古めかしい幽霊屋敷

Who am I?

秘守・弌間 2022年9月1日
先の戦争をなんとか生き延びた弌間は屋敷であの男を待ち構えていた。

今度は逃がさない。知っていることを洗いざらい吐いてもらう。そう誓って。




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秘守・弌間 2022年10月25日
(…来い)

屋敷の奥深く、人形の間。そこに弌間は鎮座していた。

(来い)

あの日から弌間はそれを知る為に戦い続けてきたのだ。

(来い)

自分が何者なのか…それを知る為に。

(早く…来い!)

戦争が終わったすぐ後にどこからともなく送られた紙には、◯月✕日に人形の間でお話いたしましょうとそれだけ書かれていた。
この屋敷の情報も把握しているあの男はやはり油断ならないと思いつつ、弌間は件の日である今日、男を待ち受けていたのだ。

そこにギシギシと屋敷の中を歩く音がする。

(来た…!)

その音は少しずつ人形の間へと近づいていき、弌間の視線の先にある襖、それを隔てた先で止まった。
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調界・法師 2022年10月25日
「いやあ、お待たせして申し訳ありません。
色々とゴタゴタしておりましてな。それを片付けていたらこんな時間になってしまいまして…では、失礼いたします」

襖がするすると開いていく。そこにいたのは以前と変わらぬ男の姿。相も変わらず怪しげな笑みを浮かべている。

「まずはお互いに先の戦争を生き延び、勝利したこと…それを祝いましょうぞ。
本当に…本当によくぞ無事でございましたな…我が主」

そう言いながらも、男…法師は感極まったかのように、涙を流す。なぜだか、その涙には偽りを感じられなかった。
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秘守・弌間 2023年4月9日
「なんだ…なぜ涙を…ワタシは…ワタシは…お前のことなんて…」

弌間は目の前の法師が理解できない。主?ワタシがこいつの?意味がわからない。ワタシはこの家の守護者として作られたモノ。この男を傅かせたことなど…

(主よ、次は如何いたしましょう?)

(愚問…奴らを殺す…殺し尽くす…のみ…)

「!!!!」

なんだこの記憶は?何故目の前の男がいる?奴らとは?いや…それよりも…

(かしこまりました。それでこそ呪いの王。それでこそ我が主にございます…忌(いみ)様)

違う!ワタシはそんな名前じゃない!ワタシは秘守家を…この家を代々守る…守…る…
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秘守・弌間 2023年4月9日
や め ろ
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調界・法師 2023年4月9日
「ふむ、また貴女様ですか」

法師と弌間の間に現れたのは弌間の相方の生き人形だった。彼女は弌間を守るように立っている。

「察するに、我が主が現世で名乗っている名前は本来貴女様のものにございましょう?"秘守 弌間"様」

瞬間、法師の頬を剃刀のような風が切り裂く。その肌に血が滲む。

その風は生き人形が呪字を用いて放った呪術。生き人形は表情こそ変わらないが、辺り一面を圧する怒気を放っていた。
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秘守・弌間 2023年4月9日
やめろと いった
このこをもてあそんで たのしいか?
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秘守・弌間 2023年4月9日
呪術によるものか、或いは全く違うナニカによるものか、二人の頭の中へ人形の意思が伝わる。

更に術を展開しようとする生き人形に、それを迎え撃とうとする法師。

「待って…!」

しかしそれは、人形を抱き止める弌間によって止められた。

「ワタシは…ワタシは…知りたいの…!本当の…ワタシが…なんなのか…!」

それは弌間としての過去…それが自分のものではなかったと、そう気づいてしまった彼女の、本心から出た叫びだった。

それを聞き、人形も躊躇いがあったが、ようやく矛を納める。
それをほっとしながら弌間は確認し、改めて法師に向き直る。

「さあ…約束を…守れ…!お前の知っていることを…全て…吐け…!」

そう、まるで今までもそうして来たかのように、弌間は主として法師に命じた。
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調界・法師 2023年4月9日
弌間から命じられ、法師はどこか懐かしそうな表情をする。
しかし、主の命を遂行せんとすぐに表情を戻し、語り始めた。

