絆ぐ。

【RP】2022年 誕生日

眞守・天彩 2022年8月17日
8月15日。俺の誕生日。

誕生日ってうれしい日だ。
食べたいものを用意するよって言われるし、特別なケーキも食べれるし、プレゼントもらえるし。
なにより、お祝いの言葉が一番うれしい。
去年の誕生日前は、父さんと母さんが毎年見たく色々聞いてくれた。
俺もう中学生なんだから!と言いながらも楽しみだった。

俺は誕生日が、好きだった。




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眞守・天彩 2022年8月17日
朝、新宿島を駆け出そうとしていたくろきつねは、名前を呼びかけられて足を止めた。

「虹介。どうしたの?」

足早に駆け寄ってきたきみは、伏目がちなことも多いけど、今日はまっすぐ目を合わせて持っていたものを差しだした。

…おたんじょうび、おめでとう……!
きみの言葉に、くろきつねはぱちぱちと瞬きした。すっかり忘れてたから。

…よかったら。つかってみて。
そう言ってくれたので、鮮やかな緑の軸のペンを受け取って、ふたを開ける。
手が揺れて、ペンが宙をなぞった。
そのままペン先が軌跡を空中に残したことに目を見開く。

「え!?なにこれリアライズペインターみたい!」

…いろあせない、電子のインクで書ける、ように。してみた。
控えめながらも丁寧に説明する声に、すげー!とくろきつねは尻尾を揺らして喜ぶ。
その様子にきみは笑って、寿ぎの言葉を続けてくれた。

「ありがと!…うん、今度遊びに行こうね!」

くろきつねも、ご機嫌に笑った。
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眞守・天彩 2022年8月17日
◆機筆「森聲」 贈り主:葵・虹介
https://tw7.t-walker.jp/garage/item/show?item_id=39184

(胸元に、森色の機械仕掛けのペンが誇らしげに収まった。)
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眞守・天彩 2022年8月17日
帰ってきたくろきつねは、見つけた姿に立ち止まる。

「え、灯楼さんが部屋の外にいる。明日は台風かな」

その言葉に苦笑したのは、同じシェアハウスに住む、首から下がっている魔道具を作ってくれた人である。
扱いが雑なのは日頃の行いのせい。
くろきつねの軽口を深く気にした様子もなく、なにかを差し出された。

――絵だ。
おそらく、目の前の人が描いたもの。
その価値を知っているくろきつねは、不思議そうに首を傾げる。

…お誕生日おめでとう。何時も色々お世話になってるからね、良ければ受け取っておくれ。
目の前の人は、自分のみどりの加護を見て思いついて、この自然豊かな風景の描いたと言う。
芸術への造作はとぼしいが、その絵には引き込まれるような力があった。

戦う力にしてしまったみどりの精霊たちに、いつかこんな場所で穏やかに過ごしてもらえるだろうか。
みどりの色彩をなぞりながら、くろきつねは目を細めた。

「…ありがとう、灯楼さん」
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眞守・天彩 2022年8月17日
◆『山紫水明』 贈り主:灯楼・弐珀
https://tw7.t-walker.jp/garage/item/show?item_id=39205

(殺風景で寝るだけの場所だった自室を、みどりが彩る)
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眞守・天彩 2022年8月17日
翌朝。

身支度をして、よく行く街並みにいけば、上から聞こえた声。
跳ねるような語調で自分の名を呼ぶ声に、くろきつねは空に向かって手を振った。
空からきみが降りてくれば、ちりんと柔らかに翼が鳴る。

…お誕生日なんだって?
きみが差し出した掌に乗っていたのは、三色の紐で編まれたもの。

…三つ編みなら私でもできるよ。
と胸をはっている彼女に、くろきつねはふわりと笑った。

「作ってくれたの?うれしい。どこにつけようかな」

今着けるなら結ぶよ。と言ってくれた言葉に甘えて、じゃあここ、と左手首を差し出した。
きれいにできた結び目を満足げに見ていたきみは、いけない、言い忘れ。と居住まいを正す。
…お誕生日おめでとう。
その言葉に、ありがとうと言おうとして、…ふと思いついたから、くろきつねは悪戯っぽく笑った。

