Obscurity

🎞️【幽邃と青】

シセラ・カドシュ　2022年3月17日
■　幽邃と青

　朝から昼までは劇堂の仕事を、
　夕から夜まで劇堂の常連客が営む店を手伝う。
　経緯を語るには長い、奇妙な生活が二十七日ばかり続いた頃、
　突如その務めは終わった。
　理由はよくあるもので、老齢で続けられないのだという。
　
　務めの礼にと貰った三色団子を抱えた夜の帰路。
　日中、温に寄っていた気候は、小春日和といっても良い
　暖かさだったけれど、夜は未だ少し寒い。
　冬の風というには温かく、春の風というには冷たい。

　そんな風に少し身を震わせながらも、
　帰路の途中にある公園に辿り着けば、どこか懐かしい景色。
　故郷のものよりは、少し色濃いだろうか。

　この新宿に、桜が咲き始めていた。

■　1:1
- > 初対面既知問わず
- > 低速進行気味
- > 返事が途絶えてから二週間ほどで〆

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シセラ・カドシュ　2022年3月17日
（夜に電灯に照らされた桜は、日本の文学においても賞賛されるだけあって美しいものだった。故郷では、桜ではなく扁桃やプルーンの花が咲いていたけれど、それでもよく似た花に対して郷愁の念を抱く事は、悪い事ではないだろう。それに、日本では花見には団子はつきものだという）これは花見をして帰りなさいという、いわゆる日本的な粋な計らいというものかな。感謝しなければね。
（適当なベンチに座って、風呂敷包みの結び目を解く。中には、それはもう、たくさんの三色団子）……嬉しい事ではあるけどね。（いくらなんでも、多すぎる。誰かに分けてしまおうか。猫か、劇堂の主か。前者は食べさせていいものやら分からないし、後者は喉に詰まらせそうだ）

ノスリ・アスターゼイン　2022年3月23日
三色それぞれに意味があるらしいね。（ひょい、と。覗き込んだ包みの中から、勝手に一つを頂戴して。取る前に叱られなければ、そのまま平らげたことだろう）
やぁ、どうも。良い晩だ。散歩かい、シセラ。

シセラ・カドシュ　2022年3月23日
それは知らなかった。初耳だね。わたしの故郷の旗も今は三色で、それぞれに意味があるらしいのだけれど。この団子にもあるとはね。どういう意味かは知っている？（包みの中からいなくなった三色団子の行方を気にするでもなく、素直に浮かんだ好奇心を彼にぶつけた）
どうも、ノスリさん。元気だったかは聞かなくても良さそうかな。散歩みたいなものだよ。仕事を終えて帰る所だったのだけれど、桜の景色に見惚れてしまってね。それに、日本では団子を食べながら花見をするというだろう。どんなものかと思ってね。ノスリさんも、散歩？

ノスリ・アスターゼイン　2022年3月23日
そ、夜を游ぎに。（手にした空串をゆらり、「あぁ、」思い至って頷きひとつ。聞いたか読んだか、何れ耳にしたことがある。トリコロール）自由、平等、あとは…愛だっけ。どれも得難いものだな。だが単純に、鮮やかで美しいと思うよ。色彩も、誓約も。
（涼風に舞う花は先日貰ったアーモンドの花弁によく似ている。「冷えない？」と極自然な動作で肩に巻いていたストールを彼女に渡しつつ、手が空いたところで掴まえる一片。葩は夜気を孕んでしっとり柔らかい）
団子の方も色々。縁起の色だとか、蕾、開花、葉桜への移り変わりを表しているとか。四季の色、というのも聞いた。（春の桜、冬の雪白、夏煌く緑。「秋が無いの。不思議でしょ」――飽きない、商い。そんな言葉遊びもあるらしい、と告げて。この島の洒落っ気へ、楽しげに笑う）

シセラ・カドシュ　2022年3月25日
そう、そんな意味を持っていた気がするよ。自由も平等も無く、愛が失われかけた頃に掲げられた旗が、今ではそうしたものを象徴するものになっているというのだから、何だか不思議だけれどね。（差し出されたストールに、目を見張りながらも両手で受け取り）
おや、良いの。ありがとう。でも、そのままだとノスリさんも寒いだろう。（彼がしていたように肩に巻いたなら、何処から取り出したか、カイロを一つおすそ分け）これをあげよう。手で揉んであげると温かくなる。魔法のようにね。（わたしも隠し持ってるよ、と）
それは随分と、どれであっても雅な意味だ。桜咲く春によく合っているし、団子を食べているうちに、これからの季節も楽しみになりそうだからね。（言葉遊びにはああ、と納得したように）秋無い団子の商いが上手というべきかな。……いや、忘れてくれると嬉しいよ。ますます寒くなりそうだ。ノスリさんは、四季の中で好きな季節はあるのかい。

