血痕の染みた紙束
ゼキ・レヴニ 2022年4月26日
極秘資料/漏洩せし者は極刑に処す
強化兵生成用記憶蓄積装置(仮名称『躯』)計画
(1)概要
計画中の装置は、軍功を積んだ兵士から抽出・蓄積した経験・記憶データを、軍役の浅いゾルダート兵に適用し強化するものである。
これにより新造のゾルダートでも歴戦の兵士と同等の経験を得、即座に実戦配備が可能となる。
練兵期間の大幅な短縮により、ドイツの軍力は飛躍的に上昇するであろう……
(中略)
……尚、記憶採取には各部位の分離手術を要する為、データ参照元の兵士は死亡する。
偉大なる帝国の進化の礎となる事は最高の名誉である。該当者は戦死として扱い、階級特進及び建造計画中の英雄碑への刻銘の権利が与えられる。
然し不要な混乱が生じる事を防ぐ為、上記詳細は各実験体及び処置対象への周知を禁ずる。
特に優先実験体の所属する外国人構成部隊では近年不穏な動きが見られ、反撥の恐れがある為注意されたし。
監視担当の報告では該当部隊は唾棄すべき連帯感情で繋がっているとの事。
反乱分子に禍根を残さぬ為、捕縛対象以外の部隊員の完全破壊を許可する。
0
ゼキ・レヴニ 2022年4月26日
工房の工具棚の隅、魔導錠で厳重に封印された箱の奥底に押し込められた革表紙のファイルに、その紙束は綴じられている。
ゼキ・レヴニ 2022年5月29日
その上に重なったもう一冊――ありふれたプラスチックのファイルには、武器の設計図らしき分厚い紙束が綴じられている。
完成に至るまでの一連の図案や添えられたメモは全て手書きであり、時折感情までも叩きつけるような筆跡には、苦悩の跡が見て取れる。
ゼキ・レヴニ 2022年5月29日
表紙に走り書きがある。
『偽りの英雄碑が慰めるのは幻想と罪悪感だけだ。真にそれを建てる場所があるとすれば、それは名もなき兵士の記憶の中に他ならない』
『誰もが幻想のなかに求めていた栄光は、鋼鉄の義肢にふかく抉られてしまった。我々の兄弟の躯がその穴を埋めるために投げ棄てられるのを、どうして許せようか』