底の底
ゼキ・レヴニ 2022年11月5日
スポットライトが落ちてくる。
薄暗がりの中の、君ともうひとりに。
歓声が落ちてくる。
汚い野次が足元の血痕に跳ね返って、ふつりと消える。
“The Pits”――『底の底』。
君は此処まで落ちてきた。
理由は何だ。
腕を試しに?
借金のカタに?
金を稼ぎに?
どれも外れだと、そう言うだろうか。
どうであれ、此処で出来る事はひとつだ。
勝者はひとりだ。
戦え。
――――――――――――
●模擬戦。置きレス進行。1名様まで、どなたでも。模擬戦ルール【
https://tw7.t-walker.jp/club/thread?thread_id=26479】を必ずお読み頂いた上でお越しください。
●鐵顎圏のアリーナ、深夜。『底の底』と呼ばれる賭け闘技。勝者は多額の賞金(新円)を手に入れられる。
●1ヶ月誰も来なかったらスレごと消します。
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ゼキ・レヴニ 2022年11月5日
(観客席との間が魔導障壁で遮断され、無機質な空間が静寂で満ちる。賭け試合の夜の粘っこい熱気も、冷たいコンクリートの壁に一息に吸われて失せる。)
(部屋の隅のプロジェクターじみた大型機械が、光の網とカウントダウンを壁に投影する。)(――試合開始まであと『10』)
(10mほど離れた位置に居る男が君の対戦相手だ。少し俯き、銜えた煙草に火を着けようとライターを擦っている。吐き出した煙をスポットライトが白く濁らせて、)
(『8』、)
……そんで? お前さんはどうして此処に『落ちてきた』のかね。
(煙越しの緊張感のない声。偶々近所の知り合いに出っくわして挨拶するかのような。――緩慢に位置を直した踵が金属らしい硬質な音を立てる。手の中の幾何学形の金属塊が鈍く光を跳ねる。)
海・ほろぶ 2022年11月6日
(『6』、)
(スポットライトの眩しさに顰められていた顔が、10m先の相手を見た。佇む膚の色が暗いのは、薄暗がりのせいだけではない)
趣味の軍資金稼ぎ。今のバイト以外の稼ぎ先がほしくってさ。
(緊張感の度合いが微妙なのはお互い様のようだ。初対面のようなものだが顔を見たことが無いわけでもない、あちらが憶えているかはさておき)
それから、誰かぶん殴るのは好きになれるかなって、試そうと思って。
(殴るという割には、透明な青のちゃちな剣――刃渡としては懐剣と言った方が近い――の柄を、金属の籠手で握った。)
(『3』、)
ゼキ・レヴニ 2022年11月7日
――へえ。
(煙が掃けた奥の顔を何処で見たのか思い出す間だけ、返す言葉が出遅れて)
だが、稼ぎ先としては趣味が良いとは言えねえなあ。此処で飛び交うのは射的のゴム弾とは違うんだぜ、お嬢ちゃん。
(『2』――プロジェクターが投影する光の網が畝り曲がり、アリーナの端から実体を持つテクスチャが貼られていく。現れたのは新宿島の海岸線。踝を浸す波すら、紛い物とは言い難い冷たさと勢いを以て打ち寄せる)
そいつを好きになっちゃオシマイよ。
趣味なら人を殴るより他に持つ事をお勧めするが――それとも、
(手の中の金属塊を握り潰す。ばらばらと雪崩れた金属片が、重力に逆らって渦巻きながら形を成していく)
(『1』)
――おれが嫌いにしてやろうかね。
【先攻判定】
海・ほろぶ 2022年11月9日
拘束時間の割に実入りがいいから。
ゴム弾と違うとかは説明ビデオ見たし知ってるよ。
(プロジェクターによって広がる景色を見て、眉間の皺が結構な勢いで深くなる。視界だけではない、波と砂の感触さえある事に気付いて、更に深くなる。)
試すくらいいいじゃん。
おっさんが此処にいる理由はさぞ御大層なんだろうなー。ききたいなー。
(名前も聞かずにおっさん呼びにしたのは、3秒の間に機嫌がすこぶる悪くなったからだ。)
(金属片を警戒して睨め付けながら、剣を逆手に回した。)
【先攻判定】
海・ほろぶ 2022年11月9日
//
海・ほろぶ 2022年11月9日
【HP5】【攻撃】準備できた、よねっ!