ノスリ・アスターゼイン　2022年3月26日
あっは、わらしべ長者みたいになった。ありがとう。（「この話、知っている？」笑って受け取る懐炉。御伽噺の粗筋を簡単に伝え、でも先に団子も貰っているのだから次は何を交換しようかなぁ、と楽し気に添える。彼女の冗句にくつくつ喉を鳴らし、問いには首をこてり、）
そうだなぁ、四季の全てを見知った訳ではないけれど、芽吹く春も凍える冬も、風の心地良い秋も、鮮烈な夏も。ひとつに決め難い―――けれど、あぁ、……今は春を讃えなくては、桜の女神サマの機嫌を損ねてしまう？（囁いて悪戯に笑んだ。「でもシセラの好きな季節も、内緒でこっそり教えてよ」と片目を瞑る）

シセラ・カドシュ　2022年3月26日
おや、そんな話があるの。この場合だとわたしが長者になった気がしないでもないのだけれどね、団子ひとつとカイロで良いストールを借りているわけだから。あ、もうひとつ食べるかい。（まだまだあるからね、と団子の串を一つ持ちあげて差し出す。確かな歳は知らないけれど、彼もきっと、食べ盛りの頃だろうからと）それは良い心掛けだ。せっかくの春に他の季節への想いを語られては、春の女神も嫉妬してしまうだろうからね。女神ならわたしは妬かれないだろうから素直に言ってしまうけれど――、夏が、好きだよ。わたしの好きな花が咲く季節だからね。

ノスリ・アスターゼイン　2022年3月27日
ひとつと言わず。（受け取る手。お道化た台詞ながら、九割方本心が駄々洩れた笑みを浮かべて）悋気に敵う術はないってね。

―――夏。あんたの胸に咲く、その花のこと？
余り花に詳しくないのだが、百合だろうか。赤い色、鮮やかだなと思ったけれど。花屋では見ない色だね。いや、俺が無知なだけかも。

シセラ・カドシュ　2022年3月27日
おや。気に入ってくれたかい。誰にあげようか途方に暮れていたくらいだからね、たくさん食べてくれると嬉しい。ああ、でも、わたしの食べる分くらいは残してもらわないといけないな。（自分の団子をもう一串だけ確保して。もともとそう健啖家というわけでもないから、これで十分だった）ご名答。ユリの花だよ。赤はあまり馴染みがないかもしれないね。花屋では白いユリが好まれる事が多いだろうから。わたしも、一目惚れしたのは白いユリの方だった。雨の季節が明けた夏に、それはもう綺麗に咲く。
香りも良い香りでね。この花は作り物だから、どんな香りかを教えてあげる事が出来ないけれど。またいずれね。ノスリさんも花は好きかい。

ノスリ・アスターゼイン　2022年3月27日
やった、通りすがりに僥倖を得たなぁ。目覚めてから満ちたことがない底無しなもので。幾らでも食えるよ。（二串目もあっという間に腹の中。少し待ってね、と近場の自動販売機から温かい緑茶をふたつ入手。片方を彼女へ）
（「花々に乾杯」軽く掲げ、遠慮無く三串目を手に取りつ、）

百合！（正解！）（雨上がりに露を抱く葉を、ひかり弾く花弁を、脳裏に描いた。眩く清冽な、白）
（問いには「花も、花めくひとも好き」と茶目っ気を乗せて）

……一目惚れした色ではなく、赤を差しているのは、何故？

シセラ・カドシュ　2022年3月27日
わたしよりもずっと背丈が高いから、わたしよりはずっと食べるのだろうし、食が細いよりはよく食べる方が良い事なのだろうけれど……普段はちゃんと食事を摂ってはいるのかい。（あっという間になくなった二串目に感心したような、呆気にとられたような表情を浮かべて。それでいて心配りを欠かさないのだから、大したものだと思えた）
遠慮なく頂こう。ありがとう。（乾杯、の声に続くように小さく乾杯、と。夜風で冷えた身体をほんのり温めてくれるようで）わたしによく似合うだろう、赤色は。わたしも赤色だからね。という答えでも良いのだけれど、一言でいうなら――似合わない女になってしまったから、だろうね。いまのわたしには。
幼い頃は、似合う女になれたら良いと思ってはいたのだけれど、これが難しかった。白いユリが持つ意味が眩しすぎてね。かといって、似合う女になる事を諦めた訳でも無いから、そのうち差しているかもしれないな。