「かしこまりました…まず、貴女様は拙僧と同じ、当世で言う平安の世の存在にございます。

京の都からそう遠くない里で、とある儀式が行われました。
それは、人間を用いて蠱毒を行う…それも一度きりではございません。怨念を限りなく高める為に、結界で封をした里の時の流れを歪め、何度も何度も…最後の一つ以外の全ての魂が磨耗して消えるまで、繰り返されました」
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秘守・弌間 2023年4月9日
「…おぞましい…」

弌間の口から思わずそんな言葉が漏れる。蠱毒というなら集められた存在は共食いを強いられる。そこに居た人間達は何度も何度も共食いをさせられ…そうだ…幾度となく…ワタシはワタシの家族や里の人達を…

「うぷっ…」

思い描いた光景とリンクしてしまい、思わず吐きそうになる弌間。口の中に、あの時味わった血と肉の味が蘇ったような気がした。
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調界・法師 2023年4月9日
「この儀式を仕掛けた者達は、人間の尊厳を徹底的に貶め…蠱毒によって生まれた膨大な怨念で満たし…呪いを生み出そうとしておりました。人の世を亡ぼし尽くす為の道具として…
いやはや、本当に節操がございませんな、クロノヴェーダ共は。やはりあの紛い物共は殺し尽くさなければいけませぬ」
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秘守・弌間 2023年4月9日
「クロノ…ヴェーダ…あいつらが…」

そう、最後に◯◯◯を…口に…そうして…ワタシだけになって…それからずっと…ワタシは里の中で…一人ぼっちで…

弌間の中で蘇っていく記憶の数々は彼女の心を蝕んでいく。
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調界・法師 2023年4月9日
「最後に残った一人が動かなくなり、自我が壊れたと判断した紛い物共は結界の中に入りその一人を回収しようといたしました。手を加え、呪いとして仕上げようとしたのでしょう。
ところが…ここで奴らが思いもしなかったことが起こります。
五体が動かず、心臓も止まっていた最後の一人は自我を保っておりました。
そうして側近くに来た紛い物の一人を認識し、自分達をこのような目に遭わせた存在をようやく知った最後の一人は…そこで呪いとして完成いたしました。
そう…クロノヴェーダ共を憎み、呪い、亡ぼし尽くす…呪いの王として」
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調界・法師 2023年4月9日
「もうお分かりでしょう。貴女様がその最後の一人にございます。
あの地獄の中、自我を壊さず在り続け…あの場に居た紛い物共を駆けつけた拙僧と共に残らず殺し尽くした。
貴女様の名前を問うた拙僧に答えた名は忌…それが呪いの王たる貴女様の名前にございまする」
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秘守・弌間 2023年4月9日
「い…み…」

先程の記憶の中でも呼ばれた名前。改めてそれが自分の名前だと確信したとき、彼女の中で何か封が切れたような気がした。
蘇る記憶達。あの地獄で生まれ、法師と約定を結び、共に憎きクロノヴェーダを殺して回りながら旅をして、そして最後に…

「!!」

瞬間、彼女は憎悪に歪んだ目で法師を睨む。そうだ…こいつはあのときに…!
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調界・法師 2023年4月9日
しかし、一瞬の間に少女と人形を残して法師は姿を消す。
前回同様に何かしらの術を使ってその身を隠したのかすらわからない。
そこに法師の声だけが響き渡る。

「お怨みの程ごもっともにございます。しかし貴女様に生きていただくにはあの時はあれが最善と思ったまでのこと…拙僧の望みは、貴女様が在り続けることですからな」

それだけを言い残して、法師はまたしてもこの場から去ってしまっていた。
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