(寄せる波を蹴れば飛沫が立って、踏み切って飛べば一際派手な水音が立つ。宙で軽く半身を捻り、戻す勢いをつけて、)
(金属籠手の拳が、そこに逆手に握られた刀身ごと、自分より背の高い相手の顔面から狙いに行った)
ゼキ・レヴニ 2022年11月9日
【HP5】【反撃】
(遠目にもはっきりと分かった表情の変化。それが何に起因するかを知らぬ男は、ゆるゆるとわざとらしく首を振って)
……はあ。撥ねっ返りのお年頃ってとこかい、
(一番苦手なタイプだ。そう苦笑する間にも、鋼鉄の右手に金属片が貼り付き集まり五指に伸びて――獣の如き鉄爪の形と成る。)
(ひゅん、と風を斬って体に馴染ませ、迫り来る懐剣を見据え)
――おれの理由はなァ、
(水音が跳ねるのを合図にバックステップ、上体を反らし青の刃を躱そうと)
ゼキ・レヴニ 2022年11月9日
(懐剣が鼻先を掠め、遅れて風が頬を撫ぜる。潮の匂いはしなかった、)
金と力。つまりは、
(上体を逸らすと共に後ろに引いた鉄爪を振り抜き、脇腹を斬り裂きながら横殴りに叩く。宙に跳んだ体勢を崩せればこっちのものだと、)
――お前さんの反面教師さ。
海・ほろぶ 2022年11月11日
【HP5→4】
っぐ、
(狙いははずれ。返して振るわれた鉄爪のかたちを喰らい、叩き飛ばされるみたいに姿勢が崩れた。)
(横に飛ばされたところから受け身を取って転がり、片膝をついて起きる。ぺっと砂を吐いて口元を拭い)
そ。(人のこと言えないんじゃん、とついでに柄の悪い笑顔で悪態も吐いた)
反面教師ってんなら、訊くけど、昔のおっさんは、今みたいな『指導』されてたら、やめてたんだ?
ゼキ・レヴニ 2022年11月12日
【HP5】【攻撃】
(小手調べのつもりもない一撃を耐え、しっかり悪態までつくあたり、『遊び気分のお嬢ちゃん』でもないらしいと認識を改める。一撃で諦めてはくれないかなどと、甘い希望はそこで捨てる事にして)
さあねえ。お前さんの歳ん頃は田舎の純朴な少年だったからよ、
(そう吐く間にも脚は次の一歩を踏んでいる。鋼鉄の重さだけ砂が沈み水飛沫が派手に散る。二歩目は更に強く踏み込み、片膝をついた君の上に跳躍する)
だがどんなヤンチャでも――
(宙で鉄爪が剥がれ崩れまた寄り集まり、一枚の金属板と化す。結晶が成長するかの如く体積を増し、瞬く間に分厚い大盾となったそれを体に引き寄せ)
ペチャンコに潰れれりゃ行儀よくなるだろう、よ!
(全体重を乗せて、君を圧し潰しにかかる)
海・ほろぶ 2022年11月17日
【HP4】【反撃】
ええー?すごいスレかたしたんだね。
(アリーナの舞台に上がる前の説明ビデオの時点で、相手の武器が変化し得るものだというのは見ている。)
(が、実物の大きさというのは矢張り迫力や圧があるものだ。金属片から構成された金属製の大盾と体躯の良い相手を合わせた重量は試算するのも馬鹿馬鹿しい)
(重量を到底直接受けきれる筈もない土気色の腕とその先の籠手、そこに逆手で握りしめられたままの青い剣。腰を落とし、腕ごと、落下してくる方に翳した。)
(ちゃちな刀身から――水が、噴出とでも表現するべき勢いで溢れ出す。厚みを持って広がって、砂と海水面に滔々と流れ落ち続ける。水の層で勢いを殺させるか流すか、どちらかでも出来れば御の字だ)
海・ほろぶ 2022年11月17日
【HP4→3】【攻撃】
(まあ、現実というのは、そんなに簡単なわけが無いのだが)
っ、くっそ、――あーもー、重い!