ノスリ・アスターゼイン　2022年3月28日
白が似合わなくなってしまった？　何故？
（花言葉などはいっそう詳しく無いのだ、と素直に無識を告げ、疑問も素のまま渡した）（この島では女を花に喩える言い方があったように思う。歩く姿は百合の花、だったろうか。花首を擡げたような姿や真白き花弁から淑やかな印象を持つけれど、）あんたが知る白百合の『意味』とやらはどんなもの？

シセラ・カドシュ　2022年3月28日
言葉にするのは難しいし、折角の桜や団子を台無しにしてしまいそうなのだけれどね。（不味くなってしまう前に一口。そしてお茶で喉を潤して、一息吐いてから）意味は色々あったよ。今はどうか知らないけれどね。昔は、白いユリは、国そのものを象徴する花だった。純潔さの象徴でもあったし、人の美徳を象徴するような花だった。善悪でいうなら善だったかもしれない。けれどね、この新宿に来るまで、わたしは悪行を重ねて来たし、善や人の美徳とは無縁だったと言っていい。（卑下するでもなく、ただ事実をもう一度確認するように。後悔や反省があるわけでもなかった）今だってそう変わりはしない。幼い頃のわたしであれば身に着けられただろうけれどね、今はその勇気がない。だから、今は身に着けられない。――そう、面白みはない話だよ。

ノスリ・アスターゼイン　2022年3月28日
今――、少なくとも、ドイツの孤独な青年の許へ向かったことや、劇堂で店番をしていること、それから、共に花見に興じてくれているシセラは、『悪』には見えないけどな。あんた自身の『赤』も、とても綺麗だよ。
（歴史の上で、善悪の基準は勝者によって定められる。書き換えられる。倫理も正義も不変ではない。尤も、書物を読んで感じたくらいの主観しか持たないものだから、確かな時代背景を踏まえている訳ではないのだけれど）（「どんな悪行？」責めるでも嘆くでもなく、裏も無く、ただ率直に問い掛ける）
こうして再び生を得たのは、――今を生きているのは、真白いこころを取り戻す為に？
白に還りたい？

シセラ・カドシュ　2022年3月29日
そう、悪人だっていつだって悪人ぶっているわけじゃないし、どれもわたしの一面だ。嘘や演技だったりもしない。（わたしも気に入っているよ、と。こそばゆいとでも言いたげな笑みを浮かべて、髪の一房に触れた）まったく、好奇心旺盛だね、ノスリさんは。猫ですら危険なのに。

――人殺しと、親不孝だよ。ほんとうは、こうして生きているはずではなかったし、ちゃんと一回、終わった生だった。もう一度こうして生きている事が不思議なくらいだ。（白に還りたいか、の問いには頭を振って）いいや。赤い絵の具に白を足しても真っ白にはならないのと一緒だ。どうやったって赤は残るし、赤を消してしまいたい訳でもない。赤も気に入っているからね。取り戻そうとか、還りたいとは思わない。

けれど、今は自由の身だし、もう一度得た生だ。生前出来なかった事をしてみようと思っているし、今もしている。その結果、白いユリを身に着ける勇気が出るかもしれないね。

ノスリ・アスターゼイン　2022年3月29日
墓碑銘を刻んでくれる相手のことは、知っておきたいじゃない。……なんて、過ぎるようなら窘めてくれ。（「だが、」視線を真っ直ぐ注ぎながら、）――今は自由ということは、嘗ては不自由だったということだろう。誰かに仕えていたか、籠に囚われていたか、義務か分からないけれど。答える義理も無いのに、こうして向き合ってくれる真摯さは、『悪行』に携わる時にも揮われていたのではあるまいかと思えたよ。そこに善悪の秤を置く以前に、あんたの役割を果たす為の実直さで。……ただの想像だけどね。

ノスリ・アスターゼイン　2022年3月29日
（ひらりひらり、優美に舞う花を見上げる。彼らは自由だろうか、望むように生を謳歌しているだろうか。そうだと良いなと思う。夜色に染まらず、ひかりを帯びているかのように煌く花弁に、柔く双眸を細めた）

