進退に関わることを軽々に決める方が問題があろう。ともあれ、拙者もそれでかまわんぞ」
川津・いつか 2023年3月30日
「ぐぬぬ……(元)お姫さんめ……」
一人二人なら全然良くても多すぎるのがダメなのです。
その点学校という環境は人が一か所に集まりすぎるのでした。
「じゃ、じゃあ気が変わらないうちに願書ってヤツを書いちまうとするか!」
ともあれさっさと話題を次へ進めようと紙を取り出すのでした。
羽矢島・影房 2023年3月30日
「姫ではない」
淡々と首を振って、食器を片付けると鉛筆を取り出します。
川津・いつか 2023年3月30日
食卓の上に紙を広げ、募集要項諸々を読んでいく。
「えーと必要事項……住所ってここ(マンション)の場所でいいんだよな? あとは学びたい事を決めんのか……」
そこでふと、聞いてみた。
「影房はなんか戦い以外に学びたいものってないのか?」
羽矢島・影房 2023年3月30日
「さて。学舎に通うことなどつい先ほどまで考えていなかった故、あまりピンとこんな……。お主はどうなのだ?」
川津・いつか 2023年3月30日
「おれ? おれは……そうだな。
できんなら操舟とかこの時代の水運について勉強してみてえな。
おれは川の民つっても忍び働きが主だったからさ。
そっちはあんま上手くねえんだ」
羽矢島・影房 2023年3月30日
「ほう、よいではないか。先日もそのようなことを言っていたな」
なるほど、と頷いて。
「拙者はまだピンとくる物がないので、通いながら考えてみるのがよいだろうか」
川津・いつか 2023年3月30日
「おう。腐っても川の民だかんな」
どこか誇らしげに笑って。
「それもいいんじゃねえか。元々学校ってのはそういう場所だって聞くしよ。
あ、もしなんも見つかんなかったら料理でも学んでもっとすごいヤツを作ってくれよ。
この時代にゃまだまだ色んな料理があるんだろ?」
冗談なのか本気なのかそんな事をのたまうのだった。
羽矢島・影房 2023年3月30日
「ふ。確かに料理には興味があるが。……それなら、その時は代金でももらうとしようかな」
川津・いつか 2023年3月30日
「えー金取んのかよー。
じゃあ、それまでに自分で稼げるようになんねえとなあ」
しかしこの時代の水運はどの程度稼げるものだろうか。
それを学ぶ為にも入学できるといいが……そんなことを考えながら、願書を書き進めていくのだった。