(水の層ごと重さに圧され、籠手より先に中の腕が負けた。痺れとも折れたともつかない痛みを、けれど検めるのは後回しだ。腕を上に振り抜き弾いて、後ろへ転げるように脱出する)
(濡れた髪が頬に貼り付く。水を吸った服も重たい。そもそも砂と波の感触だって嫌いだったが、また別種の鬱陶しさだ)
(無事な側の腕で顔の水気を拭って払う。逆側、だらり下がった籠手に、それでも剣は握られていた。光る刃の周囲を、今は水が渦巻いている)
これはマジの話だけど、あんま重いより痩せた方が健康に良いらしいよ、おっさん。パーツ一個くらい切落としたら?
(不機嫌に鼻を鳴らし憎まれ口を叩く。声と同時に、刀身の周りの水が、薄く研がれた刃の如く相手に迫った。高圧水流を用いる工作機械よろしく、研磨剤代わりに砂を巻上げ、金属の四肢を狙う)
ゼキ・レヴニ 2022年11月19日
【HP5】【反撃】
――おっとォ! 逃しちまったか。
(弾かれた勢いのまま後ろへずり下がる。潮の味がする唇を舐めて、煙草を銜え直し)
純朴なだけじゃ生きていけなくなっちまったからさ。……にしても、水を使うのが得意なようだねえ、『お嬢ちゃん』?
(またそう呼ばわったのは、半分はおっさん呼びされる事への意趣返し、半分は更に君を苛つかせる為だ。感情を揺さぶってボロを出させようという魂胆で)
お嬢ちゃんも水浸しで重そうだぜ――っと!
(軽口もそこそこに放たれた水の刃を目視するや、重い盾の殆どを小片に崩して横に跳んだ。瞬間、脳裏に浮かんだのは汎ゆる物を両断するという水圧裁断機。厚い盾さえも切り裂くだろう薄刃の直撃を免れようとしつつ、残った金属片をまた別のかたちに組み変えて)
ゼキ・レヴニ 2022年11月19日
【HP5→4】【攻撃】
……! くそッ、
(戻し遅れた左手に水の刃が奔り、掌の半分が斬り飛ばされた。スパッと、なんて言葉が最高に似合う綺麗な断面に覗くコードや部品類がショートしたように火花を散らし)
――ダイエットのご協力どうも! おかげで健康体んなって絶好調だ。
お嬢ちゃんは――ちと太った方がいいんでないの?
(戦意を損なった様子はなく、むしろ理由を得て意気揚々と。金属片が此度織りなしたのは武器ではなく――五人前は一度に作れそうな大きな料理鍋。両手でその柄を握れば、左手から漏れ出た電気と右手から伝う熱力が鍋を赤熱させ)
ほらよく喰らえよ……服も乾いて一石二鳥ってもんだ!
(鍋を思い切り振るえば、中で溶解した金属片が火の雨となって君に降り注ぐ。それらが浅瀬に落ちれば、蒸発した海水が霧となって視界を濁らせるだろう)
海・ほろぶ 2022年11月22日
【HP3】【反撃】
『女の子』の体型にイチャモンつけるのってセクハラだよ、おっさん。
(自分でも台詞のようには思ってはいないのだろう、鼻で笑うついでに『お嬢ちゃん』扱いを逆手にとって)
あと流石に金属片は食べられないかなー、っと!
(籠手の中の腕が動かない代わりに、逆の腕で籠手纏う腕を持ち上げる。勿論、けして開かず握られ続けている剣も一緒だ。刀身を核として渦成す水に熱水の霧さえ巻き込んで、燃え盛る金属片の雨を防ごうと)
海・ほろぶ 2022年11月22日
【HP3→2】【攻撃】
(高熱が水の覆いをあたった端から蒸発させて、押し寄せて、最終的に貫通する。突き抜けた金属片が、冷えきった体に刺さり、肉の焦げたような音が蒸発音にかき消される)
(それでも消されやしなかった、大きな舌打ちの音)
……やっぱ付け焼き刃だなあ、まだ。
(その声はまだ少し、遠く、立っていた場所で)
(――数拍。)
(轟と、金属片だらけになった手と腕が先ず霧を突き破り、素手で届く高さを釘バット宜しく殴りつけにかかる。)
やっぱ得意なのでいこ。
(行動の勢いに反して、淡々と呟くような声だった。)
ゼキ・レヴニ 2022年11月25日
【HP4】【反撃】
せ、セク
……??(ちょっとたじろいだ。口撃に関しては君が一枚上手らしい)
おいおい、これ観客席に流れてたら炎上だぜ。おれ明日から生きてけねえわ。
――あ、お嬢ちゃんの方が「燃えてる」けどねえ、今は!