今生の――紺青の宵の廻り合わせに感謝しないとだ。お陰でほら、俺まで美味いものにありつけたし。
それに、取り戻さずとも、還らずとも、やはりあんたには白も似合うよ。纏う赤に映える、穢れなき白だ。

（指し示すのは、その髪や衣服を飾る、悪戯な花弁たち。ただただ、美しい春のひとひら）

シセラ・カドシュ　2022年3月30日
そういえば、そんな約束をしていた。……いいや。友達には隠し事が、ゼロではなくても、少ない方が良いだろうからね。それに、不快だとか、不躾な問いだとも感じないから。（怖いもの知らずというのか、人懐こいというのか。どちらにしても、感心する気持ちの方が強かった）
それは買いかぶりだ。今がたまたま、わたしが口を滑らせやすい時だっただけかもしれないし、それか、ノスリさんの聞き方が上手いだけだよ。けれど、友達がそう評価してくれることは、素直に喜んだ方が良いのかもしれないな。――実際どうだったかは、いつか話す事もあるだろうから。気が向いたら、また聞いてはくれるかい。（自分の臆病さが恨めしいというものだが、これ以上口が滑らかになる事も無さそうだった）

シセラ・カドシュ　2022年3月30日
（彼との話や、昔を思い出すあまり、疎かになっていた花見。彼が見上げるように、空を見上げれば、夜暗のお陰か、いっそう白く見える花吹雪）全く、殺し文句が上手い。ほめ殺しだったりしないだろうね。……そういう台詞はね、ここぞという時に使うものだよ。それに、そういわれると否定もし辛いだろう。悪い気がしない分、余計にね。白いユリへの片思いをやめて、桜に浮気してしまいそうだ。（そうなったらノスリさんのせいだけれどね、と）（そして髪に舞い落ちた花びらを掬って、）二度目の生の意味を考えた事もあったけれど。今日は感謝しなければね。これからも。……もう一度だけ、乾杯してくれるかい。（少し温かさが薄れた、けれどまだ仄かに温かい緑茶を掲げて）

ノスリ・アスターゼイン　2022年3月31日
気楽に過ごせる仲であれたら好いと思うよ。聞かせてくれるなら喜んで――と言って良い内容ではないかもだが、あんたのことを知れるのは、素直に嬉しい。溢れそうなときや、零してみたくなったときには、傍らに在ろう。話すも、鎖すも、シセラの心のままに。
（はらり、赤から飛び立つ葩を一片。掴み取って、さらさら笑った）
いつ果てるとも知れない命でしょ、ここぞというときまで取って置いたら、言い損ねてしまうかもしれないじゃない。見知らぬもの、真新しいもの、懐かしくも鮮やかなもの、この先も沢山の未知が待っている。広がる世界を楽しまなくては勿体ない。
さっきあんたが言ったように、生前出来なかったことを――今は今の、生を歩こう。白百合と相思相愛になれる勇気を育むために。

ノスリ・アスターゼイン　2022年3月31日
（共に茶を軽く掲げ、笑みでいらえる）――この宵に、夜桜に、シセラとの出逢いに、乾杯！

シセラ・カドシュ　2022年3月31日
（変わってる、だとか、いつもの茶化す言葉を飲み込んで）ありがとう。口を滑らせてみるものだね、心が軽くなった。お返し――ではないけれど、こういう場合、何というのだったかな、そう、持ちつ持たれつとかいうんだろう。ノスリさんが話す事で心軽くなる事があるなら、わたしも聞こう。聖職者のようには上手く聞けないかもしれないけれどね。友人として。（お互いにお互いの事を知らなければね、と。翳りのあった笑みも、晴れて浮かんで）それはそうだけれど。――いや。ノスリさんはそのままでいい。変に奥歯に衣着せた物言いよりは、ずっと好ましいと思うよ。（次は無いのだ、きっと。本来得るはずのなかった生なのだから。彼の言う通り、楽しまなければ勿体ないというもの）

シセラ・カドシュ　2022年3月31日
（互いに杯を掲げた後、彼の音頭に続くように）良い出逢いに、乾杯。
（来年も、その次の年も。またこうして、花見が出来る事を、空に祈った）

シセラ・カドシュ　2022年3月31日
（宵に桜を楽しんだ、ある春の日）

幽邃と青　Fin.