「実はね、華子ちゃん。俺の誕生日、昨日なんだ」

……え、昨日?ときみは瞬く。

「あはは!でもうれしいよ、お祝いありがとう!」
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眞守・天彩 2022年8月17日
◆絆結「三色」 贈り主:十七夜・華子
https://tw7.t-walker.jp/garage/item/show?item_id=39213

(左手首に、虹のはじまりの三色。みどりの加護の隣に。)
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眞守・天彩 2022年8月19日
🐾  🐾  🐾
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眞守・天彩 2022年8月19日
部屋に戻ってきて、調達してきた道具でもらった絵を壁にかざった。
大きなベッドと中身はガラガラの和扉の棚くらいしかない、ホテルめいた部屋の雰囲気が少し変わる。
こっちも定位置を決めないとな、と胸元にいれた森色のペンにふれれば、ふれた手を飾る三色の編み紐もゆれた。
やさしくうれしい贈り物たち。

「お祝い、してもらって、うれしい…なぁ」

うれしいのは本当なのに、声が小さくなってしまう。
…誕生日ってうれしい日だ。
お祝いされたらうれしいのを、俺は知ってる。
だから誰かの誕生日を知ったら、おめでとう!って言う。うれしいことがつながったら、うれしいから。
お祝いされるとうれしいって教えてくれた、自分の誕生日が「好きだった」
過去形。
過去形にしたくないのに、思い出さないようにしていた記憶が顔を出して、一人になると笑いきれない。
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眞守・天彩 2022年8月19日
ケーキは果物いっぱいのショートケーキかタルト。
夕飯はエビフライ。
プレゼントは次の父さんの休みに、みんなで買いに行く。

去年、俺が家族とした約束。

俺の誕生日は、8月15日。――刻逆直後の、8月15日。
去年の誕生日に家族とした約束は、どれも果たされなかった。

去年はなじむのに必死で、そんなことまで思い出さなかったけど、おめでとうの言葉はしあわせでうれしくて、しあわせでうれしい果たされなかった約束と言われなかったおめでとうの言葉を想像してしまう。

…他の人にはふつうの顔でお祝いしてたのにね。
もしかしたら、俺のおめでとうもそうだったかもしれないのに。
きっと俺は、ふつうでいたいから、ふつうにしがみついていたいから、この先もだれかにおめでとうって言うんだろう。
笑える。俺の胸がいたいのって、自分勝手だ。
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眞守・天彩 2022年8月19日
お祝いしてくれてうれしかった
やさしい気持ちをありがとう
プレゼントを大事にしたい
次の約束がわくわくする
また来年の言葉があたたかい

全部全部本当なのに、あったかい言葉が、やさしくしあわせな記憶に繋がって。
記憶を思い出せば、燻りだすのは復讐心の熾火だ。
果たせてない誓いを思い出す。
一年経っても俺はなにも取り戻せてない…!
くやしくてくるしくて胸の奥が重たくて、拳をぐっとにぎった。
ああ、今すぐパラドクストレインに乗ってクロノヴェーダをきってこわしてころしてころしつくして――

握った拳の先の手首に、三色の結紐がゆれる。
胸を抑えれば、胸元に入れた森色にふれる。
目を上げれば、壁に飾ったみどり色が視界に飛び込む。

…俺をお祝いしてくれた色彩。
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眞守・天彩 2022年8月19日
彩は俺の冷静なところに、届いた。
燃える熾火は、俺の命も焼くものだって、俺は知ってる。
爪を立てるほど握りこんでいた掌から力を抜く。
胸をかきむしりたい衝動を抑えて手を放す。
一度目をつぶって、大きく息を吸って、目を開く。

「……なにも取り戻せてない、けど。俺にはなにもない、…なんて言っちゃダメだな…」

それはあまりにも、俺に色彩をくれた人たちに失礼だ。
ゆるく頭を振って、まっすぐ前を見る。

「…一年もじゃない、まだ一年。俺は諦めないし、戦える」

衝動を抑える為の眼鏡は、今日はかけずとも大丈夫だった。



(2022年、8月15日。なにも取り戻せてないけど確かに得たものはあると、思った誕生日。
お祝いしてくれてありがとう!)

【終】
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