(それでもへこたれず、熱と蒸気の中に憎たらしいほど屈託のない笑みを浮かべる)
(大鍋が小片となって宙に散る。霧を突き破った拳の速度に武器の形成は間に合わない。機械腕の両の肘を下げて、生身の胴をガードする姿勢を取り)
ゼキ・レヴニ 2022年11月25日
【HP4→3】
……ッ、ふ……!
(鋼鉄の肘を強烈な打撃が襲い、鐘でも突いたような重い音が響く。たまらずぐらついて晒した脇を金属片が深く抉る、)
(軍服じみた武装の裂け傷からだらりと染み出した赤に、それでも笑みは崩さず、むしろ悪相じみて口角を上げ)
ハッ……肉弾戦の方が得意だったかい。言うだけあるねえ、
(突然の衝撃に内蔵のどれかが不満がったのか。こみ上げてきた吐き気を耐えて血の混じった唾を水面に吐き出し)
でも、それ。お前さんも痛えんでないの。
ゼキ・レヴニ 2022年11月25日
【攻撃】
(何かを握り込んだ拳をかざせば、宙にバラけた金属片も、君の腕に刺さった金属片も、吸い寄せられるように拳に集まる。それらは渦巻きながら引き伸ばされ連なり、鉄条網の如きかたちとなって男の拳に腕に脚に巻き付くと)
こういう方がお好みならいいぜ、ご馳走してやるよ――頬っぺた落ちねえように食いしばりな!
(鉄の茨が巻き付いた片脚を引き、身を捻る勢いをつけて振り上げる。鉄と部品の義足はその重さ自体によって加速し、剛速の回し蹴りとなって君の頬を打ち据えにかかる)
海・ほろぶ 2022年11月28日
【HP2】【反撃】
(機械腕にぶつかった振動が、拳だけではなく、肉と骨を通して体全体に伝わる。
流石に痛みで口を曲げたが、)
痛かったらなんだってんの。
(指摘には反抗的な態度を貫いた。ここで舐められてはいけない。
たとえ、腕に刺さっていた金属片が肉を裂きながら彼方の拳や四肢に絡みつき直しても。それが唸る風と共に迫り来てもだ。)
海・ほろぶ 2022年11月28日
【HP2→1】【攻撃】
(鉄の棘が頬へ食い込み、裂いて、体ごと纏めて吹き飛ばす。頬肉の欠片が幾らか飛び散る)
……あー、あー(口を動かして表情筋へのダメージ確認。まだ動く。まだ終わってない)
セクハラ発言が席に流れてるかどうかはおっさんの方が詳しいんじゃない?
(たじろいだ様子を思い返し、「燃えてる」ジョークより余程面白かったと揶揄い)
これでまだ子供扱いするってんなら、
(狙いは相手の拳の中。此方の剣同様、何か握っているのだろう)
とっときを食べて貰おう。お腹減ったでしょ?
(視線は相手に据えたまま、後半は、相手に向けてはいなかった。
声に呼応し剣が急激に水を吸う。作り出された海水も巻上げ、水嵩が減りかねぬ勢いだ)
(動かぬ籠手に、握ったままの剣。一足飛びで相手に迫り、傷付いた腕で籠手の腕を掴んで逆手の刃を振り翳す)
――育って。
(吸った水の分、刀身が、浜に突立つ勢いで伸びた。相手の手中を腕ごと縫い貫く心算)
ゼキ・レヴニ 2022年11月28日
【HP3】【反撃】
頬っぺた落ちても減らねえなあ、その口。
(弧を描いた脚を下ろし、首を振りながら君を見下ろす。削げた頬から、裂けた腕に視線を移して)
自分まで痛えってのに、人を殴るのは好きになれそうかい。
こんなとこで背伸びするよか、まっとうな子供でいた方がいいと思うぜ、おれは。
(それでも痛み知らずな態度で『嫌な大人』を揶揄う余裕を見せる君に、調子を合わせるように肩を竦め)
まァ、ご馳走返しかい。律儀なこって、
(竜巻の如く水を巻き上げる轟音に、軽口も吸われるように掻き消され)
――!
(伸びた刃先の向かう先を認識すると同時、咄嗟に掌の中の『核』を弾いた。動力源を失った鉄条網がばらばらと水面に落ちる)
(金属片の『核』――血痕がついたコインが宙へ跳ね、くるくると回りながら落ちてくる)
(表、裏、表、裏―――)
ゼキ・レヴニ 2022年11月28日
【HP3→2】【攻撃】
( ―――裏。 )
……ああ、そうかい、
(逆の掌に落ちたコインを見て皮肉げに片眉を下げた)
(運命の女神には相も変わらず嫌われたままだ)
――、
(狙われた腕を前へ突き出し、敢えて刃に晒した。肘を貫かれながら、篭手に覆われた君の手首を掴んで引き寄せる。低く、言い聞かせるように)
働きぶりは悪くなかったぜ。
だが、もっとマトモなバイト先を見つけなよ、お嬢”さん”。
(再びコインを握り、踵で水面を叩けば、水中から植物の蔓のように鉄条網が伸び上がる。それらが君の脚を絡げ取ったなら、海中に引き倒し、溺れるまで囚えて離さないだろう)
海・ほろぶ 2022年11月29日
【HP1】【反撃】
(べ、と一度舌を出して)
腹の立った相手をはったおすのはいいかもね。無抵抗だと良心痛むし、こっちも傷つくくらいでいいよ、別に。
(宙を舞うコインを、視線が途中まで追って)
大事なんだ?それ。
(問う間に落ちるコイン、その着地先を見て眉根を寄せた)(さっき手のひら半分切り飛ばしてやったのに!)(残った半分で握れる位置だなんて、余程運がいいのだろう、相手は)
っぐ、
(動かせない籠手の腕では抗えない。引き寄せられた位置から更に、潮に濡れた鉄条網が引く。気持ち悪い。気持ち悪い!!!)
(口を開けば嘔吐いてしまいそうで、唇を噛んで、これでもかと睨み付ける。相手からこっちの顔が見えてるかは知らない)
――ッ
(肩に力を入れて無理矢理籠手の腕を揺すり、切先の向きを変えようと)
海・ほろぶ 2022年11月29日
【HP1→0】
(剣を突き立てて引きずり込まれないよう支えにする目論見は、大方の観客だって分かっていただろうが、当たり前に上手くいかなかった)(相手の肘を貫いた刃が僅かばかり傷を広げようとしたかもしれない、せいぜいでその位)
(抗おうとした分、顔が水面に近付く速度が遅くなる。水面とそこに映る自分の表情がゆっくりゆっくり迫って、じわじわ浸かって、息なんて当然出来なくて――海水の中、とうとう意識を失った)(開いた口から空気の泡が大きく漏れる。視認できるような胃の中身が無かったのは、客が見ている興業としてラッキーと呼べたかもしれない)
ゼキ・レヴニ 2022年12月1日
おれのコンティニュー・コインよ。こればっかりは無くせねえ。
(睨みつける目の前に、半分残った指の間に挟んだコインを翳して、態とらしく肩を竦めた。その動作だって、肘に刺さったままの刃に揺すられながらで苦労したものだが)
――底になんて落ちてくるもんじゃねえって、分かったかい。
(溺れゆく様を湿気た煙草を銜えて眺める。「人を殴る趣味」なんて二度と持ちたくもなくなるよう憎たらしく演じる。それが老婆心からなのか、優秀な対戦者の芽を摘む為かは自分でも判然としなかったが)
(泡が昇る。試合終了の鐘が鳴る。空間が元通り書き換えられ、海水も砂も一瞬のうちに掻き消える)
(障壁が消え、周囲の音が戻る。ブーイングの嵐だ。殆どの客は君を応援していたらしい)
んだよ、未来ある若者ひとり更生させようとしただけだろうが……。
(故障寸前の腕を上げ、観客に中指を立てて退場口に向かう。担架を担いだスタッフが駆け足で横を通り過ぎた。)
ゼキ・レヴニ 2022年12月1日
(そうして夜が更けていく。滅んだ海を照らして太陽が水底から登る。誰も彼もが底から這い上がる)
【了/お付き合いに感謝を】